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第一部
30:婚約パーティー(5)
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宮殿にはいくつか広間があるが、その中でも一番小さな部屋がルビーの間だ。
壁一面の金の装飾に天井の大きな一枚絵。一番小さくともさすがは大国。豪華絢爛の一言に尽きる。
広間の中央に位置する一段下がった円形のエリアの上には、大きなシャンデリアがぶら下がっており、モニカはノアに手を引かれ、そのシャンデリアの下へと向かった。
ファーストダンスだ。
皆が見守る中、ノアはモニカにダンスを申し込んだ。
少し困ったように眉尻を下げるノアにモニカはクスッと笑みをこぼす。
「2回目のファーストダンスだね」
「矛盾してますね」
3年ぶり、2回目のファーストダンスだ。
あまり舞踏会には招待されないモニカだが、感覚が鈍らぬよう定期的に練習しているから、足を踏むことはないと彼女は笑った。ちなみに、もちろんダンスの相手はジャスパー。
騎士らしく正しい姿勢で待機する彼に、モニカは口をパクパクとさせ、『待ってて』と言った。
都でも有名な楽団が奏でる雅な音楽は、緩やかな前奏から始まるのが特徴的な王国の曲。
ノアが踊りやすいようにとモニカがナイスした物だ。
彼のリードのもと、モニカはクルクルと華麗に踊る。
そして曲の中盤に差し掛かり、一気に音が大きくなった時、事件は起きた。
何かが弾けるような音と共にモニカ達の頭上にあるシャンデリアがぐらりと揺らぐ。
その揺れに気づいた次の瞬間には、シャンデリアはモニカ目掛けて落下していた。
本当に一瞬の出来事で、全てがスローモーションのように再生された。
モニカはノアに手を引かれ、誰かに肩を思い切り突き飛ばされる。
床に倒れ込んだ彼女が状況を把握したときには、下半身がシャンデリアの下敷きになっている騎士がいた。
きゃーと甲高い声で叫ぶ令嬢たち。助けを呼びに走るメイドと、シャンデリアを退かそうとする紳士に混じり、モニカは急いで彼の元へと駆け寄った。
「…ジャスパー?」
彼女が名を呼ぶと、ジャスパーは手を上げて返事をする。
「痛いっす」
少し顔を上げ、ヘラッと笑う彼の顔色は青かった。
落ちたシャンデリアの隙間から流れる赤い液体はおそらく彼のものだろう。
モニカはその場にペタンと座り込み、動けなくなってしまった。
「モニカ、危ないから下がって!」
ノアはモニカの手を引き、後ろに下がらせる。
そして、丁度戻ってきたエリザに彼女を託すと、急いでジャスパーをシャンデリアの下から引き摺り出した。
担架で運ばれるジャスパーを見て正気を取り戻したモニカは、彼の名を叫び駆け寄る。
「何?何がどうなったの!?」
「シャンデリアが落ちましたね」
「そんなことはわかってるのよ!何故貴方が…怪我を…」
ああ、ダメだ。泣きそうだ。
こんな大怪我をしたジャスパーなんて見たことがないもの。
モニカは崩壊しそうな涙腺を締めるため、グッと眉間に皺を寄せた。
「姫様、泣く前に後処理が先です」
「わかってる」
「多分折れてないから大丈夫ですよ」
「…本当?」
「多分ね。だからほら、行って」
額に汗をかきながら、ジャスパーは1人後処理をしようとウロウロしているノアを指差した。
「とりあえず、俺は医務室行ってきますね」
「私もすぐに行くから」
「ゆっくりで良いですよ。治療が痛くて泣いているところを見られたくありませんし?」
手をひらひらさせて、いつものように軽く冗談を言う彼にモニカの胸は痛くなる。
「…ばか」
「何でこのタイミングで罵倒するんっすか」
「俺から離れるなって言ったの貴方でしょうが!すぐ行くから!」
やはり堪えきれず目に涙を溜めた彼女は、衛兵に早く医務室に連れていけと叫んだ。
その後、頭が回らないながらも、彼女はパーティーは中止が宣言し、事態の後始末をやりきったらしい。
モニカの4度目の婚約パーティーはこうして幕を閉じた。
壁一面の金の装飾に天井の大きな一枚絵。一番小さくともさすがは大国。豪華絢爛の一言に尽きる。
広間の中央に位置する一段下がった円形のエリアの上には、大きなシャンデリアがぶら下がっており、モニカはノアに手を引かれ、そのシャンデリアの下へと向かった。
ファーストダンスだ。
皆が見守る中、ノアはモニカにダンスを申し込んだ。
少し困ったように眉尻を下げるノアにモニカはクスッと笑みをこぼす。
「2回目のファーストダンスだね」
「矛盾してますね」
3年ぶり、2回目のファーストダンスだ。
あまり舞踏会には招待されないモニカだが、感覚が鈍らぬよう定期的に練習しているから、足を踏むことはないと彼女は笑った。ちなみに、もちろんダンスの相手はジャスパー。
騎士らしく正しい姿勢で待機する彼に、モニカは口をパクパクとさせ、『待ってて』と言った。
都でも有名な楽団が奏でる雅な音楽は、緩やかな前奏から始まるのが特徴的な王国の曲。
ノアが踊りやすいようにとモニカがナイスした物だ。
彼のリードのもと、モニカはクルクルと華麗に踊る。
そして曲の中盤に差し掛かり、一気に音が大きくなった時、事件は起きた。
何かが弾けるような音と共にモニカ達の頭上にあるシャンデリアがぐらりと揺らぐ。
その揺れに気づいた次の瞬間には、シャンデリアはモニカ目掛けて落下していた。
本当に一瞬の出来事で、全てがスローモーションのように再生された。
モニカはノアに手を引かれ、誰かに肩を思い切り突き飛ばされる。
床に倒れ込んだ彼女が状況を把握したときには、下半身がシャンデリアの下敷きになっている騎士がいた。
きゃーと甲高い声で叫ぶ令嬢たち。助けを呼びに走るメイドと、シャンデリアを退かそうとする紳士に混じり、モニカは急いで彼の元へと駆け寄った。
「…ジャスパー?」
彼女が名を呼ぶと、ジャスパーは手を上げて返事をする。
「痛いっす」
少し顔を上げ、ヘラッと笑う彼の顔色は青かった。
落ちたシャンデリアの隙間から流れる赤い液体はおそらく彼のものだろう。
モニカはその場にペタンと座り込み、動けなくなってしまった。
「モニカ、危ないから下がって!」
ノアはモニカの手を引き、後ろに下がらせる。
そして、丁度戻ってきたエリザに彼女を託すと、急いでジャスパーをシャンデリアの下から引き摺り出した。
担架で運ばれるジャスパーを見て正気を取り戻したモニカは、彼の名を叫び駆け寄る。
「何?何がどうなったの!?」
「シャンデリアが落ちましたね」
「そんなことはわかってるのよ!何故貴方が…怪我を…」
ああ、ダメだ。泣きそうだ。
こんな大怪我をしたジャスパーなんて見たことがないもの。
モニカは崩壊しそうな涙腺を締めるため、グッと眉間に皺を寄せた。
「姫様、泣く前に後処理が先です」
「わかってる」
「多分折れてないから大丈夫ですよ」
「…本当?」
「多分ね。だからほら、行って」
額に汗をかきながら、ジャスパーは1人後処理をしようとウロウロしているノアを指差した。
「とりあえず、俺は医務室行ってきますね」
「私もすぐに行くから」
「ゆっくりで良いですよ。治療が痛くて泣いているところを見られたくありませんし?」
手をひらひらさせて、いつものように軽く冗談を言う彼にモニカの胸は痛くなる。
「…ばか」
「何でこのタイミングで罵倒するんっすか」
「俺から離れるなって言ったの貴方でしょうが!すぐ行くから!」
やはり堪えきれず目に涙を溜めた彼女は、衛兵に早く医務室に連れていけと叫んだ。
その後、頭が回らないながらも、彼女はパーティーは中止が宣言し、事態の後始末をやりきったらしい。
モニカの4度目の婚約パーティーはこうして幕を閉じた。
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