イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

第20話 トレーニング

　校長室での話しの時、ハンターギルドのギルドマスターから服や装備を無くした補填の第一弾として、まずはと10万円をもらっていたが、それで買い物をしたんだ。

　家に帰ると母親と弟が俺の姿を見て驚いた様子だった。特に母親は俺が手を失っていたことを知らないが、裂傷を負ったと思い込んでていたようだ。

「腕の怪我が治ったんだね！さすがハンター、回復が早いわ！」

　すっかり治っている腕を見て安心した表情を浮かべていた。

「ほら、俺の能力は回復(小)だから、ダンジョンにいれば大抵の傷は治るんだよ。まあ２時間かかったけどね」

　そうして俺は遅い夕食を食べ、３人でケーキを食べた。

　翌日、学校へ行くと森雪さんが正門で待っていた。彼女は微妙な表情を浮かべながら、無言で俺の手をじっと見ていた。特に何も言わなかったが、その視線には何かを言いたい感じが伝わってきた。

　教室に着き、荷物を置くと森雪さんが突然俺の腕を掴んで怒りに任せて体育館の裏へ引っ張って行った。
　あの顔はなぜかどう見ても怒っていて、どう見ても告白のそれではない。
　俺何かしたかな？

「なんで手のことを言ってくれなかったの！」　
　
　真剣な顔で怒りをぶつけてきた。
　彼女がここまで怒るとは思っていなかった俺は、どう返事をしていいか分からず、ただ彼女を見つめるしかなかった。
　また、怒っている理由に心当たりがない。ちゃんと目の前で肉体再生を得たから、手は生えるはずだと伝えたはずだ。

　取り敢えず俺は森雪さんの怒りを受け止めるしかなく「ごめん」としか言えなかった。

　腕が再生したのは良かったが、正直言ってまだ握力が全然戻っていない。物を握るのも少し難しいくらいだった。再生したとはいえ、筋肉や神経が完全に元通りになるには時間がかかるんだろう。

「実はさ、腕は治ったんだけど、握力がほとんどなくてさ・・・あと、ギルドマスターへの話の中に、スキルオーブにて肉体再生を得たと話したから、手が再生すると分かっていると思ったんだ。説明不足だった・・・ごめん。」

　俺は腑に落ちないも、森雪さんの怒りを鎮めるために説明すると、少し冷静になったようでバツが悪そうにした。

「私、水木さんと話している時があったからその時話してたんだ・・・ちゃんと言って欲しかったけど、うん、治って良かった!」

　まだ少しムスッとしているようだけど、どうやら納得してくれたようだった。

「でも、それならちゃんとリハビリとかしないとダメだよ？」

　森雪さんは真剣な表情で言ってくれた。俺もそのつもりだった。

「分かってるよ。だから金曜までは学校帰りにギルドのジムに通って筋トレをしようと思ってるんだ」

　そう答えると、彼女は少し驚いたような顔をしてから、すぐににっこり笑った。

「それなら安心したわ」

「まぁ、お金を少し貰ったから急いでダンジョンに入らなくても良いから、元の力に戻せるように頑張るよ」

　俺は森雪さんの笑顔に少しホッとして、気楽に返事をした。

　この日から学校が終わると俺はさっそくギルドに向かい、ジムでの筋トレを始めることにした。握力を戻すために少しずつハンドグリップを握り、慎重にトレーニングをしていく。
　最初は思うように力が入らず、イライラすることもあったけど、少しずつでも前進していると感じられるのが救いだった。
　ハンターの特典で、ギルドにあるジムは無料で使える。
　ただ、中級以上のハンターは大抵自宅にジムを完備しているようなので、低ランクや駆け出しが使うことが多い。

「筋トレをして腕が元に戻ればダンジョンでもっとちゃんと戦えるようになるはずだ！」



　森雪さんに早く元気な姿を見せなきゃな！よし頑張るぞ！と一人気合を入れた。俺はそんなふうにして自分に言い聞かせるように決意を新たにし、鍛錬を続けた。