【完結】3度婚約を破棄された皇女は護衛の騎士とともに隣国へ嫁ぐ

七瀬菜々

文字の大きさ
31 / 74
第一部

29:婚約パーティー(4)

しおりを挟む


「パーティーをぶち壊すとは、具体的には何をなさるおつもりで?」
「別に大したことはしない。ただ会場に仕掛けてもらった爆弾を爆発させて、騒ぎを起こすだけだ」

 ジョシュアはそう言うと、起爆装置らしき物をエリザに渡した。
 エリザは彼を睨みつけつつ、それを受け取る。
 小さな箱にボタンがついたそれは、会場からダンスの音楽が流れ始めたら推す予定だったらしい。
 本当に、よくこんな恐ろしいことを考えつくものだ。

「ジョシュアは自分で爆弾を作ったのよ?さすがだわ」

 オフィーリアはスゴイとジョシュアを褒め称える。
 褒め称えられたジョシュアは満更でもなさそうな表示をしているが、そもそも許可なく爆弾を作ること自体犯罪だ。
 エリザはジョシュアの成績が改竄されたものである可能性さえ疑った。馬鹿すぎる。
 色々と言いたいことを飲み込んで、彼女は質問を続けた。

「何故そのようなことを?」
「復讐だよ。あの女のせいで僕たちはたいへんな目にあったからな。とあるお方が僕の悲劇的な現実を憂いて協力してくれたんだ」
「そのとあるお方とは、こちらのお店を紹介したお方ですか?」

    エリザはそう言うと、胸元から一枚の写真を取り出した。
 その取り出す仕草に色気を感じたのか、ジョシュアは息を飲む。

「わたくし、貴方にこのお店を紹介した人物を知りたいのです」

     ニッコリと微笑みながら彼女が突きつけたその写真には、ファンシーなお店の裏口から出て行くジョシュアの姿がハッキリと写されていた。

「そ、それは…」 
「このお店は違法な物を売買する闇取引の場所として有名です。そんなところに公爵家の貴方が入って行ったというのは、下手をすれば城への不法侵入より問題視されますね?」

     表向きは裏社会と敵対しているはずの貴族が、この店の裏口から出てくる場面。その瞬間を映した写真が存在していると事実は、貴族連中にとってかなり都合が悪い。
 今まで闇組織と貴族の関係は噂程度で止まっていた。だがこの写真ひとつで、それは噂ではなく事実となるのだ。
 これを新聞社に売ればどうなるだろうか。立派なゴシップとなる。
 この店を使う様々な貴族が迷惑を被り、結果的にジョシュアの存在を消しにくるだろう。

「こういう場所に行くには普通、使いを出すか、自分で赴くならば普通は変装もをするものです。間違っても制服で行ってはダメですよ?」

 紹介者はこの程度の常識すら知らないとは思わなかったのかもしれない。
 エリザの指摘にジョシュアは顔を真っ青にした。
 
「ねぇ、公子様。実はわたくし、騎士団に伝手がありますの。だから貴方のご返答次第では、こちらのお写真は廃棄処分させていただきますわ」

 どうしましょう、と彼女は悪魔の微笑みで選択を迫る。
 どうしましょうなんて言われても、選択肢など彼には無い。
 紹介者に対する義理などない彼は諦めたように深くため息をついた。

「…紹介者が誰なのかは、正確にはわからないんだ」
「わからない、とは?」
「僕が講義をサボって学園の図書室で本を読んでいたら、突然後ろから声をかけられた。首に刃物のようなものを当てられて、振り向かずにそのまま聞けと言われたので僕はそのまま話を聞いた」

 彼曰く、その声の主はおそらく女で、とても柔らかい話し方をする人物だったらしい。
 第四皇女から酷い仕打ちを受けたジョシュアたちの味方になってあげたいけれど、彼女の報復が怖いので顔を見られたくないと話したその女は、手紙を彼の前におくと、それを持ってお店に行くように指示を出した。

「手紙には、紹介状と共に今回の計画が書かれていた。優秀な僕なら爆弾くらい簡単に作れるだろうし、この方法が一番あの姫を困らせることができるとかなんとか書いてあった」

 正直、怪しすぎて半信半疑だったが、それでもモニカに復讐したい気持ちが勝った彼は紹介状を持ってジョシュアはその店に向かったらしい。 

「店に行って紹介を渡したら、そのまま奥の部屋に通された。そこには柄の悪そうな男たちがたくさんいたけれど、皆、僕に優しくしてくれた」
「それで、火薬を売って頂いたと」
「ああ」
「紹介状には何て名前が書いてあったかわかりますか?」
「確か、ホークスと書かれていた」
「廃嫡を取り消すと言ったのはそのホークスですか?」
「そうだ」
「では、今日実際に爆弾を仕掛けたのは?」
「黒装束に身を包み、黒い布で口元を覆った男だった。身長は180くらい。かなりガタイがいい」
「他に情報は?」
「ホークスから紹介状を見せた時、向こうの男たちは『どこでこれを手に入れたのか』と驚いていた」
「その紹介状はなかなか手に入らないということですか?」
「多分、そういうことだと思う。あとは、オフィーリアが言っていたんだけど、封筒から特殊な香水の匂いがしたと」
「香水?」
「そうよ。微かだけどバラの香油の匂いがしたの。でもバラの香油にしては少し爽やかで、あまり出回っていないものだと思う」

 ジョシュアとオフィーリアは怯えながらも、できるだけの情報を渡そうと必死に答えた。
 エリザはそんな二人を見て、フッと笑みをこぼす。

「ご協力、感謝いたしますわ。公子様、ポートマン嬢」
「も、もういいか?」
「ええ。大変、助かりました」

   ドレスの裾をつまみ、二人に対し優雅に頭を下げるエリザ。
 彼女はニッコリと微笑み、『それでは、失礼いたします』と言って踵を返した。

「え?」
「え?話したら見逃してくれるって…」
「お、おい…」
 
 目を見開いて、信じられないものを見るような目でエリザを見るジョシュア。
 そんな彼に、エリザは会場へと戻る足を止めて東の方へと大きく手を振った。
 
「こちらですわ!」

 エリザの元に駆けつけたのはジャスパーの元上官でもあるアンダーソン伯爵。身長180越えの体格の良い強面のおじさまだ。この顔で15歳年下を溺愛しているというから信じがたい。
 エリザは彼に爆弾の起爆装置と写真を渡し、事のあらましを説明する。
 その様子をジョシュアはただ呆然と眺めていた。

「え?何をして…」
「悪い人を騎士様に捕まえていただくのです」

   ごく当たり前のようにエリザはそう言い放つ。
 数秒固まっていたジョシュアだが、徐々に状況が把握できてきたのかその顔はみるみる赤くなった。

「う、裏切り者!!」
「最低!ほんと最低!」
「悪魔!人でなし!」

 そう喚く二人に、騎士団からは呆れたようなため息が漏れた。

「何を期待していたのかは存じ上げませんが、彼女はジャスパー・オーウェンの妹君ですよ?」

 素行不良の問題児の護衛騎士。そしてあの容赦のない第四皇女の乳姉妹。まともに約束など守るわけがないとアンダーソン伯爵は言う。
 網からおろされたジョシュアは覚えてろよと叫んだ。

「なんとでも言うが良いのです」

 エリザは役目を終えてホッと胸を撫で下ろした。
 すると、次の瞬間。会場からは大きな音が聞こえた。
 


 
 
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

【完結済】獅子姫と七人の騎士〜婚約破棄のうえ追放された公爵令嬢は戦場でも社交界でも無双するが恋愛には鈍感な件〜

鈴木 桜
恋愛
強く賢く、美しい。絵に描いたように完璧な公爵令嬢は、婚約者の王太子によって追放されてしまいます。 しかし…… 「誰にも踏み躙られない。誰にも蔑ろにされない。私は、私として尊重されて生きたい」 追放されたが故に、彼女は最強の令嬢に成長していくのです。 さて。この最強の公爵令嬢には一つだけ欠点がありました。 それが『恋愛には鈍感である』ということ。 彼女に思いを寄せる男たちのアプローチを、ことごとくスルーして……。 一癖も二癖もある七人の騎士たちの、必死のアプローチの行方は……? 追放された『哀れな公爵令嬢』は、いかにして『帝国の英雄』にまで上り詰めるのか……? どんなアプローチも全く効果なし!鈍感だけど最強の令嬢と騎士たちの英雄譚! どうぞ、お楽しみください!

【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました

冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。 代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。 クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。 それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。 そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。 幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。 さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。 絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。 そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。 エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。

偽王を演じた侯爵令嬢は、名もなき人生を選ぶ」

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子オレンに婚約破棄された侯爵令嬢ライアー・ユースティティア。 だが、それは彼女にとって「不幸の始まり」ではなかった。 国政を放棄し、重税と私欲に溺れる暴君ロネ国王。 その無責任さを補っていた宰相リシュリュー公爵が投獄されたことで、 国は静かに、しかし確実に崩壊へ向かい始める。 そんな中、変身魔法を使えるライアーは、 国王の身代わり――偽王として玉座に座ることを強要されてしまう。 「王太子妃には向いていなかったけれど……  どうやら、国王にも向いていなかったみたいですわね」 有能な宰相とともに国を立て直し、 理不尽な税を廃し、民の暮らしを取り戻した彼女は、 やがて本物の国王と王太子を“偽者”として流刑に処す。 そして最後に選んだのは、 王として君臨し続けることではなく―― 偽王のまま退位し、名もなき人生を生きることだった。 これは、 婚約破棄から始まり、 偽王としてざまぁを成し遂げ、 それでも「王にならなかった」令嬢の物語。 玉座よりも遠く、 裁きよりも静かな場所で、 彼女はようやく“自分の人生”を歩き始める。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ
恋愛
第一王子は、常に毒を盛られ、すっかり生きることに疲れていた。子爵令嬢は目が悪く、日常生活にも支障が出るほどであったが、育児放棄され、とにかく日々を送ることに必死だった。 12歳で出会った二人は、大人になることを目標に、協力しあう契約を交わす。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。 その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。 敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。 言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。

処理中です...