64 / 129
本編
63:ただ息をしているだけ(2)
「シャロン。エミリア・カーティスの具合はどうだ?」
「衰弱が酷いです。それに生気がない。まるで廃人です」
ヘンリーからの問いにそう答えたシャロンは、奥歯をぎりっと噛み締めた。
ぱっと見は以前の美貌を保っているように見えるが、布団を捲るとほとんど骨と皮の体が露わになる。筋力の衰えた手足ではおそらく歩くこともままならないだろう。
痩せた体を隠すために着せられたふわっとした形の白いワンピースに、痩せこけた頬と血色の悪い肌を誤魔化すために厚く塗られた化粧は、彼女の姿をより痛々しく見せる。
そして何より、先ほどから体を隈なく調べられているのにも関わらず一切の反応を示さない虚な瞳。その目には何も映っていない。
エミリアかろうじて息をしているだけという状態だった。
シャロンはふと、ベッドサイドに置かれた小さな丸いテーブルに視線を落とす。
そこには食べやすいよう一口サイズにカットされたフルーツが置いてあった。
明らかにエミリアのために用意されたそれに、彼女が手をつけた様子はない。
ここの地下で何が起こっているのかはわからないが、少なくとも彼女はそのフルーツが食べられないくらいに弱っているということは確かだった。
(ただ息をしているだけ、という感じね…)
カットされたイチゴ手にしたシャロンは、それをエミリアの口元に運んだ。
無理矢理に口に突っ込むと彼女はそれをゆっくり咀嚼し始める。その様子に、シャロンは少しホッとした。
「手ずから食べさせると食べるのか」
「そうみたいですね」
与えられたものは一応食べるが、自ら進んで食べようとはしない。
次はバナナを与えてみたが、エミリアは同じように口に突っ込まれると一応咀嚼するだけだった。
「これは魔術による臓器移植を受けた弊害か?」
「なんとも言えませんね…」
体に切開の後はない。彼らの推論が正しければ彼女は魔術による臓器移植を受けている。
だが、シャロンが断言できることはひどく衰弱していることと、心が死んでいることくらいだ。
何が原因で彼女がここまで衰弱しているのか、廃人のようになっているのかまでは特定できない。
「殿下、ひとまず隠れましょう」
「そうだな」
ハディスからの進言で、ヘンリーとシャロンは受け取ったハンカチに魔力を込める。
「え、待って。俺の分は?」
魔具をもらっていないエディはキョトンと首を傾げた。
ハディスは「忘れていた」と、エディを柱の方へと来るように手招きする。
そして、首輪についた鎖を手に取ると、その鎖を柱に巻きつけた。
「え?何して…」
「陛下が来て、お前の姿がなければおかしいだろ?」
「え、うそ…助けてくれないんですか?」
「最終的には助ける…つもりだ。多分、きっと」
「何その曖昧な返事!やっぱり関わるんじゃなかった!!」
「はっはっは。もう遅い」
「ちくしょう!ふざけんなよ!」
そもそも魔力封じの首輪をしている彼に魔具は使えない。
喚くエディを無視し、3人は部屋の隅で布を被り、姿を消した。
数分後、部屋にジルフォード侯爵と一人の男がやってきた。
「何か変わったことはなかったかい?エディ・クラーク」
「い、いえ。何も…」
エディは侯爵が連れてきた男の顔を見て、動揺が隠せない。
侯爵はそんな彼の様子にフッと笑みをこぼしつつ、エミリアに近づいた。
「エミリー、君の最愛の人が来たよ」
侯爵は優しくエミリアに声をかける。
すると、エミリアは体を起こし、か細い声でその最愛の人の名を呼んだ。
「アル…。アルフレッド…」
細い両手を広げて、涙を流して抱擁を求めるエミリア。
彼女のそれに答えたのは、アルフレッド・カーティスによく似た男だった。
「衰弱が酷いです。それに生気がない。まるで廃人です」
ヘンリーからの問いにそう答えたシャロンは、奥歯をぎりっと噛み締めた。
ぱっと見は以前の美貌を保っているように見えるが、布団を捲るとほとんど骨と皮の体が露わになる。筋力の衰えた手足ではおそらく歩くこともままならないだろう。
痩せた体を隠すために着せられたふわっとした形の白いワンピースに、痩せこけた頬と血色の悪い肌を誤魔化すために厚く塗られた化粧は、彼女の姿をより痛々しく見せる。
そして何より、先ほどから体を隈なく調べられているのにも関わらず一切の反応を示さない虚な瞳。その目には何も映っていない。
エミリアかろうじて息をしているだけという状態だった。
シャロンはふと、ベッドサイドに置かれた小さな丸いテーブルに視線を落とす。
そこには食べやすいよう一口サイズにカットされたフルーツが置いてあった。
明らかにエミリアのために用意されたそれに、彼女が手をつけた様子はない。
ここの地下で何が起こっているのかはわからないが、少なくとも彼女はそのフルーツが食べられないくらいに弱っているということは確かだった。
(ただ息をしているだけ、という感じね…)
カットされたイチゴ手にしたシャロンは、それをエミリアの口元に運んだ。
無理矢理に口に突っ込むと彼女はそれをゆっくり咀嚼し始める。その様子に、シャロンは少しホッとした。
「手ずから食べさせると食べるのか」
「そうみたいですね」
与えられたものは一応食べるが、自ら進んで食べようとはしない。
次はバナナを与えてみたが、エミリアは同じように口に突っ込まれると一応咀嚼するだけだった。
「これは魔術による臓器移植を受けた弊害か?」
「なんとも言えませんね…」
体に切開の後はない。彼らの推論が正しければ彼女は魔術による臓器移植を受けている。
だが、シャロンが断言できることはひどく衰弱していることと、心が死んでいることくらいだ。
何が原因で彼女がここまで衰弱しているのか、廃人のようになっているのかまでは特定できない。
「殿下、ひとまず隠れましょう」
「そうだな」
ハディスからの進言で、ヘンリーとシャロンは受け取ったハンカチに魔力を込める。
「え、待って。俺の分は?」
魔具をもらっていないエディはキョトンと首を傾げた。
ハディスは「忘れていた」と、エディを柱の方へと来るように手招きする。
そして、首輪についた鎖を手に取ると、その鎖を柱に巻きつけた。
「え?何して…」
「陛下が来て、お前の姿がなければおかしいだろ?」
「え、うそ…助けてくれないんですか?」
「最終的には助ける…つもりだ。多分、きっと」
「何その曖昧な返事!やっぱり関わるんじゃなかった!!」
「はっはっは。もう遅い」
「ちくしょう!ふざけんなよ!」
そもそも魔力封じの首輪をしている彼に魔具は使えない。
喚くエディを無視し、3人は部屋の隅で布を被り、姿を消した。
数分後、部屋にジルフォード侯爵と一人の男がやってきた。
「何か変わったことはなかったかい?エディ・クラーク」
「い、いえ。何も…」
エディは侯爵が連れてきた男の顔を見て、動揺が隠せない。
侯爵はそんな彼の様子にフッと笑みをこぼしつつ、エミリアに近づいた。
「エミリー、君の最愛の人が来たよ」
侯爵は優しくエミリアに声をかける。
すると、エミリアは体を起こし、か細い声でその最愛の人の名を呼んだ。
「アル…。アルフレッド…」
細い両手を広げて、涙を流して抱擁を求めるエミリア。
彼女のそれに答えたのは、アルフレッド・カーティスによく似た男だった。
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。
みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。
ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。
失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。
ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。
こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。
二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?
宮永レン
恋愛
没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。
ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。
仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。