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本編
76:困惑
それは一瞬の出来事だった。
ドアを蹴破り突入したアルフレッドは、王が咄嗟に放った身を切り裂くような鋭い風の術をかわすと、彼が次を放つよりも先に一瞬で間合いを詰め、その腹部に重い拳を打ち込んだ。
それにより、彼は5メートルほど後方へと吹き飛ぶ。
「うっ…、アルフレッド…貴様ぁ…」
腹部を抑え蹲る王が、『私にこんなことをしてタダで済むと思っているのか!?』か、もしくは『殺されると分かっているのによく来たな!』的な小物の悪役のような台詞を返そうと口を動かすも、アルフレッドは彼が言葉をあするよりも先にその頬を殴る。そして馬乗りになり、怯える彼を見下ろし、首をかしげた。
「死なない程度って…とりあえず軽く二、三発でいいのか?」
『死なない程度に殴って捕縛してください。剣は使用禁止です。今のあなたでは殺しかねないので』と事前に部下に念を押されていたアルフレッドは、どのくらい加減すれば死なないかがわからないのか、独り言のようにそう呟いた。
「や、やめろ…やめ…」
怯える王は咄嗟に首もとにある増幅装置を触る。
しかしその一瞬の動きをアルフレッドが見逃すはずもなく、彼はとりあえず軽く二、三発殴った。
「うっ…うう…」
「まだ意識があるのか…しぶといな…」
顔が原形をとどめていないがまだ意識があるようだ。生命力がGから始まる害虫並みである。
ならば仕方がないと、今度は胸ぐらを掴み頭突きをかました。
この瞬間、王の意識は途絶えた。
アルフレッドが「今だ」と叫ぶと、同行していた魔術師二名が何重にも魔力封じの術をかける。
あまりの速さに、手枷と縄を外し終えたところだったヘンリーやハディスは加勢する隙すらなかった。
「すっげぇ…速ぇ…」
「というか、腰の剣の意味…」
あんぐりと口を開けて呆然とするハディスとヘンリー。
アルフレッドはそんな彼らの視線に気づかず、魔術師と共に白目を剥いた王を柱に縛りつけると、その首から増幅装置を回収した。
「そっちはどうだ」
「制圧完了です」
アルフレッドとは別行動で、ジルフォード侯爵たちの捕縛を任されていた騎士の元には縛り上げられた侯爵とエディがいた。
暴れたために殴られたのだろうか。エディの頬は赤く腫れていた。
エディは縛り上げられてもなお、「エミリアの手術を早くしなければ!」と叫ぶ。
「魔力封じの首輪はそのままにしておいてくれ」
「了解です」
今ここで外して、エミリアの魅了が解ける保証はない。ならば魔術は封じておくに越したことはない。
アルフレッドはこのまま地上へ連行すると騎士たちに指示を出した。
この一部始終を呆然と眺めていたエミリアは、ぽつりと呟く。
「アル…?アルフレッド…?」
名を呼ばれたアルフレッドの心臓はドクンと跳ねた。
極力そちらを見ないようにしていたのに、たった一言名前を呼ばれただけで彼女に駆け寄り、彼女を抱きしめたくなるような衝動に駆られる。
ずっと求めていた。ずっと好きだったエミリアがそこにいる。
だがアルフレッドはもう以前のように盲目的に彼女に近づくことができない。
これは偽物だと危険だと訴えるように痛む脳と、本能に抗うなと高鳴る鼓動。
自分のこの感情が彼女の特殊な能力のせいだと認識している彼は、先ほどまでのシャロンと同じような状態に陥っていた。
「アル?アルなんでしょう?」
「こっちへきて?」
「会いたかった!ずっと会いたかった!」
「アル!愛してる!アル!!」
シャロンに抱き抱えられるようにして座るエミリアはそう叫びながら、その細い腕をアルフレッドの方へと伸ばした。
求められているアルフレッドは冷や汗を流し、自分を守るように自身の肩を抱きしめて体を小さくする。
きっと振り返ってしまったらもう終わりだ。また偽物の感情に支配される。
愛していたはずなのに、自分が持つ彼女に対する感情に自信が持てない。
「まずい!ハディス!」
「分かっています!」
ヘンリーは焦ってハディスに指示を出した。
ハディスはすぐ様、エミリアの声を潰そうと彼女の方に手を伸ばした。
しかしそれよりも先に、シャロンがエミリアの喉に触れる。
そして、彼女の喉を掻き切るかのように指を横へと滑らせた。
その瞬間、エミリアは喉を抑え、ヒューヒューと呼吸をし始める。
「お父様、あっていましたか?」
ジルフォード侯爵は娘の問いに目元に薄らと涙を浮かべて頷いた。
シャロンは悲しげに微笑むと、アルフレッドの名を呼ぶ。
アルフレッドはゆっくりとエミリアの方を振り返った。
「エミリア…」
自分の魅了が解けているのかはわからない。
エミリアへの情は確かに残っている。懐かしさも愛しさも切なさも全て自分の中にしっかりと残っている。
けれどそこにいるエミリアが、自分が本当に恋焦がれているエミリアであると、彼は自身を持って言えなかった。
困惑するアルフレッドは、結局エミリアに触れることができなかった。
シャロンは彼の代わりのつもりか、嗚咽を漏らしながらぎゅっとエミリアを抱きしめた。
エミリアは彼女の腕の中で踠きながら、声にならない吐息を漏らし、ずっとアルフレッドを求めていた。
ドアを蹴破り突入したアルフレッドは、王が咄嗟に放った身を切り裂くような鋭い風の術をかわすと、彼が次を放つよりも先に一瞬で間合いを詰め、その腹部に重い拳を打ち込んだ。
それにより、彼は5メートルほど後方へと吹き飛ぶ。
「うっ…、アルフレッド…貴様ぁ…」
腹部を抑え蹲る王が、『私にこんなことをしてタダで済むと思っているのか!?』か、もしくは『殺されると分かっているのによく来たな!』的な小物の悪役のような台詞を返そうと口を動かすも、アルフレッドは彼が言葉をあするよりも先にその頬を殴る。そして馬乗りになり、怯える彼を見下ろし、首をかしげた。
「死なない程度って…とりあえず軽く二、三発でいいのか?」
『死なない程度に殴って捕縛してください。剣は使用禁止です。今のあなたでは殺しかねないので』と事前に部下に念を押されていたアルフレッドは、どのくらい加減すれば死なないかがわからないのか、独り言のようにそう呟いた。
「や、やめろ…やめ…」
怯える王は咄嗟に首もとにある増幅装置を触る。
しかしその一瞬の動きをアルフレッドが見逃すはずもなく、彼はとりあえず軽く二、三発殴った。
「うっ…うう…」
「まだ意識があるのか…しぶといな…」
顔が原形をとどめていないがまだ意識があるようだ。生命力がGから始まる害虫並みである。
ならば仕方がないと、今度は胸ぐらを掴み頭突きをかました。
この瞬間、王の意識は途絶えた。
アルフレッドが「今だ」と叫ぶと、同行していた魔術師二名が何重にも魔力封じの術をかける。
あまりの速さに、手枷と縄を外し終えたところだったヘンリーやハディスは加勢する隙すらなかった。
「すっげぇ…速ぇ…」
「というか、腰の剣の意味…」
あんぐりと口を開けて呆然とするハディスとヘンリー。
アルフレッドはそんな彼らの視線に気づかず、魔術師と共に白目を剥いた王を柱に縛りつけると、その首から増幅装置を回収した。
「そっちはどうだ」
「制圧完了です」
アルフレッドとは別行動で、ジルフォード侯爵たちの捕縛を任されていた騎士の元には縛り上げられた侯爵とエディがいた。
暴れたために殴られたのだろうか。エディの頬は赤く腫れていた。
エディは縛り上げられてもなお、「エミリアの手術を早くしなければ!」と叫ぶ。
「魔力封じの首輪はそのままにしておいてくれ」
「了解です」
今ここで外して、エミリアの魅了が解ける保証はない。ならば魔術は封じておくに越したことはない。
アルフレッドはこのまま地上へ連行すると騎士たちに指示を出した。
この一部始終を呆然と眺めていたエミリアは、ぽつりと呟く。
「アル…?アルフレッド…?」
名を呼ばれたアルフレッドの心臓はドクンと跳ねた。
極力そちらを見ないようにしていたのに、たった一言名前を呼ばれただけで彼女に駆け寄り、彼女を抱きしめたくなるような衝動に駆られる。
ずっと求めていた。ずっと好きだったエミリアがそこにいる。
だがアルフレッドはもう以前のように盲目的に彼女に近づくことができない。
これは偽物だと危険だと訴えるように痛む脳と、本能に抗うなと高鳴る鼓動。
自分のこの感情が彼女の特殊な能力のせいだと認識している彼は、先ほどまでのシャロンと同じような状態に陥っていた。
「アル?アルなんでしょう?」
「こっちへきて?」
「会いたかった!ずっと会いたかった!」
「アル!愛してる!アル!!」
シャロンに抱き抱えられるようにして座るエミリアはそう叫びながら、その細い腕をアルフレッドの方へと伸ばした。
求められているアルフレッドは冷や汗を流し、自分を守るように自身の肩を抱きしめて体を小さくする。
きっと振り返ってしまったらもう終わりだ。また偽物の感情に支配される。
愛していたはずなのに、自分が持つ彼女に対する感情に自信が持てない。
「まずい!ハディス!」
「分かっています!」
ヘンリーは焦ってハディスに指示を出した。
ハディスはすぐ様、エミリアの声を潰そうと彼女の方に手を伸ばした。
しかしそれよりも先に、シャロンがエミリアの喉に触れる。
そして、彼女の喉を掻き切るかのように指を横へと滑らせた。
その瞬間、エミリアは喉を抑え、ヒューヒューと呼吸をし始める。
「お父様、あっていましたか?」
ジルフォード侯爵は娘の問いに目元に薄らと涙を浮かべて頷いた。
シャロンは悲しげに微笑むと、アルフレッドの名を呼ぶ。
アルフレッドはゆっくりとエミリアの方を振り返った。
「エミリア…」
自分の魅了が解けているのかはわからない。
エミリアへの情は確かに残っている。懐かしさも愛しさも切なさも全て自分の中にしっかりと残っている。
けれどそこにいるエミリアが、自分が本当に恋焦がれているエミリアであると、彼は自身を持って言えなかった。
困惑するアルフレッドは、結局エミリアに触れることができなかった。
シャロンは彼の代わりのつもりか、嗚咽を漏らしながらぎゅっとエミリアを抱きしめた。
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