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文化祭編
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「今から配る用紙に、文化祭でやりたいことを記入してください」
内気な人が多いこのクラスでは、挙手制にすると全員の意見が出てこないという丹沢君の提案で、記入という形を取った私たち実行委員。
放課後、私と丹沢君は回収した用紙を集計する作業をしていた。
「佐久間さん、アンケート形式を提案してくれてありがとう」
「みんなの意見を聞きたいって言ってくれた丹沢君のおかげだよ。すごいね丹沢君は」
「そんなことないよ……へへ……」
「オイコラ根暗メガネ。俺がいること忘れてねーか!?」
「コラッ!丹沢君に失礼なこと言っちゃダメでしょっ!?」
「何であんな奴の肩持つのぉぉ~~ッッ!!?」
本格的に実行委員の仕事が始まってから、やたらと委員の仕事を手伝いたがる蓮。助かる場面もあるけど、今みたいに丹沢君に喧嘩を売るのだけはいただけない。
「あはは……本当に佐久間さんのこと好きなんだね、弟さんは……」
「あ゛あ゛!?今明らかに悪意見せやがったなテメー!?俺は南の彼氏で夫だっっ!!!」
「やーめーなーさーいッッ!!今度キレたら先に帰らせるからねっ!?」
「何で俺の肩持ってくんないのッッ!!?」
ギャーギャー喚く蓮に手を焼きながら、何とか集計を終える。やっぱり飲食店希望が多かったな。
「蓮の希望、意外だったな~~」
「ああ、劇?」
「そういうの、苦手だと思ってたから……」
「俺は苦手だけど……ほら、中学の時さ、南が演劇部の助っ人で舞台に上がったことあったじゃん?すっごく歌上手かったな~~ってこと思い出して……」
「うわぁ~~恥ずかしい!!忘れてよね~~?」
椿と亜耶が所属していた演劇部で、急遽助っ人に入った。出番も少ないし、私でも知ってる有名なナンバーを一曲歌わなければならなかったけど、曲自体は知っていたから何とか事なきを得たのだが、個人的に恥ずかしい思い出の一つだ。そう言えば直前に蓮と取り巻きたちと、椿が揉めたって言ってたな……。
「舞台、見てたよ……南、天使みたいに綺麗だった……♡♡♡」
「身内の欲目で見過ぎだよぉ~~!!」
「そんなことないよ……遠くで見ることしか出来なかったけど……南、輝いてた……」
「あ゛~~恥ずいッッ!!もうこの話はおしまいっっ!!」
舞台から見た客席がフラッシュバックする。あんなにも緊張する体験は貴重ではあったけど、もう当分やりたくはない。
「南~~ポスターこんな感じでOK?」
「うわ~~!流石美術部♡ ありがとう七海♡」
プチ縁日をすることになった私たちのクラス。教室内に縁日を作り、たこ焼き、いちご飴の販売と射的、水風船掬いなどをする。行事の少ない進学校では、文化祭に向ける生徒の意気込みが半端無く、学校中が異様な熱気に包まれていた。
文化祭前日、教室で最終チェックしていると、丹沢君が入ってきた。
「佐久間さん、今日までお疲れ様」
「丹沢君も、お疲れ様」
「アレ?弟さんは?」
「荷物持ちに、七海たちの買い出しに付いてったよ」
「そうなんだ……じゃあ、今がチャンスかな……?」
「丹沢君……?」
「春からずっと、佐久間さんのことが好きでした……婚約者がいるって知ってたけど、一緒に実行委員になって、欲が出ちゃった。フッてくれて大丈夫だよ」
「丹沢君……ごめんなさい。でも、好きになってくれてありがとうね」
「……そういうとこ、ズルいな……じゃ、明日からもクラスメイトとしてよろしく!」
「うん、よろしくね」
寂しそうに笑う丹沢君。クラスみんなを気遣える優しいこの人が、この先素敵な人と巡り会えますように、と神様にお祈りした。
「よお!遊びに来たよ~~♪」
「おーっす!頑張っとるかぁ~~?」
椿と亜耶が文化祭に遊びに来てくれた。
「えっ!?南の友達!?美男美女~~!!」
「おっ?何だ?めちゃくちゃカワイイ子だな。良かったら私と付き合わないか?」
早速七海にちょっかいを掛ける椿。美熟女な校長に一目惚れして進学先を決めた椿は、結構な女好きである。
「えっ?♡ あの……私、ノーマル?なので……♡」
「……可愛い……マジで付き合わない?」
「人様の友達に手を出すなアホが……」
女癖の悪い椿に呆れ顔の亜耶。
「イケメンさんは私たちがご案内しますよ~~♡♡♡」
「え?マジ?♡ じゃ、お願いしよっかな~~♡」
常識人だけど据え膳はそれなりに頂くと豪語する亜耶。椿と亜耶は、それぞれ女の子たちと一緒に校内を回ることになった。
「椿ってそっちの人だったの?」
当番を変わった蓮がこちらに来た。
「ただの女好きなんだって。前世が男だから、その名残りらしいよ」
「ふーん……俺たちも校内回ろうよ♡♡♡」
「うん、行こっか!」
私の当番の時間まで、校内を見て回ることになった。
他のクラスや学年の教室を回り、ゲームをしたり食べ歩きをしたり、色々と見て回った後、体育館に移動した。
「ちょうど今から吹奏楽部の演奏があるんだって」
「そっか、あ!あそこの席が空いてるよ♡♡♡」
空いてる席に座ろうとしたら……
「蓮ッッ!!?♡♡♡」
「はっ!?……お前、なんで……」
隣の席に、蓮の元カノがいた。
ーーーーーーー
「やっと会えた!!♡♡♡ 蓮ってば、いきなり転校しちゃうんだもん。ずっと会いたかったんだよ?♡♡♡」
席に座ろうとしたら、高校まで追いかけてきたキモい元カノがいた。
「何で……俺、誰にも言ってねーのに……」
「そんなの調べようと思ったらすぐ分かるよぉ~~♡♡♡ 家の前で観音高校の制服着てる蓮も見たしね~~♡♡♡」
何コイツ……家までストーキングしてるのか……?
「さっき蓮のクラスに行ったんだけどね、どこにもいなかったからまた後で顔出そうと思ってたんだ~~♡♡♡ 蓮のクラスメイトって良い人ばかりだね♡♡♡ 彼女ですって言ったら、いちご飴サービスして貰っちゃった♡♡♡」
「はあ!?何なのお前ッッ!?」
「ええ~~良いじゃん本当のことだし~~♡♡♡ ……あらお姉さん?いらっしゃったの?」
元カノの言葉にハッとする。そうだ……今俺の横には……
「はあ、いましたよ……」
「相変わらずボーっとしてるよねぇ……そんな調子じゃ、また中学の時みたいに、水ぶっかけられちゃうぞぉ~~?」
はあ!?下駄箱のゴミや教科書の落書きは知ってたけど、水かけられるって何!?
「あ~~、ここの学校の人は民度が高いので、そんなベタで頭悪いことする人はいませんよ」
「っっ……ハァ!?何なのアンタ!?たまたま蓮のお父さんに取り入ったオンナの娘ってだけで調子乗りやがってッッ!!?男に守ってもらうしか能の無いブリッコがさぁ~~!!」
「……ママの悪口、やめてくれる……?」
一瞬喉が詰まった。南は母さんが大好きだ。母さんを馬鹿にされた南の顔が、中学の時の俺を見る顔に変わった。その顔を見た俺は、間抜けなことに、恐怖で身動きが取れなくなっていた。
「はあ!?いい歳してママって、バカじゃねーの!?」
「バカはあなただよ。みんなが楽しみにしてた文化祭を台無しにしないで。話があるなら生徒指導室が空いてると思うから……」
般若の面を付けたような顔で喚き散らす元カノと、冷静な対応をする南……。周りの目は、南に対する同情に包まれていた。
生徒指導室に移動する間、俺は黙って着いて行くことしか出来なかった。南は終始無言で歩き続けた。
「では、お二人でゆっくり話してください」
「ッッ……行かないで……」
「あのねぇ、痴情のもつれに私を巻き込まないで」
南の言うことは尤もだ。俺とこの元カノの揉め事は、南に全く関係無い。
ピシャリと閉じられた戸が、俺と南の心の溝を表しているようで、胸が痛んでどうしようもなかった。
「何自分だけが傷付いた顔してんのよ……?」
「はあ!?俺、瀬条にいた時から南だけしか見てなかったの、知ってたよな!?」
「知ってたよ!?毎日毎日HR終わる前に教室飛び出して、お姉さん迎えに行ってるの見てたからねぇ!!」
「だったら何でこんな嫌がらせ……ッッ!!」
「蓮は私と付き合うべきだからよ」
『同じ高校行けないなら、もう南の処女貰うしか無いよね?本当は俺も童貞捧げたかったんだけど、逆レイプされちゃったからさ~~……ごめんね?でも南は処女くれるよね??』
「はあっっ!!?」
「蓮が他の誰を見てても、私の処女奪った事実は消えない。いいよ、私待ってる♡♡♡ 私が諦めなければ、蓮が振り向いてくれる可能性はゼロじゃないもんね♡♡♡」
『約束だからね!!?♡♡♡絶対結婚するんだよ!?♡♡♡絶対絶対絶対絶対ッッ!!結婚するからねッッ!?♡♡♡♡』
虚な目……自暴自棄な態度……目の前のこの女は…………俺自身だ…………
「……何……やってんの……?」
俺は目の前の元カノに、土下座をした。
「ごめんなさい……俺が浅はかでした……」
「やめてよ……謝って欲しくない……」
「傷付けてごめんなさい……でも……君とは付き合えません……本当に、ごめんなさい……」
「イヤッッ!!そんなの蓮らしくない!!いつも何もかもがどうでも良さそうだったクセに!!女なら誰でも良かったクセに!!蓮が特別な子を作らなければ私は……ッッ……私は……こんなイヤな女にならずに済んだのに……ッッ……蓮のバカヤロォォーーー!!ゔわぁぁ~~ん!!」
元カノが号泣する間、俺はずっと土下座を続けていた。
「ぐすっ……ズビッ……蓮さぁ……私の名前……覚えてる……?」
「えーと………ごめんなさい……」
「ホンッット!!サイテーだね!!園子!!覚えたなら、もう付き纏うのやめてあげる」
「園子……」
「ふっ……初めて名前呼ばれたわ。じゃ、私帰るね。お姉さんに謝っといて。昔からボーッとしてるのに幸せそうなお姉さんのことムカついてたから、私からは謝らないからさ……代わりに蓮が謝っといてよ」
「……分かった……」
園子は、どこか憑き物が落ちたような顔をして生徒指導室から出ていった……。
ーーーーーーー
「始まりました観音高校の伝統行事……好きなあの子に公開告白しちゃおうのコーーナーー!!今年も数多の猛者が無謀にも絶叫告白に挑もうとしておりまーーーす!!飛び入り参加も勿論大歓迎!!さあ、薔薇色の高校生活を掴むのは誰だぁぁーーー!!?」
3年の先輩の軽快なトークで始まった公開告白タイム。体育館で繰り広げられる一大イベントに盛り上がる客席。椿、七海と合流した私は、流れでイベントを見ることになった。
「さっきは修羅場イベントでプチ盛り上がりしてたけどな」
「南、大丈夫……?」
蓮と元カノとのやり取りを見ていた椿と七海。不審に思った七海に聞かれ、中学時代の悪行を暴露したと椿に謝られた。
「私は大丈夫なんだけど……蓮は大丈夫かな?」
「超絶!因果応報だから知ったこっちゃねぇ」
そう吐き捨てた椿から、黒色の石を手渡された。オニキスらしい。
「魔除けだ。持っとけ」
「いつもありがとう」
「七海ちゃんにはこれをあげよう♡」
「うわぁ♡ 可愛いピアス♡ これ何の石?」
「アメジストさ♡ 石言葉は、真実の愛♡」
「やだもう!でも嬉しい~~♡」
……まさか本気で口説くつもりか……?しかし自分の店を持ってるとは言え、何でいつも石やらアクセサリーやらが出てくるんだろう。これもお告げの一種なのか……?
壇上では、次々と絶叫告白が繰り広げられていく。
「みんな勇気あるな~~」
「こんなの出来レースだろ。そもそも告白自体が、好意の確認作業だからな」
「身も蓋も無い……まあ、お気持ちは分かりますけど……」
「分かる~~。相手も自分のこと好きって確証が無いと、みんなの前でなんて告白出来ないよね~~?」
「さぁ~~次に挑戦するのはどの猛者だ!?成就するのか、玉砕するのかぁ~~?みんなで見守ろうっ!!カモーーーン!!!」
次に壇上に上がったのは……
「蓮ッッ!!?」
司会者の先輩に呼ばれて出てきたのは、蓮だった。
「オイオイ……あの修羅場の後で、一体何話すつもりだ?」
隣で、椿が呆れた顔をした。
『1年5組、佐久間蓮です。今日は、大好きな南に告白したくて、ここに立ちました』
マイクに向かって、自己紹介をする蓮。
「おーっと!!麗しの転入生が婚約者のお姉さんに告白だ!!もしかしてプロポーズかぁぁ~~!?」
口笛を吹く音や、囃し立てる声が館内をこだまする……3年の先輩にまで私たちが婚約者同士とか知られてるんだ……恥ずかしい……
『南と初めて出会ったのは、小学校3年生の時でした。可愛くて可愛くて、一目惚れでした。5年生の時に両親が再婚して、きょうだいになったけど、俺の中ではずっと……特別な女の子でした。可愛くてモテて、危なっかしい南だけど……なんかいつもボーッとしてるし、ほっといたらずっと雲の形追ってるし、俺が側にいるのに、いつも南は自分の世界を生きてました』
「確かにw 南は割と目の前のことしか考えてないもんなw 」
「人のこと間抜けみたいに……」
『きっと南はいつか俺を置いて、南の世界で幸せになるんだろうって思ったら、すごく苦しくなった。とある出来事がきっかけで南に軽蔑されてからは、南に俺のこと見て欲しくて、色んな女の子と付き合いました』
館内がどよめく。一途な婚約者君の別の顔を知った女子生徒からは、非難の声も上がり始めた。
『俺は最低なことをしました。最低だって気付きもしませんでした。南にいっぱい迷惑をかけたし、色んな女の子を泣かせました。だから黙って観音高校を受験した南の対応は、真っ当なものだったと、今なら分かります。それなのに俺は、自暴自棄になって南に婚約を迫りました。酷い脅しもしました。観音高校まで追いかけもしました。そんな俺に……南は沢山優しさをくれました!!ありがとう南!!優しくしてくれて、気にかけてくれて……本当にありがとう……だから……もういいよ……』
「蓮……?」
蓮は、マイクを握りしめて、涙を流していた……
『今日で俺は……南を手放します……』
響めきが広がる体育館。
『南が大好きだから…………今日で南を手放します……今までありがとう南……もう……きょうだいに……戻るね……』
涙でぐしゃぐしゃの顔をこちらに向けて、無理矢理笑った後……蓮は、静かに壇上を去った。
「まさかこんなに早く魔除けの効果が出るとは……」
「お前……不謹慎な物言いやめろ」
体育館の別の場所で蓮を見ていた亜耶と合流し、2年の教室のカフェで私と椿、七海、亜耶でお茶をしている。
「南はどう思ってるの……?」
七海が様子を伺うように言った。
「ごめん……分からない……何か考えなくちゃって思うほどボーッとするって言うか……」
「取り敢えずその負のエネルギーが癒えるまで、何も考えなくていい……」
「椿……?」
「南は長年、良くないエネルギーに纏わり付かれてたんだ。そろそろ浄化しろって後ろの人も言ってるぞ?」
「そっか……」
「え?なになに?」
椿と亜耶は神妙な面持ちで、私を見ていた。七海はキョトンとしていた。
文化祭の本祭が終わり、各クラス後片付けに取り掛かり始めた。蓮からは、家に帰ったとチャットが来てた。
「アイツ……後片付け丸投げしやがって……まぁ、しゃーないっちゃしゃーないけど……」
竹永君がボヤきながらフォローを入れる。クラスメイトたちも、私にどう声を掛けていいのか測りかねている様子だった。
「南は後夜祭どうする?」
「出るよ。実行委員だもん」
「そっか……じゃあさ、蓮の代わりに俺が踊ってやるよ」
「気を使わせてごめん……」
後夜祭ではリクエストされた音楽と共に校庭でダンスをするのだ。欧米のプロムみたいなノリである。
「早まったなぁ~~……さっさと告白しなきゃよかった」
「それ、本人の前で言う……?」
「あはは!ごめんごめん。取り敢えず後夜祭が終わったら僕たちもお役御免だ。あと少し、頑張ろう」
「うん!頑張ろう!」
丹沢君と軽口を言い合い、実行委員の仕事を熟す。周りが腫れ物に触るように扱う中で、いつも通り接してくれるのはありがたい。
音楽がかかり、各々ダンスをしたり、おしゃべりしたりする生徒たち。みんな楽しそうだ。
「南~~、踊ろうぜ~~!」
迎えに来た竹永君について行こうとすると……
「蓮っっ!!?」
蓮に手首を掴まれていた。
「お前ッッ!!後片付けもせずに今さら来たのかよ!?」
「ごめん竹永!!今日だけ譲ってくれ!!」
「おっ……おぅ……」
蓮の気迫に押されて、竹永君が怯んだ。
「最後に……南と踊りたい……」
泣き腫らして真っ赤になった目が痛々しい。
「未練がましくて……ごめんね……」
「良いよ、踊ろう。私も蓮と話したかったし」
蓮に連れられて校庭に出ると、周りの生徒はこちらを凝視していた。ヒソヒソ耳打ちをしている人もいる。音楽がバラードになると、辺りはチークダンスの空気になった。蓮の手を取り、身を預ける。
「この半年、なかなかスリリングで楽しかったよ」
「怖い思いいっぱいさせて……ごめん……」
「ホントにねぇ……おかげで普段ならしなかったことも沢山したよね」
「うん……ごめんね……」
「きっと、私が今手を差し伸べるのは簡単なんだろうね……」
「……出来れば無かったことに出来ないかなって、既に後悔してる……」
正直な蓮の感想に、つい吹き出してしまった。
「でもそれじゃ、蓮の決意を無駄にしちゃうよね……私も、自分の気持ちとしっかり向き合うね……」
「うん……」
「答えが出たら、ちゃんと伝えるからね。だから……きょうだいに、戻ろうね……」
「うんっ……待ってる……どんな答えでも、待ってるよ……」
「ちょっとw これ以上泣いたら目が開かなくなっちゃうよ?」
「だってぇぇ~~……ゔわぁぁ~~……」
泣き出した蓮に、周りの生徒はギョッとしていた。私は暫くの間、蓮の背中をさすり、宥めていた。
「うぇぇ……ひっく……半年間……幸せだったよ……ありがとう南ぃぃ~~!!」
「こちらこそ、好きになってくれて、ありがとね……」
こうして波瀾万丈な文化祭は、終わりを迎えたのだった。
「おはよう姉さん……」
朝の挨拶で、蓮の中で既に折り合いをつけたのだと悟った。
「おはよう蓮」
朝の支度をして、玄関を出る時に、ふと違和感を感じた。
「蓮は出ないの?」
「え……一緒に行くの……嫌かと思って……」
「なんでだよ!?同じ学校に行くのに、別々で出るのもヘンでしょーが……」
「一緒に登校しても……いいの……?」
「きょうだいならフツーじゃないの?」
「あ、そっか……勝手に中学の頃に戻るのかと思い込んでた……」
「なんでやねん」
私たちは、側から見たらいつも通りの通学をした。今日からまた、新しい日々が始まる。
内気な人が多いこのクラスでは、挙手制にすると全員の意見が出てこないという丹沢君の提案で、記入という形を取った私たち実行委員。
放課後、私と丹沢君は回収した用紙を集計する作業をしていた。
「佐久間さん、アンケート形式を提案してくれてありがとう」
「みんなの意見を聞きたいって言ってくれた丹沢君のおかげだよ。すごいね丹沢君は」
「そんなことないよ……へへ……」
「オイコラ根暗メガネ。俺がいること忘れてねーか!?」
「コラッ!丹沢君に失礼なこと言っちゃダメでしょっ!?」
「何であんな奴の肩持つのぉぉ~~ッッ!!?」
本格的に実行委員の仕事が始まってから、やたらと委員の仕事を手伝いたがる蓮。助かる場面もあるけど、今みたいに丹沢君に喧嘩を売るのだけはいただけない。
「あはは……本当に佐久間さんのこと好きなんだね、弟さんは……」
「あ゛あ゛!?今明らかに悪意見せやがったなテメー!?俺は南の彼氏で夫だっっ!!!」
「やーめーなーさーいッッ!!今度キレたら先に帰らせるからねっ!?」
「何で俺の肩持ってくんないのッッ!!?」
ギャーギャー喚く蓮に手を焼きながら、何とか集計を終える。やっぱり飲食店希望が多かったな。
「蓮の希望、意外だったな~~」
「ああ、劇?」
「そういうの、苦手だと思ってたから……」
「俺は苦手だけど……ほら、中学の時さ、南が演劇部の助っ人で舞台に上がったことあったじゃん?すっごく歌上手かったな~~ってこと思い出して……」
「うわぁ~~恥ずかしい!!忘れてよね~~?」
椿と亜耶が所属していた演劇部で、急遽助っ人に入った。出番も少ないし、私でも知ってる有名なナンバーを一曲歌わなければならなかったけど、曲自体は知っていたから何とか事なきを得たのだが、個人的に恥ずかしい思い出の一つだ。そう言えば直前に蓮と取り巻きたちと、椿が揉めたって言ってたな……。
「舞台、見てたよ……南、天使みたいに綺麗だった……♡♡♡」
「身内の欲目で見過ぎだよぉ~~!!」
「そんなことないよ……遠くで見ることしか出来なかったけど……南、輝いてた……」
「あ゛~~恥ずいッッ!!もうこの話はおしまいっっ!!」
舞台から見た客席がフラッシュバックする。あんなにも緊張する体験は貴重ではあったけど、もう当分やりたくはない。
「南~~ポスターこんな感じでOK?」
「うわ~~!流石美術部♡ ありがとう七海♡」
プチ縁日をすることになった私たちのクラス。教室内に縁日を作り、たこ焼き、いちご飴の販売と射的、水風船掬いなどをする。行事の少ない進学校では、文化祭に向ける生徒の意気込みが半端無く、学校中が異様な熱気に包まれていた。
文化祭前日、教室で最終チェックしていると、丹沢君が入ってきた。
「佐久間さん、今日までお疲れ様」
「丹沢君も、お疲れ様」
「アレ?弟さんは?」
「荷物持ちに、七海たちの買い出しに付いてったよ」
「そうなんだ……じゃあ、今がチャンスかな……?」
「丹沢君……?」
「春からずっと、佐久間さんのことが好きでした……婚約者がいるって知ってたけど、一緒に実行委員になって、欲が出ちゃった。フッてくれて大丈夫だよ」
「丹沢君……ごめんなさい。でも、好きになってくれてありがとうね」
「……そういうとこ、ズルいな……じゃ、明日からもクラスメイトとしてよろしく!」
「うん、よろしくね」
寂しそうに笑う丹沢君。クラスみんなを気遣える優しいこの人が、この先素敵な人と巡り会えますように、と神様にお祈りした。
「よお!遊びに来たよ~~♪」
「おーっす!頑張っとるかぁ~~?」
椿と亜耶が文化祭に遊びに来てくれた。
「えっ!?南の友達!?美男美女~~!!」
「おっ?何だ?めちゃくちゃカワイイ子だな。良かったら私と付き合わないか?」
早速七海にちょっかいを掛ける椿。美熟女な校長に一目惚れして進学先を決めた椿は、結構な女好きである。
「えっ?♡ あの……私、ノーマル?なので……♡」
「……可愛い……マジで付き合わない?」
「人様の友達に手を出すなアホが……」
女癖の悪い椿に呆れ顔の亜耶。
「イケメンさんは私たちがご案内しますよ~~♡♡♡」
「え?マジ?♡ じゃ、お願いしよっかな~~♡」
常識人だけど据え膳はそれなりに頂くと豪語する亜耶。椿と亜耶は、それぞれ女の子たちと一緒に校内を回ることになった。
「椿ってそっちの人だったの?」
当番を変わった蓮がこちらに来た。
「ただの女好きなんだって。前世が男だから、その名残りらしいよ」
「ふーん……俺たちも校内回ろうよ♡♡♡」
「うん、行こっか!」
私の当番の時間まで、校内を見て回ることになった。
他のクラスや学年の教室を回り、ゲームをしたり食べ歩きをしたり、色々と見て回った後、体育館に移動した。
「ちょうど今から吹奏楽部の演奏があるんだって」
「そっか、あ!あそこの席が空いてるよ♡♡♡」
空いてる席に座ろうとしたら……
「蓮ッッ!!?♡♡♡」
「はっ!?……お前、なんで……」
隣の席に、蓮の元カノがいた。
ーーーーーーー
「やっと会えた!!♡♡♡ 蓮ってば、いきなり転校しちゃうんだもん。ずっと会いたかったんだよ?♡♡♡」
席に座ろうとしたら、高校まで追いかけてきたキモい元カノがいた。
「何で……俺、誰にも言ってねーのに……」
「そんなの調べようと思ったらすぐ分かるよぉ~~♡♡♡ 家の前で観音高校の制服着てる蓮も見たしね~~♡♡♡」
何コイツ……家までストーキングしてるのか……?
「さっき蓮のクラスに行ったんだけどね、どこにもいなかったからまた後で顔出そうと思ってたんだ~~♡♡♡ 蓮のクラスメイトって良い人ばかりだね♡♡♡ 彼女ですって言ったら、いちご飴サービスして貰っちゃった♡♡♡」
「はあ!?何なのお前ッッ!?」
「ええ~~良いじゃん本当のことだし~~♡♡♡ ……あらお姉さん?いらっしゃったの?」
元カノの言葉にハッとする。そうだ……今俺の横には……
「はあ、いましたよ……」
「相変わらずボーっとしてるよねぇ……そんな調子じゃ、また中学の時みたいに、水ぶっかけられちゃうぞぉ~~?」
はあ!?下駄箱のゴミや教科書の落書きは知ってたけど、水かけられるって何!?
「あ~~、ここの学校の人は民度が高いので、そんなベタで頭悪いことする人はいませんよ」
「っっ……ハァ!?何なのアンタ!?たまたま蓮のお父さんに取り入ったオンナの娘ってだけで調子乗りやがってッッ!!?男に守ってもらうしか能の無いブリッコがさぁ~~!!」
「……ママの悪口、やめてくれる……?」
一瞬喉が詰まった。南は母さんが大好きだ。母さんを馬鹿にされた南の顔が、中学の時の俺を見る顔に変わった。その顔を見た俺は、間抜けなことに、恐怖で身動きが取れなくなっていた。
「はあ!?いい歳してママって、バカじゃねーの!?」
「バカはあなただよ。みんなが楽しみにしてた文化祭を台無しにしないで。話があるなら生徒指導室が空いてると思うから……」
般若の面を付けたような顔で喚き散らす元カノと、冷静な対応をする南……。周りの目は、南に対する同情に包まれていた。
生徒指導室に移動する間、俺は黙って着いて行くことしか出来なかった。南は終始無言で歩き続けた。
「では、お二人でゆっくり話してください」
「ッッ……行かないで……」
「あのねぇ、痴情のもつれに私を巻き込まないで」
南の言うことは尤もだ。俺とこの元カノの揉め事は、南に全く関係無い。
ピシャリと閉じられた戸が、俺と南の心の溝を表しているようで、胸が痛んでどうしようもなかった。
「何自分だけが傷付いた顔してんのよ……?」
「はあ!?俺、瀬条にいた時から南だけしか見てなかったの、知ってたよな!?」
「知ってたよ!?毎日毎日HR終わる前に教室飛び出して、お姉さん迎えに行ってるの見てたからねぇ!!」
「だったら何でこんな嫌がらせ……ッッ!!」
「蓮は私と付き合うべきだからよ」
『同じ高校行けないなら、もう南の処女貰うしか無いよね?本当は俺も童貞捧げたかったんだけど、逆レイプされちゃったからさ~~……ごめんね?でも南は処女くれるよね??』
「はあっっ!!?」
「蓮が他の誰を見てても、私の処女奪った事実は消えない。いいよ、私待ってる♡♡♡ 私が諦めなければ、蓮が振り向いてくれる可能性はゼロじゃないもんね♡♡♡」
『約束だからね!!?♡♡♡絶対結婚するんだよ!?♡♡♡絶対絶対絶対絶対ッッ!!結婚するからねッッ!?♡♡♡♡』
虚な目……自暴自棄な態度……目の前のこの女は…………俺自身だ…………
「……何……やってんの……?」
俺は目の前の元カノに、土下座をした。
「ごめんなさい……俺が浅はかでした……」
「やめてよ……謝って欲しくない……」
「傷付けてごめんなさい……でも……君とは付き合えません……本当に、ごめんなさい……」
「イヤッッ!!そんなの蓮らしくない!!いつも何もかもがどうでも良さそうだったクセに!!女なら誰でも良かったクセに!!蓮が特別な子を作らなければ私は……ッッ……私は……こんなイヤな女にならずに済んだのに……ッッ……蓮のバカヤロォォーーー!!ゔわぁぁ~~ん!!」
元カノが号泣する間、俺はずっと土下座を続けていた。
「ぐすっ……ズビッ……蓮さぁ……私の名前……覚えてる……?」
「えーと………ごめんなさい……」
「ホンッット!!サイテーだね!!園子!!覚えたなら、もう付き纏うのやめてあげる」
「園子……」
「ふっ……初めて名前呼ばれたわ。じゃ、私帰るね。お姉さんに謝っといて。昔からボーッとしてるのに幸せそうなお姉さんのことムカついてたから、私からは謝らないからさ……代わりに蓮が謝っといてよ」
「……分かった……」
園子は、どこか憑き物が落ちたような顔をして生徒指導室から出ていった……。
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「始まりました観音高校の伝統行事……好きなあの子に公開告白しちゃおうのコーーナーー!!今年も数多の猛者が無謀にも絶叫告白に挑もうとしておりまーーーす!!飛び入り参加も勿論大歓迎!!さあ、薔薇色の高校生活を掴むのは誰だぁぁーーー!!?」
3年の先輩の軽快なトークで始まった公開告白タイム。体育館で繰り広げられる一大イベントに盛り上がる客席。椿、七海と合流した私は、流れでイベントを見ることになった。
「さっきは修羅場イベントでプチ盛り上がりしてたけどな」
「南、大丈夫……?」
蓮と元カノとのやり取りを見ていた椿と七海。不審に思った七海に聞かれ、中学時代の悪行を暴露したと椿に謝られた。
「私は大丈夫なんだけど……蓮は大丈夫かな?」
「超絶!因果応報だから知ったこっちゃねぇ」
そう吐き捨てた椿から、黒色の石を手渡された。オニキスらしい。
「魔除けだ。持っとけ」
「いつもありがとう」
「七海ちゃんにはこれをあげよう♡」
「うわぁ♡ 可愛いピアス♡ これ何の石?」
「アメジストさ♡ 石言葉は、真実の愛♡」
「やだもう!でも嬉しい~~♡」
……まさか本気で口説くつもりか……?しかし自分の店を持ってるとは言え、何でいつも石やらアクセサリーやらが出てくるんだろう。これもお告げの一種なのか……?
壇上では、次々と絶叫告白が繰り広げられていく。
「みんな勇気あるな~~」
「こんなの出来レースだろ。そもそも告白自体が、好意の確認作業だからな」
「身も蓋も無い……まあ、お気持ちは分かりますけど……」
「分かる~~。相手も自分のこと好きって確証が無いと、みんなの前でなんて告白出来ないよね~~?」
「さぁ~~次に挑戦するのはどの猛者だ!?成就するのか、玉砕するのかぁ~~?みんなで見守ろうっ!!カモーーーン!!!」
次に壇上に上がったのは……
「蓮ッッ!!?」
司会者の先輩に呼ばれて出てきたのは、蓮だった。
「オイオイ……あの修羅場の後で、一体何話すつもりだ?」
隣で、椿が呆れた顔をした。
『1年5組、佐久間蓮です。今日は、大好きな南に告白したくて、ここに立ちました』
マイクに向かって、自己紹介をする蓮。
「おーっと!!麗しの転入生が婚約者のお姉さんに告白だ!!もしかしてプロポーズかぁぁ~~!?」
口笛を吹く音や、囃し立てる声が館内をこだまする……3年の先輩にまで私たちが婚約者同士とか知られてるんだ……恥ずかしい……
『南と初めて出会ったのは、小学校3年生の時でした。可愛くて可愛くて、一目惚れでした。5年生の時に両親が再婚して、きょうだいになったけど、俺の中ではずっと……特別な女の子でした。可愛くてモテて、危なっかしい南だけど……なんかいつもボーッとしてるし、ほっといたらずっと雲の形追ってるし、俺が側にいるのに、いつも南は自分の世界を生きてました』
「確かにw 南は割と目の前のことしか考えてないもんなw 」
「人のこと間抜けみたいに……」
『きっと南はいつか俺を置いて、南の世界で幸せになるんだろうって思ったら、すごく苦しくなった。とある出来事がきっかけで南に軽蔑されてからは、南に俺のこと見て欲しくて、色んな女の子と付き合いました』
館内がどよめく。一途な婚約者君の別の顔を知った女子生徒からは、非難の声も上がり始めた。
『俺は最低なことをしました。最低だって気付きもしませんでした。南にいっぱい迷惑をかけたし、色んな女の子を泣かせました。だから黙って観音高校を受験した南の対応は、真っ当なものだったと、今なら分かります。それなのに俺は、自暴自棄になって南に婚約を迫りました。酷い脅しもしました。観音高校まで追いかけもしました。そんな俺に……南は沢山優しさをくれました!!ありがとう南!!優しくしてくれて、気にかけてくれて……本当にありがとう……だから……もういいよ……』
「蓮……?」
蓮は、マイクを握りしめて、涙を流していた……
『今日で俺は……南を手放します……』
響めきが広がる体育館。
『南が大好きだから…………今日で南を手放します……今までありがとう南……もう……きょうだいに……戻るね……』
涙でぐしゃぐしゃの顔をこちらに向けて、無理矢理笑った後……蓮は、静かに壇上を去った。
「まさかこんなに早く魔除けの効果が出るとは……」
「お前……不謹慎な物言いやめろ」
体育館の別の場所で蓮を見ていた亜耶と合流し、2年の教室のカフェで私と椿、七海、亜耶でお茶をしている。
「南はどう思ってるの……?」
七海が様子を伺うように言った。
「ごめん……分からない……何か考えなくちゃって思うほどボーッとするって言うか……」
「取り敢えずその負のエネルギーが癒えるまで、何も考えなくていい……」
「椿……?」
「南は長年、良くないエネルギーに纏わり付かれてたんだ。そろそろ浄化しろって後ろの人も言ってるぞ?」
「そっか……」
「え?なになに?」
椿と亜耶は神妙な面持ちで、私を見ていた。七海はキョトンとしていた。
文化祭の本祭が終わり、各クラス後片付けに取り掛かり始めた。蓮からは、家に帰ったとチャットが来てた。
「アイツ……後片付け丸投げしやがって……まぁ、しゃーないっちゃしゃーないけど……」
竹永君がボヤきながらフォローを入れる。クラスメイトたちも、私にどう声を掛けていいのか測りかねている様子だった。
「南は後夜祭どうする?」
「出るよ。実行委員だもん」
「そっか……じゃあさ、蓮の代わりに俺が踊ってやるよ」
「気を使わせてごめん……」
後夜祭ではリクエストされた音楽と共に校庭でダンスをするのだ。欧米のプロムみたいなノリである。
「早まったなぁ~~……さっさと告白しなきゃよかった」
「それ、本人の前で言う……?」
「あはは!ごめんごめん。取り敢えず後夜祭が終わったら僕たちもお役御免だ。あと少し、頑張ろう」
「うん!頑張ろう!」
丹沢君と軽口を言い合い、実行委員の仕事を熟す。周りが腫れ物に触るように扱う中で、いつも通り接してくれるのはありがたい。
音楽がかかり、各々ダンスをしたり、おしゃべりしたりする生徒たち。みんな楽しそうだ。
「南~~、踊ろうぜ~~!」
迎えに来た竹永君について行こうとすると……
「蓮っっ!!?」
蓮に手首を掴まれていた。
「お前ッッ!!後片付けもせずに今さら来たのかよ!?」
「ごめん竹永!!今日だけ譲ってくれ!!」
「おっ……おぅ……」
蓮の気迫に押されて、竹永君が怯んだ。
「最後に……南と踊りたい……」
泣き腫らして真っ赤になった目が痛々しい。
「未練がましくて……ごめんね……」
「良いよ、踊ろう。私も蓮と話したかったし」
蓮に連れられて校庭に出ると、周りの生徒はこちらを凝視していた。ヒソヒソ耳打ちをしている人もいる。音楽がバラードになると、辺りはチークダンスの空気になった。蓮の手を取り、身を預ける。
「この半年、なかなかスリリングで楽しかったよ」
「怖い思いいっぱいさせて……ごめん……」
「ホントにねぇ……おかげで普段ならしなかったことも沢山したよね」
「うん……ごめんね……」
「きっと、私が今手を差し伸べるのは簡単なんだろうね……」
「……出来れば無かったことに出来ないかなって、既に後悔してる……」
正直な蓮の感想に、つい吹き出してしまった。
「でもそれじゃ、蓮の決意を無駄にしちゃうよね……私も、自分の気持ちとしっかり向き合うね……」
「うん……」
「答えが出たら、ちゃんと伝えるからね。だから……きょうだいに、戻ろうね……」
「うんっ……待ってる……どんな答えでも、待ってるよ……」
「ちょっとw これ以上泣いたら目が開かなくなっちゃうよ?」
「だってぇぇ~~……ゔわぁぁ~~……」
泣き出した蓮に、周りの生徒はギョッとしていた。私は暫くの間、蓮の背中をさすり、宥めていた。
「うぇぇ……ひっく……半年間……幸せだったよ……ありがとう南ぃぃ~~!!」
「こちらこそ、好きになってくれて、ありがとね……」
こうして波瀾万丈な文化祭は、終わりを迎えたのだった。
「おはよう姉さん……」
朝の挨拶で、蓮の中で既に折り合いをつけたのだと悟った。
「おはよう蓮」
朝の支度をして、玄関を出る時に、ふと違和感を感じた。
「蓮は出ないの?」
「え……一緒に行くの……嫌かと思って……」
「なんでだよ!?同じ学校に行くのに、別々で出るのもヘンでしょーが……」
「一緒に登校しても……いいの……?」
「きょうだいならフツーじゃないの?」
「あ、そっか……勝手に中学の頃に戻るのかと思い込んでた……」
「なんでやねん」
私たちは、側から見たらいつも通りの通学をした。今日からまた、新しい日々が始まる。
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