114 / 129
ifの世界線のお話
10:話し合い(1)
次の週、サイモンの姿は何故か王城のサロンにあった。
高い天井に豪華なシャンデリア。ふかふかのソファに金糸の刺繍が施されたクッション。
大きな窓から差し込む太陽の眩しい光が、宙に舞う埃を反射してキラキラと輝いて見える。
「…な、何故?」
暖炉前のソファに浅く腰掛けたサイモンは、絞り出したような小さな声でポツリと呟いた。
しかし彼が困惑するのも無理はない。何故ならここは本来、平民の身分では入る事が許されない場所。
サイモンは、明らかに場違いなこの部屋の雰囲気に肩を硬らせる。
隣に座るシャロンはそんな彼を見てクスッと笑みをこぼした。
「貴方が公爵邸以外の場所を指定したんでしょ?」
「確かにそうですが、城を指定した覚えはありません」
あくまでもシャロンが冷静でいられるようにという意味で公爵邸以外を指定した過ぎない。
だから別にジルフォードの家でも良かったのだ。それなのにハディスは何故か、わざわざこの場所を借りた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「そりゃあ、お嬢は慣れてるかもしれませんけどね?俺はこういう場所は数回しか来た事がないんですよ」
「本来なら貴族しか入れないところに来てるんだから、バレないように堂々としていなさい」
「む、むり…」
緊張しすぎて吐きそうだと言うサイモンの背中を、シャロンは仕方なくさすってやる。
そして彼の服を見ながら小さくため息をこぼした。
「というか、サイモン。服はその服しかなかったの?」
「城のサロンに入れる服を俺は持ってないので借りました」
「だれに?」
「ハディス様に」
ハディスに借りた趣味の悪い刺繍の入った背広を身に纏うサイモンは『恥ずかしいから服装に触れないで欲しい』と言い、顔を隠してしまう。
「何故、ハディス兄様に借りたのよ」
「ユアン様の方がマシでしたか?」
「2割くらいマシよ」
「マジかぁ…」
ジルフォード兄弟は揃いも揃って二人とも趣味が悪いが、長兄の方が2割ほどマシだったらしい。
選択を間違えたハディスは項垂れた。
「まあ、大丈夫よ。そんな服を着ていても、サイモンはかっこいいわ」
趣味の悪い背広も、金髪碧眼のイケメンが着れば様になるのだから不思議なものだとシャロンは言う。
無意識だろうが何だろうが、彼女に『かっこいい』と言われれば耳まで赤くなっても仕方がない。
「そんなに恥ずかしいなら着替えてくる?」
「恥ずかしいけど、恥ずかしい原因は別なやつだから気にしないで」
「そう?」
キョトンと首を傾げるシャロンが何だか腹立たしく、サイモンはとりあえずいつも通りにデコピンを食らわせた。
シャロンはおでこを抑えながら抗議する。
「何すんのよ」
「なんか腹立つから」
「意味わかんない」
頬を膨らませたシャロンはサイモンの両頬を摘み、横に引っ張った。
そして何を思ったか、不意にジーッと彼の目を見つめる。
「…にゃにするんでふか」
「サイモンの瞳って青だけど、どちらかというと海の青よね」
「は?」
瞳を覗こうと、グッと顔を近づけてくるシャロンにサイモンは焦った。
「お嬢、近い近い近い」
自分の頬を掴む彼女の手を掴み、後ろに体を晒せるサイモン。
平静を装うが心臓の鼓動はあり得ないほどに早くなっていた。
しかし、そんな彼の心情を沙汰することのできないシャロンは更に顔を近づける。
「サイモンの目、綺麗ね」
「どうもっす。あの、本当離れて…」
「…抉り出したい」
「真顔で言わないでください。怖い」
「冗談よ」
「表情筋死んでる奴が冗談を言うのは誤解を生むからやめなさい。あと、本当に近いって…」
迫ってくるシャロンにタジタジのサイモンを救ったのは、珍しく王太子の側仕えらしいキチンとした服装をしたハディスだった。
彼は妹の後頭部を軽く叩くと苦言を呈する。
「イチャついてんじゃねーぞ、コラ。ハディスお兄様ここにいるからね?」
実はずっと同じ部屋にいたハディスはまるで自分がいないかのように、平然とイチャつく二人に非難の視線を送る。
「シャロン、その距離感は良くない。離れなさい」
「兄様までそんなことを言うんですね。サイモンは家族よ?」
「違う。サイモンはただの異性だ、シャロン」
珍しく怒ったような顔をして睨みつけてくるハディスに、シャロンは納得できないという表情をしつつも、素直に座り直した。
「サイモンは家族だわ…」
「お前はそろそろ自分が酷い事をしていることに気づきなさい」
「意味がわかりません」
「わからないのなら節度ある距離感を保て」
兄が苛立っているという事実は理解できても、何故苛立っているのかが理解できないシャロンは眉を顰める。
険悪な空気が流れて居た堪れなくなったサイモンは、『もういい』とハディスを諌めた。
「お嬢、今から久しぶりの旦那様に会えますよ」
「う、うん」
「良かったですね」
「…どうして嫌味っぽい言い方をするの?」
「別に。気にしないでください」
嫌味っぽい口調でも表情は寂しそうなサイモンに、シャロンは首を傾げた。
高い天井に豪華なシャンデリア。ふかふかのソファに金糸の刺繍が施されたクッション。
大きな窓から差し込む太陽の眩しい光が、宙に舞う埃を反射してキラキラと輝いて見える。
「…な、何故?」
暖炉前のソファに浅く腰掛けたサイモンは、絞り出したような小さな声でポツリと呟いた。
しかし彼が困惑するのも無理はない。何故ならここは本来、平民の身分では入る事が許されない場所。
サイモンは、明らかに場違いなこの部屋の雰囲気に肩を硬らせる。
隣に座るシャロンはそんな彼を見てクスッと笑みをこぼした。
「貴方が公爵邸以外の場所を指定したんでしょ?」
「確かにそうですが、城を指定した覚えはありません」
あくまでもシャロンが冷静でいられるようにという意味で公爵邸以外を指定した過ぎない。
だから別にジルフォードの家でも良かったのだ。それなのにハディスは何故か、わざわざこの場所を借りた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「そりゃあ、お嬢は慣れてるかもしれませんけどね?俺はこういう場所は数回しか来た事がないんですよ」
「本来なら貴族しか入れないところに来てるんだから、バレないように堂々としていなさい」
「む、むり…」
緊張しすぎて吐きそうだと言うサイモンの背中を、シャロンは仕方なくさすってやる。
そして彼の服を見ながら小さくため息をこぼした。
「というか、サイモン。服はその服しかなかったの?」
「城のサロンに入れる服を俺は持ってないので借りました」
「だれに?」
「ハディス様に」
ハディスに借りた趣味の悪い刺繍の入った背広を身に纏うサイモンは『恥ずかしいから服装に触れないで欲しい』と言い、顔を隠してしまう。
「何故、ハディス兄様に借りたのよ」
「ユアン様の方がマシでしたか?」
「2割くらいマシよ」
「マジかぁ…」
ジルフォード兄弟は揃いも揃って二人とも趣味が悪いが、長兄の方が2割ほどマシだったらしい。
選択を間違えたハディスは項垂れた。
「まあ、大丈夫よ。そんな服を着ていても、サイモンはかっこいいわ」
趣味の悪い背広も、金髪碧眼のイケメンが着れば様になるのだから不思議なものだとシャロンは言う。
無意識だろうが何だろうが、彼女に『かっこいい』と言われれば耳まで赤くなっても仕方がない。
「そんなに恥ずかしいなら着替えてくる?」
「恥ずかしいけど、恥ずかしい原因は別なやつだから気にしないで」
「そう?」
キョトンと首を傾げるシャロンが何だか腹立たしく、サイモンはとりあえずいつも通りにデコピンを食らわせた。
シャロンはおでこを抑えながら抗議する。
「何すんのよ」
「なんか腹立つから」
「意味わかんない」
頬を膨らませたシャロンはサイモンの両頬を摘み、横に引っ張った。
そして何を思ったか、不意にジーッと彼の目を見つめる。
「…にゃにするんでふか」
「サイモンの瞳って青だけど、どちらかというと海の青よね」
「は?」
瞳を覗こうと、グッと顔を近づけてくるシャロンにサイモンは焦った。
「お嬢、近い近い近い」
自分の頬を掴む彼女の手を掴み、後ろに体を晒せるサイモン。
平静を装うが心臓の鼓動はあり得ないほどに早くなっていた。
しかし、そんな彼の心情を沙汰することのできないシャロンは更に顔を近づける。
「サイモンの目、綺麗ね」
「どうもっす。あの、本当離れて…」
「…抉り出したい」
「真顔で言わないでください。怖い」
「冗談よ」
「表情筋死んでる奴が冗談を言うのは誤解を生むからやめなさい。あと、本当に近いって…」
迫ってくるシャロンにタジタジのサイモンを救ったのは、珍しく王太子の側仕えらしいキチンとした服装をしたハディスだった。
彼は妹の後頭部を軽く叩くと苦言を呈する。
「イチャついてんじゃねーぞ、コラ。ハディスお兄様ここにいるからね?」
実はずっと同じ部屋にいたハディスはまるで自分がいないかのように、平然とイチャつく二人に非難の視線を送る。
「シャロン、その距離感は良くない。離れなさい」
「兄様までそんなことを言うんですね。サイモンは家族よ?」
「違う。サイモンはただの異性だ、シャロン」
珍しく怒ったような顔をして睨みつけてくるハディスに、シャロンは納得できないという表情をしつつも、素直に座り直した。
「サイモンは家族だわ…」
「お前はそろそろ自分が酷い事をしていることに気づきなさい」
「意味がわかりません」
「わからないのなら節度ある距離感を保て」
兄が苛立っているという事実は理解できても、何故苛立っているのかが理解できないシャロンは眉を顰める。
険悪な空気が流れて居た堪れなくなったサイモンは、『もういい』とハディスを諌めた。
「お嬢、今から久しぶりの旦那様に会えますよ」
「う、うん」
「良かったですね」
「…どうして嫌味っぽい言い方をするの?」
「別に。気にしないでください」
嫌味っぽい口調でも表情は寂しそうなサイモンに、シャロンは首を傾げた。
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。
みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。
ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。
失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。
ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。
こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。
二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?
宮永レン
恋愛
没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。
ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。
仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。