【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

文字の大きさ
96 / 129
本編

96:好きだとは言わない

 結局、サイモンはシャロンを連れて帰ることを諦めた。
 幸いにも、公爵邸の使用人は信用できるし、シャロンと仲の良いシノアは彼女の異変にいち早く気づいてくれた。
 アルフレッドも『今後はどんな些細な変化も見逃さないよう努力する』と誓った。
 彼の言葉はさほど信用していないが、そんな彼を監視すると言っているセバスチャンの言葉は信用できる。
「お嬢をよろしくお願いします」と深々と頭を下げるサイモンに、セバスチャンはお任せくださいと微笑んだ。

「泊まっていかないの?」
「泊まって行って、性別の壁を超えたのだと誤解されたくないのでね」
「誤解なんてしないわよ…。期待はするけど」
「すっかり変な小説に毒されてるじゃないですか」

 わざわざエントランスまで見送りに来て、変な期待をしてくるシャロンにサイモンは深くため息をついた。
 公爵邸の図書室は一度ラインナップを見直す必要があるだろう。

「今日はありがとうね、サイモン」

 少し吹っ切れたようなシャロンの表情は少し明るかった。
 サイモンは彼女の前に跪くと、その両手を取る。

「お嬢。そんなに強くあろうとしなくていいよ」
「うん」
「辛いなら辛いってちゃんと言って」
「うん」
「いつもそばにいられるわけじゃないけど、俺はいつでも見てるから」
「うん…、ありがとう…」

 シャロンはサイモンの手をぎゅっと握り返すと、少し気まずそうに目を逸らせた。

「お嬢?」
「…ねえ、サイモン」
「なんですか?」
「もしかして、さ。その…」
「何?はっきり言って」
「サイモンは…その…私のこと、す、好きなの?」

 彼女のその言葉に、サイモンは一瞬思考が停止した。
 夫が隣にいるのに何故今それを言うのかとか、そういう配慮に欠けたところは兄にそっくりだとか、ようやく気づいたのか、とか色々言いたいこと脳内に溢れてくる。
 だが全てを飲み込み、『何故?』と言葉を絞り出した。

「だって、この間シノアがお勧めしてきた小説の主人公と同じことを言うから」
「…それって性別の壁を超えたやつ?」
「うん」
「どこで恋愛を学んでんだよ。せめてノーマルな恋愛小説から入りなさいよ」
「シノアが普通の恋愛小説よりも障害が大きい分、切なくて泣けると言っていたわ。最高の恋愛の教科書だと」
「…やっぱ連れて帰ろうかな」

 実は1番の危険人物は、あの侍女なのかもしれない。

「ねえ。ど、どうなの?」

 少し不安そうにサイモンを見下ろすシャロン。
 彼は立ち上がると、そんな彼女の頭を軽く小突いた。

「自意識過剰。妹を好きになるわけねーだろ」
「そ、そうよね!ごめんね、変なこと言って」
「調子に乗らんでください。旦那のナルシストが移ったか?」
「ナルシストじゃないもん!」
「はいはい」

 シャロンは彼の返答にほっと胸を撫で下ろした。

(…あからさまにホッとした顔してるんじゃねーよ)

 今「好きだ」と伝えてしまっても、彼女を混乱させるだけ。だからサイモンは本心を言わなかった。
 だが、ここまであからさまにホッとされると腹立たしくもなる。

「チッ。ほんと嫌いだわ、ウィンターソン公爵」
「私に八つ当たりするなよ、流石に理不尽だろう」
「貴様に俺の気持ちなどわかるものか」
「おい、本当にそろそろ怒るぞ?公爵だからな?私はこれでも公爵だからな?結構偉い人だからな?」
「じゃーね、お嬢」
「うん、ありがとう」
「無視すんなこら!気をつけて帰れよ、このやろー!!」

 サイモンは2人に背を向けたまま手を振った。


***

「疲れたー」

 公爵邸の門を出たところで、背伸びした。

 多分これでいいのだと思う。
 シャロンは少し吹っ切れたような顔をしていたし、今はそこまで心配せずとも大丈夫だろう。
 それに、彼女自身がここに残ると選択したのだから、後は公爵家の人間に任せるべきだ。
 彼女はウィンターソン公爵夫人なのだから。

「飲んで帰ろうかな…」

 なんとなく飲みたい気分になったサイモンは、飲み屋街の方に向かった。
 しかし、後ろから目つきの悪い怪しい男に声をかけられ、足を止める。

「何してんすか、ハディス様」
「今夜は金髪碧眼の美少年と遊ぼうかと」
「そういう冗談は今ちょっと聞きたくない」
「なんだよ、冷たいな。哀れなお前を迎えに来てやったのに」
「あんたの妹のせいで哀れな男になってるんですよ」
「では兄の俺が責任を取ってやろう」

 ハディスは趣味の悪い金色の財布をチラつかせる。
 どうやら奢ってくれるらしい。

「じゃあアリストンホテルの最上階のバーで。あそこの1番高いシャンパンが飲みたい」
「…よし、いつもの飲み屋に行こう!な!」
「金欠のくせに無理しなくても…」
「バカにすんなよ!我、貴族ぞ?」
「そうでしたね、では遠慮なく」

 この夜、兄のハディスは財布が空になるまで兄の責任を果たしたそうだ。
感想 151

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。

みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。 ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。 失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。 ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。 こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。 二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。