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本編
45:白か黒か(4)
シャロンはそっと目を閉じた。
エミリアの死の前後の記憶が曖昧な使用人たち。
エミリアの死を診断した医師、エミリアを棺に入れる前に最後に彼女に触れた侍女の2人が消えたこと。
そして、エミリアの墓跡付近で微かに残る魔力反応。
再び目を開いた彼女は、真剣な眼差しでサイモンを見据えた。
「ここからは私の推論だけど、いい?」
「はい」
「この墓石の下にいるのはエミリア様ではなく、彼女の侍女であったヘンリエッタだと思うわ」
シャロンの推論はこうだ。
5年前のあの日、デイモン医師はエミリアの最後の診察を終え、彼女は『死んだ』と嘘をついた。
おそらく彼女に仮死状態にする薬でも投与したのだろう。
体の弱い彼女にそれを投与することはリスクしかないため、もしかすると違っているかもしれないが何らかの方法で医師はアルフレッドにエミリアの死を信じさせた。
そして医師は、自分が懇意にしている葬儀屋があるといい、すぐにそこへ連絡をする。
葬儀屋の到着後、エミリアの身を清めるからと泣き崩れるアルフレッドを部屋から追い出し、彼女をどこかへと隠す。
棺には、彼女の代わりにヘンリエッタという娘を殺して棺に入れる。
そして、ここに埋葬した。
その時、エミリアの死を偽装するために幻術を使ったのではないかとシャロンは言う。
「幻術…」
「そうよ。初めは記憶の改竄が行われていると思ったのだけれど、それは禁術にだし、ここまで大勢の人の記憶を一度に改竄するのは容易じゃない」
記憶の改竄や他人の精神に干渉し、意のままに操る術は禁止されている上に難易度が高い。
魔力反応が小さかったことを踏まえても、それを行った線はないだろうとシャロンは言う。
「それに対して幻術は、魔力持ちなら結構簡単にできるのよ」
「例えば?」
「例えば…」
実演を求められたシャロンは、あたりをキョロキョロと見回した。
そして目に入った、先ほどサイモンが抜いていた草の山に手を当てる。
すると青白い光とともに、その草の山が雪へと変わった。
「え!?」
サイモンは驚いたように声をあげ、慌ててその雪を両手で掬い上げる。
すると、雪に見えていた草は、彼の手のなかでただの草へと戻っていた。
「どういうことですか…?」
「幻術をかけられた物体は、見ているだけなら別のものに見えるけど、実際に触れたりして五感でその物体を感じると元に戻るのよ」
幻術は一種の催眠術のようなもので、緊張状態にある人や疑り深い人などには幻覚を見せにくかったり、規模の大きなものを見せようとした場合は持続時間が短かったりと、この術には欠陥が多い。
子ども騙しのようなものだとシャロンは言う。
「…でも、子供騙しでも、埋葬前の棺に入った遺体をエミリア様のように見せることはできるわ」
「なるほど…」
「さらに、当時。デイモン医師は毎日のように花束を届けていたそうよ。『妻の死期が近いことで気が滅入っている旦那様の心を癒すものだ』と言って、甘い香りがする雪の結晶のような花弁が特徴的な白い花を…」
「…それって」
「そう、ユキシグレよ」
それは麻酔薬の一種。外科手術の際にシャロンの父がよく使っているもので人体に影響はないが、その根を燃やすと意識を朦朧とさせる効果のある花だ。
昔は確かにその花の甘い香りは沈静効果があると言われていたが、最近では集中力を削ぐくらい香りだと危険視され始めており、一般への販売に制限がかけられている。
おそらくそれを嗅いだ使用人たちはその香りと幻覚の効果が重なり合い、記憶が曖昧になっているのだろうとシャロンは言う。
「そして、エミリア様は脅されでもしたのでしょう。葬儀の後、ヘンリエッタに変装してシュゼットと共に屋敷を出たのではないかしら」
元々この家の使用人はエミリアと対して接触していない。変装した彼女に気づかないということも考え得る。
「その後エミリア様はなぜか王宮に保護され、彼女の死の偽装に協力したシュゼットとデイモン医師は何者かに消された…」
これがシャロンの考えるエミリアの死の真相だ。
話し終えたシャロンを前に、サイモンは腕を組みながらうーんと唸る。
「色々と突っ込みたいところもありますが…。とりあえず、お嬢は確実にエミリア・カーティスが生きていると考えているわけですね?」
「そうよ」
「わかりました。お嬢のお考えはハディス様に報告しておきます。で?」
「…で?って何」
「もう一度聞きますが、どの辺が公爵閣下の無実と繋がるのでしょう?」
「…へ?どの辺って…」
にっこりと微笑みを浮かべる彼の笑顔が怖い。
どの辺がと聞かれたら、どの辺が無実の証明になったのかがわからない。
「死を偽装したのはおそらく間違いないでしょう。棺の遺体がヘンリエッタであると言う点も、まあ納得できます。ですが、公爵閣下がこの偽装を主導したとも考えられますし、エミリア・カーティス本人が偽装を医師に依頼したとも考えられます。なぜ2人ともが被害者であるかのような口ぶりなんですか?」
「…それは…何故でしょう?」
シャロンは、アルフレッドがエミリアが死んだと思い込まされているだけだと考えているし、エミリアは何者か脅されて死を偽装したと思い込みんで推論を話したが、その部分は『そうであってほしい』という彼女の希望でしかない。
それを指摘され、シャロンは耳まで赤くした。
エミリアの死の前後の記憶が曖昧な使用人たち。
エミリアの死を診断した医師、エミリアを棺に入れる前に最後に彼女に触れた侍女の2人が消えたこと。
そして、エミリアの墓跡付近で微かに残る魔力反応。
再び目を開いた彼女は、真剣な眼差しでサイモンを見据えた。
「ここからは私の推論だけど、いい?」
「はい」
「この墓石の下にいるのはエミリア様ではなく、彼女の侍女であったヘンリエッタだと思うわ」
シャロンの推論はこうだ。
5年前のあの日、デイモン医師はエミリアの最後の診察を終え、彼女は『死んだ』と嘘をついた。
おそらく彼女に仮死状態にする薬でも投与したのだろう。
体の弱い彼女にそれを投与することはリスクしかないため、もしかすると違っているかもしれないが何らかの方法で医師はアルフレッドにエミリアの死を信じさせた。
そして医師は、自分が懇意にしている葬儀屋があるといい、すぐにそこへ連絡をする。
葬儀屋の到着後、エミリアの身を清めるからと泣き崩れるアルフレッドを部屋から追い出し、彼女をどこかへと隠す。
棺には、彼女の代わりにヘンリエッタという娘を殺して棺に入れる。
そして、ここに埋葬した。
その時、エミリアの死を偽装するために幻術を使ったのではないかとシャロンは言う。
「幻術…」
「そうよ。初めは記憶の改竄が行われていると思ったのだけれど、それは禁術にだし、ここまで大勢の人の記憶を一度に改竄するのは容易じゃない」
記憶の改竄や他人の精神に干渉し、意のままに操る術は禁止されている上に難易度が高い。
魔力反応が小さかったことを踏まえても、それを行った線はないだろうとシャロンは言う。
「それに対して幻術は、魔力持ちなら結構簡単にできるのよ」
「例えば?」
「例えば…」
実演を求められたシャロンは、あたりをキョロキョロと見回した。
そして目に入った、先ほどサイモンが抜いていた草の山に手を当てる。
すると青白い光とともに、その草の山が雪へと変わった。
「え!?」
サイモンは驚いたように声をあげ、慌ててその雪を両手で掬い上げる。
すると、雪に見えていた草は、彼の手のなかでただの草へと戻っていた。
「どういうことですか…?」
「幻術をかけられた物体は、見ているだけなら別のものに見えるけど、実際に触れたりして五感でその物体を感じると元に戻るのよ」
幻術は一種の催眠術のようなもので、緊張状態にある人や疑り深い人などには幻覚を見せにくかったり、規模の大きなものを見せようとした場合は持続時間が短かったりと、この術には欠陥が多い。
子ども騙しのようなものだとシャロンは言う。
「…でも、子供騙しでも、埋葬前の棺に入った遺体をエミリア様のように見せることはできるわ」
「なるほど…」
「さらに、当時。デイモン医師は毎日のように花束を届けていたそうよ。『妻の死期が近いことで気が滅入っている旦那様の心を癒すものだ』と言って、甘い香りがする雪の結晶のような花弁が特徴的な白い花を…」
「…それって」
「そう、ユキシグレよ」
それは麻酔薬の一種。外科手術の際にシャロンの父がよく使っているもので人体に影響はないが、その根を燃やすと意識を朦朧とさせる効果のある花だ。
昔は確かにその花の甘い香りは沈静効果があると言われていたが、最近では集中力を削ぐくらい香りだと危険視され始めており、一般への販売に制限がかけられている。
おそらくそれを嗅いだ使用人たちはその香りと幻覚の効果が重なり合い、記憶が曖昧になっているのだろうとシャロンは言う。
「そして、エミリア様は脅されでもしたのでしょう。葬儀の後、ヘンリエッタに変装してシュゼットと共に屋敷を出たのではないかしら」
元々この家の使用人はエミリアと対して接触していない。変装した彼女に気づかないということも考え得る。
「その後エミリア様はなぜか王宮に保護され、彼女の死の偽装に協力したシュゼットとデイモン医師は何者かに消された…」
これがシャロンの考えるエミリアの死の真相だ。
話し終えたシャロンを前に、サイモンは腕を組みながらうーんと唸る。
「色々と突っ込みたいところもありますが…。とりあえず、お嬢は確実にエミリア・カーティスが生きていると考えているわけですね?」
「そうよ」
「わかりました。お嬢のお考えはハディス様に報告しておきます。で?」
「…で?って何」
「もう一度聞きますが、どの辺が公爵閣下の無実と繋がるのでしょう?」
「…へ?どの辺って…」
にっこりと微笑みを浮かべる彼の笑顔が怖い。
どの辺がと聞かれたら、どの辺が無実の証明になったのかがわからない。
「死を偽装したのはおそらく間違いないでしょう。棺の遺体がヘンリエッタであると言う点も、まあ納得できます。ですが、公爵閣下がこの偽装を主導したとも考えられますし、エミリア・カーティス本人が偽装を医師に依頼したとも考えられます。なぜ2人ともが被害者であるかのような口ぶりなんですか?」
「…それは…何故でしょう?」
シャロンは、アルフレッドがエミリアが死んだと思い込まされているだけだと考えているし、エミリアは何者か脅されて死を偽装したと思い込みんで推論を話したが、その部分は『そうであってほしい』という彼女の希望でしかない。
それを指摘され、シャロンは耳まで赤くした。
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