ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

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第70話 病み上がりの再会と影の真実

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 リオとカミラ、そしてティナがパタパタと部屋を飛び出していく。それから間もなくして、廊下の方からバタバタという慌ただしい足音がし、それと共に困惑したような声が聞こえてきた。

「ちょ、ちょっとティナちゃん! 引っ張らないでよ!」
「そうだよ、俺たちはもう元気になったから、自分で歩けるって……!」

 バンッ! と扉が開く。
 そこに立っていたのは、ティナに小さな手でグイグイと腕を引っ張られ、部屋に入ってきたアレンとレイラだった。小柄ながらも中々パワフルで、連れてこられた二人は苦笑混じりだった。
 その後ろにあきれ顔のリオとカミラ。
 二人の顔色は以前のような土気色ではない。
 ディノッゾに保護されてから数日。温かい食事と清潔なベッド、そして何より安心感のおかげで、二人は順調に回復していた。
 元々体力のある二人、怪我をしていたわけでもないので、すっかり元気になっていた。
 身なりも整えられ、清潔な寝巻きを着ている。ただ、「まだ安静にしていろ」という言いつけで、無理やりベッドに縛り付けられていたため、暇を持て余してうとうとしていたところだった。
 レイラは、急に起こされて走らされたせいか、薄手の寝巻きの襟元が着崩れ、片方の肩が露わになり、裾も少しめくれ上がっている。
 だが、本人は健康を取り戻しつつある安心感からか、それほど気にしていない様子で、大きなあくびを噛み殺している。
「で、なんなんですかディノッゾさん……。緊急事態って……また俺たち、隠れてなきゃいけないんですか?」
 文句を言いかけたアレンの言葉が、喉の奥で止まった。
 レイラも、眠たげな目をこすりながら、動きを止めた。
 二人の視線が、壁際でリリアの頭を撫でている、薄汚れた外套の男に釘付けになる。
 無精髭。やつれた頬。だが、その理知的な瞳と、妹を見る優しい眼差しは、決して見間違えるはずのないものだった。
「……あ、兄さん……?」
「うそ……ゆめ……?」
 レイラの目が、みるみるうちに見開かれていく。
 アレンは、寝ぼけているのかと、何度も目をぱちぱちとさせた。
 ポータは、苦笑しながら、ゆっくりと立ち上がり、両手を広げた。
「……遅くなってすまない。アレン、レイラ。……元気そうだな」
「兄さんッ!!」
「うわあああああん!!」
 二人は、弾かれたようにポータの胸に飛び込んだ。
 レイラは、着崩れた寝巻きがさらに乱れるのも構わず、兄の首に抱きつき、子供のように泣きじゃくる。
「生きてた……! 死んだと思ってたのに……!」
「ぐすっ……兄貴ぃ……! よかったぁ……!」
 ポータは、泣きじゃくる二人の背中を優しく叩きながら、ふと、困ったように眉を下げた。
 彼は、そっと手を動かすと、はだけたレイラの胸元を合わせ、ずり落ちた肩を直し、乱れた寝巻きを丁寧に整えてやった。
「……こら。レディが、そんな格好で人前に出るんじゃない」
「うぐぅ……だってぇ……! 夢じゃないよねぇ……!」
「ほら、着崩れてるぞ」
 ポータは、手早く妹の襟元を直すと、部屋の入り口にいる「セブンスターズ」の少年たち――リオやゴードン、ボルツの方へ顎をしゃくって、意地悪く囁いた。
「それに、ほら。あの子達が目のやり場に困って……いや、『期待』してるぞ?」
 レイラがハッとして振り返ると、少年たちが慌ててパッと天井や壁に視線を逸らすのが見えた。中には、顔を赤くしてチラチラ見ている者もいる。
「っ!? ~~~~ッ!!」
 自分の無防備な姿が、年下の男の子たちにバッチリ見られていたことに気づき、レイラは真っ赤になって悲鳴にならない声を上げた。
 彼女は慌てて胸元を隠し、兄の背中に隠れるように縮こまった。
「兄さんのばかぁ……!」
 その、あまりにも平和で、そして賑やかな再会の一幕。
 部屋中が、温かい空気に包まれた。
 ディノッゾは、涙を拭いながら兄妹の再会を見守り、そして二人が落ち着いた頃合いを見て、改めてポータに向き直った。
「さて……感動の再会のところ悪いが、ポータ。聞きたいことは山ほどあるぞ」
 ディノッゾは、誰もが抱いていた疑問を口にした。
「生きてたなら、なんで今まで出てこなかったんだ? 俺たちは、ずっとお前が死んだものだと……」
 ポータは、バツが悪そうに肩をすくめた。
「事情がありましてね。あの日、俺は御者さんをなんとか放り投げたあと……ドラゴンに殺されましてね」
「おい、殺されたって? 確かに首が折れてたぞ。俺は見たんだ」
 ディノッゾの言葉に、ポータはあっけらかんと頷いた。
「ええ。確かに首の骨を折られて即死でした。気がついたら、崖が崩れたのか、瓦礫とアイテムボックスから散らばったアイテムの中に埋もれていました」
「……はぁ? 意味が分からねえぞ。死んで埋まってたなら、なんで生きてるんだ?」
「ああ、それは僕の持つ加護の力です」
 ポータは、さもなんでもないことのように、とんでもないことを口にした。
「【蘇生】の加護ですよ。首が千切れたり、体がミンチになったりしたらどうにもならないですが……五体満足なら、時間が経てば生き返るんです。回数制限や、クールタイムなんかはありますがね」
 全員が絶句した。
 死んだふりではなく、本当に死んで、生き返っていたのだ。
「で、瓦礫から這い出して、そこからしばらく川沿いを歩きましてね。そうしたら、激しく戦った跡を見つけました。そしてそこから、森の中へ入っていく足跡を見つけた」
「それが、俺たちの足跡だったってわけか」
「ええ。誰かは分かりませんでしたが、人が生きて通った痕跡だ。俺はそれに賭けて、必死で跡を追って森を抜け、この街までたどり着いたんです」
「だが、街の入り口には衛兵がいただろ? 俺たちは不審者として捕まったぞ?」
 アレンの疑問に、ポータはニヤリと笑って、着ているボロボロの外套を指差した。
「こいつのおかげですよ。これは、ヴァルハラ・ブレイドの奴らから『預かって』いた、認識阻害の魔法がかかったコートです。こいつを被って、こっそりと検問をすり抜けたんです」
 なんとも彼らしい、抜け目のなさだ。
「街に入ってすぐ、たまたま御者さんを見かけたんです。貴方が、見覚えのある槍を持っているのを見て、確信しました」
「槍?」
 ディノッゾは、背負っていた黒い槍を見た。
「ええ。それは、ヴァルハラ・ブレイドから俺が預かっていた、予備武器の一つだ。それを持っているということは、貴方はあの戦場跡を通ったということ。ならば、弟や妹の情報も持っているかもしれないと」
 ポータは、窓の外、ダンジョンの方向を指差した。
「それで、慌てて追いかけたんですが、貴方たち、すぐにダンジョンに入ってしまったでしょう? だから俺も、そのまま追いかけてダンジョンに飛び込んだんです。そうしたら、直後にあの異常事態だ」
 彼は、やれやれと首を振った。
「魔物は溢れかえるわ、入り口は塞がれるわで、てんやわんやです。あんな状況じゃ、感動の再会なんてやってる場合じゃない。俺が飛び出しても足手まといになるだけだと思って、影からこっそり助太刀することに徹したんですよ」
 そして、彼の視線は、テーブルの上に並べられた、七色に輝く「加護玉」に注がれた。
 その目には、ただの兄ではなく、冒険者としての鋭い探究心が宿っていた。
「ま、そうこうしているうちに、ボスまで倒しちまうんだから驚きましたよ。御者さんは俺たちより強かっただなんて、すっかり騙されましたよ。その辺りはまた教えてくださいよ。それに……その聞いたことのない能力玉のことにも、興味があった。こいつがあれば、今後のヴァルハラ・ブレイドへの復讐にも使えるんじゃないかと思ってね」
 ポータは、ニヤリと笑った。
「まさか、忍び込んだ瞬間に、聖騎士様にマウントポジションを取られるとは思いませんでしたが」
 死の森から生還した「十人目」の男。
 彼の帰還により、クラン「ラストアタック」は、真の意味で、全ての役者が揃うことになったのだった。
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