24 / 129
本編
23:やはり残念なアルフレッド(1)
「なあ。あれって、シャロン・ジルフォードじゃないか?」
近くでそんな声が聞こえる。
どうやらシャロンを先に見つけたのは次兄ではなかったようだ。やはり夜会に来ても良いことはないと深くため息をついた。
シャロンの名を呼んだのは、彼女が夢の中で何度も四肢をもぎったり腑を引き摺り出した男。
名はエディ・クラーク。魔術師一家、クラーク伯爵の長子でシャロンの青春を地獄に変えた張本人だ。
「あ、ほんとだ。落ちこぼれの黒猫だ」
「何しに来たのかしら」
「何って、婚活でしょ」
「やだ、シュナイダーったら。黒猫を嫁にもらいた物好きなんているわけないじゃない」
その横でイチャイチャしながら、シャロンを嘲笑うのはソフィア・モルビス侯爵令嬢とシュナイダー・バフェット伯爵令息。
この2人はエディと共にシャロンを虐めていた性悪で、最近性悪同士で婚約したとの噂がある。
この噂を聞いた時、シャロンは性悪と性悪がぶつかり合う事で相殺され、2人の子供がまともな性格をしていることを切に願ったものだ。
「ソフィア、こいつもう公爵夫人だよ」
「ああ、そう言えばウィンターソン公爵の後妻に納ったのでしたわね。さすがはシュナイダー、物知りね」
「そう言えばお前の旦那は烏公爵だったな」
「お可哀想に。愛されることもない後妻なんて…。同情いたしますわ!」
ソフィア達はシャロンに近づき、わざとらしく大きな声で彼女を侮辱し始めた。
周囲がその様子をハラハラとしながら見守っている。
「それにしても、底辺の貴女が公爵夫人だなんて、一体どんな手を使ったのかしら」
「こいつ無駄に体は良いからな、娼婦の真似事でもしてるんだろ」
「何でそんなこと知ってるんだよ、エディ」
「触ったことあるからな」
「やだぁ!エディったら不吉な黒猫を抱いたの?」
「抱いてねーよ、触っただけだ。誰がこんな女抱くかよ」
堂々と婦女暴行未遂の過去を話すエディに、クレーターの周囲はざわつき始めた。当然だ。この夜会は王家主催のもの。
そんな場所で過去の犯罪を暴露するバカなどそうそう居ない。
シャロンは彼らの声は耳に入っているものの、関わりたくないので頑として無反応を決め込んだ。しかし、それを彼らが許すはずもなく…。
「おい、何が言ったらどうなんだ」
「お前が俺らを無視するなんて許されるとでも思ってんのか!?」
「相変わらず無表情で気持ちが悪いわ。返事くらいしなさいな」
皆に注目されていることも気づかず、エディ達は執拗にシャロンを罵る。
「おい!いいかげんにしろよ、シャロン・ジルフォード!」
エディは堪えきれずに自分達を無視し続けるシャロンの肩を掴んだ。
勢いよく掴まれたものだからシャロンは体勢を崩し、手に持っていたシャンパンを彼にパシャっとかけてしまった。
「あら、申し訳ございませんクラーク様。あまりに乱暴に肩を掴まれるものですから、手が滑ってしまいましたわ」
本当に言葉通りなのだが、言い回しが悪いのか、それとも死んだ表情筋が悪いのか、周りには彼女がわざとシャンパンをかけたようにしか見えない。
自分より下だと思っていた女にシャンパンかけられたエディは呆気にとられて固まってしまった。
動けない彼の代わりに、すぐ様ソフィアが魔術でエディの身を清める。
「ちょっと!エディにこんなことして許されると思ってるの!?」
「あら、モルビス様。ご機嫌よう」
「『ご機嫌よう』じゃないわよ、偉そうに!何様のつもりよ!」
「何様のつもりと言われましても…。ところでモルビス様。その、ここは学院ではありませんので、下位の者から声を掛けるのはマナー違反かと思うのですが…」
シャロンはもちろんマナー違反を指摘しただけに過ぎないのだが、どう捉えても嫌味にしか聞こえないその発言にソフィアは怒りで肩を震わせた。
キョトンとして首を傾げるシャロンに、シュナイダーは婚約者が小馬鹿にされたと感じて逆上する。
「底辺だったお前が僕らより上だとでも思ってるのか!?」
「え?上でございましょう?公爵夫人とまだ伯爵位も継いでいない貴方なら私の方が位が上なのは当たり前のことだと思っておりましたが…。まさか宮中のルールをご存知ありませんの?」
「な!?」
未だ学院の頃の関係を持ち出して優越感に浸ろうとする彼らを、シャロンは毅然とした態度で遇らう…ように周りからは見えている。
シュナイダーは彼女の指摘に恥ずかしさからか、はたまた怒りからか、カッと顔を赤くした。
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。
みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。
ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。
失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。
ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。
こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。
二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?
宮永レン
恋愛
没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。
ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。
仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。