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ifの世界線のお話
23:さよならの挨拶(2)
久しぶりのウィンターソン公爵邸にやってきたシャロンは、顔を真っ赤にしながら一つに結んでいた髪を解く。
そして首筋につけられた所有印を隠すように長い黒髪を左に流した。
(…サイモンのばか!)
どうやら家を出る前、元夫のところへ行くとサイモンに告げたシャロンは、『念のため』と首筋に内出血を作られたらしい。
満足げな顔をして自分を送り出した彼の顔を思い出すと、一気に体温が上がる。
体が熱いのはパチパチと燃える暖炉の火のせいにしておこう。
シャロンはそんな火照る体を手だ仰いで冷ましつつ、公爵邸のサロンでアルフレッドが来るのを待った。
(シノアに泣かれちゃったなぁ…)
先ほど公爵家の使用人に挨拶して回ったときのことを思い出しながら、シャロンは小さくため息をついた。
すでに離縁することを聞かされてはいたが、それでもやはり寂しいものは寂しいそうだ。
思い返せば、短い期間だったがこの公爵邸の人たちにはとても良くしてもらった。彼らの優しさはとても暖かく心地よかった。
友達のような妹のようなシノアに母のようなリサ。父、もしくは祖父のようなデニスやセバスチャン。
ここの人間は皆、今後もシャロンにとってかけがえのない存在であることは間違いない。
もちろん、アルフレッドだって…。
「お待たせ、シャロン」
感傷に浸っていると、アルフレッドがやってきた。
相変わらず麗しい見目をしているが、以前より少し痩せたように見える。
仕事が忙しいのか、それともそれ以外の理由があるのかはわからないが、疲れているようだった。
「お久しぶりです、旦那様」
「久しぶり。元気にしていたかい?」
「はい、おかげさまで」
「そうか、それならよかった」
軽く挨拶をした2人は、しばらく他愛もない会話をした。
もうすぐヘンリーが即位するための準備が整うことや、ハディスの部下になったエディの話、それから最近のエミリアの様子。
相変わらず話し上手なアルフレッドの話を、シャロンは穏やかに微笑みながら聴いていた。
エミリアの話をされてもなんとも思わない。むしろもっと聞きたいと心から思えるのは、きっと彼になんの感情を抱いていないからだろう。
アルフレッド曰く、エミリアはシャロンとの手紙をとても楽しんでいるらしい。
内容は絶対に教えてくれないが、手紙のやりとりをするようになって以降、彼女は以前よりも元気になったと彼は語る。
アルフレッドはふと憂い帯びた表情を見せると、不意にシャロンに頼み事をした。
「シャロン、一つお願いがあるんだけど」
「お願い、ですか?」
「うん。私たちはお別れするけれど、もし可能ならもう少しだけエミリアとの手紙は続けてやってくれないだろうか?」
「それは…もちろんです」
『もう少しだけ』と言う言葉に、全てを察したシャロンは言葉が詰まる。その言葉から察するに、きっとエミリアはもう長くはないのだろう。
シャロンは、魅了の効果が完全に解けている保証がないため会うことは叶わないが、彼女からの返事がある限り文通は続けると約束した。
アルフレッドはそんな彼女に深く頭を下げた。
「旦那様は最後までエミリア様一筋ですね」
嫌味でもなんでもない。ただ純粋にエミリア一筋のアルフレッドを尊敬するような眼差しでそう言うシャロン。
アルフレッドはぎこちない笑みを浮かべながら『そうだね。そうかもしれない』と答えた。
仄かに抱いていたシャロンに対する特別な感情を押しつぶして、彼は今まで通りの前妻一筋な烏公爵を演じた。
***
随分と話し込んでしまったシャロンがふと時計を見ると、もう14時をすぎていた。かれこれ3、4時間ほど公爵邸に居座っていたことになる。
これはいけない。日が暮れる前に教会に書類を出しに行かなければならない彼女は慌てて公爵邸を出る用意をし、アルフレッドと共に、早足でエントランスへ向かう。
するとそこには公爵家の使用人たちがずらりと並んでいた。
皆それぞれにシャロンに対するプレゼントや手紙を用意しており、シャロンはそれらを受け取っていく。
こんなにもこの屋敷の人たちに愛されていたのだと思うと、自然と視界が歪んでくる。だが、雫をこぼさぬよう、彼女はグッとアゴをあげた。
「では、そろそろ行きますね」
「本当に一緒に行かなくても良いのか?」
「大丈夫です。お仕事が溜まっていらっしゃるのでしょう?セバスチャンが嘆いていましたよ?」
ここ最近、事件の後処理で公爵家の仕事ができていないアルフレッドに、シャロンは『サボっちゃダメですよ』と忠告した。
悪戯っぽい笑みを浮かべてそんな事を言ってくる彼女に、彼は肩をすくめる。
「じゃあ、書類の方はよろしく頼む」
「はい。お任せください」
使用人によって開かれた扉の前に立つと、シャロンはスカートをつまみゆっくりを膝を折った。
そしてそっと顔を上げ、女神のような優しい微笑みで公爵家に別れを告げる。
「短い間でしたが、おせわになりました。それでは皆様、ごきげんよう」
そう言った彼女はしんしんと降る雪の中に消えていった。
そして首筋につけられた所有印を隠すように長い黒髪を左に流した。
(…サイモンのばか!)
どうやら家を出る前、元夫のところへ行くとサイモンに告げたシャロンは、『念のため』と首筋に内出血を作られたらしい。
満足げな顔をして自分を送り出した彼の顔を思い出すと、一気に体温が上がる。
体が熱いのはパチパチと燃える暖炉の火のせいにしておこう。
シャロンはそんな火照る体を手だ仰いで冷ましつつ、公爵邸のサロンでアルフレッドが来るのを待った。
(シノアに泣かれちゃったなぁ…)
先ほど公爵家の使用人に挨拶して回ったときのことを思い出しながら、シャロンは小さくため息をついた。
すでに離縁することを聞かされてはいたが、それでもやはり寂しいものは寂しいそうだ。
思い返せば、短い期間だったがこの公爵邸の人たちにはとても良くしてもらった。彼らの優しさはとても暖かく心地よかった。
友達のような妹のようなシノアに母のようなリサ。父、もしくは祖父のようなデニスやセバスチャン。
ここの人間は皆、今後もシャロンにとってかけがえのない存在であることは間違いない。
もちろん、アルフレッドだって…。
「お待たせ、シャロン」
感傷に浸っていると、アルフレッドがやってきた。
相変わらず麗しい見目をしているが、以前より少し痩せたように見える。
仕事が忙しいのか、それともそれ以外の理由があるのかはわからないが、疲れているようだった。
「お久しぶりです、旦那様」
「久しぶり。元気にしていたかい?」
「はい、おかげさまで」
「そうか、それならよかった」
軽く挨拶をした2人は、しばらく他愛もない会話をした。
もうすぐヘンリーが即位するための準備が整うことや、ハディスの部下になったエディの話、それから最近のエミリアの様子。
相変わらず話し上手なアルフレッドの話を、シャロンは穏やかに微笑みながら聴いていた。
エミリアの話をされてもなんとも思わない。むしろもっと聞きたいと心から思えるのは、きっと彼になんの感情を抱いていないからだろう。
アルフレッド曰く、エミリアはシャロンとの手紙をとても楽しんでいるらしい。
内容は絶対に教えてくれないが、手紙のやりとりをするようになって以降、彼女は以前よりも元気になったと彼は語る。
アルフレッドはふと憂い帯びた表情を見せると、不意にシャロンに頼み事をした。
「シャロン、一つお願いがあるんだけど」
「お願い、ですか?」
「うん。私たちはお別れするけれど、もし可能ならもう少しだけエミリアとの手紙は続けてやってくれないだろうか?」
「それは…もちろんです」
『もう少しだけ』と言う言葉に、全てを察したシャロンは言葉が詰まる。その言葉から察するに、きっとエミリアはもう長くはないのだろう。
シャロンは、魅了の効果が完全に解けている保証がないため会うことは叶わないが、彼女からの返事がある限り文通は続けると約束した。
アルフレッドはそんな彼女に深く頭を下げた。
「旦那様は最後までエミリア様一筋ですね」
嫌味でもなんでもない。ただ純粋にエミリア一筋のアルフレッドを尊敬するような眼差しでそう言うシャロン。
アルフレッドはぎこちない笑みを浮かべながら『そうだね。そうかもしれない』と答えた。
仄かに抱いていたシャロンに対する特別な感情を押しつぶして、彼は今まで通りの前妻一筋な烏公爵を演じた。
***
随分と話し込んでしまったシャロンがふと時計を見ると、もう14時をすぎていた。かれこれ3、4時間ほど公爵邸に居座っていたことになる。
これはいけない。日が暮れる前に教会に書類を出しに行かなければならない彼女は慌てて公爵邸を出る用意をし、アルフレッドと共に、早足でエントランスへ向かう。
するとそこには公爵家の使用人たちがずらりと並んでいた。
皆それぞれにシャロンに対するプレゼントや手紙を用意しており、シャロンはそれらを受け取っていく。
こんなにもこの屋敷の人たちに愛されていたのだと思うと、自然と視界が歪んでくる。だが、雫をこぼさぬよう、彼女はグッとアゴをあげた。
「では、そろそろ行きますね」
「本当に一緒に行かなくても良いのか?」
「大丈夫です。お仕事が溜まっていらっしゃるのでしょう?セバスチャンが嘆いていましたよ?」
ここ最近、事件の後処理で公爵家の仕事ができていないアルフレッドに、シャロンは『サボっちゃダメですよ』と忠告した。
悪戯っぽい笑みを浮かべてそんな事を言ってくる彼女に、彼は肩をすくめる。
「じゃあ、書類の方はよろしく頼む」
「はい。お任せください」
使用人によって開かれた扉の前に立つと、シャロンはスカートをつまみゆっくりを膝を折った。
そしてそっと顔を上げ、女神のような優しい微笑みで公爵家に別れを告げる。
「短い間でしたが、おせわになりました。それでは皆様、ごきげんよう」
そう言った彼女はしんしんと降る雪の中に消えていった。
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