【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

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本編

28:好奇心に負ける(1)

 
 月明かりに照らされた王宮のテラス。
 そよ風に揺れる木々のざわめきと、ダンスホールに響く賑やかな音楽と、そして夜空を飛ぶカラスの鳴き声が交差するその場所で…

「アホーだって、公爵」

 王太子ヘンリーは、カーテンの影に隠れて膝を抱えるようにして蹲るアルフレッドを突いて楽しんでいた。

「ちょっと今話しかけないでください」

 先程、見事にシャロンの口撃に打ちのめされたアルフレッドは傷心中である。
 自分が悪いのはわかっているが、大人しく心優しい女性だと思っていた彼女から、まさかあんな風に責め立てられることになるとは思っておらず中々立ち直れない。どうやらアルフレッドは少しシャロンに夢を見ていたらしい。

「じゃあシャロン嬢をナンパしてもいいか?」
「ダメです」
「あっちで騎士団の奴が探していたぞ?いいのか」
「誰ですか?」
「ダイス伯爵だ」

 アルフレッドは、はぁーと長いため息をつき、チラリとシャロンの方を見た。シャロンはしっしっと追い払うように手をひらひらさせる。

 その反応に少し傷つきながらも渋々立ち上がったアルフレッドは、シャロンをヘンリーに紹介してからトボトボと隊員の元へと向かった。



「改めまして、ヘンリーだ。よろしく」
「シャロン・カーティスでございます。お会いでいて光栄ですわ、殿下」

 アルフレッドを見送ったヘンリーは改めて名乗る。シャロンはそれに返事をするようにカーテシーを披露した。
 淑女として完璧な洗練された所作。少し緊張しているのか、表情は乏しいがヘンリーからすれば及第点の令嬢だった。

 ヘンリーは人好きのする笑みを浮かべて、シャロンをまじまじと眺める。

「とても素敵なドレスだね。艶のある濃紺の生地が君の黒髪によく似合っているよ。公爵と合わせたのかい?」
「お褒めにあずかり光栄ですわ。殿下のおっしゃる通り、このドレスは主人が用意したものです」
「そうか。しかしあの男といると一生暗い色のドレスを着る羽目になるけれど、良いのかい?」

 ヘンリーはケラケラと笑いながら冗談めかして言うが、その視線はどこか品定めしているようなものだった。
 シャロンはその視線に若干の不快感を感じながらも、ドレスをひらりと翻し、

「私は特にドレスに拘るタイプではありませんし、元々暗い色のほうが好きです。それに何より、ウィンターソン公爵の妻になるのにそのくらいの覚悟がなくてどうします?」

 と言って控えめに笑った。
 強い意思を宿した瞳で、けれどもこれ以上ないほどに自然と優しい微笑みを浮かべるシャロンに、ヘンリーは「ほう」と声をもらした。

「なかなかに見どころのあるお嬢さんのようだ。公爵が羨ましいね」
「あら、その発言は妃殿下に失礼では?」
「おっと、失言だったかな」
「ここだけの秘密にして差し上げます」
「それはありがたい。ところで、シャロンと呼んでも構わないかい?」
「はい、お好きにお呼びください」

 どうやら気に入られたらしい。
 シャロンはほっと胸を撫で下ろした。

「ではシャロン。君に聞いて欲しい事があるのだが、良いかい?」
「はい。なんでしょうか?」

 キョトンと首を傾げるシャロンに、ヘンリーは含みのある笑みを浮かべた。

「君の夫である公爵の仕事についてなんだけど…」
「ちょっと!殿下、それはっ!」

 ハディスは慌ててヘンリーの話を遮り、妹を庇うように彼の前に立つ。

「ハディス。可愛い妹を巻き込みたくない君の気持ちもわかるが、夫である公爵を巻き込む以上、彼女にも話を通しておくのが筋だと私は思うよ」
「夫と妻は別の人間です。夫の仕事に妻を巻き込む必要がどこにありましょうか」
「夫に危険が及ぶかもしれないのなら伝えておくべきだろう」

 真剣な目でハディスを見据えるヘンリー。
 しかし、ハディスも譲らなかった。

「殿下、わざと公爵閣下に席を外させましたね?」
「何のことだろうか?」
「彼はシャロンに話すことを同意したんですか?してないですよね?」
「この後すぐに同意をもらう予定だ」
「人はそれを事後報告と言うんですよ」

 笑顔で対峙しながらもチリチリと火花を散らす二人。
 おそらく二人が話しているのは面倒事なのだろう。
 巻き込みたくない兄の思いやりを理解しつつも、シャロンは彼の服の袖を引っ張った。
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