【R18.BL】愛月撤灯

麦飯 太郎

文字の大きさ
16 / 17

15.それぞれの大事と大好き

しおりを挟む
 どれだけ愛を囁かれ交わったか分からないけれど、とりあえず夜が明けたらしく洞穴に優しい陽射しが差し込んでいる。
 ダルい身体を起こすと、身体の至る所がベトベトとする。頭のてっぺんから足の爪先までを砂糖漬けにでもされた気分だ。
 巻き付く腕を一本ずつ退けて、湖で清めてから二人を起こす。

「おい、大和、暁。そろそろ起きて屋敷に帰るよ」

 寝ぼけ眼で腕を伸ばした暁が猫のように擦り寄ってきた。更に大和まで足に絡みつく。

「ちょっ、せっかく綺麗にしたんだからやめろよ」
「え?! 身体を洗ったんですか?!」

 飛び起きた大和が絶望の表情を見せる。身体を洗っただけなのにと首を傾げながらそうだと答えると、なぜか暁まで項垂れている。

「え、湖の水で清めちゃダメだった? 昔からここで洗濯物もしてたけど……」
「あ、いえ、大丈夫です、いくらでも清めて下さい。でも、その」
「オレらが隅々まで洗いたかった……」
「…………」

 そんなことか。そんなことで落ち込むな。と言ってやりたいけれど、この二人に手取り足取り洗われるのはそれはそれで……悪くないだろう。きっとそのまま行為にもつれ込みそうだが、これはこれ、それはそれだ。
 あからさまにしょげこむ二人に手を伸ばす。その手を取った二人はゆっくりと立ち上がった。すっかり自身よりも背の高くなった顔を見上げ、その頬に両手を伸ばす。

「なら、今度。俺より先に起きてくれるなら」
「――うん!」
「わかりました!」

 パッと光を灯したように表情を明るくした双子に身体を清めるように勧め、カラスの行水のような時間を過ごしてから屋敷に戻ったのだった。


 朝餉の時間はすっかり過ぎていたので、案の定居間では全員が朝食をとっていた。その全員がこちらを見て動きを止め、すぐに何事もなかったように食事を続けている。
 ……全員だ。全員。
 屋敷の主とその伴侶と子供である蓮、恭吾、銀花は当たり前だ。自身が居なかったので、食事の準備を六花とハルトがするのも分かる。……何故か一旦帰ったはずの華月と天花、それに紅月もいる。
 自分達三人を合わせると、居間に十一人……広いと思っていた場所も少し狭く感じるほどだ。いや、実際狭い。今後、銀花と紅月が成長し、家族が増えることも考慮すると、改築という文字が浮かぶ。そんな中、蓮が声をかけてきた。

「風花さん、大和さん、暁さん、お腹が減っていませんか?」
「え、あ、はい」
「まだ沢山あるから準備するよ!」

 ハルトが立ち上がろうとしたので、慌ててその場に膝をついて頭を下げる。驚いたハルトが動きを止めた。
 食事の前に、せっかく【全員】がいる、この時に話さなければ。

「御報告がございます」
「はい、風花さん」

 蓮が優しく返事をしてくれる。その声が慈愛の塊のようで心の中はすでに涙が溢れているような気がした。

「俺は……一番大切なのは蓮様です。次に恭吾と銀花。そして天花と六花。その後に大和と暁、ハルト、華月様、紅月と続きます」
「……」

 喉がひくついているのがわかる。しかし、これは自分で言わなければ。それを分かっているからか、大和と暁もすぐ後ろで膝をついて頭を下げているのが分かった。そして、そっと背中に触れてくれている。
 蓮が黙っているのはしっかり聞いてくれているからだ。他の皆も食事を中断しこちらを見ているようだ。

「しかし、まだ自分の気持ちはよく分かっていないことも多いのですが、大和と暁が俺を愛してくれました。俺はそれに応えたいんです。大切と愛の違いがまだ分からないけれど……」
「風花さん、顔をあげて」
「はい」
「大和さんと暁さんも」

 顔を上げると横に並んでいた二人も顔を上げ、サッと移動し隣に並ぶ。両脇に二人が居てくれるだけで、とても心強い気がした。
 蓮はこちらの顔を順番に見て、最後に真ん中にいる自身にしっかりと目を向けた。

「風花さん、おめでとうございます」
「え?」
「心から慕ってくれる方は、なかなか出逢えないものですよ」
「はい」

 グッと胸が熱くなり、喉が痛い。

「それと、先程の順位付けのそれぞれの差を考えたことがありますか?」
「差ですか?」
「はい。以前もそんな話をしましたね。それはほんの僅かなものではありませんか?」
「……――! は、はい」

 確かに、自分の中で全員が己の中でどこに値するか常に考えてきた。しかし、本当は家族の誰もが一番大切だ。

「愛する人が出来たら、その人が心の支えになるでしょう。しかし、だからといって家族が特別で無くなるわけではないですよ。安心して下さい。順番なんてその時々で入れ替わるものです。どなたかが怪我や病に伏せればその方に一番心を向けるし、楽しさを共有している時はその方に、愛し合っている時はその方に。大切な方が沢山いるのは幸せなことですよ」

 蓮の言葉に、顔が熱くなる。いつだって、どんな時も、自分は何番目ということを無意識に考えていた。それがきっと劣等感の原因だろう。

「三つ子ゆえに、それぞれの個性を大切にしてきました。でも、風花さんには特に様々なことを頼んできたと思います。それが余計に比較する癖を生んでしまったのかもしれませんね。申し訳ありません」

 蓮が頭を下げた。驚いて蓮の元に駆け寄り、蓮の手を握る。

「謝らないで下さい!! 俺は、――俺は、蓮様に頼られることだけが生きがいだと」
「えぇ、子離れ出来なかった私の責任です。不安になった時はいつでも話してください。何度だって私は風花さんを大切だと伝えますよ」
「……――」
「大和さん、暁さん」
「「はい、蓮様」」
「風花さんを頼みます。といっても、あなた方はこの山の一部なので、ほとんどを共に生活するのです。これからも、よろしくお願いします」

 握っていた蓮の手が強く握り返してくれた。それが暖かくて心が解れていく気がした。

「必ず、風花さんを幸せにします」
「ふーちゃんはオレらの宝ですから」
「私は、お二人を神として生みだしたのは、実は風花さんの為だと思っているです。自覚はなかったんですけど……そのせいで風花さんには苦労もさせましたが」
「そんなこと!! 苦労なんて、俺、未熟で、でも、蓮様の傍にこれからもいられるのが幸せです」

 涙が溢れ、鼻水も出てきて酷い顔になっていると、ハルトがふふふと笑いだした。振り向くと同時に、六花が「どうしたの?」と問いかけた。

「あ、ごめん。この蓮一家は、みんながみんなを大事に思い過ぎてるんだなって思ってさ! みんながみんなを大好き!! 拗れる時は相手が大切すぎてって凄いな。なんかこれが家族だー!! って感じでいいなーって! なんかオレも嬉しくなってきた!! 今夜はパーティしない!?」

 みんながみんなを大事で、大好き。だから、悩む。大切だから。そうだ。それだけだ。なんだか心の妙な石が転がり落ちて、ストンと何かが心を満たした。
 ニッコニコと笑顔で立ち上がったハルトに全員の視線が集まる。一瞬の無言に思わず吹き出してしまった。

「ぷッ、あはは、ははは!! やっぱりさ、ハルトが一番すごいと思うんだけど」
「そうですね」
「ハルトはムードメーカーだなぁ」
「父上、むうどめいかぁとは何ですか?」
「ん? 明るくする達人ってことだ」
「なるほど! 私もむうどめいかぁになりたいです!」

 銀花の言葉に、ハルトは笑いながら銀花はそのままで充分だよと声をかけている。そう、全員がそのままで充分なのだ。
 隣に座る大和と暁を思わず抱き寄せる。驚いた二人は身体を固くしているが、構わず頬に口付けをした。

「そのままの俺を愛してくれてありがとう。大好きだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...