ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

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第69話 赤面の聖騎士

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「ち、違うんだ、悪意はないから力を緩めてくれないか?」
「黙れ! 隠密術を使い、能力を盗み見ようとした貴様を信用できると思うか!」

 セスティーナは、現れた男の背中に膝を乗せ、さらに腕をねじ上げようと力を込めた。男の口から苦悶の声が漏れる。抵抗を一切せず、されるに任せていた。

「待てセスティーナさん! そいつは敵じゃねえ!」

 ディノッゾは焦った。言葉で説明している暇はない。
 ディノッゾは組み伏せられている男を助けるため、背後からセスティーナに飛びかかり、その体を強引に引き剥がそうとした。

「離してやってくれ!」

 ディノッゾは、彼女の脇の下から腕を通し、全力で後ろへ引っ張った。
 だが、必死すぎた。そして、体勢が悪すぎた。
 引き剥がす勢いで、ディノッゾの太い腕が彼女の胸元へと滑り込み――ガシッ、と。
 豊かな膨らみを、鷲掴みにしてしまったのだ。

「……ひゃぅっ!?」

 セスティーナの喉から、可愛らしい悲鳴が漏れる。
 ディノッゾの手には、服の上からのダイレクトな感触。柔らかく、しかし確かな弾力が伝わってくる。
(な、なんだこの素晴らしい感触は……!)

 一瞬、理性が飛びそうになる。
 だが、セスティーナの方はそれどころではなかった。頭が沸騰し、聖騎士としての技量など吹き飛び、ただのパニックに陥った乙女として、反射的に腕を振り払う。
 パンッ!
 乾いた音が宿の部屋に響き、ディノッゾはたたらを踏んで後退った。そして組み伏せられていた男は急いで壁際に退き、痛む手足を解す。

「あ……」

 我に返ったセスティーナは、自分が叩いた相手を見て、顔面蒼白になった。
 ディノッゾだ。自分が好意を寄せ、尊敬する規格外の英雄を、叩いてしまった。

「も、申し訳ございません! わたくし、反射的に……!」
「いや、俺の方こそすまない! 見方である彼を助けようと必死で、その、変なところを触っちまった!」
 ディノッゾは頬の痛みなど気にせず、深々と頭を下げた。その態度は、英雄のそれではなく、ただひたすらに女性に嫌われることを恐れる、一人の男の姿だった。

「わ、わざとじゃないんだ。信じてくれ。だが、女性に対して失礼なことをした。本当にすまない! 愛想を尽かさないでくれ!」

 その必死すぎる真摯な姿に、セスティーナの狼狽は、別の感情へと変わっていく。
(この方は、本当に誠実な方……。私の体を気遣い、心から謝ってくれている)
 彼女の顔が、今度は羞恥と恋心で真っ赤に染まる。床壁際に移動した闖入者のことなど、完全に頭から消し飛んでいた。

「わ、分かっております。わざとではないことくらい……」

 セスティーナは、もじもじと指を組んだ。

「ですが、その……皆の前でやはり恥ずかしかったですから……お詫びを要求します!」

 彼女は、上目遣いでディノッゾを見た。
 そしてディノッゾは要求されるお詫びが何ののか、冷や汗が出た。

「明日お詫びに、その、2人きりでお昼を奢ってください。それなら、水に流します」
「へ? 飯か? おう、そんなことでいいなら、いくらでも!」
「はい……約束ですよ?」

 セスティーナは、花が咲いたように微笑んだ。それは、聖騎士ではなく、ただの恋する女性の顔だった。
 その時、部屋の隅から、忍び笑いと、すすり泣く声が聞こえた。

「……御者さん。あんた、相変わらずだな」

 見れば、拘束を解かれたポータが、体を起こしていた。
 その胸には、リリアがしがみつき、わんわんと泣いている。ポータは、その小さな頭を、愛おしそうに撫でていた。

「よしよし、リリア嬢ちゃん。怖かったな。もう大丈夫だ」

 そして、ポータはディノッゾに視線を向けた。その目は、真剣そのものだった。

「御者、いやディノッゾさん。……俺の弟と妹、アレンとレイラのこと、何か知りませんか?」

 その言葉に、ピンク色に染まっていたセスティーナの思考が、一気に現実に引き戻された。

「はっ……!」

 そうだ、仕事中だった。しかも、不審者を取り押さえていたはずだ。
 彼女は慌てて表情を引き締め、咳払いを一つした。

「そ、そうです! ディノッゾ殿! デートの約束はともかく、まずは説明を! この者が味方とは、一体どういうことなのですか!?」

 彼女の指差す先には、死んだはずの男が、困ったように笑っていた。
 ディノッゾは、もう言葉で説明するのはまどろっこしいと判断した。彼は、部屋の入り口で固まっている子供たちに、大声で指示を飛ばした。

「誰か! 頼む! 隣の部屋にいるレイラとアレン姉弟を、今すぐここに連れてきてくれ!」

 ディノッゾの叫びが、部屋中に響き渡ると同時に、誰かが部屋を飛び出した。

「あいつら……この男の、本当の弟と妹なんだ! 早く、会わせてやってくれ!」

 そしてセスティーナに向き合う。

「前に話した俺の命を救ってくれた恩人だ。俺の命を賭けてもよいから、見方だと信じてくれ!」  

 その言葉にセスティーナは頷くしかなかった。
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