ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow

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第36話 再会と英雄への敬意

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 傲慢な騎士たちが去った後、静寂が戻った。
 ディノッゾは、そんな彼らの背中など、もはや見ていなかった。彼は地面に力なく転がされたままの兄妹に駆け寄った。まず腰のナイフでその縄を断ち切ると、感情のままに両腕を広げ、二人をまとめて抱きしめようとする。
 しかし、妹のレイラは涙でぐしゃぐしゃになった大男の抱擁を、寸前でひらりとかわした。ディノッゾが戸惑うのも構わず、彼女はまっすぐに隣のリリアの姿を見つけると、堰を切ったように駆け寄ってその体に抱きついた。

「よかった……! 無事だったのね……! 本当に……!」

 ディノッゾがレイラの行動に少し傷ついたような顔をした時、アレンが彼の前に歩み寄った。その顔には、再会への喜びと、行き場のない怒りが入り混じっていた。

「……よかった。ディノッゾさんも、生きていたんですね」

 アレンの言葉に、ディノッゾは静かに頷く。レイラがリリアを抱きしめ、嗚咽を漏らしているのを見て、ディノッゾもまた、胸が熱くなるのを感じた。
 セスティーナは、その光景を静かに見つめていた。兄を失い地獄を生き延びた仲間との再会。そのあまりの喜びに、彼女の胸にも熱いものがこみ上げてくる。彼女の目から、もらい泣きのように、涙が少しだけこぼれ、慌てて優雅な仕草でハンカチでそっと目元を拭った。
 だが、彼女はすぐに聖騎士としての冷静さを取り戻す。いつの間にか、周囲には野次馬が集まり、この奇妙な光景を遠巻きに眺めていた。

「ディノッゾ殿」 

 彼女は、静かに、しかし有無を言わせぬ口調で言った。

「皆が見ております。お二人と旧交を温めるのは後にして、今は取り急ぎ場所を変えましょう」

 その声にディノッゾははっと我に返る。
 アレンとレイラは、まだ自力で立つのもやっとの状態だった。

「……アレン歩けるか?肩を貸すぞ」

 ディノッゾがアレンの肩を支えるのを見て、セスティーナもごく自然に、レイラの華奢な肩を抱き寄せて支えた。

 取り敢えず一行は、セスティーナが手配した昨夜の宿屋へ向かい、部屋に入って落ち着くことにした。

 そこで彼女は改めて、アレンとレイラに向き直り、スカートの裾をつまんで片足を引き、優雅に挨拶をした。 

「申し遅れました。私の名は、セスティーナ・フォン・アルビオン。皇帝陛下に直接お仕えする、聖騎士にございます。お二人がご無事で何よりです」

 その、あまりにも格式高い挨拶に、アレンとレイラは、信じられないというように目を丸くした。
 アレンが、震える声で呟く。

「せ、セスティーナ……!? まさか、あの『皇国の至宝』と謳われる……!?つまりここは皇国?」

 ディノッゾは、そんな二人の反応を(まあ、そうなるよな)と、どこか他人事のように眺めていた。
 セスティーナは、兄妹の驚きを穏やかに手で制すと、話を促した。

「至宝かどうかは分かりませんが、ここは皇国にございます。ですが今はまず、身なりを整え何か温かいものを口にしてください。話はそれからで結構ですわ」

 リリアから渡された一口サイズにされたオランジの実を頬張ると、2人は軽く湯あみをしに浴場に。
 その間に動いたセスティーナの配慮で、兄妹は新しい服に着替え、温かいスープでようやく人心地つくことができた。宿の人に多目にお金を渡し、手元の服を売ってもらったのだ。
 そして一通りの事情を共有した後、アレンが、ずっと胸にしまっていた質問をおずおずと切り出した。

「あの、御者さん・・・兄は・・・ 兄の最期を、もしご存知でしたら・・・」

 その問いに、ディノッゾは足を止めた。
 彼は、アレンの目をまっすぐに見つめ返すと、静かに、そしてはっきりと告げた。

「ああ。ポータは紛れもなく英雄だった」

 それは、たった一言だった。
 だが、その言葉には、ポータへの最大の敬意と感謝が込められていた。
 アレンは、その言葉を聞くと、もう何も言わなかった。ただ、その場にひざまずき、静かに頭を下げた。そして、床に落ちた大粒の涙が、小さな水たまりを作った。

「ありがとうございます・・・」

 彼は、兄の最期を肯定してくれたディノッゾに、ただただ感謝していた。
 レイラも、その隣で、静かに涙を拭っていた。
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