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ifの世界線のお話
15:恥ずかしいサイモン
逃げるように薬草園から去って行ったシャロンは、大急ぎで文をしたため、それを今から王宮に出向くハディスに託した。
血相を欠いて手紙を届けにきた彼女にハディスは何事かと首を傾げる。
「何?これ…」
「ラブレターです」
「え?お兄ちゃんに?やだぁ、照れちゃう」
「…は?」
「…は?って言うのはやめなさい。顔怖い」
ちょっとふざけただけなのに、心底嫌そうな顔をするシャロンにハディスは泣きたくなった。
妹とはこんなに兄を毛嫌いするものなのだろうか。切ない。
「ところで、シャロン。顔が赤いが、どうした?」
「へ!?」
兄からの指摘に、シャロンはエントランスの窓に映る自分を確認する。
すると確かに顔が赤かった。
「もしや、サイモンと何かあったか?」
「ふぇ!?」
少し低めの声でそう聞かれた彼女はドキリと肩を硬らせる。これはもうサイモン関連で何かあったことが確定だ。
ハディスは眉間に皺を寄せ、険しい顔をした。
この間、アルフレッドと極寒散歩をした日からシャロンは明らかに彼を意識している。
おそらく、彼が何かよからぬ事を吹き込んだのだろう。
だが、アルフレッドと離縁するからといっても、そう簡単にサイモンとどうこうなってもらっては困るハディスは複雑な心境だった。
(幸せにはなって欲しいんだけどなぁ…)
幸せにはなって欲しいが、ただでさえ、烏公爵とのスピード離婚で騒がれるだろうことは目に見えているのに、その上で離縁してすぐ平民と結ばれるというのは中々の醜聞だ。
ハディスは紅潮させた頬を包むようにして『何もない』と繰り返すシャロンの頭を撫で回した。
***
一方その頃。
仕事を終えたサイモンは使用人たちにシャロンの居場所を聞いて回っていた。
だが誰に聞いても、皆ニヤニヤとするだけで答えてはくれない。
あれは本当に自分に名を呼ばれたから顔を赤らめたのか、それとも別の理由なのか。
彼はそれが知りたくて仕方がないのに、誰も何も教えてはくれない。
「いやいやいや。何を期待してるんだよ、恥ずかしい…」
そんな都合の良いことなんてあるはずがないとわかっているのに、シャロンのあの反応にはつい期待してしまう。
「ダメだ、頭冷やそう」
屋敷内の図書室にたどり着いたサイモンは窓を開け、近くにある椅子に腰かけた。
冷たいそよ風が彼の熱りを冷す。
少し頭の冷えたサイモンは、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「あー。どうしよう」
もし、シャロンが自分のことを好きになっていたのなら、どうするのが正解なのか。サイモンにはわからない。
何故なら、シャロンが想いを返すというのは、即ち、彼女が貴族籍を捨てるとほぼ同義だからだ。
サイモンにはまだ、彼女を自分と同じところまで落とす覚悟がない。
(…あんな生活、送らせたくないんだよ)
背もたれに体を預けたサイモンは深くため息をつき、目を閉じた。
シャロンへの気持ちが大きくなればなるほど付き纏うのは、彼が一度だけ見たことがある光景。
それは、平民と駆け落ちした貴族令嬢の末路。かつて少しだけ王都を騒がせたスキャンダルだ。
その令嬢はお屋敷の庭師と恋に落ちた。
そして、家族の反対を押し切り結婚し、家を出たそうだ。
サイモンがそのことを知ったのはとある新聞記事。こういう貴族の醜聞は、メディアを通じて瞬く間に世間に広がる。
市井に降りてきた令嬢、有名になった2人に向けられるのは当然、好奇や嘲りの視線だった。
当時2人は、生きて行くための仕事すらそう簡単には見つけられなかったらしい。
家名に泥を塗った令嬢たちを実家の両親は許さなかっのだろう。家の圧力もあり大きな都では誰も2人を雇わなかった。
結局、2人がたどり着いたのはとある農村だった。彼らは農業に従事するしかなかったのだ。
サイモンは出張先に行く途中で立ち寄った農村でかの令嬢の姿を見た。
昔、綺麗に着飾っていた令嬢は古びた洋服を着て、アカギレだらけの手で、大根を洗っていた。
今まで一切の家事をしたことがない令嬢に、その作業は苦痛でしかなかったはずだ。
サイモンもシャロンも医学の知識はあるし、ジルフォード家か家を出た2人に圧力をかけてくることはないだろう。
けれど、それまであそこまでシャロンを落とす可能性を考えてしまうと、彼は怖くなる。
(…臆病者だな、俺は)
いざ、手に入りそうになると途端に怖くなる。
サイモンは両手で顔を覆った。
「……いや、何を勝手に両思い前提で妄想してんだよ。恥ず…」
血相を欠いて手紙を届けにきた彼女にハディスは何事かと首を傾げる。
「何?これ…」
「ラブレターです」
「え?お兄ちゃんに?やだぁ、照れちゃう」
「…は?」
「…は?って言うのはやめなさい。顔怖い」
ちょっとふざけただけなのに、心底嫌そうな顔をするシャロンにハディスは泣きたくなった。
妹とはこんなに兄を毛嫌いするものなのだろうか。切ない。
「ところで、シャロン。顔が赤いが、どうした?」
「へ!?」
兄からの指摘に、シャロンはエントランスの窓に映る自分を確認する。
すると確かに顔が赤かった。
「もしや、サイモンと何かあったか?」
「ふぇ!?」
少し低めの声でそう聞かれた彼女はドキリと肩を硬らせる。これはもうサイモン関連で何かあったことが確定だ。
ハディスは眉間に皺を寄せ、険しい顔をした。
この間、アルフレッドと極寒散歩をした日からシャロンは明らかに彼を意識している。
おそらく、彼が何かよからぬ事を吹き込んだのだろう。
だが、アルフレッドと離縁するからといっても、そう簡単にサイモンとどうこうなってもらっては困るハディスは複雑な心境だった。
(幸せにはなって欲しいんだけどなぁ…)
幸せにはなって欲しいが、ただでさえ、烏公爵とのスピード離婚で騒がれるだろうことは目に見えているのに、その上で離縁してすぐ平民と結ばれるというのは中々の醜聞だ。
ハディスは紅潮させた頬を包むようにして『何もない』と繰り返すシャロンの頭を撫で回した。
***
一方その頃。
仕事を終えたサイモンは使用人たちにシャロンの居場所を聞いて回っていた。
だが誰に聞いても、皆ニヤニヤとするだけで答えてはくれない。
あれは本当に自分に名を呼ばれたから顔を赤らめたのか、それとも別の理由なのか。
彼はそれが知りたくて仕方がないのに、誰も何も教えてはくれない。
「いやいやいや。何を期待してるんだよ、恥ずかしい…」
そんな都合の良いことなんてあるはずがないとわかっているのに、シャロンのあの反応にはつい期待してしまう。
「ダメだ、頭冷やそう」
屋敷内の図書室にたどり着いたサイモンは窓を開け、近くにある椅子に腰かけた。
冷たいそよ風が彼の熱りを冷す。
少し頭の冷えたサイモンは、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「あー。どうしよう」
もし、シャロンが自分のことを好きになっていたのなら、どうするのが正解なのか。サイモンにはわからない。
何故なら、シャロンが想いを返すというのは、即ち、彼女が貴族籍を捨てるとほぼ同義だからだ。
サイモンにはまだ、彼女を自分と同じところまで落とす覚悟がない。
(…あんな生活、送らせたくないんだよ)
背もたれに体を預けたサイモンは深くため息をつき、目を閉じた。
シャロンへの気持ちが大きくなればなるほど付き纏うのは、彼が一度だけ見たことがある光景。
それは、平民と駆け落ちした貴族令嬢の末路。かつて少しだけ王都を騒がせたスキャンダルだ。
その令嬢はお屋敷の庭師と恋に落ちた。
そして、家族の反対を押し切り結婚し、家を出たそうだ。
サイモンがそのことを知ったのはとある新聞記事。こういう貴族の醜聞は、メディアを通じて瞬く間に世間に広がる。
市井に降りてきた令嬢、有名になった2人に向けられるのは当然、好奇や嘲りの視線だった。
当時2人は、生きて行くための仕事すらそう簡単には見つけられなかったらしい。
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結局、2人がたどり着いたのはとある農村だった。彼らは農業に従事するしかなかったのだ。
サイモンは出張先に行く途中で立ち寄った農村でかの令嬢の姿を見た。
昔、綺麗に着飾っていた令嬢は古びた洋服を着て、アカギレだらけの手で、大根を洗っていた。
今まで一切の家事をしたことがない令嬢に、その作業は苦痛でしかなかったはずだ。
サイモンもシャロンも医学の知識はあるし、ジルフォード家か家を出た2人に圧力をかけてくることはないだろう。
けれど、それまであそこまでシャロンを落とす可能性を考えてしまうと、彼は怖くなる。
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