62 / 74
第二部
17:事件が起きた週末の話(4)
しおりを挟む
青空の下。騒然とする商店街の中央で颯爽と現れた金髪碧眼の美しい少女に、周囲は一瞬時が止まったかのように静まり返った。皆の視線が彼女へと釘付けになる。
金髪碧眼の美少女ことモニカは穏やかな笑みを浮かべて男たちの前に立つと、『人質を交換しませんか』と提案した。
泣きぼくろが特徴的な妖艶な女性は『だめよ!』と叫んだが、すぐさま背後の男にナイフを突きつけられて口をつぐむ。
(誰かが身代わりになるのを拒むのか。強い女性だわ)
さすがはジャスパーの友人だとモニカは目を細めた。
「何者だ、お前は」
男のうちの一人がナイフの切先をモニカの方へと向ける。
彼女は肩にかかった蜂蜜色の髪をふわっと後ろにやると、堂々たる態度でこう答えた。
「当代のグロスター公爵、ノア・アルダートンを夫に持つ者です」
その言葉に野次馬たちは一気にざわつき始める。当たり前だ。この国で4つしかない公爵家、それも王弟公爵の妻が町娘みたいな格好をしてこんなところにいるなんて誰も思っていなかったのだから。
「つくならマシな嘘をつくんだな」
「あら、嘘ではないわよ?ほら」
モニカは疑いの目を向けてくる彼らに、ポケットにしまっておいた懐中時計を見せた。
それは王家の紋章が入った貴重なもの。王族とその伴侶に贈られる身分証のようなものだ。
「ま、まさか。本当に!?」
「本当ですよ?何なら確かめてみる?」
懐中時計をぶらぶらと揺らして首を傾げるモニカ。
その様子を人々は固唾を飲んで見守る。
「確かめずともわかる。その独特な紋様と光の当たり具合により色が変わる特別な金属。間違いなく本物だ」
「あら、なかなか博識でいらっしゃるのね。さて、では本題に戻るけれど、私の夫は現在騎士団の統括を任されているわ。あなた方の交渉相手は彼なのではないの?」
「その通りだ。現在牢に捕らえられている大将を含めて、仲間全員の解放を要求する」
「ではどうします?私ならば良い交渉材料となるでしょう?」
「それは…」
「どうか彼女を解放して差し上げて?」
コツコツとヒールの音が商店街にこだまする。
ナイフの切先を向けられているのにも関わらず、一切怯む様子もない堂々とした態度に、男たちは得体の知れない恐ろしさを感じた。
モニカはナイフの先が拳一つ分まで迫ったところで両手を上げ、もう一度問いかける。
「さあ、どうしますか?」
どうするかと問われても、目の前の女の方が人質としては有益だ。
男はチッと舌打ちをすると、モニカの手を掴んで引き寄せた。
そしてもう一人の男に目配せをして、人質だった女性を解放させる。
ジャスパーの友人だというその女性は悲痛な表情でモニカも見たが、彼女は首を横に降り、すぐにその場を離れるように促した。
「随分とお優しいお貴族様だな」
「優しさじゃないわ。ただあの方よりも私の方がこの場所にふさわしいから、ここに立っているだけの話よ」
「いちいち態度がでかいな。その余裕が鼻につく」
「まあ、身分のあるものですからね。それなりには偉そうにしていないと」
「どこから来るんだよ、その余裕」
「余裕なんてないわ。これでも恐怖で震えているのよ?」
「嘘をつけ。全然震えてねーじゃん」
「だって嘘だもの」
「揶揄うんじゃねぇよ。殺されたいのか、貴様」
「殺せるものならどうぞ?その瞬間、あなた方の罪状は公爵夫人の殺害に切り替わり、交渉の余地もなく騎士達の長剣で串刺しとなるでしょう」
「…ああ言えばこう言う女だな、腹立たしい」
「お褒めいただきありがとう」
「褒めてない」
喉元にナイフを突きつけられているというのにこの余裕。只者ではないと男たちは人質を交換したことを少し後悔した。
だがもう遅い。気がつけば会話のペースはすでにモニカに握られていた。
「何なんだよ、この女…」
自分たちと会話しながらもクスクスと楽しそうに笑うモニカに、男は悪寒が走った。
ちなみに彼女の笑みの原因は物陰でこちらを心配そうに見つめている侍女と見せかけて、いつでも暗器を投げれるように重心を低くしているエリザが視界の端に入ったせいだが、それがわからない彼らにはさぞ不気味な女に見えていることだろう。
(さて、事が起こってから約15分。そろそろかしら?)
モニカは呼吸を整えて静かに目を閉じた。
野次馬のざわつきや木々が風に揺れる音に紛れ、軽快に近づいてくる足音が一つ。
(上か…)
彼女はニヤリと口角を上げると、何かを思い出したかのように不意に『あ』と声を上げる。
「な、なんだよ」
「ごめんなさい。私の夫は運動神経があまり良くなくてね、ここに来るのには少し時間がかかるかも知れないわ」
「だからどうした」
「だから、交渉する時間なんてないかもってことよ」
そう言い放つと、モニカは急にのけぞり男を背中で押した。
そして瞬時にしゃがみ込む。
すると、次の瞬間には男めがけて暗器が飛んできていた。
「ぐあッ!」
エリザだ。
エリザの暗器は男の肩に見事に刺さり、彼は手に持っていたナイフを落とした。
モニカはそれを足で横に滑らせ、彼女にそれを拾わせた。
「貴様ッ!!」
今度はもう一人の男がナイフを握る腕をおおきく振りかぶって、背後からモニカに襲いかかってきた。
だが、モニカはゆっくりと振り返ると、特に慌てた様子もなく真顔で男を見つめる。
「遅かったわね」
彼女がそう呟くと、ふわりと空から一人の男が舞い降りてきた。
金髪碧眼の美少女ことモニカは穏やかな笑みを浮かべて男たちの前に立つと、『人質を交換しませんか』と提案した。
泣きぼくろが特徴的な妖艶な女性は『だめよ!』と叫んだが、すぐさま背後の男にナイフを突きつけられて口をつぐむ。
(誰かが身代わりになるのを拒むのか。強い女性だわ)
さすがはジャスパーの友人だとモニカは目を細めた。
「何者だ、お前は」
男のうちの一人がナイフの切先をモニカの方へと向ける。
彼女は肩にかかった蜂蜜色の髪をふわっと後ろにやると、堂々たる態度でこう答えた。
「当代のグロスター公爵、ノア・アルダートンを夫に持つ者です」
その言葉に野次馬たちは一気にざわつき始める。当たり前だ。この国で4つしかない公爵家、それも王弟公爵の妻が町娘みたいな格好をしてこんなところにいるなんて誰も思っていなかったのだから。
「つくならマシな嘘をつくんだな」
「あら、嘘ではないわよ?ほら」
モニカは疑いの目を向けてくる彼らに、ポケットにしまっておいた懐中時計を見せた。
それは王家の紋章が入った貴重なもの。王族とその伴侶に贈られる身分証のようなものだ。
「ま、まさか。本当に!?」
「本当ですよ?何なら確かめてみる?」
懐中時計をぶらぶらと揺らして首を傾げるモニカ。
その様子を人々は固唾を飲んで見守る。
「確かめずともわかる。その独特な紋様と光の当たり具合により色が変わる特別な金属。間違いなく本物だ」
「あら、なかなか博識でいらっしゃるのね。さて、では本題に戻るけれど、私の夫は現在騎士団の統括を任されているわ。あなた方の交渉相手は彼なのではないの?」
「その通りだ。現在牢に捕らえられている大将を含めて、仲間全員の解放を要求する」
「ではどうします?私ならば良い交渉材料となるでしょう?」
「それは…」
「どうか彼女を解放して差し上げて?」
コツコツとヒールの音が商店街にこだまする。
ナイフの切先を向けられているのにも関わらず、一切怯む様子もない堂々とした態度に、男たちは得体の知れない恐ろしさを感じた。
モニカはナイフの先が拳一つ分まで迫ったところで両手を上げ、もう一度問いかける。
「さあ、どうしますか?」
どうするかと問われても、目の前の女の方が人質としては有益だ。
男はチッと舌打ちをすると、モニカの手を掴んで引き寄せた。
そしてもう一人の男に目配せをして、人質だった女性を解放させる。
ジャスパーの友人だというその女性は悲痛な表情でモニカも見たが、彼女は首を横に降り、すぐにその場を離れるように促した。
「随分とお優しいお貴族様だな」
「優しさじゃないわ。ただあの方よりも私の方がこの場所にふさわしいから、ここに立っているだけの話よ」
「いちいち態度がでかいな。その余裕が鼻につく」
「まあ、身分のあるものですからね。それなりには偉そうにしていないと」
「どこから来るんだよ、その余裕」
「余裕なんてないわ。これでも恐怖で震えているのよ?」
「嘘をつけ。全然震えてねーじゃん」
「だって嘘だもの」
「揶揄うんじゃねぇよ。殺されたいのか、貴様」
「殺せるものならどうぞ?その瞬間、あなた方の罪状は公爵夫人の殺害に切り替わり、交渉の余地もなく騎士達の長剣で串刺しとなるでしょう」
「…ああ言えばこう言う女だな、腹立たしい」
「お褒めいただきありがとう」
「褒めてない」
喉元にナイフを突きつけられているというのにこの余裕。只者ではないと男たちは人質を交換したことを少し後悔した。
だがもう遅い。気がつけば会話のペースはすでにモニカに握られていた。
「何なんだよ、この女…」
自分たちと会話しながらもクスクスと楽しそうに笑うモニカに、男は悪寒が走った。
ちなみに彼女の笑みの原因は物陰でこちらを心配そうに見つめている侍女と見せかけて、いつでも暗器を投げれるように重心を低くしているエリザが視界の端に入ったせいだが、それがわからない彼らにはさぞ不気味な女に見えていることだろう。
(さて、事が起こってから約15分。そろそろかしら?)
モニカは呼吸を整えて静かに目を閉じた。
野次馬のざわつきや木々が風に揺れる音に紛れ、軽快に近づいてくる足音が一つ。
(上か…)
彼女はニヤリと口角を上げると、何かを思い出したかのように不意に『あ』と声を上げる。
「な、なんだよ」
「ごめんなさい。私の夫は運動神経があまり良くなくてね、ここに来るのには少し時間がかかるかも知れないわ」
「だからどうした」
「だから、交渉する時間なんてないかもってことよ」
そう言い放つと、モニカは急にのけぞり男を背中で押した。
そして瞬時にしゃがみ込む。
すると、次の瞬間には男めがけて暗器が飛んできていた。
「ぐあッ!」
エリザだ。
エリザの暗器は男の肩に見事に刺さり、彼は手に持っていたナイフを落とした。
モニカはそれを足で横に滑らせ、彼女にそれを拾わせた。
「貴様ッ!!」
今度はもう一人の男がナイフを握る腕をおおきく振りかぶって、背後からモニカに襲いかかってきた。
だが、モニカはゆっくりと振り返ると、特に慌てた様子もなく真顔で男を見つめる。
「遅かったわね」
彼女がそう呟くと、ふわりと空から一人の男が舞い降りてきた。
22
あなたにおすすめの小説
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜
きゅちゃん
恋愛
名門エルトリア公爵家レオンと婚約していた伯爵令嬢のエレナ・ローズウッドは、レオンから婚約破棄を宣言される。屈辱に震えるエレナだが、その瞬間、彼女にしか見えない精霊王アキュラが現れて...?!地味で魔法の才能にも恵まれなかったエレナが、新たな自分と恋を見つけていくうちに、大冒険に巻き込まれてしまう物語。
【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました
冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。
代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。
クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。
それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。
そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。
幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。
さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。
絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。
そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。
エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。
偽王を演じた侯爵令嬢は、名もなき人生を選ぶ」
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子オレンに婚約破棄された侯爵令嬢ライアー・ユースティティア。
だが、それは彼女にとって「不幸の始まり」ではなかった。
国政を放棄し、重税と私欲に溺れる暴君ロネ国王。
その無責任さを補っていた宰相リシュリュー公爵が投獄されたことで、
国は静かに、しかし確実に崩壊へ向かい始める。
そんな中、変身魔法を使えるライアーは、
国王の身代わり――偽王として玉座に座ることを強要されてしまう。
「王太子妃には向いていなかったけれど……
どうやら、国王にも向いていなかったみたいですわね」
有能な宰相とともに国を立て直し、
理不尽な税を廃し、民の暮らしを取り戻した彼女は、
やがて本物の国王と王太子を“偽者”として流刑に処す。
そして最後に選んだのは、
王として君臨し続けることではなく――
偽王のまま退位し、名もなき人生を生きることだった。
これは、
婚約破棄から始まり、
偽王としてざまぁを成し遂げ、
それでも「王にならなかった」令嬢の物語。
玉座よりも遠く、
裁きよりも静かな場所で、
彼女はようやく“自分の人生”を歩き始める。
【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢
かずえ
恋愛
第一王子は、常に毒を盛られ、すっかり生きることに疲れていた。子爵令嬢は目が悪く、日常生活にも支障が出るほどであったが、育児放棄され、とにかく日々を送ることに必死だった。
12歳で出会った二人は、大人になることを目標に、協力しあう契約を交わす。
虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ
あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。
その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。
敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。
言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
偽りの婚約者だった公爵令嬢、婚約破棄されてから本物の溺愛をされるまで
nacat
恋愛
平民出身ながら伯爵家に養子に入ったリリアーナは、王太子の婚約者“代役”として選ばれた。
王家の都合で結ばれたその関係に、彼女は決して本気にならないはずだった。
だが、王太子が本命の公爵令嬢を選んで婚約破棄を告げた瞬間、リリアーナは静かに微笑んだ――。
「お幸せに。でも、“代役”の私を侮ったこと、きっと後悔させてあげますわ」
婚約破棄後、彼女は外交の任務で隣国へ。
そこで出会った冷徹な将軍との出会いが、すべてを変えていく。
“ざまぁ”と“溺愛”がスパイラルのように絡み合う、痛快で甘くて尊い恋愛劇。
///////
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる