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本編
96:好きだとは言わない
結局、サイモンはシャロンを連れて帰ることを諦めた。
幸いにも、公爵邸の使用人は信用できるし、シャロンと仲の良いシノアは彼女の異変にいち早く気づいてくれた。
アルフレッドも『今後はどんな些細な変化も見逃さないよう努力する』と誓った。
彼の言葉はさほど信用していないが、そんな彼を監視すると言っているセバスチャンの言葉は信用できる。
「お嬢をよろしくお願いします」と深々と頭を下げるサイモンに、セバスチャンはお任せくださいと微笑んだ。
「泊まっていかないの?」
「泊まって行って、性別の壁を超えたのだと誤解されたくないのでね」
「誤解なんてしないわよ…。期待はするけど」
「すっかり変な小説に毒されてるじゃないですか」
わざわざエントランスまで見送りに来て、変な期待をしてくるシャロンにサイモンは深くため息をついた。
公爵邸の図書室は一度ラインナップを見直す必要があるだろう。
「今日はありがとうね、サイモン」
少し吹っ切れたようなシャロンの表情は少し明るかった。
サイモンは彼女の前に跪くと、その両手を取る。
「お嬢。そんなに強くあろうとしなくていいよ」
「うん」
「辛いなら辛いってちゃんと言って」
「うん」
「いつもそばにいられるわけじゃないけど、俺はいつでも見てるから」
「うん…、ありがとう…」
シャロンはサイモンの手をぎゅっと握り返すと、少し気まずそうに目を逸らせた。
「お嬢?」
「…ねえ、サイモン」
「なんですか?」
「もしかして、さ。その…」
「何?はっきり言って」
「サイモンは…その…私のこと、す、好きなの?」
彼女のその言葉に、サイモンは一瞬思考が停止した。
夫が隣にいるのに何故今それを言うのかとか、そういう配慮に欠けたところは兄にそっくりだとか、ようやく気づいたのか、とか色々言いたいこと脳内に溢れてくる。
だが全てを飲み込み、『何故?』と言葉を絞り出した。
「だって、この間シノアがお勧めしてきた小説の主人公と同じことを言うから」
「…それって性別の壁を超えたやつ?」
「うん」
「どこで恋愛を学んでんだよ。せめてノーマルな恋愛小説から入りなさいよ」
「シノアが普通の恋愛小説よりも障害が大きい分、切なくて泣けると言っていたわ。最高の恋愛の教科書だと」
「…やっぱ連れて帰ろうかな」
実は1番の危険人物は、あの侍女なのかもしれない。
「ねえ。ど、どうなの?」
少し不安そうにサイモンを見下ろすシャロン。
彼は立ち上がると、そんな彼女の頭を軽く小突いた。
「自意識過剰。妹を好きになるわけねーだろ」
「そ、そうよね!ごめんね、変なこと言って」
「調子に乗らんでください。旦那のナルシストが移ったか?」
「ナルシストじゃないもん!」
「はいはい」
シャロンは彼の返答にほっと胸を撫で下ろした。
(…あからさまにホッとした顔してるんじゃねーよ)
今「好きだ」と伝えてしまっても、彼女を混乱させるだけ。だからサイモンは本心を言わなかった。
だが、ここまであからさまにホッとされると腹立たしくもなる。
「チッ。ほんと嫌いだわ、ウィンターソン公爵」
「私に八つ当たりするなよ、流石に理不尽だろう」
「貴様に俺の気持ちなどわかるものか」
「おい、本当にそろそろ怒るぞ?公爵だからな?私はこれでも公爵だからな?結構偉い人だからな?」
「じゃーね、お嬢」
「うん、ありがとう」
「無視すんなこら!気をつけて帰れよ、このやろー!!」
サイモンは2人に背を向けたまま手を振った。
***
「疲れたー」
公爵邸の門を出たところで、背伸びした。
多分これでいいのだと思う。
シャロンは少し吹っ切れたような顔をしていたし、今はそこまで心配せずとも大丈夫だろう。
それに、彼女自身がここに残ると選択したのだから、後は公爵家の人間に任せるべきだ。
彼女はウィンターソン公爵夫人なのだから。
「飲んで帰ろうかな…」
なんとなく飲みたい気分になったサイモンは、飲み屋街の方に向かった。
しかし、後ろから目つきの悪い怪しい男に声をかけられ、足を止める。
「何してんすか、ハディス様」
「今夜は金髪碧眼の美少年と遊ぼうかと」
「そういう冗談は今ちょっと聞きたくない」
「なんだよ、冷たいな。哀れなお前を迎えに来てやったのに」
「あんたの妹のせいで哀れな男になってるんですよ」
「では兄の俺が責任を取ってやろう」
ハディスは趣味の悪い金色の財布をチラつかせる。
どうやら奢ってくれるらしい。
「じゃあアリストンホテルの最上階のバーで。あそこの1番高いシャンパンが飲みたい」
「…よし、いつもの飲み屋に行こう!な!」
「金欠のくせに無理しなくても…」
「バカにすんなよ!我、貴族ぞ?」
「そうでしたね、では遠慮なく」
この夜、兄のハディスは財布が空になるまで兄の責任を果たしたそうだ。
幸いにも、公爵邸の使用人は信用できるし、シャロンと仲の良いシノアは彼女の異変にいち早く気づいてくれた。
アルフレッドも『今後はどんな些細な変化も見逃さないよう努力する』と誓った。
彼の言葉はさほど信用していないが、そんな彼を監視すると言っているセバスチャンの言葉は信用できる。
「お嬢をよろしくお願いします」と深々と頭を下げるサイモンに、セバスチャンはお任せくださいと微笑んだ。
「泊まっていかないの?」
「泊まって行って、性別の壁を超えたのだと誤解されたくないのでね」
「誤解なんてしないわよ…。期待はするけど」
「すっかり変な小説に毒されてるじゃないですか」
わざわざエントランスまで見送りに来て、変な期待をしてくるシャロンにサイモンは深くため息をついた。
公爵邸の図書室は一度ラインナップを見直す必要があるだろう。
「今日はありがとうね、サイモン」
少し吹っ切れたようなシャロンの表情は少し明るかった。
サイモンは彼女の前に跪くと、その両手を取る。
「お嬢。そんなに強くあろうとしなくていいよ」
「うん」
「辛いなら辛いってちゃんと言って」
「うん」
「いつもそばにいられるわけじゃないけど、俺はいつでも見てるから」
「うん…、ありがとう…」
シャロンはサイモンの手をぎゅっと握り返すと、少し気まずそうに目を逸らせた。
「お嬢?」
「…ねえ、サイモン」
「なんですか?」
「もしかして、さ。その…」
「何?はっきり言って」
「サイモンは…その…私のこと、す、好きなの?」
彼女のその言葉に、サイモンは一瞬思考が停止した。
夫が隣にいるのに何故今それを言うのかとか、そういう配慮に欠けたところは兄にそっくりだとか、ようやく気づいたのか、とか色々言いたいこと脳内に溢れてくる。
だが全てを飲み込み、『何故?』と言葉を絞り出した。
「だって、この間シノアがお勧めしてきた小説の主人公と同じことを言うから」
「…それって性別の壁を超えたやつ?」
「うん」
「どこで恋愛を学んでんだよ。せめてノーマルな恋愛小説から入りなさいよ」
「シノアが普通の恋愛小説よりも障害が大きい分、切なくて泣けると言っていたわ。最高の恋愛の教科書だと」
「…やっぱ連れて帰ろうかな」
実は1番の危険人物は、あの侍女なのかもしれない。
「ねえ。ど、どうなの?」
少し不安そうにサイモンを見下ろすシャロン。
彼は立ち上がると、そんな彼女の頭を軽く小突いた。
「自意識過剰。妹を好きになるわけねーだろ」
「そ、そうよね!ごめんね、変なこと言って」
「調子に乗らんでください。旦那のナルシストが移ったか?」
「ナルシストじゃないもん!」
「はいはい」
シャロンは彼の返答にほっと胸を撫で下ろした。
(…あからさまにホッとした顔してるんじゃねーよ)
今「好きだ」と伝えてしまっても、彼女を混乱させるだけ。だからサイモンは本心を言わなかった。
だが、ここまであからさまにホッとされると腹立たしくもなる。
「チッ。ほんと嫌いだわ、ウィンターソン公爵」
「私に八つ当たりするなよ、流石に理不尽だろう」
「貴様に俺の気持ちなどわかるものか」
「おい、本当にそろそろ怒るぞ?公爵だからな?私はこれでも公爵だからな?結構偉い人だからな?」
「じゃーね、お嬢」
「うん、ありがとう」
「無視すんなこら!気をつけて帰れよ、このやろー!!」
サイモンは2人に背を向けたまま手を振った。
***
「疲れたー」
公爵邸の門を出たところで、背伸びした。
多分これでいいのだと思う。
シャロンは少し吹っ切れたような顔をしていたし、今はそこまで心配せずとも大丈夫だろう。
それに、彼女自身がここに残ると選択したのだから、後は公爵家の人間に任せるべきだ。
彼女はウィンターソン公爵夫人なのだから。
「飲んで帰ろうかな…」
なんとなく飲みたい気分になったサイモンは、飲み屋街の方に向かった。
しかし、後ろから目つきの悪い怪しい男に声をかけられ、足を止める。
「何してんすか、ハディス様」
「今夜は金髪碧眼の美少年と遊ぼうかと」
「そういう冗談は今ちょっと聞きたくない」
「なんだよ、冷たいな。哀れなお前を迎えに来てやったのに」
「あんたの妹のせいで哀れな男になってるんですよ」
「では兄の俺が責任を取ってやろう」
ハディスは趣味の悪い金色の財布をチラつかせる。
どうやら奢ってくれるらしい。
「じゃあアリストンホテルの最上階のバーで。あそこの1番高いシャンパンが飲みたい」
「…よし、いつもの飲み屋に行こう!な!」
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※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。