忘却の艦隊

第44話 閑話、傷付いた男を癒すのは

　ダレンは自室に戻りベッドに横たわった。
　いや、正確には医師に見てもらった後、宙兵隊に担ぎ込まれたのだ。
　その寝顔はザリガンとの模擬戦で腫れていたが、満足そうな笑みを浮かべていた。
　ふと目が覚め今日の出来事を思い返し、心から楽しんだことを感じ、痛みは寧ろ心地よいくらいだ。
　そして仲間たちに感謝した。
　仕事に誇りを持った、人生に幸せを見出そうとする仲間にだ。

　ミズリアはダレンの居室にやってきていた。
　彼女はダレンの副官であり、参謀役だが、友人であり理解者でもあった。
　そしてダレンの恋人の１人だ。
　ダレンには他にもミカやノリコという恋人がいたが、ミズリアはダレンとの関係を深め、結婚を視野に入れていた。

　彼女はダレンの顔を見て心配と呆れを混ぜた表情をし、ダレンのベッドに腰かけてつぶやいた。

「ダレン、男って馬鹿よね。こんなに顔を腫らして何が楽しいのかしら？お馬鹿さんね」

　ダレンはミズリアの声に目を開けた。
　目が合うと優しく笑ってミズリアの手を握った。

「ミズリア・・・ありがとう。君が心配してくれるのは嬉しいよ。でも、俺は本当に楽しかったんだ。ザリガンと戦えて、兵士たちと交流できて・・・君と話せて。僕は今、幸せだよ。漢ってな、拳で語らえば言葉をかわす必要なんてないのか。ザリガンのことはよくわかったよ」

　ミズリアはダレンの言葉に感動し強く握り返した。

「ダレン、私もあなたが笑ってくれるのは嬉しいわ。でも、あなたはもっとちゃんと体を休めてね。それに今、疲れているの。だから拳で語らうなんて馬鹿な事を言うのよ。私ももっと構ってほしいのに」

　ダレンにとって後半の言葉は意味不明であるが、ミズリアはダレンの頭を自分の膝に乗せて優しく撫でた。
　冷たいタオルをダレンの頬に当て、冷やしながらダレンの顔を見つめた。

「ダレン、あなたは素晴らしい人よ。あなたは強いわ。なのに優しくて、正義感があり人望がある。あなたは私の尊敬する人であり恩人でもあるの。なにより私が初めて好きになった人なのよ」

　ダレンはミズリアの言葉に感謝し、顔が赤くなっていた。別に初なわけでもないが、女性から優しくアプローチされるのに慣れていなかった。しかし、ミズリアの目を見て言った。

「ミズリア、君は俺なんかと違い素晴らしい人だよ。君は賢くて、有能だし思いやりがある。君は君が思っている以上に俺にとっては頼りになる存在なんだ。それに心から愛する人だよ。でもさ、本当に俺なんかでよいのか？」

　ダレンとミズリアは互いに笑顔を見せたが、その目には尊敬と愛情を感じ、心を通わせた。

　ダレンはミズリアの膝枕に安らぎを感じ、感謝を込めてミズリアの手を握った。
　彼女に癒されていく。
　ミズリアの声を聞き愛情を感じ、その目を見た。

　しかし、その優しい瞳に吸い寄せられるようにダレンは心地よさそうに眠りへと落ちていった。
　ダレンはミズリアの腕とその胸に抱かれ、幸せで温かな穏やかな時間を過ごした。
　ミズリアはそっとダレンの唇に自らの唇を重ねると、「お馬鹿さん」と言って頬を冷やし続けるのだった。