【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

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本編

6:公爵家の使用人と前妻(1)

 
 公爵家に嫁いできたその日、荷解きを済ませたシャロンが夕食を取るために食堂へ向かうと、メイドの一人が食堂を色とりどりの花で飾りつけていた。

「わあ」

 まるで誰かの誕生日を祝うかのような賑やかな食堂にシャロンは思わず感嘆の息を洩らす。
 メイドがその声に振り返ると、シャロンは言葉が口から出ていた事に気づき、ハッと口元を隠した。
 彼女の顔は相変わらず『無』であるため、メイドがどう解釈するか予測できない。
 シャロンは初日から曲解されてはたまらないと、ギュッと目を瞑った。


「喜んでいただけて良かったです!ご結婚のお祝いにと思いまして!」

 まだあどけなさが残るおさげ髪が特徴的なメイドのシノアは、人懐こい笑みを浮かべてシャロンに駆け寄った。

「今は私一人ですけど、みんなで飾りつけたんですよ?庭師のデニスさんにお花もらったんです」
「そ、そう。わざわざありがとう」
「お料理はシェフが最高級の食材を使って、今腕によりをかけて作ってますから、もう少しお待ちくださいね?」
「それは楽しみだわ。ところで、もしかしてまだ早かったかしら…。その、時間…」

 ぴょんぴょんとうさぎのように飛び跳ねて、喋り倒すシノアに圧倒されながらも、暗に席に案内してくれと伝える。

「あ!すみません、席にご案内もせずに。ささ、どうぞ」

 シノアは一人で興奮しつつも、シャロンを席に案内し椅子を引いた。

 その後も忙しなく花の説明をしたり、屋敷の説明をする彼女の姿が愛らしくて、シャロンは自然と笑みをこぼした。

「お名前を聞いても良いかしら」
「シ、シノアと申します…」
「シノアね、素敵なお名前だわ。これからよろしくお願いしますね。シノア」

 シャロンはそう言うと、花が綻ぶような笑みを見せた。その笑顔にシノアは顔を真っ赤に染め上げて、厨房にシャロンが食堂に来たことを伝えに行くと走り去ってしまった。

「忙しない子だわ…。大丈夫かしら」
「何か心配事でも?」

 ちょうどシノアと入れ違いで、アルフレッドと執事のセバスチャンが食堂へとやってきた。

「いえ、独り言です」
「そう?何があれば言ってね」
「はい。お気遣いありがとうございます」

 セバスチャンはアルフレッドに椅子を引くと、シェフに食事を運ぶように伝えに行くと言い残し、食堂を出た。

(あ、さっきシノアが伝えに行ったことを言えばよかった)

 アルフレッドと二人きりは何だか気まずい。
 シャロンは様子を伺うようにチラッと彼の方を見る。

「素敵な飾り付けだね」
「結婚のお祝いにと飾り付けてくれたようです」
「そうか…。使用人たちは余程君がここに来たことが嬉しいらしい」

 そう言うアルフレッドの表情は少し悲しそうに見えた。

(後妻が歓迎されているなんて、公爵様には腹立たしいわよね)

 このお屋敷に来てから感じる空気がとても暖かなものだったため、もしかしたら歓迎されているのではないかと思っていたが、どうやら勘違いではないらしい。

「使用人たちは心配していたんだ。私がエミリアのことをずっと想い続けているから…。いつになったら主人は前を向くのかと苛立たせた事もあっただろう」
「そう…ですか…」
「だから、君との結婚が決まった時はみんなとても喜んだんだ。急な結婚にも関わらず、新しい妻のために皆いつも以上に屋敷を磨き上げ、こうして晩餐の支度もしてくれた」

(なるほど)

 予想外にも後妻が受け入れられたのは、主人が前を向いて歩き出したと彼らが捉えたからだったらしい。
 シャロンは腑に落ちた。

 そこまで話して急に黙り込むアルフレッド。
 やはり早くも使用人達に受け入れられて前妻エミリアの地位を奪っているシャロンが気に食わないのか、顔を伏せてしまった。

(…これは何か言葉を求められている気がする。どうしよう)

 妙な緊張感が漂う食堂の空気を何とかせねばと頭をフル回転させたシャロンは、適当にそれっぽく聞こえる言葉を並べた。

「公爵様は皆に愛されているのですね」
「そうかな?」
「だって【ウィンターソン公爵】の今後を思うから、皆心配してくれていたのでしょう?」
「そう、だろうか…」
「そうですよ。それに使用人の皆は私を受け入れようと努力してくれているだけで、まだ私を女主人と認めてくれたわけではないと思います。だって、私が来るとわかっているのにエミリア様のお部屋はそのままでした。言い方は悪いかも知れませんが、普通はそのまま残したりしません。つまり、それって皆もまだエミリア様を思っているということではないでしょうか?」

 淡々と話すシャロンに、アルフレッドは顔を上げて嬉しそうに目をキラキラと輝かせていた。

「そうだよな。皆もまだエミリアを思ってくれているよな」
「そうですよ」
「この屋敷の皆だけは、彼女の死を悲しんでくれていたし、この屋敷の皆だけは私の気持ちを理解してくれているはずだよな」
「当たり前ですわ」

 エミリアとの結婚は周囲の大反対を押しきって強行されたものだから、彼の周りでエミリアの死を共に悲しんでくれるような人間はこの屋敷の使用人達しかいなかったらしい。
 シャロンは本音を言うと少しばかり「嫁いできたばかりの後妻相手に失礼なやつだ」なんて思っているが、彼女は不快感も顔には出ないのでアルフレッドには、彼女が心からそう言っているのだと捉えたことだろう。



 食事を運んできた使用人達が廊下で

『そもそもシャロン様は別のお部屋にご案内するものだと思ってたから、あのお部屋はそのままにしておいただけなのに…』
『シャロン様の荷物をあの部屋に運ぶよう言われた時は本当に焦ったわ』
『どうしよう。シャロン様には変な誤解をさせてしまったかしら。後で謝っておかなくちゃ』
『そんな事より、シャロン様の懐深すぎない?』

 などと会話していた事など、二人は知らない。


 
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