【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

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本編

75:突入(2)


 王がエミリアの特殊な能力について話終えた頃、小さな穴から中の様子を覗いていたアルフレッドは拳を握りしめて険しい顔をしていた。
 血が滲むほど強く拳を握る彼の様子に、ハディスの部下である魔術師の彼は、恐る恐る声をかける。

「騎士団長、あの、大丈夫ですか?」
「何がだ」
「いや、その…」

 エミリアへの感情が偽物であったという事実に加え、死んだと思っていたエミリアが生きていた事実やその事情。
 多分アルフレッドが知りたくなかった事が一気に明かされた。きっと並の人間では動揺から取り乱してしまってもおかしくはない。
 ましてやアルフレッドはエミリアをそれは大切にしていた。異常なほどに愛していた。
 きっと彼にはこの真実は耐えられないだろう、魔術師の彼はそう思った。

 しかし、アルフレッドは「問題ない」とだけ返した。

「大丈夫だ。話が難しすぎて全然頭に入って来てないから意外とダメージがない」

 魔術の分野の話が苦手な彼には変異種の話とか、魅了が魔力量に反比例する事などを一度で理解するのは難しいらしい。
 確かに前妻が生きていたことに対する喜びや驚きの感情はあるが、正直なところ理解できない前妻の事情よりも、視覚的に王に殴られたとわかるシャロンの方が心配すぎてどうにかなりそうだと彼は言う。

 シャロンが自分の気持ちを代弁してくれたからだろうか。それとも事実を受け止めきれていないだけだろうか。
 アルフレッドは自分でもびっくりするほどに落ちついていた。

「あ、大丈夫なら、その…良かったです…」

 今ここで取り乱されてはたまらない。
 魔術師の彼はアルフレッドは阿呆で良かったと心の底から思った。

「それより聞いたか?」
「何をです?」
「半裸男はエディらしい」
「…はぁ、そうですね」
「そして、あそこに横たわるのはエミリアらしい」
「そうですね…って、あれ?それってつまり…」
「そう。この部屋の中にいる敵は陛下のみだ。エディの状況がいまいちわからんが魔力が封じられているのなら、いくら軍人といえど私たちの騎士団の敵ではない」

 アルフレッドと魔術師の彼は顔をみ合わせて笑った。
 複数の魔術師がいるのなら隙をついて制圧するための策を練らねばならないと思っていたが、厄介な敵が王1人ならばなんとでもなる。

「問題はエミリアの不思議な力だ」
「そうですね」

 彼女の能力は魔力を持たない騎士たちには毒となる。
 アルフレッドは神妙な面持ちで魔術師の彼に尋ねた。

「…例えばの話だが、君は一度潰した声帯を元に戻すことはできるか?」
「…僕の技術では難しいです。僕もハディスさんも、基本的には『殺す』『壊す』ということしかできません。ジルフォード侯爵くらいの技術があれば復元できる可能性はありますが、それも確かではありません」
「そうか…」

 彼の返答に、アルフレッドは両手で顔を覆い「はぁー」と深くため息をついた。

「あの、騎士団長…」
「万が一の時は、頼みたい」
「…はい」

 何を頼まれたのか把握した魔術師の彼は悲痛な顔をしつつも、「お任せください」とつぶやいた。
 アルフレッドは自分の頬を両手で叩くと気合を入れ、その場にいた騎士たちに告げる。

「突入する」

 騎士たちは大きく頷いた。
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