異世界で出会った王子様は狼（物理）でした。

76．新たな戦力

　俊は剣の柄を痛いほど握りしめた。
　シュバイツアーの地獄の鍛錬を無駄にはしない。どうにかして渦中の彼へ近づかなければ。

　兵士たちから怒号とも歓声ともつかぬ声が上がった。
　クレイグが兵に押され舞台の中央にさしかかった瞬間、ディートが錫杖を地面に勢いよく突き立てた。

　真円の舞台に無数の文字や図形が光として浮かび上がった。俊の目の前で巨大な魔方陣が出現していた。兵達は一目散に外へ逃げ、中心にいるのは新たに出現した鎖を噛みちぎろうとしているクレイグただ一人だ。

　異様に耳に響くディートの詠唱が始まり、目を焼くほどの緑の光がほとばしり狼を包む。

　緑は、移動や召喚またはそれに先立つ従属契約における魔術の光。

　――クレイグを召喚獣にするつもりか！

　背中が一気に総毛立ち俊は立ち上がっていた。
　だが誰かに強く服を引かれ低頭させられた。

「魔方陣に不用意に入るんじゃねぇ！」
「っ！　エバン！？」

　舞台の端で俊を犬死にから救った少年は久しぶり、と口角を上げた。

「ひ、久しぶり、じゃなくて！　早く行かないとクレイグが！」
「大丈夫、耳を澄ましてみろ」

　俊は訳も分からぬままその通りにした。

　魔術が行われる厳かな音、火器や魔術による爆発音、狼が振り回す鎖が石を抉る音が響く中、異質な音を俊の耳が拾った。

　馬のいななき、無数の｜軍靴（ぐんか）が地面を踏みならすような、軍勢がこちらに向かっているような地鳴りが。

　正体はすぐに知れた。鬨の声とともに観客席の上から下から鎧に身を包み武器を手にした男達が現れたのだ。
　俊は信じられないモノを見ていた。彼らの鎧に、大将が掲げる旗に縫い付けられている意匠は、蝶だった。