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本編
33:アルフレッドは堕ちている自覚がない(1)
朝食を食べて早々に、シャロンはとある部屋に篭った。
そこはアルフレッドに本心をぶちまけたあの夜会の後、好きに使って良いよと与えられた部屋だ。
彼はあの後、『シャロンの優しさに甘えすぎていたお詫びだ』と言って、この部屋そのものだけでなく、天井の高さまである本棚も買ってくれた。
またその他にも、今度中庭の一角に薬草用の温室を作ってくれると言うのだ。
(公爵様は良い人だ)
流石にマウスや薬になる虫の飼育などは渋られたが、ここまで要望を聞いてくれるとは思わなかった。
こんな事ならもっと早く彼と話をすればよかったなとシャロンは思う。
望まれない後妻だからと遠慮しすぎていたのかもしれない。
エミリアの事を思うアルフレッドを大事にすることと、シャロンが自分らしく生きることは両立できるのだ。
彼がどれだけ前妻を大事にしようと、自分まで彼女の影を気にして生活する必要など始めからなかった。そのことがわかり、シャロンはとても気分が良い。
「公爵様は話のわからない人じゃなかった!」
やはり言葉にして伝えるというのは大切だ。
シャロンは鼻歌を歌いながら、実家から送ってもらった本や実験機材の箱を開封していった。
そんな彼女の様子を少し開いた扉の隙間から、アルフレッドはじっと見ていた。
窓から差し込む朝の柔らかい光に照らされたシャロンの髪には天使の輪ができている。
心の底から嬉しそうに微笑みながら箱を開けていく若き後妻。
「可愛い…」
アルフレッドは思わず声に出してしまった。
あの夜会で花のように笑った笑顔を最後に、シャロンの笑顔を真正面から見ていない彼は、時折こうして彼女のことを覗いている。
「坊っちゃま。いくら夫婦間といえど、覗きはいかがなものかと」
扉前でしゃがみ込み、後妻の様子を伺う主人にセバスチャンは深く長いため息をつく。
「坊っちゃまじゃない。旦那様と呼べ」
「坊っちゃま。覗きをするくらいなら素直に声をおかけすればよろしいのでは?」
「また断られたら立ち直れないだろうが」
アルフレッドはキッと執事を睨む。
夜会以降、シャロンは吹っ切れたようにアルフレッドの誘いを断るようになった。
毎回断られるわけではないが、『本が読みたいから』『薬草をもらいに実家に行きたいから』と何かと忙しそうにしており、2回に1回は断られる。
前まではどんな話(主にエミリアの話)をしても、うんうんと相槌を打ち聞いてくれていたのに最近は『それ前に聞きました』としれっと返される始末。
「何だこの豹変ぶりは」
「今まで同じ話を延々と聞いていてくださっていた事の方が奇跡なのですよ、坊っちゃま」
「このままでは夫婦の危機だ」
かろうじて、寝室を共にするときの夜着はいつも通りの布か少なめの物を着用しているが、それも彼女が嫌だと思えばもう着てくれなくなるかもしれない。
というか、そもそも何もしないのに寝室に行くなんて面倒くさいとすら思うかもしれない。
「由々しき事態だ」
「坊っちゃまは変態ですね」
そんなに露出の高い夜着を着て欲しいのかと、セバスチャンは蔑みの目で見下ろす。
「違うぞ、夜の時間は私たち夫婦の最も大事な交流の時間だから!その、無くなると困るんだよ!」
「左様でございますか」
必死の弁明も弁明になっていないアルフレッド。
セバスチャンが呆れていると、後ろから手伝いに来たシノアがひょこっと顔を出した。
「何してるんですか?」
「旦那様が奥様を散歩に誘いたいらしいのですが、ヘタレなのでなかなか誘えないのです」
最近シャロンがアルフレッドの誘いを断りがちなのを知っているシノアは、腰に両手を当て、ふぅっと小さく息を吐いた。
そして主人を無視して部屋のドアをノックすると、
「奥様ー。旦那様が構って欲しいそうですよー」
と大きな声でシャロンに声をかけた。
アルフレッドは彼女がシノアの声に反応するよりも前に、光の速さで部屋の前から走り去った。
シャロンはひょっこりと扉から顔を出す。
「あれ?公爵様はどちらに?」
キョトンとした顔で廊下を見渡すシャロンに、セバスチャンは「どうぞお気になさらず」と頭を下げて残念な主人の後を追った。
シノアはその様子を見て、口元を押さえ必死で笑いを堪える。
「お、奥様…。一つお願いがあるんですけど…」
「お願い?」
首を傾げるシャロンに、シノアは肩を振るわせながら耳打ちした。
そこはアルフレッドに本心をぶちまけたあの夜会の後、好きに使って良いよと与えられた部屋だ。
彼はあの後、『シャロンの優しさに甘えすぎていたお詫びだ』と言って、この部屋そのものだけでなく、天井の高さまである本棚も買ってくれた。
またその他にも、今度中庭の一角に薬草用の温室を作ってくれると言うのだ。
(公爵様は良い人だ)
流石にマウスや薬になる虫の飼育などは渋られたが、ここまで要望を聞いてくれるとは思わなかった。
こんな事ならもっと早く彼と話をすればよかったなとシャロンは思う。
望まれない後妻だからと遠慮しすぎていたのかもしれない。
エミリアの事を思うアルフレッドを大事にすることと、シャロンが自分らしく生きることは両立できるのだ。
彼がどれだけ前妻を大事にしようと、自分まで彼女の影を気にして生活する必要など始めからなかった。そのことがわかり、シャロンはとても気分が良い。
「公爵様は話のわからない人じゃなかった!」
やはり言葉にして伝えるというのは大切だ。
シャロンは鼻歌を歌いながら、実家から送ってもらった本や実験機材の箱を開封していった。
そんな彼女の様子を少し開いた扉の隙間から、アルフレッドはじっと見ていた。
窓から差し込む朝の柔らかい光に照らされたシャロンの髪には天使の輪ができている。
心の底から嬉しそうに微笑みながら箱を開けていく若き後妻。
「可愛い…」
アルフレッドは思わず声に出してしまった。
あの夜会で花のように笑った笑顔を最後に、シャロンの笑顔を真正面から見ていない彼は、時折こうして彼女のことを覗いている。
「坊っちゃま。いくら夫婦間といえど、覗きはいかがなものかと」
扉前でしゃがみ込み、後妻の様子を伺う主人にセバスチャンは深く長いため息をつく。
「坊っちゃまじゃない。旦那様と呼べ」
「坊っちゃま。覗きをするくらいなら素直に声をおかけすればよろしいのでは?」
「また断られたら立ち直れないだろうが」
アルフレッドはキッと執事を睨む。
夜会以降、シャロンは吹っ切れたようにアルフレッドの誘いを断るようになった。
毎回断られるわけではないが、『本が読みたいから』『薬草をもらいに実家に行きたいから』と何かと忙しそうにしており、2回に1回は断られる。
前まではどんな話(主にエミリアの話)をしても、うんうんと相槌を打ち聞いてくれていたのに最近は『それ前に聞きました』としれっと返される始末。
「何だこの豹変ぶりは」
「今まで同じ話を延々と聞いていてくださっていた事の方が奇跡なのですよ、坊っちゃま」
「このままでは夫婦の危機だ」
かろうじて、寝室を共にするときの夜着はいつも通りの布か少なめの物を着用しているが、それも彼女が嫌だと思えばもう着てくれなくなるかもしれない。
というか、そもそも何もしないのに寝室に行くなんて面倒くさいとすら思うかもしれない。
「由々しき事態だ」
「坊っちゃまは変態ですね」
そんなに露出の高い夜着を着て欲しいのかと、セバスチャンは蔑みの目で見下ろす。
「違うぞ、夜の時間は私たち夫婦の最も大事な交流の時間だから!その、無くなると困るんだよ!」
「左様でございますか」
必死の弁明も弁明になっていないアルフレッド。
セバスチャンが呆れていると、後ろから手伝いに来たシノアがひょこっと顔を出した。
「何してるんですか?」
「旦那様が奥様を散歩に誘いたいらしいのですが、ヘタレなのでなかなか誘えないのです」
最近シャロンがアルフレッドの誘いを断りがちなのを知っているシノアは、腰に両手を当て、ふぅっと小さく息を吐いた。
そして主人を無視して部屋のドアをノックすると、
「奥様ー。旦那様が構って欲しいそうですよー」
と大きな声でシャロンに声をかけた。
アルフレッドは彼女がシノアの声に反応するよりも前に、光の速さで部屋の前から走り去った。
シャロンはひょっこりと扉から顔を出す。
「あれ?公爵様はどちらに?」
キョトンとした顔で廊下を見渡すシャロンに、セバスチャンは「どうぞお気になさらず」と頭を下げて残念な主人の後を追った。
シノアはその様子を見て、口元を押さえ必死で笑いを堪える。
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