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第二部
25:指輪(2)
しおりを挟む「…え?指輪?」
「お兄様?どういう事ですの?」
「ジャスパー…え…誰に求婚するつもりで?え?浮気?」
冷ややかな視線がジャスパーに向けられる。
離婚までまだ1年と半年残っているこのタイミングで指輪を作るなら、相手はモニカでは無い誰かだとこの場にいる全員が思っていた。
もちろん、彼が指輪を送りたい相手なんて一人しかいないし、どうやって渡そうかなどを毎晩考えながら眠りにつくくらいには一途なのだが…。
(最悪だ…)
ジャスパーの顔からはまた血の気がなくなっていく。
モニカの疑いの視線が痛く突き刺さって、心が折れそうだ。
オリビアとの浮気疑惑を解消したばかりだと言うのに、また厄介な誤解を植え付けられた彼はとりあえず弁明した。
「…多分違うからね?みんな誤解してるからな?」
「へー。誤解ですか。へー」
「ふーん。そう」
「だから違うってば…。というか、オリビア!内緒だって言っただろ!?」
「内緒と言われましても。せっかく出来上がったのに取りにも来ないし連絡も無視されてたんだから仕方がないでしょう。だからこうやって無礼を承知で押しかけたのよ。奥様にもお会いしたかったし」
オリビア曰く、数ヶ月前、彼女の叔母が営む宝石店へジャスパーを案内したらしい。
そして彼は、そこで彼の給与で買える範囲のピンクダイヤの指輪を用意してもらった。
今日彼女が持参した指は、ジャスパー・オーウェンという男がデザインまで吟味して選び抜いた最高の一品なのだとオリビアは語る。
「閣下、枷を外していただきたいのですが」
「モニカに近づかないならいいよ」
「はい。お約束します」
「よろしい」
ノアはジャスパーに枷を外させた。
手の拘束を解かれたオリビアは手首を回し、持参したカバンに入れていた小さな箱を取り出した。
テーブルの上に置かれた箱を一同はマジマジと見つめる。
「…見たいですか?」
「「見たい」」
「では開けますね」
皆の『見たい』という欲望に答え、オリビアは注文した本人であるジャスパーに許可も取らずに箱を開けた。
箱の中央に光るそこそこ大きなピンクダイヤは色の濃度が濃く、また鮮やかだった。また、指輪自体のデザインもシンプルだが珍しい形をしており、立体的で流れるような曲線が美しい。この軽やかな曲線を描いたアームは、手元を自然に、且つ優雅に見せてくれるだろう。
パッと見る限りでもそれが高価な物であることはわかる指輪。オリビアは少しオマケしたのだと言うが、それでも一介の騎士にしては頑張った方では無いだろうか。
そう語る彼女の横で、ジャスパーは額を抑えて『こんなはずじゃなかったのに』と蹲ってしまった。
「まあ!すごく綺麗!ジャスパー、指輪には触れないからもう少しじっくり見てもいい?」
「…いいですよ、別に。もう何でも…」
それが誰に贈られる物なのかは頭に無いのか、モニカは箱を手に取り上から横からと舐めるように眺める。
そんな彼女にオリビアはすかさず営業をかけつつ、補足情報的に送る相手はMから始まる名前の人物だと言った。
指はの内側に『J to M』と刻まれているらしい。
その言葉で色々と察したエリザとノアは憐れみの視線をジャスパーに向ける。
「もしかして、サプライズ的なやつだった?」
「…別に、そんな大それた事をするつもりはなかったんですけど、まあ、そうっすね。はい」
「…お兄様、なんか、その、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だ。ちょっと涙が出そうなだけだから」
「全然大丈夫じゃないっ!?」
「僕たち、もう退室したほうがいいかな?」
「いや、別に…ハハッ…」
乾いた笑みをこぼすジャスパーになんと声をかけて良いのかわからない二人は、俯いて押し黙ってまった。
謎の思い沈黙が30秒ほど流れる。気まずい。
最後には空気に耐えられなくなったノアとエリザがオリビアの両脇を抱えて、逃げるように応接室を出て行った。
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