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本編
3:シャロンの結婚(1)
アルフレッド・カーティスこと、ウィンターソン公爵の元に嫁ぐ事を命じられてから3ヶ月。
結局、シャロンが彼とはじめて顔を合わせるのは結婚式の当日の今日。身支度が終わった後だ。
暖かな日差しが差し込む教会の控室で、真っ白なウエディングドレスに身を包んだシャロンは鏡の前でメイドに髪を結われていた。
「シャロン…」
「大丈夫ですわ。お母様」
「ごめんなさい。何もできなくて」
「仕方ありませんわ。陛下のご命令ですもの」
王命ならば仕方がない。シャロンは母の手を取り、言い聞かせるようにそう告げた。
おそらく今、母親にはシャロンが落ち込んでいるように見えているのだろう。
愛想笑いもできない不器用な娘でも、叶うなら愛し愛される幸せな結婚をして欲しかった母は静かに涙を流した。
(結婚式、簡素なものでよかったー)
そんな母の気も知らず、シャロンはこの窮屈なドレスをすぐに脱げることを喜んでいた。
こんな時、表情筋が死んでいると感情を悟られなくて良いから楽だ。
「シャロン、これにサインを」
「かしこまりました」
シャロンはふぅと小さく息を吐くと、父であるジルフォード侯爵から一枚の紙を手に取るとそれにサラサラとペンを滑らせる。
その姿に侯爵は悲痛な顔をした。
彼女に渡された紙は、アルフレッドが事前に寄越した誓約書。
持参金などは不要だがその代わりに以下のことを受け入れろと誓約書を事前に送ってきたのだ。
内容は、『公爵がエミリア以外を愛することなどないという事実を受け入れること』『公爵の服装に口出ししないこと』そして、『結婚式は婚姻誓約書にサインするのみの簡素なものとすること』。
(徹底してるわね)
こんなものを用意するほどにこの先の人生もずっと亡き妻を思って生きていく覚悟をしているアルフレッドに、シャロンは思わず感心してしまう。
「はい。お父様」
「ああ、ありがとう」
サインし終え、父に誓約書を返す。
その誓約書を横から覗き見ていた二人の兄はかなり憤っているが、シャロンにはどうでも良かった。
「お兄様、よく考えてください。ウィンターソン公爵にとっての私は、亡き奥方の仇のくせに公爵夫人の座に座ろうとする厚顔無恥な女です。このくらいの条件は突きつけておかないと、もし私がその身分に胡座をかいてつけ上がったら大変でしょ?公爵は正しいわ」
「…シャロン」
「聞き分けが良すぎるぞ、お前は」
二人の兄は、自分の立場を理解して素直に彼の出す条件を受け入れる妹に涙を流した。
実際には聞き分けが良いのではなく抗うのが面倒なだけなのだが、どうもこの家族は長く一緒にいるのにまだシャロンのことを誤解しているようだ。
しばらくして、シャロンの控室をアルフレッドが訪れた。
扉を開けるとその先にいたのは、赤茶けた癖のある髪の美丈夫。少し目尻に年齢を感じさせるシワはあるものの、とても38には見えない。
彼の儚げな雰囲気に真っ黒な喪服がとてもよく似合う。
正直に言うと、これから教会で結婚の儀式を行うのに喪服なのはどうかと思うし、シャロンの父であるジルフォード侯爵も怪訝な顔をしている。
だが、彼女的にはむしろ純白のタキシードは彼に不似合いなのではとすら思っていた。
(中々のイケメン…。エロ親父より全然マシだわ)
元々さほど悲観してはいなかったが、彼女はエロ親父の後妻に入るよりは冷遇されてもこの美丈夫の妻となる方が良いとこの結婚を前向きに捉えた。
侯爵は誓約書を喪服の彼に渡すと娘を紹介した。
「公爵様。こちらが娘のシャロンです」
「シャロン・ジルフォードです。よろしくお願い致します」
「アルフレッド・カーティスです。こちらこそよろしく」
互いに短い挨拶をし、握手を交わす。
アルフレッドは優しく微笑んではいるものの、その瞳にはシャロンへの嫌悪感が垣間見えた。
(ろくに会話もしていないのに嫌われたものだわ)
結局、二人が軽く挨拶を済ませると一同はそのまま教会へと移動した。
そう。そのまま。
新郎は喪服に身を包んだまま…。
こうしてシャロンの人生で初めての結婚式は、喪服の旦那と共に神父の前で婚姻誓約書にサインするだけの超簡易的なもので終わった。
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