ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

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第74話 ギルドの悲鳴と却下された『花道』

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 休憩所での「団長就任」騒動を終え、一行は再び馬車に乗り込み、王都への道を急いでいた。
 先ほどまでの重苦しい空気は消え、車内には和やかな空気が流れている。
 だが、新米「団長」であるディノッゾには、一つだけ気がかりなことがあった。
 現実的な問題。金だ。
「……なぁ、セス。俺が団長になったのはいいが、正直なところ懐が寒くてな」
 ディノッゾは、バツが悪そうに頭をかいた。
 セオドニックを出る際、生活費はほとんど使い切ってしまった。
「ここまでの旅費もアンタに立て替えてもらってる状態だ。いつまでも『ヒモ』みてえな真似はしたくねえんだが……」
 すると、セスティーナは優雅に微笑み、きっぱりと言った。
「ご心配には及びません。王都までの旅費や食費は、すべて私が持ちます。これは聖騎士としての必要経費で落ちますから」
「け、経費か。……ならいいんだが」
 さすが公務員、とディノッゾは妙な感心をした。
 だが、セスティーナは言葉を続けた。
「それにディノッゾ殿。貴方様は、ご自身が無一文だと思っておいでですか?」
「あん? 違うのか?」
「リリア様のアイテムボックスに入っていた、サイクロプスの素材やダンジョンの魔石。あれをどうしたと思われますか?」
「え?」
 ディノッゾは隣で眠るリリアを見た。そういえば、出発の朝、アイテムボックスの中身が空になっていたような気がする。
「まさか……」
「はい。昨晩、貴方様が『紅い珠』の能力を得て気絶されている間に、リリア様と一緒にギルドへ持ち込んだのですが……」
 セスティーナは、当時の様子を思い出して苦笑いを浮かべた。
「ギルドマスターが、泣いて謝ってきました」
「は?」
「『とんでもない! こんな国宝級の素材、ウチの金庫を逆さに振っても払えません!』と。支払い能力を完全に超えていたようです」
「……マジか」
 ディノッゾは呆れた。S級ドラゴンの素材ともなれば、辺境の支部では予算オーバーもいいところだろう。
 自分がドラゴンの力に耐え、気絶している裏で、娘と聖騎士がそんな大仕事を済ませていたとは。
「ですので、ギルドから『査定証明書』だけ発行してもらい、現物は王立騎士団のルートで王都へ送りました。報酬金は、王都のギルド本部にて全額用意して待つ、とのことです」
「なるほどな……。で、いくらぐらいになりそうなんだ?」
 ディノッゾが何気なく尋ねると、セスティーナは少し考え込み、さらりと爆弾を投下した。
「そうですね……。サイクロプス三体と、ダンジョン最奥のレッサードラゴンからのドロップ素材。諸々合わせれば、おそらく白金貨10枚は下らないかと」
「…………は?」
 時が止まった。
 白金貨1枚は金貨10,000枚。
 それは、遊んで暮らしても孫の代まで使い切れないほどの、あまりにも莫大な金額だ。
「は、はくきん……い、いち……?」
 ディノッゾの声が裏返る。
「ですから団長殿、貴方様は無一文どころか、今や国有数の資産家なのですよ?」
 セスティーナは悪戯っぽく微笑んだ。
 ディノッゾは、あまりの衝撃に言葉を失い、天を仰いだ。
(俺は……ただ、のんびり自堕落に暮らしたかっただけなんだが……)
 これでは逆に、金持ちとしての「責任」や「管理」で忙殺されてしまうではないか。
 そんなディノッゾの様子を見て、後ろの席に座っていたポータが身を乗り出し、ニヤリと笑った。
「へぇ、白金貨ですか。なら、王都に着いたらすぐに『クラン』の設立申請もしないといけませんね」
「クラン?」
「ええ。これだけの大金と、大人数を抱えるんです。ただの『仲良しグループ』じゃ税金やら管理やらで面倒なことになりますよ」
 ポータは指を折りながら説明し始めた。
「いいですか? 構成員を見てください。
 まず一つ目、カミラたち『セブンスターズ』の七人。
 二つ目、俺とアレンとレイラの『俺たち三兄弟』。
 そして三つ目が……『御者さんとリリアちゃん、そして聖騎士様』の三人」
「……あ?」
 さらりと自分とセスティーナがセットにされたことに、ディノッゾが反応する。
 だが、隣のセスティーナは「まあ、私たち三人で一つのパーティー……」と、頬を染めて嬉しそうだ。
「これで三つのパーティー、構成員は合計13名になります。クラン設立の条件は完璧に満たしていますよ」
「……なるほどな。逃げ道なしかよ」
 ディノッゾは観念したように息を吐いた。
「分かったよ。……で、名前はどうするんだ?」
「それなら、考えておきました」
 ポータは楽しそうに言った。
「まず、組織全体を指すクラン名は……『ラストアタック』でどうでしょう? 我々の出会いのきっかけであり、美味しいところを全て持っていく最強の集団、という意味を込めて」
「ほう、悪くないな」
「そして、御者さんと聖騎士様、リリアちゃんの主力パーティー名は……『ドラゴン・イーター(竜を喰らう者)』です。文字通り、ドラゴンを倒し、その力を喰らった貴方達にふさわしい」
 ポータの提案に、セスティーナがパァッと顔を輝かせた。
「素晴らしいですわ! 『ラストアタック』に『ドラゴン・イーター』……どちらも勇猛で、私たちの旅立ちに相応しいお名前です!」
 二人が盛り上がる中、ディノッゾは一人、少し不満げに口を尖らせた。
「……えー。俺は、俺が考えた『御者の花道』ってのが良かったんだがなぁ……」
 その瞬間、馬車の中の空気がピタリと止まった。
 セスティーナが、真顔でゆっくりとディノッゾの方を向く。
 その瞳から、先ほどまでの熱っぽさが消え失せ、底知れぬ冷たさが宿っていた。
「…………ディノッゾ殿」
「ん、ん?」
「そのお名前、まさか本気ですか?」
「えっ……いや、だって俺、御者だし。花道ってなんかカッコよくね?」
 ディノッゾが弁解しようとすると、それまで眠っていたはずのリリアが、むくりと起き上がった。
 そして、まだ眠たげな目をこすりながら、ビシッとディノッゾを指差した。
「ディノ! 名前つけるの禁止!」
「えぇ……リリアまで……」
 実の娘のような少女からの辛辣なダメ出しに、ディノッゾは撃沈した。
「……分かったよ。『ラストアタック』と『ドラゴン・イーター』でいいよ……」
 こうして、ディノッゾの壊滅的なネーミングセンスは封印され、一行の組織名は無事にカッコいいものに決定した。
 手元には(まだないが)莫大な資産。
 傘下には二つの有望なパーティー。
 そして、傍らには愛する娘と、有能すぎる聖騎士。
 ディノッゾは、窓の外の流れる景色を見つめながら、これから始まる王都での波乱の日々を思い、重いため息をついた。
 だが、その横顔は、以前よりも少しだけ頼もしく見えた。
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