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本編
29:好奇心に負ける(2)
「待ってお兄様。聞くだけで良いならお聞きしますわ、ヘンリー殿下」
「シャロン…」
シャロンは兄よりも一歩前に出て、ヘンリーを見据えた。その大きく見開かれた黄金の瞳はキラキラと輝いていた。
「もしかして、殿下のお話というのは不自然な魔術師の失踪に関することでしょうか?」
「シャロン…何故それを知って!?」
ハディスは妹の口から出たその言葉に驚きを隠せなかった。何故ならば、それは世間には事件として公表されていない事実。
しかし、シャロンは大したことないただの勘だと言う。
「別に誰かから聞いたわけではありません。ただここ数年間、毎年この時期になると必ずと言っていいほど新聞に『行方不明になった人間を探している』という広告が複数載ります。そのような広告は間々ありますが、この時期のそれは何故か魔術師である事が多い。にも関わらず、新聞社はそれを取り立てることなく、世間は特にそれを事件として認識していない。不自然に思うのも不思議ではないでしょう?」
「なるほど。だが仮にそうだとしても、何故俺の話がそれに関することだと思うんだ?」
シャロンはまるで探偵のように人差し指を立てて推論を述べた。
自身があるのだろうか、流暢に話すその口元は少し楽しそうな、そんな雰囲気だった。
「主人はここに着いて早々にヘンリー殿下とお話があると言って私のそばを離れました。殿下は魔術師を統括する立場におられる方ですから、内容はおそらく魔術師関連。私の知る情報の中で、夜会の場で近衛騎士団長に話さねばならないほどに急を要する事で、かつ危険が伴いそうなものとなるとこの失踪事件以外に思いつきませんでした」
それは特に根拠もないただの勘。
しかし鋭すぎるその読みはほぼ正解だったらしい。ヘンリーはパチパチと手を叩いた。
「素晴らしい。この話を持ち出そうとしたのは、個人的に君の意見を聞いてみたいという好奇心もあったんだが…。予想以上だ」
「喜んでいただけて光栄ですわ、殿下。それで、これより先はどのくらいの機密事項ですか?」
ヘンリーの返答によってはここで引き下がることも検討しなければならない。
たとえ少しばかりこの失踪事件に興味があろうとも、何もする事がない公爵夫人の生活に飽きがきていたとしても、面倒ごとには首を突っ込まぬ方が良いに決まっている。
「今は国防に関わる事だからと、少なくともメディア関連の情報統制はなされている。この事件は今後も公には事件化はされないだろう。不審に思う者もいるだろうが、察しのいい奴は深く知ろうとはしない。君のように」
「…つまり、深く関われば消される可能性があると言う事ですか?」
シャロンの問いに、ヘンリーは含みのある笑みで返した。それはつまり『イエス』という事だろう。
その話題の可能性を示したのはシャロンの方だが、そもそもそんな物騒な事案を軽々しく持ち出してくるなと言ってしまいそうになった。
そんな物騒な事案、決して首を突っ込むべきじゃない。わかっているのに何故か口元が緩む。
ヘンリーは不敵な笑みを浮かべてシャロンに問う。
「どうする?聞くかい?」
「どうしましょう…。これ以上妻の私が踏み込むことを夫は良しとしない気がします」
どう考えても、自分の仕事に首を突っ込んでくる妻をよく思わない男の方が圧倒的に多い。
「確かに、公爵は良い顔をしないだろうね。けれど俺は君自身に聞いている。この事件に興味があるんじゃないのかい?」
「興味はありますけれど…」
どちらかと言うと、むしろ興味しかない。
国より管理された魔術師が定期的に姿を消す不自然さ。その事実が公表されないという闇の深さ。
明らかに地雷案件なのに、何故だか興味がそそられる。公爵邸に来てから退屈すぎるほどに穏やかな生活を送っている反動だろうか。
そんなシャロンの心情を見抜いたのか、ヘンリーは意図的に彼女が頷くように誘導する。
「ここで君が協力してくれて、もし事件を解決に導く事ができたならそれはウィンターソン公爵の成果にもなるよ?」
「…ウィンターソン公爵夫人として、聞く必要かあるのならば」
「よし、で話そう」
好奇心に負けたシャロンはヘンリーの口車に乗せられて、首を突っ込んでしまった。
「シャロン…」
シャロンは兄よりも一歩前に出て、ヘンリーを見据えた。その大きく見開かれた黄金の瞳はキラキラと輝いていた。
「もしかして、殿下のお話というのは不自然な魔術師の失踪に関することでしょうか?」
「シャロン…何故それを知って!?」
ハディスは妹の口から出たその言葉に驚きを隠せなかった。何故ならば、それは世間には事件として公表されていない事実。
しかし、シャロンは大したことないただの勘だと言う。
「別に誰かから聞いたわけではありません。ただここ数年間、毎年この時期になると必ずと言っていいほど新聞に『行方不明になった人間を探している』という広告が複数載ります。そのような広告は間々ありますが、この時期のそれは何故か魔術師である事が多い。にも関わらず、新聞社はそれを取り立てることなく、世間は特にそれを事件として認識していない。不自然に思うのも不思議ではないでしょう?」
「なるほど。だが仮にそうだとしても、何故俺の話がそれに関することだと思うんだ?」
シャロンはまるで探偵のように人差し指を立てて推論を述べた。
自身があるのだろうか、流暢に話すその口元は少し楽しそうな、そんな雰囲気だった。
「主人はここに着いて早々にヘンリー殿下とお話があると言って私のそばを離れました。殿下は魔術師を統括する立場におられる方ですから、内容はおそらく魔術師関連。私の知る情報の中で、夜会の場で近衛騎士団長に話さねばならないほどに急を要する事で、かつ危険が伴いそうなものとなるとこの失踪事件以外に思いつきませんでした」
それは特に根拠もないただの勘。
しかし鋭すぎるその読みはほぼ正解だったらしい。ヘンリーはパチパチと手を叩いた。
「素晴らしい。この話を持ち出そうとしたのは、個人的に君の意見を聞いてみたいという好奇心もあったんだが…。予想以上だ」
「喜んでいただけて光栄ですわ、殿下。それで、これより先はどのくらいの機密事項ですか?」
ヘンリーの返答によってはここで引き下がることも検討しなければならない。
たとえ少しばかりこの失踪事件に興味があろうとも、何もする事がない公爵夫人の生活に飽きがきていたとしても、面倒ごとには首を突っ込まぬ方が良いに決まっている。
「今は国防に関わる事だからと、少なくともメディア関連の情報統制はなされている。この事件は今後も公には事件化はされないだろう。不審に思う者もいるだろうが、察しのいい奴は深く知ろうとはしない。君のように」
「…つまり、深く関われば消される可能性があると言う事ですか?」
シャロンの問いに、ヘンリーは含みのある笑みで返した。それはつまり『イエス』という事だろう。
その話題の可能性を示したのはシャロンの方だが、そもそもそんな物騒な事案を軽々しく持ち出してくるなと言ってしまいそうになった。
そんな物騒な事案、決して首を突っ込むべきじゃない。わかっているのに何故か口元が緩む。
ヘンリーは不敵な笑みを浮かべてシャロンに問う。
「どうする?聞くかい?」
「どうしましょう…。これ以上妻の私が踏み込むことを夫は良しとしない気がします」
どう考えても、自分の仕事に首を突っ込んでくる妻をよく思わない男の方が圧倒的に多い。
「確かに、公爵は良い顔をしないだろうね。けれど俺は君自身に聞いている。この事件に興味があるんじゃないのかい?」
「興味はありますけれど…」
どちらかと言うと、むしろ興味しかない。
国より管理された魔術師が定期的に姿を消す不自然さ。その事実が公表されないという闇の深さ。
明らかに地雷案件なのに、何故だか興味がそそられる。公爵邸に来てから退屈すぎるほどに穏やかな生活を送っている反動だろうか。
そんなシャロンの心情を見抜いたのか、ヘンリーは意図的に彼女が頷くように誘導する。
「ここで君が協力してくれて、もし事件を解決に導く事ができたならそれはウィンターソン公爵の成果にもなるよ?」
「…ウィンターソン公爵夫人として、聞く必要かあるのならば」
「よし、で話そう」
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