へなちょこ勇者の珍道記〜異世界召喚されたけど極体魔法が使えるのに無能と誤判定で死地へ追放されたんですが!!

KeyBow

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第2章

見張り

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 太一は人生初になるのだが、妙齢の女性と同じ布団に入るイベントを敢行中だ。流石に向き合うとわざとではなく、間違って体に触れてしまい嫌な思いをさせ兼ねないので背中を向けていた。ただシャロンは

「太一様の背中って大きいですね。男の人なんだなって思います。その、寒いので失礼して背中にくっつかせて頂きますね」

 太一はシャロンの温もりと、わざとなのか違うのか、背中に当たる胸の感触に悶々としていて、心臓がバクバクしていた。いかんいかんと、別のことを考え、シャロンの事を気にしないように努めていた。

 さてどうやって起きるかなと寝る前に思っていたのだ。そういえば頭の中にあるディスプレイの方に時計があったなと。そう今までギルドに行くにしろ時間にほぼ正確だったのだが、それは時計が有ったからだ。この後でシャロンに聞いたが、そういうような物は無いと言っていた。屋敷には各フロアと食堂に時計が有ったが、携帯できる時計はないのだという。ディスプレイや時計は勇者の特典だろうという話になった。

 時計の方が気になってきた。今まで特に気にしていなかったが、これを期にと色々調べていたが、何とアラームセットが出来る事が判り、交代時間の10分前にセットした。お陰で交代をする前にきちんと起きてシャロンの所に赴く。シャロンは退屈そうに辺りを眺めていた。

 シャロンの所に行き、

「シャロン、そろそろ交代しようか」

「太一様凄いですわ。ほぼ時間ぴったりだと思います」

「時計があるからね。それよりも何か有ったかい?」

「いえ何も無かったです。時々流れ星が流れた位ですわ」

 太一は夜空を見上げた。満天の星空だった。子供の頃母方の実家のある田舎に行った時に見上げた夜空は天の川がはっきり見え、星ってこんなに見えるんだと感動した事が有ったが、そんな比ではない。ただし星は多いのだが、天の川が無いし、見た事の無い星の見え方だ。北半球、南半球の違い、そういうレベルでもない。ある程度の南半球と北半球の星座も頭に入っているが、そのようなものは全く見えない。それどころか肉眼で見える銀河の大きさが尋常ではなかった。肉眼で見る事の出来るアンドロメダ銀河の倍の大きさのバジルが目に取れた。

 子供の頃おじいちゃんに教えられて、一緒に天の川を見ていて、オリオン座の星雲の位置や肉眼で見えるアンドロメダ銀河の見付け方のコツ、六連星のうんちく等を教えられ、夢中で見たものである。肉眼で星団らしきものも見えるが、プレアデスのような見覚えのある星団等は見えなかった。

 ここが地球から見える景色とかけ離れた場所だというのがよく分かった。よくよく見ると銀河自体がアンドロメダ銀河とは違う事が分かった。形が違って、この星はそもそもどこなのだろう?そう思うがそういった事を抜きにすると満天の夜空は、星々が煌めき、あり得ない数の星に圧倒される程に夜空は綺麗であった。焚き火の前に座って、シャロンと少し話をしていたのだが、シャロンがもたれ掛って来た。

「太一様、少しご一緒にいさせて頂いても宜しいでしょうか?」

 頷き、そっと肩を抱き寄せてマントの中にシャロンをくるむ。嫌がらなかったので太一は嬉しかった。

「ああ、太一様、暖かいです」

 シャロンの頭が太一の肩にもたれ掛って来る。シャロンの温もりと匂いを太一は感じていた。しばらく肩を寄せ合い休んでいたが、シャロンが

「そろそろ私も寝ますね」

 そう言い立ち上がる。太一は立ち上がったシャロンを見上げる形になり、シャロンを見ると満天の星空をバックにシャロンが神々しく見えた。

 太一は立ち上がり、去ろうとしていたシャロンを後ろから抱きしめる。

「太一様、嬉しいです」

 悲鳴をあげず、うっとりとした声をあげる。

「その、その、俺はじゃなくて、僕はその、シャロン、君が好きだ。僕の彼女になって欲しい」

 シャロンがきょとんとする

「彼女ってどういう事ですか?私は太一様のものですよ!」

 翻訳がそうさせているのか、彼女という言葉がうまく伝わらなかったようだ。ただ「彼女」が何かについて話をしても、話の内容が通じなかった。

 そうここは男尊女卑の世界であったのだ。

 男女が付き合って、付き合っている女性が彼女だと話してようやく通じた。田舎の農村や身分が低い者の間では単純に好き合った相手と交際すると言う事も有るが、中流階層以上では殆ど無いという。勿論付き合い、恋人になるのは嬉しいと言ってくれた。今までは太一が自分の所有物としてシャロンを欲し、単にハーレムの一員として囲むものと思っていたというのだ。だから付き合い恋人になるのが信じられなかったのだと言っていた。

 中流階層以上では交際を経験する事も無く、いきなり若いうちから結婚するような風習があったのだ。世界観があまりにも違い過ぎて、恋人同士というような男女が対等に過ごす様な世界ではなかったのだ。時折シャロンの言動がおかしいなと思ってはいたのだが、おかしかったのは実は太一の方だったのだ。また、処女で無い場合はハーレムの一員にすら加えられず、身分の低い者等の後妻になるのが精一杯だそうだ。

 そうあくまでもこの世界での話だ。
 また、結婚についても誤解があった。同じ単語であったのだが、中流階層以上では結婚というのはハーレムの主の女になる。それが結婚だと言う。ハーレムの主に尽くし、ハーレムの主を引き立てる。そしてコーム心を込めて愛してもらえれば御の字だと言う。親同士で決めた相手のハーレムに入るのか一般的で、そういう半ば主従関係を築くのが結婚だと言っていた。太一にはイマイチ理解はできなかった。

「私と付き合い、いずれは娶って貰えるんですよね?それと勿論ノエルも娶るんですよね?」

 というような事も言われた。太一はよく分からなかったが、そういうものなのかと確認すると、そうですよと言う。そして既にカエデも太一に嫁ぐ予定になっていると言う。

 よく分からなかった。ただ、シャロンは自分は幸せだと。好きな相手に娶ってもらえそうだからと。何よりも恋人にさえして貰えると。

 それはさておき今のシャロンは女神そのものだった。太一はシャロンを見つめる。シャロンも太一を見つめる。そしてどちらからだろうか、気が付けば2人の唇が合わさっていた。澄んだ空気の凛とした厳かな満点の星空の下で。シャロンのファーストキスであった。
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