【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

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本編

8:シャロンの初夜(1)

 
 初夜。それは夫婦が本当に夫婦になるための大事な夜。
 シャロンは風呂場でメイドたちに丁寧に磨き上げられた。そしてやけに張り切っていたメイドのリサが、興奮した様子で押し付けてきた布の少ない夜着を身につけて鏡の前に立つ。

「…布が少なくないかしら」
「大丈夫です奥様!奥様のそれは大きさだけでなく、形は整っていて触り心地はふわふわで柔らかくまさに至宝!旦那様も陥落すること間違いなしですわ!」

 興奮した様子のリサに気圧されるシャロン。
 だが、他のメイド達も目を輝かせて大きく頷いている。

(旦那様をその気にさせろということだろうけど…)

 鏡に映る自分の姿はもはや娼婦。
 公爵夫人としては、はしたないような気もする。
 リサは大丈夫だろうかと不安そうにするシャロンの髪をサイドにまとめて編み込むと、ふわふわのガウンを肩にかけた。

「奥様、旦那様をよろしくお願いしますね」

 そう言って、困ったように微笑むリサに渋々頷くと、シャロンはアルフレッドの寝室へ連行された。

(さすがは烏公爵…)

 部屋に入ると、目の前でベッドに腰掛けるアルフレッドの夜着は真っ黒だった。
 正直、『喪に服す』ってこういうことなのかとシャロンは疑問に思う。
 ここまでいくと最早、ただ単に黒色を好む人みたいだ。

「旦那様、奥様をお連れしました」
「ああ、ありがとう…」
 
 彼は一瞬だけシャロンの方を見たが、明らかにブンと顔を顔を逸らした。その反応に、やはりはしたなかったのだと不安になるシャロン。
 メイド達は「ごゆっくり」と言い残して去って行ってしまったが、ごゆっくりできる状況ではない。


「大丈夫か?その格好」

 申し訳なさそうにアルフレッドが聞いてくるが、大丈夫かとはどういう意味だろうか。
 彼女からすれば、お前の方が大丈夫かと言いたくなる格好だ。月明かりだけが頼りの薄暗い部屋で、黒の夜着を身に纏うアルフレッドはその輪郭がぼやけて、いるのかいないのかわからない。

「…大丈夫とは?」
「寒くないか?その、かなり薄着だろう?」
「ああ、大丈夫です。このガウン温かいので」
「そ、そうか…」

 気まずい空気が流れる。
 アルフレッドの顔はほのかに赤らんでいた。

(おや?)

 どうやらエミリア一筋の彼も一応男らしい。シャロンのたわわな果実は無視できないようだ。メイド達の作戦は成功と言えるかもしれない。

 しかし…。

(何だその反応…)

 シャロンは少し呆れていた。
 アルフレッドがベッドに誘うでもなく、ただただモジモジと手元をいじり、チラチラとシャロンを見ては顔を赤らめて視線を床に逸らすという行動を繰り返しているからだ。
 シャロンにとっては初めての夜だが彼にとってはそうではないだろうに、反応がまるで付き合いで初めて娼館を訪れた少年のようだった。

「とりあえず、そちらに行っても良いですか?」
「え!?」
「え?」

 無駄に動揺して、アルフレッドは声が裏返る。

 黒の夜着で輪郭がぼやけているのに顔を赤くするものだから、シャロンからはベッドの傍に赤い顔だけが浮かんでいるように見える。それが少し怖いのでできれば近くに行きたいだけなのだが、中々許可してもらえず彼女はどうするべきか悩んだ。

「あのー。私、自分の部屋に戻りましょうか?」
「いや…それは」

 何とも歯切れの悪い返事である。
 確かに、寝室に放り込んで早々に新妻が部屋から出てきたとなればメイドも気まずいだろう。
 シャロンは小さくため息をついた。

「…どうしましょう?」
「…どうする、とは?」
「私は後継を産むために公爵様に嫁いだようなものですから、正直なところ子を産まないという選択肢はないんですよね…」

 行為をねだっているようで、なんだか申し訳なくなるシャロン。
 アルフレッドは、そういえば後継が必要だという理由で彼女と結婚したことを思い出し顔を顰めた。

「…でもやっぱり私とそういうことするの、嫌ですよね?」
「いや…それは、何というか」

 嫌かと聞かれたら嫌だし、エミリア以外の女を抱きたくはないが、かといってそれを目の前の彼女に伝えるのは失礼な気もする。アルフレッドはどう答えるのが正解なのかわからない。
 そんな彼の複雑な心境を察してか、シャロンは一つの解決策を提示した。

「一応、髪色と瞳の色が公爵様と同じ男性から子種をもらってくるのも一つの手段としてあるのですが」

 どうでしょうか、と顔色を伺うように首を傾げるシャロンに、アルフレッドは一瞬固まってしまった。
 
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