社会人の俺が女体化したら転がり堕ちていった

ニッチ

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二章 やや女

第六話 オネショタ?

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 シャー。
 会社の外は茹だるみたいな暑さが渦巻く、八月の日中であった。社内の数少ない女子トイレにて小(※小便の隠語)を行い、ガサガサっと紙でもって拭き取る。
 水洗したあと、趣味でもない黒のレースの下着ショーツ穿き直そうとすると、反射的にクロッチ部分に貼ったナプキンへ目がいく。

「あっ、ようやく終わったか。夏は蒸れてホント大変なんだってば」

 生理。
 そう。元男だった自分からしたら、卒倒するレベルのパワーワードと言えた。
 およそ一ヶ月前の生理を一回目とすると、今回のは二回目にあたった。家で風呂に入ろうとした時、腹部に鈍痛を感じたかと思うと、ショーツが血だらけになっていることに気付いたのが一回目にあたる。文字通り血の気が引く中、救急車を呼ぼうとしたが、念のためにとネットで検索したところ、その正体を知ることとなった。
 ――まぁ、とはいえ。憂鬱ゆううつな火曜日の午前中にしては、小さな朗報と言えなくもなかった。
 
「にしても生理が来るってことは、マジで子供を産めちゃうじゃん――ハァ」

 ……式峰係長に抱かれたあの雨の日より、いくらかの時間が経過していた。あの後、当然のようにイロイロとあった。細かい経緯を省いて結果だけを言うと、どういうわけか二週間に一度くらいの頻度で、水曜日(危険日はいらんびは除く)にホテルで合い挽きする関係を作られてしまった。
 いや、流石にズルズルいくのはマズいと、以前の関係に戻れるよう、それとなく伝える努力はしたんだって。
 だけど、抱かれる日に誘われる晩御飯は豪勢で(当然、係長持ち)、その際の話題も豊富であり、会話も巧みなため、ついつい言いそびれる日々が続いていた。
 何よりも夜が、その……ベットの上が目茶苦茶に上手だった。性技の腕利うでききならず指利ゆびききさはもちろん、雰囲気ムード作りがすごく良いいんだ。その上で、性感帯じゃくてんを的確に突かれてしまい、いつの間にかトロトロにされてしまんだ。
 本番そうにゅうも、三回目くらいまでは痛かったが、四回目以降はだいぶマシになってきた。この前なんて汗を混ぜ合わせながらベロチューしつつ激しく……って、いかんいかん!
 ハァ。係長とスルまでは自慰オナニーくらいしか気持ちよくなかったけど、今はセックスにドハマりしそうで逆に怖かった。職場でも係長と目が合うと、思わずドキリとしてしまう。

「(でもホモではない、はずなんだよぉ)――って、早く席にもどらないと」

 そして一方、悪い意味で気になる川口だが、ちょっかいを掛けてくる頻度は激減した。もっとも、服装や下着の指示などが、無いわけではないけど、やっぱり係長のおかげなのだろうか?
 しかし、係長が川口を締め上げている様子は見たことなく、表面上はいつも通りのやり取りにしか見えなかった。どんな説得をしたのかは謎で、自分も敢えては聞かなかった。
 ただ、川口が消極化したのには、別の考えもあった。じぶん自身も係長と……愛人セフレ? 的な関係になって、言葉遣いや立ち振る舞い、化粧に気をつけるようになっていったとか。
 まぁ、そもそもは川口対策だけど、そうしていった理由は、その――か、係長がそうした方が、可愛いから、っと言ってきたからだった。
 え、えと。べ、別に心まで女になりつつあるわけじゃない(と思う)。ただ自分でも最近、鏡の前に立つ時間なんかが増えていったのは事実だった。
 休みの日とか、自分で着せ替えをしたら、なぜか楽しく、似合うコーデを見つけられたら、それだけで割とテンションが上がった。
 
「(女がファッションを楽しむ理由がわかりつつある)えっと、何の作業だっけ。――そうだ、販売統計の資料作りだった」

 営業部は男ばかりのため、クーラーが効きすぎており、膝上にタオルケットをかけて席にむき直す。キータッチしつつも、急ぎの案件があるわけでもないので、やはり頭は女体化のことを考えてしまう。
 今思った同性愛ホモの話だ。こんな状態で弁明の余地もないが、自分がホモになったとは思いにくかった。
 やっぱりエロい目で見てくる男は怖いし気持ち悪く、係長とスル時だって、セックスのスタート時は割とストレス気味だから。スイッチが入れば気持ちよくなるけど、それまではキスとかも抵抗がある。

「――ま主任」

 にしても、やっぱり生理が来たあの日以降は、妊娠のリスクが怖くてなって、生は本当に控えないと――。

「に、に、新妻主任!」

 ちょっと高めの声が小さく響き、頬杖から顎を離す。

「どうした、の? 長谷川、くん?」

 椅子を回転させて向き直る。
 目の前のおかっぱヘアーの小柄な彼は、長谷川一斗はせがわいっと。今年に入って入社したばかりの新採だった。
 ちょっと、なよった(※男らしくない)ところがあり、色白で華奢な上、やや天然なところもあった。オラオラ系の先輩社員からは鼻つまみにされており、また仕事覚えも良い方とは言えなかった。
 そんな彼の気質を、以前よりじぶんあまり気にしないタチだったので、男だった時から色々と相談に乗っていたら、いつの間にか懐かれてしまった格好だ。

「あの、あの。ぼ、僕、またやっちゃって――」

 彼はちょこちょこミスをするため、そこもマイナスポイントとして、社員間では煙たがられていた。

「(ここ最近は少なかったけど)内容は?」

「じ、実は……」

 誰しも誤りは報告しにくいため、不明な点をやんわりと拾い聞き上げる。
 ――要点をまとめるに、どうも製造部に伝えるべき製造数量が、一桁少なかったようだ。小さな溜息を突きつつも、まだ若葉マークが付いているだけに、どうしたものか。

「納期は?」

「さ、三週間後です」

 あぁ、大型ショッピングモールの送り込み分か。う~ん、マズイな。

作間さま課長か、市ノ瀬いちのせ係長には報告した?」

「えと、その……」

 この二人は彼の直上にあたるも、まぁまぁガッツリ叱る系であった。

「長谷川君。言い難いのはわかるけど、悪い事ほどきちんと早く報告を――」

 外勤が重なり、周囲に先輩社員が少ないことを確認した彼は、いきなり両手を合わせて、大きく頭を下げてくる。

「お願いします。助けてくださいっ、主任!」

 まるでてられるのを怯える子猫のように、震えながら上目遣いで訴えてくる。
 う、うーん。なぜだろうか。以前にも増して、彼が可哀想に思えてならない。小動物的な彼の懇願おねがいが、感覚的に断りにくかった。
 いや、しかし、むぅ。

「ハァ……製造部は誰担当?」

 脚を組み、眉間を抑えつつ尋ねる。

「え、っと」

 口ごもる彼の目線を追うと、再びため息が出る。

「長谷川く~ん。人の、しかも上司の脚なんか見ている場合じゃないでしょ?」

 まぁ、股下三十センチメートルのスカートから覗く生足だから、分からなくもないけど。

「す、すみませんっ。すごく綺麗だったもんで……た、担当は田中主幹です!」

 自称大ベテランの田中さんかぁ。男の時はだいぶ自分もやられたけど、今ならどうかなぁ。

「――しょうがない。製造部へ行くよ」

 製造工場は会社敷地内の一部に併設されているため、歩いて向かうことが可能であった。席を立ち、肩の糸くずを払い、スカートの皺を伸ばす。

「えっ? 内線で連絡しないんですか?」

 こういう所なんだよねぇ。

「製造数量の変更を、それもこっちのミスでお願いするんだよ? 直接、会うくらいの誠意を見せないでどうするの」

 小さく叱責していると、外勤から戻ってきた連中が、状況を察してかニヤニヤと笑う。

「おっ、あねさん。また弟分やくたたず尻拭しりぬぐいっすか?」

「いいなぁ。俺らも新妻お姉ちゃんに、お尻をいてもらいたいっすわ。物理的に(笑)――おいノロマの長谷川はせぇ。甘えてばっかいんじゃねぇよ」

 品なく笑う連中を無視して、カツカツとパンプスを鳴らして部屋から出ていく。

 * * *

「――ったく。困るんだよなぁ、今さら言われたって。夏はかき入れ時なの、知ってるだろぉ?」

 コンクリ作りの倉庫兼製造工場は、熱中症待ったなしの暑さであった。大型ラックの隅にて作業中であった田中さんは、黄ばんだタオルで顔を何度も拭っていた。当然ながら不快だと言わんばかりに顔を皺くちゃにするため、まずはなだめるために、何度も頭を下げた。

「ほんっ、とすみません。田中主幹!」

 ボサボサ頭で日に焼けた、割と年配の田中さんは、おうよう、っと大げさな動作で腕を組む。

「部下の面倒はしっかり見てくれねぇとなぁ。新妻ちゃんよぉ」

 三者共に、様々な理由で汗を流す。

「ごめんなさいね。お仕事増やしちゃって」

 やっぱりそう簡単にはいかないみたいだ。仕方がない、やるか。
 ――前髪を左右へ流しつつ、上半身を前へ傾ける。頭を下げ過ぎると、せっかくの谷間が見えないため、微妙な角度で止める。
 すると、まるで谷間を覗かせるみたいな絶妙な角度となり、さらに釣り目を出来るだけ優しく曲げて、上目遣いをする。実はさっき、こっそりとブラの位置を動かして、ブラチラできるようにも仕組んでおいたのだ。

「……あ~っと、ほんと困るぜぇ~」

 案の定、田中さんは長谷川君を睨みつつも、プルンと揺れる胸と黒のブラへ、忙しげに目線を動かしていた。じぶんは勢いを得ながら、ウィンクしつつ半歩ほどすり寄る。

「おねが~い。こんなことぉ、田中主幹じゃないと頼めないのぉ~」

 キャラに酔っているためか、男を操るのが楽しいのか、あまり嫌悪感を伴わず、色仕掛けを行いまくれる。

「――まぁ、新妻ちゃんだから聞いてはやってるけどよぉ。工場長への上手い言い訳はいるし、パートのシフトの組み直しとか面倒……大変なんだぜぇ?」

 媚びるみたいな視線も混ぜ合わせるも、二十九歳ではギリギリなグレー技であった。田中さんは気持ちよさそうな表情を作ってはいるものの、もう二押しは必要か。

「お願~い。田中さん、今回だけ。助けると思って、ね?」

 左腕をそっと掴み、その汚れた作業服に胸に押しつける。
 モニュゥ。

「うひゅ。……ん~。営業部の紅一点は可愛くてしかたねぇけどなぁ――ほいっと」

 クニュ。

「! っ」

 右腕が伸びてきたかと思うと、分厚い皮に覆われた黒い人差し指が、服の上からとは言え、オッパイを突き揉んでくる。
 ゾワッと肌が逆立つも、我慢、ガマンだ。

「や、やだもぅ。田中主幹ってば上手テクニシャン

「……」

 黙っている長谷川君をよそに、さらに左腕へ乳圧をかける。年配の男の加齢臭と汗が混じった臭いが鼻をつく。

「うへへぇ。……ったく、しょ~がね~ぇなぁ――おい、ハセ。何見てんだよ」

「あ、はいっ」

 じぶんがすり寄り甘えてくるこのシチュエーションを見せつけるみたく、指で胸を、な、なぞってくる。
 く、くすぐった気持ち悪ぃ。

「ったくよぉ。上司とはいえ、女の後ろに隠れてんじゃねぇよ。っとに情けない野郎だな!」

「す、すみません……」

 花が枯れるようにしょげる彼を見て、慌ててそっちもカバーする。

「ま、まぁまぁ田中主幹。――じゃあ後から正しい数を、長谷川君に連絡させますので~」

 ……ゆっくりと腕を離した後、何度も頭を下げて胸を揺らし見せる。

「えぇ? もう行っちゃうのかぁ?」

 ポンポン。
 そ、そういうと、左手がお尻に伸びてきて、軽く揉み叩かれる。スカートの上からとは言え、大きな紅葉みたいな手を押しつけらると、いつかの痴漢の悪夢がフラッシュバックする、が。

「っ! あ、あはは。ま、また来ますので~」

 顔を引きつらせつつも、なんとか粗相の無いように退場していく。

「……はぁ、ふぅ。な、何とか事なきを得られたね」

 廊下とは言えクーラーがいくらか効いている建屋の自販機コーナーへ、とりあえず避難する。嫌な汗が服の中をつたう中、コインを投げ入れる。
 ガッコン。
 ミルクセーキなる、男だった時は一切飲まなかった飲み物を手にしつつ、ある胸を撫で下ろす。
 ――先ほどの田中さんの感触的に、まぁ残業前提にはなるだろうけど、何とか請け負ってくれそうだ。最悪、分割納品すればいいし。

「……」

「どしたの?」

 買ってあげた缶コーヒーを、彼は眺めたままだった。

「いや、田中主幹の言う通り、僕って本当にカッコ悪いなぁ、と思いまして」

 へぇ、一応は反省するんだ? じぶんは胸の下で腕を組みつつ、上司っぽい表情を作る。

「まぁ、若い頃は失敗の一つや二つはするよ。気にしなさんな」

 ハハッ、と白い歯を見せて笑う。

「……新妻主任ってほんと、カッコイイけど優しいですよね。僕みたいなのが相手なのに」

 上目遣いでジッと、こっちを見てくる。――まぁ、部下したの面倒見の方が、自分には向いているかもしれないな。

「だから、気にしないでいいって」

 糖分を補給しつつ、手の平をヒラヒラと動かす。

「あ、あの。主任」

 急に姿勢を正して、真面目な声で語りかけてくる。

「きょ、今日の夜って、お時間あります?」

「へ? なに? どした?」

 男だった時には無かった展開だ。

「よ、よかったら晩御飯。お、おごらせてください!」

「へっ? いや、いいってそんなの。おかしいよ」

 部下や後輩を助けるたびに一々そんなことされていたらおかしいし、キリがない。それに目下におごってもらうのは、今ひとつピンと来ない。

「お願いしますっ。日頃のお礼も兼ねて!」

 徐々に声が大きくなり、何度も頭を深く下げられる。

「わ、わかった。わかったから!」

 こんなところを誰かに見られようものなら、また何を言われるかわかったものではない。

「ありがとうございます! お店、任せてくださいっ」

 ラーメンでもファストフードでも、何でもいいですよっと、軽く頷き、飲み終わった缶を捨てて戻ろうとした時だった。

「主任」

「んっ?」

「黒、凄く似合ってますよ!」

 何のことかわからず、彼の目線をたどる。

「! バカっ」

 鼻の下を伸ばす彼の肩口を、思い切り引っ叩いた。胸元を直したは、言うまでもなかった。

 * * *

「長谷川一斗様、いつもご贔屓ひいきにしていただき、ありがとうございます」

 ……タキシードを着たオールバックの、支配人であろう中年の男性が、テーブルについている長谷川クンへ、深々と頭を下げる。

「よしてくださいよ、支配人。それに贔屓にしているのは親父ですから」

 馴れた動作にて挨拶を返す。
 豪華なシャンデリアが柔らかな光で照らす中、店内の広さと内装の絢爛けんらんさ、そして窓からの良好な眺望に、自分は目を白黒させていた。

「とんでもございません。お連れのお嬢様も、どうぞごゆっくり」

 お、お嬢、様?
 何やら勘違いしているのか、こちらへ深々と頭を下げられたため、慌てふためきつつもお辞儀をすると、また不要に胸が揺れた。

「主任。ここは行きつけの店なので、気楽に楽しんでください」

 気楽の文字が崩壊を起こしそうな勢いだった。
 ――そもそもここは、市内で三本の指に入る高級ホテルの上階であり、遠くから眺めるのがせいぜいであった。式峰係長との逢い引きの時にすら来たことは無く、縁遠い存在で間違いなかった。
 他のお客さん達もほぼほぼ上流階級の人っぽく見える中、痴女姿しごとぎのまま来てしまったのに最初は後悔した。けど、客によっては胸元が凄く開いたドレス的な女性ひともいたため、何とか誤魔化せている、のか?
 平静を装いつつ、上質な本革で包まれたメニューへ目をやる。

「ぃっ!」

 一皿の値段が、普段の昼食の五回分以上であった。しかもやたらと名前が長い。クーラー完備のこの完璧な室内にて、冷や汗をかいてしまう。

「主任。もしよかったら、コースを注文しても?」

 ニコリと笑う彼は、容姿も作法も、その全てが調和しており、迷い子のごときじぶんは思わず。

「お、お願いしまふ。す」

 噛んだ。
 彼がボーイを呼ぶと、どのテーブルよりも早く駆けつけてくれた。
 素材の産地を聞いたり、焼き加減を指示しつつ、ワインの生産年を確認するなど、よどみなく注文を行っていった。それらはおよそ、じぶんの知る彼ではなかった。

「は、長谷川、君は――あなたは、一体?」

 手前に置かれた透明なグラスは、珍しいカットの細工が施されていた。彼がテイスティングを行った、赤ワインが音も無く注がれていく。詳しくない自分ですら、いつもの安ワインとは香りが違うことに気付けた。

「まぁ、それは追々で。とりあえずは――」

 彼がグラスを軽く持ち上げたのを見て、真似をする。普段はあまりワインは飲まないが、陶然とうぜんとした香りに目を見開く。素晴らしい香りと味は、さながら生きた紅玉ルビーであり、舌の上で優しく、だが力強い味わい弾けた。思わず口元を抑える。

「【シャトー・ラトゥール】です。本当は1975年物がよかったのですが、今日は81年でご勘弁を」

 いや、ご勘弁も何も、この熟成した優雅な味わいに、何の文句も思い浮かべなかった。ワインに驚いていると、やがて色とりどりの料理が、運ばれてくる。

「こちらはキャビアを乗せた舌平目のポワレです。次はラングスティンのトリュフ添えをご準備しております。また、本日のスープにつきましては、ワタリガニの……」

 情報過多のため、遮断を込めて小さく会釈しつつ、フォークとナイフでぎこちなく食べ進む。
 えと、美味しくはあるのだが、普段からほとんど食べ馴れない素材、料理のため、粗相の無いように食べるので精一杯であった。特に三大珍味については、フォアグラ以外、味自体がよくわからなかったほどだった。

「一曲、始まるみたいですね」

 酔いと緊張が肩を強張こわばらせる中、スープを飲み終わった頃、室内が少し暗くなり、穏やかだが底に力の伴ったピアノが演奏され始める。黒人の女性が弾いているようで、しっとりとしたおもむきのあるバラードが耳を喜ばせた。

「主任。ちゃんと食べています?」

 正直、男の時も大食漢などではなかったためか、女になってさらに燃費が良くなり、特に炭水化物を食べると、すぐにお腹が膨れた。
 そんな中、次々に運ばれてくるため、服の腹回りかがキュウキュウとなり、すでに八分目以上だった。その上、驚くほどに美味しいワインにより、許容以上に飲んでしまうという不始末までしでかす。

「も、もう充分」

 デザートを前に、力尽きた。

「? 少し食べさせすぎました? す、すみません。張り切り過ぎましたね」

 彼はクシャクシャっとナプキンを握ると、机に置き、優雅に手を上げる。

「すまない。空いている部屋はないかな? 彼女を少し休憩させたい」

 え? 何の話? 血が胃に通いすぎ、さらに心地よい酔いでボーッとする中、確かに休みたいとは思った。
 けどボーイは、まるで最初から用意していたみたく、懐から一本のゴテゴテと光る金色の鍵を取り出す。

「一斗様、どうぞ」

 チャリ、と澄んだ金属音を鳴らす。

「ありがとう」

 そう言って、ピッ、と高額紙幣を一枚手渡した。

「えっと、あの?」

 疑問を口にする前に、女性のウェイターが傍へ来て、肩を貸してくれる。よく見ると、綺麗でスタイルもよく、清潔感が漂う女性なのに、であった。

「新妻様。お部屋までご案内いたしますわ」

 ――え? へっ?
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