【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

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本編

19:残念なデート(2)

暫くして飲み物を手にしたアルフレッドがシャロンものとに戻ると、彼女の前にはひざまづく1人の男がいた。
 その様子を見て、アルフレッドは怪訝な顔をする。

(誰だ?人の妻にちょっかいをかけているのは!)

 若干苛立ちつつも、ここは冷静に大人な対応で妻に近づく男を追い払わねばと、アルフレッドはゆっくりと2人に近づいた。
 しかし…。

「…え?」

 アルフレッドに気づかないシャロンはその男と楽しげに談笑していた。

 そう、楽しそうに笑っていたのだ。

「シャロンが笑っている…?」

 それもただ笑っているだけではない。はにかんだ様に笑ったり、悪戯な笑みをみせたり、時々頬を膨らませたり…。
 シャロンはその男に、アルフレッドには見せたことがない様々な表情を見せていた。
 愛想笑いが苦手だと言っていたから、笑えないのだと思っていたがどうやら笑えたようだ。
 自分には一度だって見せたことがないシャロンの笑顔に、アルフレッドはちくりと胸が痛んだ。


「あ、公爵様」
「え?公爵様?」

 シャロンがこちらに気が付き、立ち上がる。
 アルフレッドは動揺しながらも仕方なく2人に近づいた。

「シャロン、その、こちらの方は?」
「ジルフォード家の薬師です」
「初めまして、ウィンターソン公爵閣下。薬師のサイモンと申します」
「は、初めまして」

 サイモンと名乗る男は、爽やかな笑顔でアルフレッドに頭を下げた。
 後ろ姿ではわからなかったが、このサイモンという男、無駄に見目が良い。
 金髪碧眼で高身長。目鼻立ちのはっきりした顔立ち。そして何より…

(若い…)

 20代半ばだろうか。シャロンと並ぶと似合いのカップルにしか見えない。

「あの…、公爵様?どうなさいました?」

 呆然と2人を見つめるアルフレッドの顔をシャロンは覗き込む。

「あ、いや。何でもない」
「そうですか?」

 不思議そうに首を傾げるシャロン。ふとその足元を見ると、裸足で地面に敷いた布の上に立っていた。

「足、どうしたの?」
「あ、これは…」
「靴ずれしてたみたいなんで、消毒して保護するところなんすよ。処置の続きしてもいいですか?」

 サイモンが睨みつけるようにアルフレッドを見る。その声には若干の怒気が含まれていた。

「あ、ああ。よろしく頼む…」

 アルフレッドがそう言うとサイモンはシャロンを再びベンチに座らせて、その前にひざまづいた。

「サイモン、痛い」
「痛くて当然です。なんでこうなる前に保護しないんですか」
「何で怒ってるの」
「怒ってない。呆れてるだけ」
「むぅ」
「むぅ、じゃねーよ。ばか」

 むくれるシャロンの額をサイモンは軽く小突く。

「よし、できた」
「ありがとう」
「ほんと、薬の配達中に偶然通りがかった俺に感謝してください」
「感謝してるわ。とっても」

 シャロンは歯を見せる様にしてニカっと笑った。
 サイモンはふう、と小さく息を吐くとアルフレッドの方に向き直る。

「ウィンターソン公爵閣下」
「は、はい」
「今日もうこれ以上歩かせないでやってください。結構悪化してるんで」
「わ、わかった。ありがとう」

 アルフレッドは、サイモンから自分に向けて放たれる明らかな嫌悪の感情に気圧されてタジタジだ。

「んじゃ、俺はこれで」
「あ、サイモン。今度の夜会なんだけど、私出席するから…」
「ハディス様に早めに見つけてくれって伝えておけば良いんですか?」
「流石ね。何でもお見通しだわ」
「お嬢のお守り役としては当然の事っすよ」
「お守りって言わないで。もう子どもじゃないのよ!」
「はいはい」
「でも、ほんとありがとね。助かったわ」
「どーいたしまして」

 アルフレッドにはその会話の意味が理解できなかったが、シャロンがサイモンを頼りにしていることだけは理解できた。

(信頼しているのか…。この男を)

 だから笑うのか。アルフレッドの胸はまたちくりと痛む。

 サイモンは薬の入った大きなカバンを片付けると頭を下げて、その場を立ち去った。
 去り際、シャロンには聞こえないくらいの声で、彼はボソッと呟いた。

「あんたにとってはどうでもいい嫁かもしれないが、靴擦れくらいは気づいてやってくださいよ。

 アルフレッドがバッと振り返ると、彼は射殺す様な目つきでこちらを見ていた。
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