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本編
56:墓の下
「では、今離宮にこもっている陛下は移植手術を受けるつもりということでしょうか?」
ジルフォード侯爵が臓器移植の魔術を使っていると考えるのなら、状況的に病に倒れた国王のためであると考えるのが自然だろう。
確かに王は5年ほど前から度々病に伏せることがあった。
体が悪くなるたびに、他人から健康なパーツを貰い受けていたという可能性は十分にある。
しかし、ヘンリーは首を横に振った。
「いや、陛下の血液型はABではない」
うーん、と唸り声をあげて考え込むアルフレッドに、俯いて顔をしかめるヘンリー。
シャロンは一度何かを言いかけて、その言葉を飲み込んだ。
「何か言いたいことがあるなら言って良いぞ、シャロン」
「いえ…たいしたことではないんですが…。そういえば、AB型でしたよね…彼女」
その言葉に、ヘンリーはフッと仄暗い笑みを浮かべた。
キョトンとするアルフレッドを横目に、シャロンは言葉を続けた。
「…昔、こんな噂を聞いたことがあります。国王陛下が彼女に横恋慕していたとか」
アルフレッドとの婚姻を猛反対していたのは、『王もまた、エミリアを求めていたからだ』と一部の御婦人が噂してたのを昔聞いたことがある、とシャロンは言う。
その噂は、愛妻家と名高い王のイメージを下げるために意図的に流されたものだとされ、誰も本気にはしていなかったが…。今となっては怪しい。
「シャロンはそう考えるのか?」
「はい」
「陛下が彼女欲しさに国の宝である魔術師を殺していると?」
「…はい」
「そうか…実は俺も同じことを考えていた」
「…怪しさしかありませんものね」
「えーっと、何の話です?」
話に入っていけないアルフレッドは首を傾げる。
ヘンリーは言いづらそうに口を開いた。
「…公爵。君の前妻は生きているかもしれない」
「…………は?」
これでもかというほどの間を開けて、「は?」と声を発したアルフレッドは、そのまま口を大きく開けた状態で固まってしまった。
その後、シャロンの推論を元に、エミリアが生きている可能性についてヘンリーから説明されたが、おそらく何も頭に入っていない。
ヘンリーはシャロンに目配せし、落ち着いたら再度説明するよう目で訴えた。
「というわけで、今、確証を得るためにハディスに君の屋敷にある墓を掘り返させている」
アルフレッドの意識をこちらに戻すため、ヘンリーは笑顔でそう言い放つ。
どうやらハディスは今、王太子からの正式な命により、公爵邸で墓を掘り返しているらしい。
「はあ!?何許可なく勝手に!」
愛しき前妻の墓を許可なく掘り返されているアルフレッドは、ハッと意識を取り戻し、声を上げた。
「大丈夫だ。ハディスなら綺麗に元通りにできるから、間違っていたとしても問題ない」
「いやいやいや、問題しかありませんよ!?死者への冒涜ですよ!」
「大丈夫大丈夫。その推論はほぼ間違いないから」
「そんなことって…」
王族って怖い、とアルフレッドはブルっと肩を震わせた。
そんな彼を見て、シャロンは少し申し訳なくなったが、かける言葉が見つからない。
彼女とて墓を掘り返すことには賛成していたからだ。
そして数時間後。戻ってハディスは魂の抜けたアルフレッドを見てぽんぽんと肩を叩く。
慰めのつもりだろう。だが、彼は無反応だ。
「鑑定の結果、あの骨はエミリア殿ではないと思われます」
驚異的なスピードで検査したため、不備があるかもしれないと言いつつも、わずかに残っていた髪の色や骨格、骨の長さ等からその遺体はほぼ『エミリアではない誰か』という結論が下された。
ハディスはそれを証明する書面をアルフレッドに渡す。
「そんな…。私は確かに彼女の死を確認したのに…」
「公爵。彼女がいるとするならば、おそらく離宮だ。囮作戦決行の日、彼女を見つけた場合にはその身柄も確保する。良いな?」
呆然と立ち尽くし、鑑定結果を眺めるアルフレッドは返事ができない。
彼の様子に、これ以上の話し合いは不可能と判断したヘンリーは今日のところは解散しようとウィンターソン公爵夫妻を屋敷まで送った。
屋敷までの間、ずっと呆けているアルフレッドの手をシャロンが引いて歩く。
アルフレッドは自分の手を握るシャロンをぼーっと眺めながら、ふと、先日の彼女の言葉を思い出した。
『例えば今ここにエミリア様がいたとして、旦那様はどちらか一人しか選んではいけないとなった場合、どちらを選びますか?』
あの時は『仮定』だったその言葉が『現実』となろうとしていた。
何度ももう一度会いたいと願ってきたエミリアに会えるかもしれないのに、彼の心は動揺が勝り、少しも喜べない。
その日、アルフレッドは帰宅してから一言も言葉を発さずに眠りについた。
ジルフォード侯爵が臓器移植の魔術を使っていると考えるのなら、状況的に病に倒れた国王のためであると考えるのが自然だろう。
確かに王は5年ほど前から度々病に伏せることがあった。
体が悪くなるたびに、他人から健康なパーツを貰い受けていたという可能性は十分にある。
しかし、ヘンリーは首を横に振った。
「いや、陛下の血液型はABではない」
うーん、と唸り声をあげて考え込むアルフレッドに、俯いて顔をしかめるヘンリー。
シャロンは一度何かを言いかけて、その言葉を飲み込んだ。
「何か言いたいことがあるなら言って良いぞ、シャロン」
「いえ…たいしたことではないんですが…。そういえば、AB型でしたよね…彼女」
その言葉に、ヘンリーはフッと仄暗い笑みを浮かべた。
キョトンとするアルフレッドを横目に、シャロンは言葉を続けた。
「…昔、こんな噂を聞いたことがあります。国王陛下が彼女に横恋慕していたとか」
アルフレッドとの婚姻を猛反対していたのは、『王もまた、エミリアを求めていたからだ』と一部の御婦人が噂してたのを昔聞いたことがある、とシャロンは言う。
その噂は、愛妻家と名高い王のイメージを下げるために意図的に流されたものだとされ、誰も本気にはしていなかったが…。今となっては怪しい。
「シャロンはそう考えるのか?」
「はい」
「陛下が彼女欲しさに国の宝である魔術師を殺していると?」
「…はい」
「そうか…実は俺も同じことを考えていた」
「…怪しさしかありませんものね」
「えーっと、何の話です?」
話に入っていけないアルフレッドは首を傾げる。
ヘンリーは言いづらそうに口を開いた。
「…公爵。君の前妻は生きているかもしれない」
「…………は?」
これでもかというほどの間を開けて、「は?」と声を発したアルフレッドは、そのまま口を大きく開けた状態で固まってしまった。
その後、シャロンの推論を元に、エミリアが生きている可能性についてヘンリーから説明されたが、おそらく何も頭に入っていない。
ヘンリーはシャロンに目配せし、落ち着いたら再度説明するよう目で訴えた。
「というわけで、今、確証を得るためにハディスに君の屋敷にある墓を掘り返させている」
アルフレッドの意識をこちらに戻すため、ヘンリーは笑顔でそう言い放つ。
どうやらハディスは今、王太子からの正式な命により、公爵邸で墓を掘り返しているらしい。
「はあ!?何許可なく勝手に!」
愛しき前妻の墓を許可なく掘り返されているアルフレッドは、ハッと意識を取り戻し、声を上げた。
「大丈夫だ。ハディスなら綺麗に元通りにできるから、間違っていたとしても問題ない」
「いやいやいや、問題しかありませんよ!?死者への冒涜ですよ!」
「大丈夫大丈夫。その推論はほぼ間違いないから」
「そんなことって…」
王族って怖い、とアルフレッドはブルっと肩を震わせた。
そんな彼を見て、シャロンは少し申し訳なくなったが、かける言葉が見つからない。
彼女とて墓を掘り返すことには賛成していたからだ。
そして数時間後。戻ってハディスは魂の抜けたアルフレッドを見てぽんぽんと肩を叩く。
慰めのつもりだろう。だが、彼は無反応だ。
「鑑定の結果、あの骨はエミリア殿ではないと思われます」
驚異的なスピードで検査したため、不備があるかもしれないと言いつつも、わずかに残っていた髪の色や骨格、骨の長さ等からその遺体はほぼ『エミリアではない誰か』という結論が下された。
ハディスはそれを証明する書面をアルフレッドに渡す。
「そんな…。私は確かに彼女の死を確認したのに…」
「公爵。彼女がいるとするならば、おそらく離宮だ。囮作戦決行の日、彼女を見つけた場合にはその身柄も確保する。良いな?」
呆然と立ち尽くし、鑑定結果を眺めるアルフレッドは返事ができない。
彼の様子に、これ以上の話し合いは不可能と判断したヘンリーは今日のところは解散しようとウィンターソン公爵夫妻を屋敷まで送った。
屋敷までの間、ずっと呆けているアルフレッドの手をシャロンが引いて歩く。
アルフレッドは自分の手を握るシャロンをぼーっと眺めながら、ふと、先日の彼女の言葉を思い出した。
『例えば今ここにエミリア様がいたとして、旦那様はどちらか一人しか選んではいけないとなった場合、どちらを選びますか?』
あの時は『仮定』だったその言葉が『現実』となろうとしていた。
何度ももう一度会いたいと願ってきたエミリアに会えるかもしれないのに、彼の心は動揺が勝り、少しも喜べない。
その日、アルフレッドは帰宅してから一言も言葉を発さずに眠りについた。
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