へなちょこ勇者の珍道記〜異世界召喚されたけど極体魔法が使えるのに無能と誤判定で死地へ追放されたんですが!!

KeyBow

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第2章

模擬戦

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 使用する武器は木でできたショートソードだ。日本で防犯用で見掛ける位の木刀ぐらいの長さかなと太一は考えていた。

「それでは開始!」という講師の声と共に奴は突進してきた。

 太一は屈伸等をして準備をしていたのだが、意表を突かれた形になる。慌てて剣で攻撃を受け止める。よく見えていて、躱そうと思えば躱せたのだが、予期しないタイミングで体がきちんと動かず、なんとか咄嗟に剣で受け止めたのだ。受け止める度にズキンと手に衝撃が加わる。

 粗暴な奴だが、剣の腕はそこそこあったのだ。

 相手は元兵士で剣は元々訓練されていた。素行に問題が有り、酔った勢いで女性に暴行を加えようとし、取り押さえられて除隊になっていた。つまりそういう奴であった。

 勿論太一が知る筈もない。

「うらうらうらうらぁ!どうしたよ?兄ちゃん」

 突きや払い、上段から振り抜かれたり等、一方的に攻めて来ていた。太一は頭の中では剣の動きが見えていて、何をすれば良いのかそれなりに分かってはいたのだが、体が動かない。その為防戦一方であった。

 ただ講師は太一が何故反撃しないのか不思議に思っていた。そう、太一は加減を間違えて、もし怪我でもさせてしまったらどうしよう?これ当たったら骨とか折れるよね等と思い攻撃を躊躇っていたのだ。しかし相手の攻撃はエスカレートする一方だった。

 漸く隙を見て突きを入れる。うぉーと唸りながら奴が躱すが、頬をかすったようで頬から血が流れる。

「てめえ、このクソガキぃよくもやりやがったな!」

 奴を更に怒らせただけだった。

 攻撃を入れても入れても太一に躱され当たらないので相手は苛々し

「この糞ガキがぁ!さっきからちょこまかちょこまかとしやがって!大人しく当っとけ!男なら正々堂々と正面から打ち合えやぁ!ゴルァー」

 といった感じで攻めてくる。攻撃に関しては当たり障りのない真っ当な攻撃であった。良くも悪くも元兵士である。
 ついに息を切らせて片膝をついた。太一は息を切らせてはいないが両手でしっかり剣を握り締め、様子を見ていた。

 するといつの間にか右手に剣を持ち替え、奴が

「ほらこれでも喰らえ」

 と左手に握った砂を太一に向かって投げてきた。太一は咄嗟の事にうまく反応できなかった。手で顔を覆うのが遅れてしまい、砂が目に入った為に後ずさる。片手で目を覆い片手で剣を持っていたのだが、その剣を弾かれてしまい、吹き飛んで行った。

 勝負有ったなとトドメを刺そうとするが、太一は何とか躱した。躱した時に剣を持っている方の手を蹴り付けた。正確には剣を弾かれ倒れた時にたまたま蹴り出した形になった足が当たり
、奴の剣も吹き飛んで行った。

「てめえ、クソが、やりやがったな!」

 奴は唸り、太一の目は片目だけだがなんとか開けられた。そして奴は懐から短剣を取り出し、太一に襲い掛かって来たのだ。講師がまずいと叫んだが、訓練場の外周で見ている者達が止めに入るには距離が有り過ぎた。しかし、キーンという音と共にそいつの短剣がバキッと折れた。そして太一の手には神々しい剣が握られていたのだ。

 太一が握っていた剣を見て

「そんなバカな」

 と動揺して更にナイフを出し、太一に投げようとした。所が講師が咄嗟に投げたナイフが奴の手に刺さり、

「そこまでだ!」

 と言いその模擬戦を止めさせた。

「模擬戦で真剣の隠し武器を出すなんて何を考えているんだ!」

「す、すまねぇ。あまりにも強いんで無我夢中になり、模擬戦だという事を忘れちまった。申し訳ねぇ」

 意外と素直に謝ってきた。実際は違うのだろうが、戦いに興奮し、本物の戦いと混同してしまったと言われればそう見えなくもない。

「分かったがもう彼とはやらせないから別者と組むんだ」

「分かった、すまねぇ」

 講師が元の位置に戻り、2人を外周に向かわせ次の者に模擬戦をするよう指示をしたが、太一には奴から

「てめぇ覚えてやがれ」

 と言う声を確かに聞いたのであった。

 太一はシャロン達の所に向かい、自らの顔にウォーターを掛けて顔を洗い、目に入った砂を取った。念の為にノエルが治療魔法を掛けてくれた。

 また、奴に刺さったナイフは仲間が抜きとり、周りにいた治療魔法を使える者が治療をしていた。


「ふふふ、ロイくんってやっぱり強いのじゃないの。でも何故反撃を殆どしなかったの?いつでもやれた筈でしょ?」

「うん。見えてはいるんだけどね。体が固まってうまく剣を繰り出せなかったんだよ。頬をかすったあの一撃が精一杯だったんだよ」

 ふん!といった感じで、ジト目をされてしまった。

「まあいいわ。今はそう言うう事にしといてあげるわ。後でちゃんと説明しなさいよ」

「なんかノエルって受付嬢をしている時と喋り方とか違うわなくないか?もっとおしとやかだったよな?」

「そりゃそうよ。受付嬢はおしとやかで冒険者のご機嫌を取り、いかなる時も丁寧でにこやかにしてなきゃいけないのよ。あれは受付嬢を演じているのであって、受付嬢は皆普段の自分を殺して仕事をしているのよ。自分で言うのもなんだけども、受付嬢の笑顔には騙されちゃ駄目なのよ」

「じゃあ今のがノエルの素なの」

「ふふふどうかしらそのうち分かるわよ。別に構わないけど、ロイも私の事ノエルって呼ぶのね」


 先程からの態度がこのノエルという受付嬢の本来の姿なのだろうと、ギャップが激しかった。

 正直受付嬢をしている時のノエルはまさに女神だ。隣にシャロンがいてもこの子と付き合いたい、そう思ってしまう。そういう男心をくすぐるような仕草であったが、正直今のノエルは太一は苦手だった。ぐいぐい来るからである。


 そしてノエルがもう一つ意味深な事をそういえば言っていた。

「夜になったら本当の私を見せてあげるわ」

 本当の私って何だろう?と思いつつ他の者の模擬戦を眺めているのであった。
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