ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow

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第46話 閉ざされた悪夢

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「話が、違うじゃねえか……!」

 ディノッゾの悲痛な叫びは、ミノタウロスの、闘争に満ちた咆哮によってかき消された。
 だが、本当の悪夢はその背後からやって来た。
 ダンジョンの奥、別の通路から、凄まじい絶叫が響き渡ったのだ。

「ぎゃあああああっ!」
「いやっ! 来ないで!」

 次の瞬間、ディノッゾたちより先にダンジョンへ入っていったはずの、少年少女たちがワラワラと通路を逆走して逃げてくる。その誰もが、血と涙と恐怖で顔をぐしゃぐしゃにしていた。

「オークだ! オークジェネラルが現れた!」
「こっちの通路には、巨大な目玉の化け物が……!」

 どうやらこのダンジョンの異常事態は、入り口付近だけではなかったらしい。ダンジョン全体が、挑戦者の実力――ディノッゾの実力に呼応し、本来ならあり得ない、高ランクの魔物を無数に生成し始めたのだ。
 逃げてきた少年少女たちは、ディノッゾたちのいる通路の角を曲がり、そして、絶望に顔を染めた。
 退路を塞ぐようにして立つ、巨大なミノタウロス。
 前門の虎、後門の狼。彼らは、完全に逃げ場を失ったのだ。

「ちっ……!」

 ディノッゾは、悪態をつくと、リリアとパニックに陥る少年少女たちを背後にかばうように、一歩前に出た。

「てめえら! ごちゃごちゃ喚いてねえで、俺の後ろに下がりやがれ!」

 彼は槍を中段に構え、戦士のそれとは似ても似つかない、しかし、凄まじい威圧感を放つ大声をあげた。

 その大きく頼もしい背中に、少年少女たちが、一瞬だけ希望を見出す。
 何人かはディノッゾの言葉を信じ、その後ろへと駆け込んだ。

 だが、恐怖に支配された3人の少年は、逆の方向――自分たちが入ってきた入り口へと、最後の望みを賭けて駆け出した。

「そうだ、外へ! 外へ出れば……!」

 しかし、彼らが入り口があったはずの壁にたどり着いた時、そこに待っていたのはさらなる絶望だった。

 そこにあるはずの外への出口が跡形もなく消え失せていた。そう、ただの冷たい石壁が、そこにあるだけ。

 ドンドン!と壁を叩くが、びくともしない。
 出口に向かった少年の一人が、振り返ると悲痛な声を上げた。

「だめだ……! 出口が……出口がないっ!」

 その絶望の叫びが、狭い通路に木霊した。
 ディノッゾも、リリアも、そしてそこにいる全ての者が理解した。

 自分たちは何故か高ランクの魔物ばかりがひしめく、このイレギュラーが発生したダンジョンに完全に閉じ込められたのだと。
 生きてここから出るには、この悪夢そのものとしか言えないダンジョンを踏破するしかないのだと。

「だめだ……! 出口が……出口がないっ!」

 絶望の叫びが狭い通路に木霊すると、ディノッゾはちっと舌打ちを一つした。
 ミノタウロスの衝撃波で吹き飛ばされた子供をエアクッションを駆使して受け止めたが、その手足はあり得ない方向に折れ曲がり、すでにボロボロでどう見ても歩けないほどの重傷だった。

「リリア! こいつらを頼む!」

 ディノッゾは重傷者をリリアに任せると、一人、ミノタウロスへと向き直った。 

「―――邪魔だ」

 呟きと同時に彼の姿が消える。次の瞬間には、ミノタウロスの懐に潜り込み、下から上へと槍を振り抜いていた。ミノタウロスは抵抗する暇もなく、その巨体を真っ二つに分断され絶命した。

 魔物は霧散し、その場には巨大な魔石と、有益そうなアイテムがドロップした。
 だが、ディノッゾはアイテムには目もくれず、リリアが介抱する重傷者に駆け寄った。
 少年の一人が、苦痛に顔を歪めながら、うわ言のように呟いている。

「ポーション……ポーションを……」 

 だが、なりたての15歳である彼らが、高価なポーションなど持っているはずもなかった。応急手当をするにも、まともな道具すらない。
 絶望が再びその場を支配しようとしていた。
 その時、ディノッゾの脳裏に、今朝の光景が蘇った。
 ダンジョンへ出発する直前、心配性の聖騎士様が、半ば無理やりリリアのアイテムボックスに何かを詰め込んでいた、あの光景が。

(……そう言えば、何かを持たされたな)

「リリア! セスティーナさんから貰ったもんは、まだ入ってるか!?」

「え? うん、まだあるけど……」
「出してやれ!」

 リリアは言われるがままにアイテムボックスを開き、セスティーナが持たせてくれた布袋を取り出した。
 中から出てきたのは青白い光を放つ、見覚えのある瓶。
 それも、一本や二本ではない。20本近い上級回復ポーションだった。
 一本でも街の一般人の年収が軽く飛ぶほどの、あまりにも過剰な餞別。 

(……あの聖騎士やりすぎだろ)

 ディノッゾは呆れと、そして心の底からの感謝で、天を仰いだ。

(セスティーナ、ナイス! あとで頭撫でてやらんとな!)

 彼はそんな不敬なことを思いつつ、リリアに指示を飛ばした。

「リリア、そいつを重傷の奴らに飲ませて治してやれ! 遠慮はいらねえ、全部使ってでもだ!」

「はい、ディノ!」

 リリアがポーションを配り始めると、ディノッゾは入り口があったはずの壁際で泣きじゃくっている4人の少年少女に近づき、有無を言わせぬ口調で問い詰めた。

「おい、お前ら! 何人だ! 生き残ってるのはこれで全員か!」
「は、はい……! 僕たちのパーティーは、全員ここに……」

「先に入ったのは?」

「い、いえ……ギルドの人に、自分たちが今日の1番目だと聞きました……」
  「私たちは2番目・・・揃ってます」

 つまり、今日、このダンジョンに入ったのは、ディノッゾたちを含め、3パーティーのみ。
 そして、その全員が今、この入り口付近に集まっている。

 セスティーナの置き土産のおかげで、重傷者も命だけは繋ぎ留めることができた。
 だが、状況は、まだ何も好転していない。
 閉じ込められた生存者は、9名。
 そして、このダンジョンの奥には、A級クラスの魔物が、無数にうろついている。
 それは、あまりにも、絶望的な状況だった。
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