【R18.BL】愛月撤灯

麦飯 太郎

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15.それぞれの大事と大好き

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 どれだけ愛を囁かれ交わったか分からないけれど、とりあえず夜が明けたらしく洞穴に優しい陽射しが差し込んでいる。
 ダルい身体を起こすと、身体の至る所がベトベトとする。頭のてっぺんから足の爪先までを砂糖漬けにでもされた気分だ。
 巻き付く腕を一本ずつ退けて、湖で清めてから二人を起こす。

「おい、大和、暁。そろそろ起きて屋敷に帰るよ」

 寝ぼけ眼で腕を伸ばした暁が猫のように擦り寄ってきた。更に大和まで足に絡みつく。

「ちょっ、せっかく綺麗にしたんだからやめろよ」
「え?! 身体を洗ったんですか?!」

 飛び起きた大和が絶望の表情を見せる。身体を洗っただけなのにと首を傾げながらそうだと答えると、なぜか暁まで項垂れている。

「え、湖の水で清めちゃダメだった? 昔からここで洗濯物もしてたけど……」
「あ、いえ、大丈夫です、いくらでも清めて下さい。でも、その」
「オレらが隅々まで洗いたかった……」
「…………」

 そんなことか。そんなことで落ち込むな。と言ってやりたいけれど、この二人に手取り足取り洗われるのはそれはそれで……悪くないだろう。きっとそのまま行為にもつれ込みそうだが、これはこれ、それはそれだ。
 あからさまにしょげこむ二人に手を伸ばす。その手を取った二人はゆっくりと立ち上がった。すっかり自身よりも背の高くなった顔を見上げ、その頬に両手を伸ばす。

「なら、今度。俺より先に起きてくれるなら」
「――うん!」
「わかりました!」

 パッと光を灯したように表情を明るくした双子に身体を清めるように勧め、カラスの行水のような時間を過ごしてから屋敷に戻ったのだった。


 朝餉の時間はすっかり過ぎていたので、案の定居間では全員が朝食をとっていた。その全員がこちらを見て動きを止め、すぐに何事もなかったように食事を続けている。
 ……全員だ。全員。
 屋敷の主とその伴侶と子供である蓮、恭吾、銀花は当たり前だ。自身が居なかったので、食事の準備を六花とハルトがするのも分かる。……何故か一旦帰ったはずの華月と天花、それに紅月もいる。
 自分達三人を合わせると、居間に十一人……広いと思っていた場所も少し狭く感じるほどだ。いや、実際狭い。今後、銀花と紅月が成長し、家族が増えることも考慮すると、改築という文字が浮かぶ。そんな中、蓮が声をかけてきた。

「風花さん、大和さん、暁さん、お腹が減っていませんか?」
「え、あ、はい」
「まだ沢山あるから準備するよ!」

 ハルトが立ち上がろうとしたので、慌ててその場に膝をついて頭を下げる。驚いたハルトが動きを止めた。
 食事の前に、せっかく【全員】がいる、この時に話さなければ。

「御報告がございます」
「はい、風花さん」

 蓮が優しく返事をしてくれる。その声が慈愛の塊のようで心の中はすでに涙が溢れているような気がした。

「俺は……一番大切なのは蓮様です。次に恭吾と銀花。そして天花と六花。その後に大和と暁、ハルト、華月様、紅月と続きます」
「……」

 喉がひくついているのがわかる。しかし、これは自分で言わなければ。それを分かっているからか、大和と暁もすぐ後ろで膝をついて頭を下げているのが分かった。そして、そっと背中に触れてくれている。
 蓮が黙っているのはしっかり聞いてくれているからだ。他の皆も食事を中断しこちらを見ているようだ。

「しかし、まだ自分の気持ちはよく分かっていないことも多いのですが、大和と暁が俺を愛してくれました。俺はそれに応えたいんです。大切と愛の違いがまだ分からないけれど……」
「風花さん、顔をあげて」
「はい」
「大和さんと暁さんも」

 顔を上げると横に並んでいた二人も顔を上げ、サッと移動し隣に並ぶ。両脇に二人が居てくれるだけで、とても心強い気がした。
 蓮はこちらの顔を順番に見て、最後に真ん中にいる自身にしっかりと目を向けた。

「風花さん、おめでとうございます」
「え?」
「心から慕ってくれる方は、なかなか出逢えないものですよ」
「はい」

 グッと胸が熱くなり、喉が痛い。

「それと、先程の順位付けのそれぞれの差を考えたことがありますか?」
「差ですか?」
「はい。以前もそんな話をしましたね。それはほんの僅かなものではありませんか?」
「……――! は、はい」

 確かに、自分の中で全員が己の中でどこに値するか常に考えてきた。しかし、本当は家族の誰もが一番大切だ。

「愛する人が出来たら、その人が心の支えになるでしょう。しかし、だからといって家族が特別で無くなるわけではないですよ。安心して下さい。順番なんてその時々で入れ替わるものです。どなたかが怪我や病に伏せればその方に一番心を向けるし、楽しさを共有している時はその方に、愛し合っている時はその方に。大切な方が沢山いるのは幸せなことですよ」

 蓮の言葉に、顔が熱くなる。いつだって、どんな時も、自分は何番目ということを無意識に考えていた。それがきっと劣等感の原因だろう。

「三つ子ゆえに、それぞれの個性を大切にしてきました。でも、風花さんには特に様々なことを頼んできたと思います。それが余計に比較する癖を生んでしまったのかもしれませんね。申し訳ありません」

 蓮が頭を下げた。驚いて蓮の元に駆け寄り、蓮の手を握る。

「謝らないで下さい!! 俺は、――俺は、蓮様に頼られることだけが生きがいだと」
「えぇ、子離れ出来なかった私の責任です。不安になった時はいつでも話してください。何度だって私は風花さんを大切だと伝えますよ」
「……――」
「大和さん、暁さん」
「「はい、蓮様」」
「風花さんを頼みます。といっても、あなた方はこの山の一部なので、ほとんどを共に生活するのです。これからも、よろしくお願いします」

 握っていた蓮の手が強く握り返してくれた。それが暖かくて心が解れていく気がした。

「必ず、風花さんを幸せにします」
「ふーちゃんはオレらの宝ですから」
「私は、お二人を神として生みだしたのは、実は風花さんの為だと思っているです。自覚はなかったんですけど……そのせいで風花さんには苦労もさせましたが」
「そんなこと!! 苦労なんて、俺、未熟で、でも、蓮様の傍にこれからもいられるのが幸せです」

 涙が溢れ、鼻水も出てきて酷い顔になっていると、ハルトがふふふと笑いだした。振り向くと同時に、六花が「どうしたの?」と問いかけた。

「あ、ごめん。この蓮一家は、みんながみんなを大事に思い過ぎてるんだなって思ってさ! みんながみんなを大好き!! 拗れる時は相手が大切すぎてって凄いな。なんかこれが家族だー!! って感じでいいなーって! なんかオレも嬉しくなってきた!! 今夜はパーティしない!?」

 みんながみんなを大事で、大好き。だから、悩む。大切だから。そうだ。それだけだ。なんだか心の妙な石が転がり落ちて、ストンと何かが心を満たした。
 ニッコニコと笑顔で立ち上がったハルトに全員の視線が集まる。一瞬の無言に思わず吹き出してしまった。

「ぷッ、あはは、ははは!! やっぱりさ、ハルトが一番すごいと思うんだけど」
「そうですね」
「ハルトはムードメーカーだなぁ」
「父上、むうどめいかぁとは何ですか?」
「ん? 明るくする達人ってことだ」
「なるほど! 私もむうどめいかぁになりたいです!」

 銀花の言葉に、ハルトは笑いながら銀花はそのままで充分だよと声をかけている。そう、全員がそのままで充分なのだ。
 隣に座る大和と暁を思わず抱き寄せる。驚いた二人は身体を固くしているが、構わず頬に口付けをした。

「そのままの俺を愛してくれてありがとう。大好きだよ」
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