21 / 129
本編
20:サイモンとお嬢様(1)
賑やかな休日の午後。
幸いにも天候に恵まれ、空は雲ひとつなく気温も暑すぎず寒すぎない最高のデート日和である。
しかし、ウィンターソン公爵の後妻シャロンは、噴水広場のベンチで鬱々としていた。
(足が痛い…。引きこもりなめんなよ、烏公爵め)
昼前から街に連れ出され、ほぼ小走りで歩き回るなど引きこもり令嬢の体力には無謀なことだった。
(しかし、まさか公爵様があの顔でデートの一つもしたことがないとはね)
シャロンは呆れたようにため息をつく。
コンパスの長さが違うのに、女性を気遣うことも出来ない男がデート慣れしているようには思えない。
普段の振る舞いから考えても、アルフレッドは女慣れしていない初心なおじさんなのだろう。シャロンは1人うんうんと納得した。
「あれ?お嬢?」
後ろから聞き覚えのある声で声をかけられたので振り返ると、そこには金髪碧眼の無駄に見目の良い薬師が立っていた。
「あら、サイモン」
「何してんですか?」
「休憩よ。公爵様とデート中なの」
「その公爵様は姿が見えませんが」
「今飲み物を買いに行ってくださっているわ。それにしても奇遇ね。こんなところで会うなんて」
「これは運命っすね」
「安っぽい運命ね」
「いやぁ、薄情者のお嬢にこんな街中で遭遇するなんて運命でしかないっしょ?」
「それは…」
サイモンはジトッとした目でシャロンを見下ろす。口元だけ笑っているのが逆に怖い。
実のところ、シャロンはウィンターソン公爵に嫁ぐ事をサイモンに伝えていなかった。
嫁ぎ先が烏公爵だなんて言ったら、優しい彼はきっと猛反対する。けれど王命である以上どうにもできない。
無駄に彼を悩ませなくないシャロンは何となく言い出しにくて、結局そのまま彼が出張中に嫁いでしまったというわけだ。
「言うタイミングいくらでもあったのに、何で何も言ってくれなかったんですか」
「それは…その…言いづらくて」
「出張から帰ってきて、旦那様から『え?嫁いだよ?知らないの?』って言われた時の俺の気持ち考えたことあります?」
「うう…」
「みんな俺がそのことについて何も言わないから『ショックで話題にもしたくないのだろう』って思ってたらしいですよ。どうりで飲みに誘われる回数が増えたはずだ」
「ご、ごめんなさい…」
「しかもよりによって、相手があの烏公爵なんて…」
サイモンは顔を歪めた。
夫が未だ亡き前妻を想っているのはよく知られた話だと。シャロンは今後、一生愛されることがない哀れな後妻として生きていかねばならない。
何度連れ戻しに行こうかと考えたことか。
「どうなんすか?烏公爵」
サイモンはシャロンの隣に座ると、ジッと彼女の目を見る。
その真剣な青い瞳がなんだか怖くて、シャロンは思わず目を逸らせた。
「どう、とは?」
「大事にしてもらってるかってこと」
「…丁重には扱っていただいてるわ。今日もこうしてドレスを新調するためにデートに誘ってくださったし」
「じゃあ幸せ?」
「不幸せではないわ」
「微妙な言い方っすね」
サイモンはその曖昧な返答に深くため息をついた。
シャロンは不幸せではない。
冷遇されてるわけではないし、公爵邸のみんなはシャロンを快く受け入れてくれた。シノアは食べてしまいたいくらい可愛いし、シャロンを着飾ることに命をかけているリサのことも嫌いじゃない。デニスと過ごす温室での時間はとても穏やかで心が安らぐし、料理長の作るご飯は美味しい。
アルフレッドもシャロンを大切にしようと努力してくれている。愛せない代わりに積極的にシャロンとの時間を作ってくれているし、何か困ったことはないかといつも聞いてくれる。未だエミリアに恋をしているかのように彼女の話をするアルフレッドの姿を見るのは嫌いではないし、彼の話を聞くのも苦ではない。
不幸せではない。多分、世間の人が思うよりも恵まれている。ただ…。
「ただ、少し虚しいだけよ…」
シャロンは伏し目がちにボソッと呟いた。
別にアルフレッドを好きなわけじゃない。
ただ何となく、自分は一生愛されないんだなと実感してしまうことが虚しいだけ。ただそれだけ。
「まあ、最初からわかってたことだし割り切らなきゃね。落ちこぼれの私をもらってくれた事に感謝しなくちゃ」
シャロンは誤魔化すように、ぎこちない笑みを貼り付けた。
落ち着いていて大人びて見えてもシャロンはまだ18だ。幸せな結婚がしたいという願望が深層心理の部分では残っているのだろう。
サイモンはシャロンの頬に触れると、突然頬を掴み左右に引っ張った。
幸いにも天候に恵まれ、空は雲ひとつなく気温も暑すぎず寒すぎない最高のデート日和である。
しかし、ウィンターソン公爵の後妻シャロンは、噴水広場のベンチで鬱々としていた。
(足が痛い…。引きこもりなめんなよ、烏公爵め)
昼前から街に連れ出され、ほぼ小走りで歩き回るなど引きこもり令嬢の体力には無謀なことだった。
(しかし、まさか公爵様があの顔でデートの一つもしたことがないとはね)
シャロンは呆れたようにため息をつく。
コンパスの長さが違うのに、女性を気遣うことも出来ない男がデート慣れしているようには思えない。
普段の振る舞いから考えても、アルフレッドは女慣れしていない初心なおじさんなのだろう。シャロンは1人うんうんと納得した。
「あれ?お嬢?」
後ろから聞き覚えのある声で声をかけられたので振り返ると、そこには金髪碧眼の無駄に見目の良い薬師が立っていた。
「あら、サイモン」
「何してんですか?」
「休憩よ。公爵様とデート中なの」
「その公爵様は姿が見えませんが」
「今飲み物を買いに行ってくださっているわ。それにしても奇遇ね。こんなところで会うなんて」
「これは運命っすね」
「安っぽい運命ね」
「いやぁ、薄情者のお嬢にこんな街中で遭遇するなんて運命でしかないっしょ?」
「それは…」
サイモンはジトッとした目でシャロンを見下ろす。口元だけ笑っているのが逆に怖い。
実のところ、シャロンはウィンターソン公爵に嫁ぐ事をサイモンに伝えていなかった。
嫁ぎ先が烏公爵だなんて言ったら、優しい彼はきっと猛反対する。けれど王命である以上どうにもできない。
無駄に彼を悩ませなくないシャロンは何となく言い出しにくて、結局そのまま彼が出張中に嫁いでしまったというわけだ。
「言うタイミングいくらでもあったのに、何で何も言ってくれなかったんですか」
「それは…その…言いづらくて」
「出張から帰ってきて、旦那様から『え?嫁いだよ?知らないの?』って言われた時の俺の気持ち考えたことあります?」
「うう…」
「みんな俺がそのことについて何も言わないから『ショックで話題にもしたくないのだろう』って思ってたらしいですよ。どうりで飲みに誘われる回数が増えたはずだ」
「ご、ごめんなさい…」
「しかもよりによって、相手があの烏公爵なんて…」
サイモンは顔を歪めた。
夫が未だ亡き前妻を想っているのはよく知られた話だと。シャロンは今後、一生愛されることがない哀れな後妻として生きていかねばならない。
何度連れ戻しに行こうかと考えたことか。
「どうなんすか?烏公爵」
サイモンはシャロンの隣に座ると、ジッと彼女の目を見る。
その真剣な青い瞳がなんだか怖くて、シャロンは思わず目を逸らせた。
「どう、とは?」
「大事にしてもらってるかってこと」
「…丁重には扱っていただいてるわ。今日もこうしてドレスを新調するためにデートに誘ってくださったし」
「じゃあ幸せ?」
「不幸せではないわ」
「微妙な言い方っすね」
サイモンはその曖昧な返答に深くため息をついた。
シャロンは不幸せではない。
冷遇されてるわけではないし、公爵邸のみんなはシャロンを快く受け入れてくれた。シノアは食べてしまいたいくらい可愛いし、シャロンを着飾ることに命をかけているリサのことも嫌いじゃない。デニスと過ごす温室での時間はとても穏やかで心が安らぐし、料理長の作るご飯は美味しい。
アルフレッドもシャロンを大切にしようと努力してくれている。愛せない代わりに積極的にシャロンとの時間を作ってくれているし、何か困ったことはないかといつも聞いてくれる。未だエミリアに恋をしているかのように彼女の話をするアルフレッドの姿を見るのは嫌いではないし、彼の話を聞くのも苦ではない。
不幸せではない。多分、世間の人が思うよりも恵まれている。ただ…。
「ただ、少し虚しいだけよ…」
シャロンは伏し目がちにボソッと呟いた。
別にアルフレッドを好きなわけじゃない。
ただ何となく、自分は一生愛されないんだなと実感してしまうことが虚しいだけ。ただそれだけ。
「まあ、最初からわかってたことだし割り切らなきゃね。落ちこぼれの私をもらってくれた事に感謝しなくちゃ」
シャロンは誤魔化すように、ぎこちない笑みを貼り付けた。
落ち着いていて大人びて見えてもシャロンはまだ18だ。幸せな結婚がしたいという願望が深層心理の部分では残っているのだろう。
サイモンはシャロンの頬に触れると、突然頬を掴み左右に引っ張った。
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。
みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。
ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。
失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。
ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。
こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。
二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?
宮永レン
恋愛
没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。
ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。
仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。