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本編
39:死んだはずの女
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それから3日間シャロンは使用人達へ聞き込みを行った。
不自然に思われないよう、いつもの会話の中から少しずつ探りを入れる。こんな時、彼女の硬い表情筋はとても役に立つ。
調査の結果け、わかったことは『使用人のほとんどはエミリアと直接接していない』という事。
そして話を聞けた使用人は皆、『エミリアの死の前後の記憶が曖昧である』という事だった。
(おかしい)
自室で聞き取り調査からわかったことをまとめながら、シャロンは首を傾げた。
揃いも揃って、朧げな話しかしないなんて違和感しかない。
仮にも屋敷の女主人が亡くなった日のことだ。彼女をよく思っていなかったとしても、覚えていないなんてあり得るだろうか。
それに何より、あの抜け目のないセバスチャンでさえ記憶が曖昧だった。
棺桶に入ったエミリアの姿は見た気がするが、具体的にその時の情景が思い出せないらしい。
どこの葬儀屋に手配したかや、葬儀当日の様子ことをよく覚えていないのだ。
ハッキリと覚えているのは、【エミリアという1人の女性が死んだ】という事実のみ。
これでは使用人の話からエミリアが死んだことを証明することはできない。
セバスチャン自身もシャロンの指摘で疑問に思ったのか、エミリアの死の前後の記録を調べてくれた。
すると、エミリアの死を確認したのはジルフォード侯爵が紹介したという医師で葬儀屋の手配も何故かセバスチャンではなく彼が行っていた。
何故執事長のセバスチャンではなく、医師が行うのか。
馴染みの葬儀屋を紹介されたとしても、その手配まで医師に任せるだろうか。
それほどまでにその医師を信頼していたということだろうか。
(ジルフォード家に紹介された医師なのに?)
かの医師がエミリアの診察を行い始めたのは彼女の死の3ヶ月前。
万策尽きたアルフレッドが藁にもすがる思いで、ジルフォード侯爵に渡されたメモを頼りにかの医師に連絡をとったのだと、セバスチャンは言っていた。
3ヶ月の間に信頼関係を築いた可能性もあるが…。
「だめだ、疑い出したらキリがない」
シャロンは自作の薬膳茶を啜る。
気になる事は他にもある。
それはエミリアが実家から連れてきていた侍女2人の存在だ。
エミリアの死後、彼女の体を清めたのはその侍女2人だった。
この侍女達かもしくは死の診断を下した医師に話が聞ければ、それが状況証拠の一つとなるとシャロンは思っていたのだが…。
セバスチャン曰く、侍女のうちの1人は実家に帰る途中、列車の脱線事故に巻き込まれ死亡したという。
「それが、シュゼットという娘」
シャロンは本棚から取り出した新聞記事のスクラップを開く。
それは5年前。エミリアの死の3日後くらいに起こった列車の脱線事故。
かなり規模の大きい事故だったが、乗客は少なく人的な被害はさほど大きくなかった。
父であるジルフォード侯爵が医師としてその現場に派遣されたので、シャロンはこの事故をよく覚えている。
シャロンは被害者リストに載っている名前の中あるエミリアの侍女の名をそっとなぞると、そのまま指を横に移動させた。
「デイモン…」
彼女の指の下にある名は、エミリアの死の診断を下した医師の名だった。
過去を探れば探るほど、エミリア・カーティスの死を証明できる人間が消えていく。
最後の頼みの綱は、もう1人の侍女。
シャロンはセバスチャンが持ってきた公爵家の使用人リストを眺めた。
そして、1人の少女の情報欄に視線が止まる。
「ヘンリエッタ…」
それはエミリアのもう1人の侍女の名だった。
ヘンリエッタについてセバスチャンに聞いたところ、彼女はいつの間にか屋敷からいなくなっていたという。
葬儀の時にはいたような気もするし、いなかったような気もする。
シュゼットと共に屋敷を出たような気もするし、そうでなかったような気もする。
ただ記録によると、ヘンリエッタの退職日はシュゼットと同じくエミリアの死後3日後だった。
それは彼女の筆跡で書かれた退職願からも明らかなことだった。
ヘンリエッタの親は一度公爵邸を訪れた事があるらしい。
その時対応したセバスチャンは、憔悴しきった様子の彼女の両親の姿をよく覚えているという。
ヘンリエッタは主人の死後、両親に『エミリアの実家でもう一度雇ってもらうことになった』という内容の手紙を送っていたらしい。
だが、実際にはエミリアの実家に彼女はいなかった。
そこでウィンターソン公爵なら何か知っているかもしれないと話を聞きにきたそうだ。
だがこの屋敷にあるのは、彼女がここにはいないという証拠だけ。
肩を落として帰っていくあの背中を見送るのは辛かったと、セバスチャンは語った。
「どういう事なの?」
エミリアは本当に死んだのだろうか。
知れば知るほど疑いは深まるばかりだ。
このままでは墓を掘り返すしかない。
しかしエミリアの墓を掘り返したいなど言えば、その言葉を発した時点できっと串刺しの刑だ。
「痛い死に方はしたくないなぁ…」
どうしたものかとシャロンは頭を悩ませた。
不自然に思われないよう、いつもの会話の中から少しずつ探りを入れる。こんな時、彼女の硬い表情筋はとても役に立つ。
調査の結果け、わかったことは『使用人のほとんどはエミリアと直接接していない』という事。
そして話を聞けた使用人は皆、『エミリアの死の前後の記憶が曖昧である』という事だった。
(おかしい)
自室で聞き取り調査からわかったことをまとめながら、シャロンは首を傾げた。
揃いも揃って、朧げな話しかしないなんて違和感しかない。
仮にも屋敷の女主人が亡くなった日のことだ。彼女をよく思っていなかったとしても、覚えていないなんてあり得るだろうか。
それに何より、あの抜け目のないセバスチャンでさえ記憶が曖昧だった。
棺桶に入ったエミリアの姿は見た気がするが、具体的にその時の情景が思い出せないらしい。
どこの葬儀屋に手配したかや、葬儀当日の様子ことをよく覚えていないのだ。
ハッキリと覚えているのは、【エミリアという1人の女性が死んだ】という事実のみ。
これでは使用人の話からエミリアが死んだことを証明することはできない。
セバスチャン自身もシャロンの指摘で疑問に思ったのか、エミリアの死の前後の記録を調べてくれた。
すると、エミリアの死を確認したのはジルフォード侯爵が紹介したという医師で葬儀屋の手配も何故かセバスチャンではなく彼が行っていた。
何故執事長のセバスチャンではなく、医師が行うのか。
馴染みの葬儀屋を紹介されたとしても、その手配まで医師に任せるだろうか。
それほどまでにその医師を信頼していたということだろうか。
(ジルフォード家に紹介された医師なのに?)
かの医師がエミリアの診察を行い始めたのは彼女の死の3ヶ月前。
万策尽きたアルフレッドが藁にもすがる思いで、ジルフォード侯爵に渡されたメモを頼りにかの医師に連絡をとったのだと、セバスチャンは言っていた。
3ヶ月の間に信頼関係を築いた可能性もあるが…。
「だめだ、疑い出したらキリがない」
シャロンは自作の薬膳茶を啜る。
気になる事は他にもある。
それはエミリアが実家から連れてきていた侍女2人の存在だ。
エミリアの死後、彼女の体を清めたのはその侍女2人だった。
この侍女達かもしくは死の診断を下した医師に話が聞ければ、それが状況証拠の一つとなるとシャロンは思っていたのだが…。
セバスチャン曰く、侍女のうちの1人は実家に帰る途中、列車の脱線事故に巻き込まれ死亡したという。
「それが、シュゼットという娘」
シャロンは本棚から取り出した新聞記事のスクラップを開く。
それは5年前。エミリアの死の3日後くらいに起こった列車の脱線事故。
かなり規模の大きい事故だったが、乗客は少なく人的な被害はさほど大きくなかった。
父であるジルフォード侯爵が医師としてその現場に派遣されたので、シャロンはこの事故をよく覚えている。
シャロンは被害者リストに載っている名前の中あるエミリアの侍女の名をそっとなぞると、そのまま指を横に移動させた。
「デイモン…」
彼女の指の下にある名は、エミリアの死の診断を下した医師の名だった。
過去を探れば探るほど、エミリア・カーティスの死を証明できる人間が消えていく。
最後の頼みの綱は、もう1人の侍女。
シャロンはセバスチャンが持ってきた公爵家の使用人リストを眺めた。
そして、1人の少女の情報欄に視線が止まる。
「ヘンリエッタ…」
それはエミリアのもう1人の侍女の名だった。
ヘンリエッタについてセバスチャンに聞いたところ、彼女はいつの間にか屋敷からいなくなっていたという。
葬儀の時にはいたような気もするし、いなかったような気もする。
シュゼットと共に屋敷を出たような気もするし、そうでなかったような気もする。
ただ記録によると、ヘンリエッタの退職日はシュゼットと同じくエミリアの死後3日後だった。
それは彼女の筆跡で書かれた退職願からも明らかなことだった。
ヘンリエッタの親は一度公爵邸を訪れた事があるらしい。
その時対応したセバスチャンは、憔悴しきった様子の彼女の両親の姿をよく覚えているという。
ヘンリエッタは主人の死後、両親に『エミリアの実家でもう一度雇ってもらうことになった』という内容の手紙を送っていたらしい。
だが、実際にはエミリアの実家に彼女はいなかった。
そこでウィンターソン公爵なら何か知っているかもしれないと話を聞きにきたそうだ。
だがこの屋敷にあるのは、彼女がここにはいないという証拠だけ。
肩を落として帰っていくあの背中を見送るのは辛かったと、セバスチャンは語った。
「どういう事なの?」
エミリアは本当に死んだのだろうか。
知れば知るほど疑いは深まるばかりだ。
このままでは墓を掘り返すしかない。
しかしエミリアの墓を掘り返したいなど言えば、その言葉を発した時点できっと串刺しの刑だ。
「痛い死に方はしたくないなぁ…」
どうしたものかとシャロンは頭を悩ませた。
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