エラーから始まる異世界生活

第１章

小さな恩義

　意識を取り戻した俺は回りの状況を確認した。
　人だけを運んだら6人は行けそうな馬車だ。
　ただし、荷物用と思われる荷台に幌がついている粗末な作りだ。
　尻にクッションを当てないと、いや当ててもめちゃ痛そう。実際痛い。

　馬車の中にはには3人の兵士が居た。
　御者がいるから最低４人はいると言う事だ。
　そのうちの一人から

「兄ちゃん起きたか。もうすぐ目的地だぞ。しかし何やらかしたんだ？南の魔の森に、こんな時間にしかも一人で放り出すって死ねって言ってるようなもんだぞ」
「今どんな時間ですか？」

「もう少ししたら夕方だぞ」

　ここは森の中に入ってから暫く経っている。

「召還者だから理由の如何により処刑出来ないけど、兄ちゃんへの処置は実質処刑だぞ！」

　必死に頭を働かし、現状を理解しようとした。話しかけてきた兵士はまだ若く20代前半位だろうか。名前はトマスと言う。もう一人は2、3才年上。
　一番年上がそろそろ40になろうかと言う壮年だ。どうもこの人が一行を率いている。

　話を整理すると、どうやら俺はしてもいない第二王女への暴行の罪で放逐されるらしい。
　トマスに冤罪と訴えると

「そうかもしれないが俺達には関係ない。命令に従って兄ちゃんを森の奥深くに置いてくる事になっている。恨むなら命令した奴を恨んでくれ。悪く思わないでくれよ」

　さらっと言い取り合ってくれない。

　悪い奴じゃ無さそうだけど、典型的な上の指示に盲目的に従う公僕って奴かな。

　召還勇者を国家や国の重責を担う者が、直接にしろ間接的にしろ一方的に殺すと、重大な呪いが国家に降りかかるとの事。神界との召還魔法契約で召還者を守る為にあるそうだ。

　俺に隷属の首輪を使おうとしたが、俺には効かなかった。その為、飼い慣らせないと判断し、追放に踏み切ったとしか考えられない。

　そう言えば王の話の時に魔法を使ってたっぽいのは、あの子達のその後の態度の変わりようからすると、洗脳や意識誘導等の精神魔法なんだろうな。
　何故かレジストしたっぽいけど。
　俺の召還者特典かな？

　そして俺を危険な森に放逐し魔物に処分してもらおうと画策したっぽい。
　俺には持っていた荷物と元々着ていた服を渡すそうだ。召喚者の荷物も奪う事は厳禁だそうだ。
　何かしらの武器を渡さなければ処刑したと見なされて、呪いの影響が出る危険性があるらしい。
  どう見ても使い古した魔物や動物の解体用ナイフを武器として渡し、1日分の携帯食と水を渡すとの事。袋はかなりボロい麻袋のようだ。

　これで生き残れなかったら自己責任って事になるんだろうな。
　ふざけんな！と叫びたい。
　夕暮れが近付いてきて馬車は止まった。

「降りろ」

　そう言われたが腕を縛られている為、トマスの手を借りて何とか降りた。

　そこは鬱蒼とした森だった。
　馬車が1台通れるギリギリの幅の獣道と見間違いするような道が有るだけだった。

　馬車を降り数m離れた所で

「こっちを向け」

　と馬車の方を見る。
　ずた袋を投げつけてきた。
　トマスは俺の後ろに回ると

「ロープ切ってやるから動くなよ」

　そう言いロープを切った。その時

「しゃべるな」

　と釘を指し俺のベルトに何かをはさみこんできた。何か固い物だ。

「すまんな。俺の給料じゃこんな事くらいしかしてやれん。ナイフよりましだろう。僅かだがお金を置いておく」

　そう言うと足元に小袋を置いていった。

「頑張って生き抜いて見せろ」

　最後にそう言い離れて行った。

　どうやら独断で動いてたようだ。
　俺も気づかれないように馬車が出発するまでその場を動かなかった。
　トマスが乗り込むと馬車は急いで出発していった。
　二頭立ての荷馬車で馬は立派だった。
　暗くなると危険が増すので、暗くなるギリギリ前に危険地帯を引き返せれる所まで来ていたようだ。

「行っちゃったか。さあてとこれからどうしよっかな？」

　取り敢えず所持品の確認をしてみた。

　ビジネスバックにはスマホやタブレット、筆記用具、手帳、歯ブラシ等でサバイバルに使えるのはなさげ。後はペットボトルのお茶が在る位だ。

　腰に突っ込んである物を取るとそれは一本の短剣だった！
　有難い。生存率がぐっと上がりそうだ。
　お金は銀貨5枚と銅貨10枚が入っていた！
　手持ちのお金を置いていっただろうか？
　貨幣価値が分からん。

　食料は野戦食と言うやつだろうか。干肉に固められたパンっぽいのと水が少々。
　そして解体用のショボいナイフ。
　詰んだかなあ！

　等と考えていてもしょうがない。先がどうなっているか分からない以上来た道を、馬車が引き返して行った方に戻るのが現実っぽいな。

　周辺からは獣か魔物のか分からないが気配がする。

　『絶対あの王女へ仕返ししてやる！』

  俺は心に誓った！

　さあ行動開始だ。
　と一歩道を進み始めるのであった。