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本編
61:祈りの間
ハディス達が足を踏み入れた先は、神殿の祈りの間にも似た円形状の広間だった。
高い天井には豪奢なシャンデリア。いくつかの複雑な彫刻が施された大きな柱に、大理石の床。
真正面の壁に埋め込まれたステンドグラスは、太陽の光を反射しているかのように美しい光を放っていた。
地下なのに、地下らしくない神々しさがある異様な空間。
その広間の中央の床には、特殊なチョークで描かれた複雑な魔法陣が描かれていた。
所々に赤黒く変色した血痕らしき痕が見える。
そこで何かが行われているのは明白だった。
シャロンは唇を噛み締め、広間の隅に規則正しく並べられた遺体を端から調べ始める。
骨だけになったものもあるが、まだ人の形を保っているものの方が多い印象だ。
「匂いがしないのが不思議ですね」
これだけの死体があれば、今頃は腐敗臭で鼻がもげていてもおかしくはない。
原型をとどめている遺体を解体しながら調べものをするシャロンは、広間の片隅で待機するヘンリーに話しかけた。
「腐敗を遅らせる術、そして匂いを変える術がかけられている。棺桶を運び込めないから、せめて現状を維持しようとしたのだろう」
繊細な術のかけ方から見るにジルフォード侯爵の仕業だろう、とヘンリーは言う。
父らしいとも思うし、もっと他にできることがあっただろうとも思うと、シャロンは何とも複雑な気持ちになる。
「どうだ?何かわかったか?」
「共通して無いのは心臓ですね」
「…やはり臓器移植の線は当たりか」
「まだ全部見れてませんが多分そうでしょうね」
頬に付着した血液を拭いながら次々と解体していくシャロンとそれ魔術で元に戻すハディス。
暗殺部隊に所属するハディスはともかく、何故シャロンはここまで抵抗がないのか。何故そんなに手際良く解体しているのか。
ヘンリーは無の表情で次々と死体を裂くシャロンに寒気がした。
「なあ、俺も調べたほうが早くないか?」
「いけません。遺体に触れて何か変な病が移っては困りますもの」
「大丈夫だろ。その時はお前たちが何とかしてくれるだろ?」
ジルフォード侯爵家は医者の家系だ。病に罹っても大丈夫だとヘンリーは主張する。
しかし、ハディスとシャロンは顔を見合わせて鼻で笑った。
「殿下、俺は『殺す』専門なので『治す』はできないんですよ」
「そして、私の医術は全て独学なのでアテにすると多分痛い目を見ます」
「…まじか」
胸を張ってそう言うジルフォード兄妹に、ヘンリーは心底落胆した。
「そんなに暇なら、その辺の扉を適当に調べておいてくださいよ。もしかしたら見つかるかも」
「それもそうだ」
ハディスに言われ、ヘンリーは円形状の広間の片隅にある扉を一つずつ慎重に開けていく。
扉の向こうは倉庫だったり、簡易キッチンだったりとさまざまだ。
「普通に地下で生活できそうだな」
意外にも綺麗にされている部屋に感心しつつ、ヘンリーは最後の扉に手をかけると、中の音を確認し、少しだけ扉を開けた。
そして、一瞬停止した後、そのままゆっくりと扉を閉めた。
見てはいけないものを見たような顔のヘンリーに、ハディスはどうしたのかと尋ねる。
「顔面蒼白ですけど、何かありました?」
「首輪をつけられて柱に繋がれた変態が上半身裸で踊っていた」
「「…は?」」
ジルフォード兄妹は、2人揃って怪訝な顔をした。
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