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本編
15:デートのお誘い(1)
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朝食という予定を終えた公爵夫人シャロンは自室で服の整理をしていた。
そろそろ肌寒い季節になってきたので衣替えをしているのだ。
人懐っこい新人メイドのシノアはその手伝いに来ている…はずなのだが、
「奥様!冬用を新調いたしました!」
と、何故かベッドの上に夜着を並べている。
どれも程よく肌が露出されるデザインで、最近朝晩冷えるのにお腹を下しそうだ。
「本日はどれにいたしましょう!?」
「あのね、シノア。その…まだ朝なのだけれど」
朝っぱらから夜の睦事の相談というのはいかがなものだろうか。シャロンは呆れたようにため息をついた。
「そもそも、シノアは服の整理を手伝いに来てくれたのではないの?」
「お手伝いはします!しかし、その前に今日の夜着を決めておきましょう!」
「何故…」
「今日から、旦那様は久しぶりの連休です!今夜は気合をいれませんと!」
「…そ、そう?」
「旦那様と寝室を共にされるのは3日ぶりのこと。そして明日もお仕事はお休み。きっと今夜、奥様は存分に旦那様に可愛がっていただく予定なのですよね!?ならば存分に可愛くしなくては!」
「それ、意味わかって言ってる?」
「よくわかりませんが、リサさんが言ってました!」
「そ、そう…。あまりリサの言う事を外で言ってはダメよ」
純粋なシノアがどんどん変な知識をつけている事に、シャロンは複雑な心境になる。
シャロンはまた深くため息をついた。
(しかし何にせよ、これはもう先に夜着を決めないと進まなさそう…)
ここに来て約3ヶ月、シャロンはこの様に興奮した様子のシノアにはこれ以上何を言っても無駄な事を学んでいた。
「どれも可愛いわね」
「そうでしょう、そうでしょう?奥様がなんでも良いとおっしゃるので、リサさんが気合を入れて選んだそうです!」
「まあ、そうなの。ちなみに貴女のおすすめは?」
「私のおすすめはこちらです!可愛いでしょう!?」
そう言ってシノアかおすすめするのはフリルとリボンが盛りだくさんの可愛らしくもいやらしい夜着。布地は少ないがもこもこ素材でいつもきているものよりは暖かそうだ。
「そうね、可愛いわね。ではシノアが持っているものにするわ」
シャロンは服を仕分けながら、興味なさそうにオススメの夜着を選んだ。
シノアは「もう」とため息をつく。
「…結局いつもお任せじゃないですかぁ」
「だって拘りなんてないもの、仕方がないじゃない」
「新婚ですよ?蜜月期ですよ!?」
「では一番暖かそうなそれで」
シャロンが指差したのはドット柄のもこもこの長袖に、もこもこのショートパンツのセット。
シノアは不服そうに頬を膨らませた。
「何でそんなに適当なんですかぁ!」
「あのね、シノア。何を着ても結局脱がされるのだから同じじゃない?」
本当は脱がされたことなど一度もないが、シャロンは息を吐く様に嘘をつく。
シノアはシャロンの発言に耳まで真っ赤に染め上げた。
(可愛い。妹がいたらこんな感じかなぁ)
これで15かと疑いたくなるほどに初々しいシノアがシャロンは可愛くて仕方がない。
顔を両手で隠して、何やらいかがわしい妄想をしてはモジモジと体を左右に揺する彼女を見て、シャロンは微かに微笑んだ。
(シノアの妄想通りの夜なんて来た事ないけど、まあ妄想するのは自由よね)
シノアだけでなく、この屋敷の使用人は皆、アルフレッドとシャロンが仲睦まじく過ごしていると思っている。
たしかに、多忙なはずのアルフレッドが出来る限り夕食と寝室をシャロンと共にしていたり、今までエミリアを忘れられずどこか寂しげにしていた彼がシャロンと楽しそうに話している姿を見てそう思うのも無理はない。使用人の中にはアルフレッドが喪服を脱ぐ日も近いのではと噂している者も出てきていると言う。
だが、シャロンはそんなことはあり得ないと断言できてしまう。
何故ならアルフレッドと話す内容は前妻エミリアの話をばかりだからだ。
一緒に庭園を散歩しているときも、お茶をしているときも、2人きりになれば基本的な話題はエミリアのこと。特に夜は人目がないので、永遠とエミリアとの思い出話をしている。
そしてシャロンは毎回、そんな彼の話に適当に相槌を打ちつつ、右から左へと聞き流しているうちに眠りにつくというのがお約束となっている。
(わかってた事だけど、何だかなぁ)
アルフレッドは話し上手で、話題はエミリアの事ばかりだが話自体は面白い。故に彼の話を聞くことは苦ではない。
けれど、どれだけ魅惑的な夜着を身に纏い寝室を訪れたとしても、彼の目には今もエミリアしか映っていない。
シャロンはそれを少し虚しいかもしれないと思い始めていた。
愛せないと初めに言われているし、自身もアルフレッドの事をどうこう思っているわけではない。でもたまに彼の口を縫い付けたくなってしまう。
(そもそもエミリア様の話を聞きたいと言ったのは私なのに…)
そんなふうに思ってしまうなんて自分もまだまだだなと、シャロンは自嘲じみた笑みを浮かべた。
すると、不意に扉が開く。
リサかと思って彼女が振り返ると、そこにいたのは相変わらず黒い旦那だった。
「シャロン、少し良いか……な?」
布の少ない夜着を体に当てられたシャロンを見て、アルフレッドは固まってしまった。
そんな彼の反応を見て、シャロンも固まる。
「ノックは、その、出来ればしてくださると、ありがたく思います…」
「そ、そうだな。ごめん…」
流石のシャロンもほぼ下着同然の布を体に当てられている場面を見られるのは恥ずかしい。顔面は表情がないが、耳から頸にかけては真っ赤に染まっていた。
部屋には微妙に気まずい空気が流れる。
その空気をぶち壊したのは、言わずもがなシノアだった。
「旦那様はどれが好みですか!?」
「え!?」
「ちょっと、シノア…」
肝が据わっているのか、それとも何も考えていないのか、シノアはあろうことかアルフレッドに意見を乞うた。
(やめて!さすがの公爵様も反応に困ってるから!)
この夜着は月明かり程度の明るさしかない夜の寝室だからこそ何とか見せれるものであり、こんな明るい所でマジマジと見られては今日からどんな顔をしてこの布切れに袖を通せば良いのか。シャロンは恥ずかしさのあまり顔を伏せた。
対するアルフレッドは、少し頬を染めながらも一着の夜着を指差す。
「これ、かな…」
(答えるんかいっ!)
シャロンは心の中で盛大に突っ込んだ。
恐る恐るアルフレッドの指が指し示す先にある布に視線をやると、そこにあったのは小花柄の上品なレースが腹部を覆いつつも、まさかのバストトップをリボンで隠す仕様のベビードール(紐パン付き)。
(マジか…)
アルフレッドはどこか女に慣れていない様なそんな雰囲気がするのに、彼が選んだのがモノがおそらくこの中では一番露出の多いものだったのでシャロンは思わず目を見開いた。
純情そうに装っていても大人の男だから、こういうのが好みなのか。いや、むしろ純情だからこそこのチョイスなのか。思春期男子がエロ本に興奮する的なアレなのか。
シャロンはアルフレッドが理解できずに頭を悩ませた。
「旦那様は、その、セクシー系がお好みなのですね…ははは…」
シノアから乾いた笑いが漏れる。
シャロンは後から知ったことだが、これはネタでリサが買ってきたもので、これをシャロンに着せるつもりは無かったらしい。
2人の微妙な反応を感じとったアルフレッドは『黒だから!黒いからシャロンの黒髪に似合うと思って!』と必死に弁明したが、2人からは『そうですねー、ははは』と乾いた返事しか返ってこなかった。
その後、あまりに微妙な空気になったので、サロンにお茶の用意をしておくようシノアに言いつけると、シャロンはささっと夜着を片付けてアルフレッドと共に部屋を出た。
そろそろ肌寒い季節になってきたので衣替えをしているのだ。
人懐っこい新人メイドのシノアはその手伝いに来ている…はずなのだが、
「奥様!冬用を新調いたしました!」
と、何故かベッドの上に夜着を並べている。
どれも程よく肌が露出されるデザインで、最近朝晩冷えるのにお腹を下しそうだ。
「本日はどれにいたしましょう!?」
「あのね、シノア。その…まだ朝なのだけれど」
朝っぱらから夜の睦事の相談というのはいかがなものだろうか。シャロンは呆れたようにため息をついた。
「そもそも、シノアは服の整理を手伝いに来てくれたのではないの?」
「お手伝いはします!しかし、その前に今日の夜着を決めておきましょう!」
「何故…」
「今日から、旦那様は久しぶりの連休です!今夜は気合をいれませんと!」
「…そ、そう?」
「旦那様と寝室を共にされるのは3日ぶりのこと。そして明日もお仕事はお休み。きっと今夜、奥様は存分に旦那様に可愛がっていただく予定なのですよね!?ならば存分に可愛くしなくては!」
「それ、意味わかって言ってる?」
「よくわかりませんが、リサさんが言ってました!」
「そ、そう…。あまりリサの言う事を外で言ってはダメよ」
純粋なシノアがどんどん変な知識をつけている事に、シャロンは複雑な心境になる。
シャロンはまた深くため息をついた。
(しかし何にせよ、これはもう先に夜着を決めないと進まなさそう…)
ここに来て約3ヶ月、シャロンはこの様に興奮した様子のシノアにはこれ以上何を言っても無駄な事を学んでいた。
「どれも可愛いわね」
「そうでしょう、そうでしょう?奥様がなんでも良いとおっしゃるので、リサさんが気合を入れて選んだそうです!」
「まあ、そうなの。ちなみに貴女のおすすめは?」
「私のおすすめはこちらです!可愛いでしょう!?」
そう言ってシノアかおすすめするのはフリルとリボンが盛りだくさんの可愛らしくもいやらしい夜着。布地は少ないがもこもこ素材でいつもきているものよりは暖かそうだ。
「そうね、可愛いわね。ではシノアが持っているものにするわ」
シャロンは服を仕分けながら、興味なさそうにオススメの夜着を選んだ。
シノアは「もう」とため息をつく。
「…結局いつもお任せじゃないですかぁ」
「だって拘りなんてないもの、仕方がないじゃない」
「新婚ですよ?蜜月期ですよ!?」
「では一番暖かそうなそれで」
シャロンが指差したのはドット柄のもこもこの長袖に、もこもこのショートパンツのセット。
シノアは不服そうに頬を膨らませた。
「何でそんなに適当なんですかぁ!」
「あのね、シノア。何を着ても結局脱がされるのだから同じじゃない?」
本当は脱がされたことなど一度もないが、シャロンは息を吐く様に嘘をつく。
シノアはシャロンの発言に耳まで真っ赤に染め上げた。
(可愛い。妹がいたらこんな感じかなぁ)
これで15かと疑いたくなるほどに初々しいシノアがシャロンは可愛くて仕方がない。
顔を両手で隠して、何やらいかがわしい妄想をしてはモジモジと体を左右に揺する彼女を見て、シャロンは微かに微笑んだ。
(シノアの妄想通りの夜なんて来た事ないけど、まあ妄想するのは自由よね)
シノアだけでなく、この屋敷の使用人は皆、アルフレッドとシャロンが仲睦まじく過ごしていると思っている。
たしかに、多忙なはずのアルフレッドが出来る限り夕食と寝室をシャロンと共にしていたり、今までエミリアを忘れられずどこか寂しげにしていた彼がシャロンと楽しそうに話している姿を見てそう思うのも無理はない。使用人の中にはアルフレッドが喪服を脱ぐ日も近いのではと噂している者も出てきていると言う。
だが、シャロンはそんなことはあり得ないと断言できてしまう。
何故ならアルフレッドと話す内容は前妻エミリアの話をばかりだからだ。
一緒に庭園を散歩しているときも、お茶をしているときも、2人きりになれば基本的な話題はエミリアのこと。特に夜は人目がないので、永遠とエミリアとの思い出話をしている。
そしてシャロンは毎回、そんな彼の話に適当に相槌を打ちつつ、右から左へと聞き流しているうちに眠りにつくというのがお約束となっている。
(わかってた事だけど、何だかなぁ)
アルフレッドは話し上手で、話題はエミリアの事ばかりだが話自体は面白い。故に彼の話を聞くことは苦ではない。
けれど、どれだけ魅惑的な夜着を身に纏い寝室を訪れたとしても、彼の目には今もエミリアしか映っていない。
シャロンはそれを少し虚しいかもしれないと思い始めていた。
愛せないと初めに言われているし、自身もアルフレッドの事をどうこう思っているわけではない。でもたまに彼の口を縫い付けたくなってしまう。
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そんなふうに思ってしまうなんて自分もまだまだだなと、シャロンは自嘲じみた笑みを浮かべた。
すると、不意に扉が開く。
リサかと思って彼女が振り返ると、そこにいたのは相変わらず黒い旦那だった。
「シャロン、少し良いか……な?」
布の少ない夜着を体に当てられたシャロンを見て、アルフレッドは固まってしまった。
そんな彼の反応を見て、シャロンも固まる。
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「そ、そうだな。ごめん…」
流石のシャロンもほぼ下着同然の布を体に当てられている場面を見られるのは恥ずかしい。顔面は表情がないが、耳から頸にかけては真っ赤に染まっていた。
部屋には微妙に気まずい空気が流れる。
その空気をぶち壊したのは、言わずもがなシノアだった。
「旦那様はどれが好みですか!?」
「え!?」
「ちょっと、シノア…」
肝が据わっているのか、それとも何も考えていないのか、シノアはあろうことかアルフレッドに意見を乞うた。
(やめて!さすがの公爵様も反応に困ってるから!)
この夜着は月明かり程度の明るさしかない夜の寝室だからこそ何とか見せれるものであり、こんな明るい所でマジマジと見られては今日からどんな顔をしてこの布切れに袖を通せば良いのか。シャロンは恥ずかしさのあまり顔を伏せた。
対するアルフレッドは、少し頬を染めながらも一着の夜着を指差す。
「これ、かな…」
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(マジか…)
アルフレッドはどこか女に慣れていない様なそんな雰囲気がするのに、彼が選んだのがモノがおそらくこの中では一番露出の多いものだったのでシャロンは思わず目を見開いた。
純情そうに装っていても大人の男だから、こういうのが好みなのか。いや、むしろ純情だからこそこのチョイスなのか。思春期男子がエロ本に興奮する的なアレなのか。
シャロンはアルフレッドが理解できずに頭を悩ませた。
「旦那様は、その、セクシー系がお好みなのですね…ははは…」
シノアから乾いた笑いが漏れる。
シャロンは後から知ったことだが、これはネタでリサが買ってきたもので、これをシャロンに着せるつもりは無かったらしい。
2人の微妙な反応を感じとったアルフレッドは『黒だから!黒いからシャロンの黒髪に似合うと思って!』と必死に弁明したが、2人からは『そうですねー、ははは』と乾いた返事しか返ってこなかった。
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