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本編
57:離宮に乗り込む
夢を見た。
愛しい彼女が泣いている夢だった。
あれは、どちらだったのだろう。
***
餌を撒いて3日。
アルフレッドがまだ気持ちを整理できていない中、餌は姿を消した。
彼を使った囮作戦の概要はこうだ。
まず、離宮にいるジルフォード侯爵に次の獲物をエディにするよう暗号化した手紙を送る。
彼が反応するかは分からないので、念のためこの件に関与していそうな貴族の元に彼を通わせる。
どちらかが反応し、エディを誘拐すれば、彼に取り付けた対魔術師用の対策が施された発信機を頼りに彼の元へと行き、ササッと関係者を現行犯逮捕しようという流れだ。
そして昨夜、ヘンリーを騙る手紙で東の離宮近くの庭園に呼び出されたエディはそのまま姿を消したらしい。
作戦を再確認しつつ、一行は立ち入り禁止の区間を通りすぎ、離宮へと辿りついた。
「さあ、シャロン。準備はいいかい?」
「はい」
「よし!では乗り込むぞ!」
「おー?」
拳を突き上げるヘンリーに促され、シャロンも同じように拳を突き上げて返事をした。
王が静養中の離宮の前、警備していた衛兵を薙ぎ倒したアルフレッドは他の騎士達に任せ、堂々と離宮の正門から中へと入ろうとする二人に待ったをかける。
「ちょっと!先々行かないでください!そんな堂々と入って大丈夫なんですか?」
「中はハディスと数名の魔術師が先行している。誰かいたとしても、もう捕縛した頃だろう。故に我々は堂々と地下まで進もう」
「…えぇー」
危機感のない護衛対象と、父の心配より好奇心が勝っていることを隠そうとして変な顔になっている妻を守りつつ、この離宮を制圧せねばならないアルフレッドは頭を抱えた。
しかし、そんな彼の苦労を知らない二人は堂々と離宮の扉を開ける。
重厚感のある扉からはギギギッと不穏な音が鳴り、高い天井に響く。
薄暗い離宮の中は不自然なほどに冷え切っていて、肌を刺すような冷たい空気が彼らを歓迎した。
幽霊が出そうな回廊を少しばかり屁っ放り腰になりながら歩くアルフレッド。
その後ろにシャロン、ヘンリー、そして数名の騎士と続いた。
「旦那様、エディは地下だそうです」
「エディと書いて餌と読むのはやめてあげなさい、シャロン」
「ではエディで」
「…あいつ、学院時代に何をしたんだ?」
シャロンの恨みが異様に根深い。
「色々されましたが、一番不快だったのは、羽交い締めにされて虫を食べさせられそうになった事ですね。…まあもちろん未遂ですけど」
「ひっ…」
虫嫌いのアルフレッドは想像しただけで吐き気がし、思わず悲鳴を上げた。
最近の若者はかなりえげつないことをするらしい。アルフレッドはそれに耐えたのかと、シャロンを見る。
すると、彼女は不敵な笑みを浮かべた。どうやら、やられっぱなしではなかったらしい。流石だ。
ちなみにシャロンはそのいじめを受けた数日後、彼らのお茶会の給仕をさせられた際に、薬になる虫を乾燥させてすり潰し、奴らの紅茶に混ぜたそうだ。
『まあまあだな』、と尊大な態度で紅茶を飲み干した彼らを見て内心笑いが止まらなかったと話す妻に、アルフレッドは今後彼女との喧嘩は避けようと心に誓った。
「殿下!」
ふと、どこからともなく聞こえてきた声に、アルフレッドはビクッと肩を硬らせる。
キョロキョロとあたりを見渡すも誰もいない。
「え、うそ。幽霊…」
「旦那様、上です上」
後ろにいたシャロンが指差す先を見ると、真っ黒な服に身を包んだハディスが天井に張り付いていた。
「…G」
「誰がGだ」
G呼ばわりしてくるアルフレッドを睨みつつ、ハディスはくるりと一回転してヘンリーの前に降り立った。
「離宮内に怪しい人物はいませんでした。というか、誰もいません。怖い」
「陛下もいないのか」
「はい。あと、餌がいるはずの地下への階段がありません」
「…なるほど。隠されているのか」
「おそらくは」
ヘンリーはフッと乾いた笑みをこぼした。
明らかに不自然に人払がされている離宮。
ここにいるはずの王はどこにいるのか。彼が地下への通路を隠しているとするならば、そこで一体何をしているのか。
ヘンリーはぎゅっと目を閉じると、全神経を集中させ、エディの発信機の位置を確認した。
離宮の設計図を取り出したシャロンは、現在位置を確かめつつ、ヘンリーの返事を待つ。
目を開けたヘンリーは設計図を確認するが、やはり発信機のある場所は地下で間違いない。
「とりあえず、ここらの壁を探ろう。本来ならこの辺り地下への通路があるはずだから」
「御意」
その場にいた者で周囲を隈なく捜索するがそれらしき扉もなければ、隠し扉やそれを開けるスイッチのようなものもない。
もちろん幻術がかけられているということもない。
全員か首を傾げる中、シャロンは壁に耳を当て横歩きで少しづつ移動し始めた。
「シャロン、何をして…」
「あ、ここです」
「へ?」
「ここから風の音がします」
ハディスはシャロンが指差す場所に、彼女と同じように耳を当てる。
「なるほど」
何かを納得したようにそう呟くと、彼は壁に両手をついて、すうっと息を吸った。
そして吐き出す息と一緒に魔力を放つ。
すると、ぼろぼろと壁が崩れ落ち、崩れた壁の先からは階段が現れた。
「おお…」
「さすがA級魔術師」
単に魔力をぶつけて力任せに壁を壊しただけだが、騎士団の面々に褒められたハディスは恥ずかしそうに後頭部をかく。
さて、この先には誰がいるのだろう。
父か、王か、餌(エディ)か、それとも…
愛しい彼女が泣いている夢だった。
あれは、どちらだったのだろう。
***
餌を撒いて3日。
アルフレッドがまだ気持ちを整理できていない中、餌は姿を消した。
彼を使った囮作戦の概要はこうだ。
まず、離宮にいるジルフォード侯爵に次の獲物をエディにするよう暗号化した手紙を送る。
彼が反応するかは分からないので、念のためこの件に関与していそうな貴族の元に彼を通わせる。
どちらかが反応し、エディを誘拐すれば、彼に取り付けた対魔術師用の対策が施された発信機を頼りに彼の元へと行き、ササッと関係者を現行犯逮捕しようという流れだ。
そして昨夜、ヘンリーを騙る手紙で東の離宮近くの庭園に呼び出されたエディはそのまま姿を消したらしい。
作戦を再確認しつつ、一行は立ち入り禁止の区間を通りすぎ、離宮へと辿りついた。
「さあ、シャロン。準備はいいかい?」
「はい」
「よし!では乗り込むぞ!」
「おー?」
拳を突き上げるヘンリーに促され、シャロンも同じように拳を突き上げて返事をした。
王が静養中の離宮の前、警備していた衛兵を薙ぎ倒したアルフレッドは他の騎士達に任せ、堂々と離宮の正門から中へと入ろうとする二人に待ったをかける。
「ちょっと!先々行かないでください!そんな堂々と入って大丈夫なんですか?」
「中はハディスと数名の魔術師が先行している。誰かいたとしても、もう捕縛した頃だろう。故に我々は堂々と地下まで進もう」
「…えぇー」
危機感のない護衛対象と、父の心配より好奇心が勝っていることを隠そうとして変な顔になっている妻を守りつつ、この離宮を制圧せねばならないアルフレッドは頭を抱えた。
しかし、そんな彼の苦労を知らない二人は堂々と離宮の扉を開ける。
重厚感のある扉からはギギギッと不穏な音が鳴り、高い天井に響く。
薄暗い離宮の中は不自然なほどに冷え切っていて、肌を刺すような冷たい空気が彼らを歓迎した。
幽霊が出そうな回廊を少しばかり屁っ放り腰になりながら歩くアルフレッド。
その後ろにシャロン、ヘンリー、そして数名の騎士と続いた。
「旦那様、エディは地下だそうです」
「エディと書いて餌と読むのはやめてあげなさい、シャロン」
「ではエディで」
「…あいつ、学院時代に何をしたんだ?」
シャロンの恨みが異様に根深い。
「色々されましたが、一番不快だったのは、羽交い締めにされて虫を食べさせられそうになった事ですね。…まあもちろん未遂ですけど」
「ひっ…」
虫嫌いのアルフレッドは想像しただけで吐き気がし、思わず悲鳴を上げた。
最近の若者はかなりえげつないことをするらしい。アルフレッドはそれに耐えたのかと、シャロンを見る。
すると、彼女は不敵な笑みを浮かべた。どうやら、やられっぱなしではなかったらしい。流石だ。
ちなみにシャロンはそのいじめを受けた数日後、彼らのお茶会の給仕をさせられた際に、薬になる虫を乾燥させてすり潰し、奴らの紅茶に混ぜたそうだ。
『まあまあだな』、と尊大な態度で紅茶を飲み干した彼らを見て内心笑いが止まらなかったと話す妻に、アルフレッドは今後彼女との喧嘩は避けようと心に誓った。
「殿下!」
ふと、どこからともなく聞こえてきた声に、アルフレッドはビクッと肩を硬らせる。
キョロキョロとあたりを見渡すも誰もいない。
「え、うそ。幽霊…」
「旦那様、上です上」
後ろにいたシャロンが指差す先を見ると、真っ黒な服に身を包んだハディスが天井に張り付いていた。
「…G」
「誰がGだ」
G呼ばわりしてくるアルフレッドを睨みつつ、ハディスはくるりと一回転してヘンリーの前に降り立った。
「離宮内に怪しい人物はいませんでした。というか、誰もいません。怖い」
「陛下もいないのか」
「はい。あと、餌がいるはずの地下への階段がありません」
「…なるほど。隠されているのか」
「おそらくは」
ヘンリーはフッと乾いた笑みをこぼした。
明らかに不自然に人払がされている離宮。
ここにいるはずの王はどこにいるのか。彼が地下への通路を隠しているとするならば、そこで一体何をしているのか。
ヘンリーはぎゅっと目を閉じると、全神経を集中させ、エディの発信機の位置を確認した。
離宮の設計図を取り出したシャロンは、現在位置を確かめつつ、ヘンリーの返事を待つ。
目を開けたヘンリーは設計図を確認するが、やはり発信機のある場所は地下で間違いない。
「とりあえず、ここらの壁を探ろう。本来ならこの辺り地下への通路があるはずだから」
「御意」
その場にいた者で周囲を隈なく捜索するがそれらしき扉もなければ、隠し扉やそれを開けるスイッチのようなものもない。
もちろん幻術がかけられているということもない。
全員か首を傾げる中、シャロンは壁に耳を当て横歩きで少しづつ移動し始めた。
「シャロン、何をして…」
「あ、ここです」
「へ?」
「ここから風の音がします」
ハディスはシャロンが指差す場所に、彼女と同じように耳を当てる。
「なるほど」
何かを納得したようにそう呟くと、彼は壁に両手をついて、すうっと息を吸った。
そして吐き出す息と一緒に魔力を放つ。
すると、ぼろぼろと壁が崩れ落ち、崩れた壁の先からは階段が現れた。
「おお…」
「さすがA級魔術師」
単に魔力をぶつけて力任せに壁を壊しただけだが、騎士団の面々に褒められたハディスは恥ずかしそうに後頭部をかく。
さて、この先には誰がいるのだろう。
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