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二章 やや女
第七話 姉御肌は柔らかい
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通された一室はやたらと広く煌びやかで、街を見下ろせる特別室であった。黒い水底に沈むような下界にて、走る車のテールランプは、小さな宝石が泳いでいるみたく輝いた。
「体調、大丈夫ですか?」
キングサイズのふかふかベットに横たわる私の隣にて、カクテルグラスを持った長谷川君が、心配そうに頭を覗かせる。
「(まだだいぶ苦しいけど)あ、ありがとう……と、ところでさ」
豪華な部屋にて男女二人きりだからか、何となくな雰囲気になりつつあるため、色っぽくない話題を引き出した方が良いかと、彼が言い渋っていた質問をしようとする。
しかし、こちらの意図を察知してくれてか、重そうな口を開く。
「さっきの質問、ですよね? えと――僕の父親は、ある会社の代表をしているんです」
なるほど。会社の規模はぼかしているけど、話を聞くに、そこらの中小企業以上であることは間違いなさそうであった。ビルの所有という言葉から、ちょっとした御曹司? 的な印象すら抱かせた。
とは言え、いかんせんリアクションに困った。なぜなら、彼には自慢気な気配が全くなかったからだ。しかし、返答に困っている私へ、なぜか安心するみたく眺める彼は、机の上に置かれていた、フレッシュチーズをクラッカーへ乗せて、一噛みにした。
「さらに僕には兄がいるんです。昔から父は兄に厳しく、僕にやたら甘かったんです。――何故だと思います?」
そっとため息を吐きつつ、長い睫毛を少し下ろした、苦しむみたいな表情と共に、顔を向けてくる。――なんだろうか。やはり妙に庇護欲をそそるみたいな表情や動作に、身体のどこかがムズムズしてしまう。
男だった時には、全く感じなかったのに。
「え? えっと……は、母親が違うから、とか?」
身体を起こして、足を揃えつつ、自分でもどうなの? という答えを口走ってしまったが、彼は小さく首を振っただけだった。
「会社を任せるためには、愛情を堰き止めて、兄を厳しく鍛えないといけない。けど、貯めた愛情はどこかへ吐き出したい。だから止むなく僕に注ぎ込むだけ――まぁ、愛玩動物みたいなものですよ」
吐き捨てるように口にした後、カッ、とグラスを呷り、携帯に少し触れた。
「の、飲みすぎだよ」
ふぅー、っと息を吐きつつ、彼は視線を、足下の分厚い絨毯へ向けた。
「学校も父が決め、婚約者も父が選び……けど、事業に係る権限は全て兄のものです」
最高品質のスエードで出来た、高級な革靴が小さく震えた。
「せめて勤め先くらいはと、父が勧めた子会社を蹴って、今の会社に入ったのですが――営業成績はご覧の有りさまで。アハハッ」
手の甲を目元へ当てつつ、自嘲した。かける言葉を探す内に。
「結局、父親の敷いたレールの上を走らないと、真っ当に生きていけないんです。馬鹿坊とはよく言ったものですね。無能、無能」
私は中腰になって、手近にあったコップへ手を伸ばし、瓶詰めの蒸留水を注いで手渡す。
「はい」
いつの間にか目を赤くしていた彼は、なぜか眩し気にこっちを見やる。
震える手でそれを受け取るはずが、なぜかコップごと手を重ねてくる。やがて私の手ごと、コップを口に運び、飲み干そうとする。
「ゴクッ。ふーっ」
当然ながら変な飲み方であったため、いくらかこぼれて、彼のハイブランドなネクタイとシャツを濡らした。
「主任」
ようやく手を離されたかと思うと、真っすぐに見つめられる。
唐突で、さらに近く、何より普段とは異なる、真剣な表情と声だった。自分の酔いも手伝って、わけもわからずドキリとしてしまう。
「な、何?」
思わず仰け反るも、その分だけ距離を詰めてくる。
「さっき、僕にはお金があると言ったのに、顔色一つ変えませんでしたね?」
へっ? ま、まぁ知ったところで仕方ないというか、むしろ聞きたくなかったというか。
「今まで付き合ってきた女性はみんな、その事実を知った瞬間、目を輝かせて態度を豹変させました」
――あぁ、なるほど? 確かに女性視点で経済力は、容貌や性格よりも重要な要素になりうる。
「彼女達はみんな、僕ではなくてお金と結婚したかったんですよ」
まるでようやく理解者を見つけたみたく、熱く語ってくる。
う、う~ん。女体化した身としては、何となく口を挟みにくい話題な気がした。彼の酒臭い息を顔面で受けつつ、小さな顎を小さく上下させるに留めた。
「出自や境遇ではなく、僕自身を見つめてくださる主任が、好きです」
ドクン!
「な、なに言ってるのっ?」
声が裏返る。不意打ちなためか、変なムードが押し上げているからか、耳が妙に熱くなる。
……川口の奇妙な指示と式峰係長との関係を皮切りに、この辺りの思考というか感覚が、明らかに変わりつつあった。
「こんな僕をいつも見棄てないで、相談に乗ってくれて、優しくしてくれる貴女が、大好きです!」
もう吐息が口に入るくらいの距離まで詰め寄られていた。潤んだ瞳と唇は赤っぽく、自分の中で湧き上がる同情心と庇護欲のためか、彼を強く撥ね除けられない。
今まで以上に弱っている相手を突き放す行為が出来ないのも、心まで女体化しつつあるから?
「ちょ、えっと……! ほ、ほらっ。君は婚約者がいるんでしょ?」
しかし、いくら脳や心までも女体化を受け入れつつあるかもとは言え、恋人がいる相手に『ベットの上で慰めてあげるよ』とは、簡単には言えない。
――と、とはいえ、どうしようか? 密室で女に迫る男を、言葉で抑制することは不可能だと、係長との情愛の際に散々と思い知らされていた。
「父の連れてきた相手なので、すぐには無理ですが……必ず別れます!」
そ、そんな酔った男の言葉を担保にするのは、ちょっと――。
トサッ。彼の手が肩に触れたかと思うと、天井が視界を埋める。
ぐるぐると頭の中が逡巡している女を押し倒すなんて、小柄な彼でも、男なら容易だった。
「そ、そういうのは別れてからにしなさい。ってか、ほ、ほんっとダメだって。お、怒るよ!」
もう若干、諦めつつも迫りくる彼を、胸から上を起こしつつ睨む。胸の揺れがおさまる間、精一杯の声を張り上げるも、分厚い天井と壁、そして柔らかな絨毯に吸収されていった。
「……す、すみません」
けど、あれ? 肩を押さえてくる彼の力が弱まる、っというか震えだす。
「主任みたいな素敵な女性が、僕みたいなのを、好きになってもらえるわけないですよね」
え? いや、別に好きなるとかならないの話じゃなくって――。
私の身体からそっと手を離し、力弱く肩を震わせる長谷川を見ると、どういうわけか、なぜか罪悪感のようなものを感じて、胸の奥がキュっとなる。
「今の婚約者だって、どうせ父の息子だから、お金が見え隠れしているから、付き合ってくれているだけなんですよ」
ベットのシーツをギュッと握って、弱々しく吐き出した。
「主任。すみません。いつもお世話になっているのに、とても失礼なことを……」
「あ、えと。別に、そこまでは」
高価な服を着飾る彼は、けどまるで、崩れるみたく上半身を前へと傾けてきた。嗚咽を漏らすその顔を、私の凹んだ柔らかなお腹で、受け止める。
まるで謝罪するように頭を下げて密着させてくる彼を見ると、やはり、こう――お腹の底がムズムズとしてくる。
「主任。こ、れ」
姿勢もそのまま、涙で濡れた指でもって胸ポケットから、美しく包装された小箱を取り出す。
「え?」
何が何やらと、けど思わず受け取ってしまい、やむなく開ける。
「ちょっ!」
柔らかなシルクが敷かれたその上には、眩い、凝った意匠の首飾りが入っていた。大粒のサファイアは星のアイコンモチーフにて象られており、純金であろうゴールドのチェーンは光輝いていた。
外国製のブランド物みたいで、知識がほとんど無い私が見ても、冬の特別賞与以上であろうことは簡単にわかった。
「主任のために、選びました」
途切れかけの糸みたいな声で、健気なことをささやかれた。
――昼の件以上にご馳走してもらった上、こんな高価な物までいただいてしまうと、何かお返しをしないと、という気持ちが否が応でも強くなる。
七つほど年下で、自分になつく、悲しみに暮れる部下・後輩なる彼を、女の自分が――慰める。
「う、うっ……」
それっきり蹲る。腹部に顔の熱と、涙の湿気が溜まっていく。
「――ハァ」
顔の半分を片手で抑えつつ、決意したように溜息を突く。兄貴肌ならず、姉御肌って? いや、それも何か違うか。
彼を何とか起こし上げた後、ペタン、っとベットの中央にて、女の子座りをする。
「ねぇ、長谷川クン」
心を決めたら、すんなりと優しく吐き出せた。数秒してから、彼はゆっくりと顔をあげる。真っ赤な瞳と共に。
「食べ過ぎたせいか、服の締め付けがキツくて苦しいの。ちょっとボタンを外してくれない?」
そう言って、大きな揺れる胸を前へと張り出す。
「――えっ? に、新妻主任?」
目を見開くと同時に、みるみる顔に血色がもどっていく。まるで病人が快復するのを、圧縮したかのようであった。
「なに? シテくれないなら、あたし帰ろっかなぁ」
ほんの少し肩をすくめる素振りだけで、飛びつくようにボタンを掴もうとする。
「わっ」
ドサッ。
勢いがありすぎて、再度、押し倒される。
柔らかな栗色の髪がシーツへ放射線状になびく中、私は緩んだ感じで、沁み一つ無い天井を仰ぎ見た。プチン、プチンと、最後のボタンを外そうと必死な彼の、少し骨ばった手の甲に、そっと触れる。
「しゅ、主任――」
「今日だけだかんね?」
観念したかの様に笑う。
おそらくは色々な意味で不正解な自分の決意で、けど先ほどまで抱えていた胸のわだかまりは、嘘みたいに薄れ消えていった。
「は、はい! あ、ありがとうございますっ!」
バカみたいに大きな声でお礼を言われると、こっちが恥ずかしい。
「で、ではっ」
希望に回復した顔色と共に、震える指で最後のボタンを外す。
プチン。
「――次はワイシャツね」
「は、はいっ!」
忠実に、何より嬉しそうにそう叫ぶ。いい歳して無邪気が似合うのは、何だかんだでいい育ちをしたからなのだと思った。
プチ、プチ――バッ。
などと、上から目線で無抵抗なまま眺めていたため、早々にシャツを開けひらかれて、黒のブラがプルン、と乳房と共に露わになる。
「はぁ、はぁ――き、綺麗です。主任」
「ありがと……次はスカートのホック」
彼は瞬きも忘れて、紺の超短いスカートへ視線を飛ばす。生脚を覗かせる中、私は腰を右に振り、左側のフックを天井へ向ける。
「は、外しますねっ」
鼻の穴を拡げながら逐一、報告するところを見ると、まさか童貞? と勘繰ってしまう。必死な形相と共に震える指でもって、ようやくジッパーを下ろす。
「しゅ、主任。ぬ、脱がさせていただいても――」
「ホックを引っ掛けないでね」
「は、はい!」
スルスルっと、白くて清潔なシーツの上を滑るみたく脱がされてゆく。
――飾りに飾ったシャンデリアが煌々と照る明かりの下、丸い腰とほっそりとした太腿とその脚が出現する。
自画自賛だけど、二十九歳にしては年を感じさせない綺麗な腰づきと脚と言えた。そして、それらを覆うのは、卑猥な黒のセクシーブラとローレグなショーツのみ。
私は、二つの意味で酔いつつも、腰肉のあたりを人さし指でいやらしく撫でる。
「ハァ、ハァ。しゅ、主任。つぎ、次は――」
過呼吸気味に、私の顔、胸、脚を何度も何度も見やりつつ、暑くなってきたのか、高価な上着やワイシャツを脱ぎ捨てていく。
「そうだなぁ」
軽いお預け状態にすると、体内が情欲の炎に焼かれているみたく、苦しそうに呼吸を繰り返した。
――悶える彼とは異なり、自分は係長とスル時に比べると、圧倒的に心身に余裕があって、こういうのも悪くないなと、甘い思考に浸っていた。
M字に座り直し、舌先をチロチロと蛇みたく動かし、両手でブラの上から胸を揉み撫でる。
「んふふっ。ちょっとエッチぃかい?」
っとと、さすがに気恥ずかしさを覚えつつも、前に降りてきた茶色の髪を耳後ろへ揃える。
「しゅ、主任。もう僕、僕っ――」
辛抱できませんと、瞳を震わせて、四つん這いでこちらへ近づいてくる。
「んっ。ちょっと立ってみ」
もう勃ってるとは思うけどね。
けど近くで眺めると、上半身は貧相ながら、悪くない体躯だった。直立する彼の股間部分は、まぁ性欲でパンパンに膨れ上がっていた。
膝立ちの私は、彼を見上げつつ、細い手と指で、チャックをゆっくりと降ろしていく。
「しゅ、主任。は、早く」
「慌てない、慌てない」
なんて余裕ぶりつつも、若い部下への淫猥な行為に、私も心臓が高鳴っていった。
多くの女性を見知ってきたお金持ちの彼が、ここまで肉棒を膨らませるほどの魅力を、自分が持っていると実感してしまうからだ。
「わか、わかりました」
――今は立場や性格で主導権を握っているけど、結局、最後は挿入する側が支配する。そう考えると、女は最後、性欲の捌け口にされるだけ。
けど、それが性行為する女の義務であり、務めであり――トッケンなのだ――っと、いくら余裕タップリとは言え、男のみがするであろう変態チックな妄想に、脳を汚しすぎ。
「(何より、女の自分に酔いすぎてる)あ、開けるよ~」
わざと余裕があるようにそう言いつつも、頬どころか耳までも赤かった。
「(あれ、出てこない?)この白くて柔らかいのは?」
えと、まさかのブリーフ? しかもシルク製のソレに対して、社会の窓から指を入れて、ずり下ろす。
ボロン!
「(サイズは標準、かな)元気がいいねぇ、若いのは」
包皮はそこまで黒くなく、使い込んでる感はあまり無かった。先の亀頭も赤味が薄く、係長や川口のとはまた違うなと、無意識の内に比較してしまった。
息が当たるたび、ビクビクと縦に震えるのには、妙に可愛らしさを覚えてしまった。ひざまずくみたいに両膝の高さを調整し、元気な肉棒の位置へ唇を持って行く。
「主任だって、お若いじゃ、ないですか」
おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。右手で玉袋を優しく揉みつつ、左手は陰茎を優しく擦る。口はもちろん――。
「あんむ」
亀頭を、温かい口内へ誘う。何度か経験してしまった、苦くてちょっと臭い味が、口の中から鼻へ抜ける。
「ふおあっ!」
舌先で尿道口を舐め上げつつ、歯で傷つけないように注意する。亀頭を口内のあちこちに当て擦り、雁首の薄い恥垢を、舐めこそぎ取る。
「(にしても、主導権を握ってたせいか、今日はエッチにすんなり入れたなぁ。スイッチどこで入ったんだろ? 係長とでも、初手フェラはちょっと嫌だったのに)どほ? きもひひぃ?」
チュボ、ジュッポとわざと下品な音を立たせて、陰茎を擦る強さと速さを徐々に高めていく。まるで鍛えていない風な陰茎は、されるがままで、まるで快楽の波に溺れているかの様であった。
「主、任。なん、で、そんなに、上手、なんでふか!」
そりゃ男だったからね~、ツボというツボをある程度は知っているよ。
ってか、今くらいの経験値があったら、あの時の川口にも勝てたかなぁ~。なんてくだらないタラレバを妄想してしまう。
「ふおっ、んふっ。――き、気の強い、けど優しい、綺麗で、セクシーな、あの新妻主任が、僕なんかの、チンポをしゃぶって、くださ、っている」
うっ、そんな風に言われると、お腹の下がムズムズしてくる。
喘ぐ彼を見上げつつ、時間も忘れて舌と口と手で、濡れ濡れな肉棒をしばらく弄過ごす。
「チュボ、ジュル(ん?)」
ペト、っと膣口に何かが引っ付きだす。フリーな方の手でそっと確認するに、とうとう愛液が漏れ出てきて、クロッチ部分が付着したみたいだった。
まぁスイッチ入っているから、ためらいも羞恥も、そこまで沸いてこなくて、むしろジンジンと熱くなる股間に気持ち良さすら感じていた。
――そもそもフェラのナニがイイって、男の小便の排出先を、女がわざわざこんな不細工な顔を作って、口で吸いだしているところと言わざるを得ない。
むしろこの現状。主導権を握っている振りをしつつ、精液吸引しているとか、変態だよね――って、発想がドMすぎる。
にしても、長谷川君との関係性のためか、相手が受け身だからか、今日は本当に余裕があり過ぎて、自由に運ぶことができた。……けど、それが私の女としての性癖に、よくない深化を、与えてイクことに――。
「しゅ、主任。で、射精ます!」
「うへ? ひょっ、まっ!」
ビュ、ビュクン! ピュルル! トポッ。
熱くて粘っこくて臭う白い粘液が、喉ちんこを直撃する。そのまま全部は胃へとは流れず、さすがに半分ほどは逆流してしまう。
「ゴホッ! オエッ」
ボト、ポトっとシーツの上へ、白くねばつく固まりをこぼれ落としてしまう。
……うぅ、やっぱり美味しくはないなぁ。
「体調、大丈夫ですか?」
キングサイズのふかふかベットに横たわる私の隣にて、カクテルグラスを持った長谷川君が、心配そうに頭を覗かせる。
「(まだだいぶ苦しいけど)あ、ありがとう……と、ところでさ」
豪華な部屋にて男女二人きりだからか、何となくな雰囲気になりつつあるため、色っぽくない話題を引き出した方が良いかと、彼が言い渋っていた質問をしようとする。
しかし、こちらの意図を察知してくれてか、重そうな口を開く。
「さっきの質問、ですよね? えと――僕の父親は、ある会社の代表をしているんです」
なるほど。会社の規模はぼかしているけど、話を聞くに、そこらの中小企業以上であることは間違いなさそうであった。ビルの所有という言葉から、ちょっとした御曹司? 的な印象すら抱かせた。
とは言え、いかんせんリアクションに困った。なぜなら、彼には自慢気な気配が全くなかったからだ。しかし、返答に困っている私へ、なぜか安心するみたく眺める彼は、机の上に置かれていた、フレッシュチーズをクラッカーへ乗せて、一噛みにした。
「さらに僕には兄がいるんです。昔から父は兄に厳しく、僕にやたら甘かったんです。――何故だと思います?」
そっとため息を吐きつつ、長い睫毛を少し下ろした、苦しむみたいな表情と共に、顔を向けてくる。――なんだろうか。やはり妙に庇護欲をそそるみたいな表情や動作に、身体のどこかがムズムズしてしまう。
男だった時には、全く感じなかったのに。
「え? えっと……は、母親が違うから、とか?」
身体を起こして、足を揃えつつ、自分でもどうなの? という答えを口走ってしまったが、彼は小さく首を振っただけだった。
「会社を任せるためには、愛情を堰き止めて、兄を厳しく鍛えないといけない。けど、貯めた愛情はどこかへ吐き出したい。だから止むなく僕に注ぎ込むだけ――まぁ、愛玩動物みたいなものですよ」
吐き捨てるように口にした後、カッ、とグラスを呷り、携帯に少し触れた。
「の、飲みすぎだよ」
ふぅー、っと息を吐きつつ、彼は視線を、足下の分厚い絨毯へ向けた。
「学校も父が決め、婚約者も父が選び……けど、事業に係る権限は全て兄のものです」
最高品質のスエードで出来た、高級な革靴が小さく震えた。
「せめて勤め先くらいはと、父が勧めた子会社を蹴って、今の会社に入ったのですが――営業成績はご覧の有りさまで。アハハッ」
手の甲を目元へ当てつつ、自嘲した。かける言葉を探す内に。
「結局、父親の敷いたレールの上を走らないと、真っ当に生きていけないんです。馬鹿坊とはよく言ったものですね。無能、無能」
私は中腰になって、手近にあったコップへ手を伸ばし、瓶詰めの蒸留水を注いで手渡す。
「はい」
いつの間にか目を赤くしていた彼は、なぜか眩し気にこっちを見やる。
震える手でそれを受け取るはずが、なぜかコップごと手を重ねてくる。やがて私の手ごと、コップを口に運び、飲み干そうとする。
「ゴクッ。ふーっ」
当然ながら変な飲み方であったため、いくらかこぼれて、彼のハイブランドなネクタイとシャツを濡らした。
「主任」
ようやく手を離されたかと思うと、真っすぐに見つめられる。
唐突で、さらに近く、何より普段とは異なる、真剣な表情と声だった。自分の酔いも手伝って、わけもわからずドキリとしてしまう。
「な、何?」
思わず仰け反るも、その分だけ距離を詰めてくる。
「さっき、僕にはお金があると言ったのに、顔色一つ変えませんでしたね?」
へっ? ま、まぁ知ったところで仕方ないというか、むしろ聞きたくなかったというか。
「今まで付き合ってきた女性はみんな、その事実を知った瞬間、目を輝かせて態度を豹変させました」
――あぁ、なるほど? 確かに女性視点で経済力は、容貌や性格よりも重要な要素になりうる。
「彼女達はみんな、僕ではなくてお金と結婚したかったんですよ」
まるでようやく理解者を見つけたみたく、熱く語ってくる。
う、う~ん。女体化した身としては、何となく口を挟みにくい話題な気がした。彼の酒臭い息を顔面で受けつつ、小さな顎を小さく上下させるに留めた。
「出自や境遇ではなく、僕自身を見つめてくださる主任が、好きです」
ドクン!
「な、なに言ってるのっ?」
声が裏返る。不意打ちなためか、変なムードが押し上げているからか、耳が妙に熱くなる。
……川口の奇妙な指示と式峰係長との関係を皮切りに、この辺りの思考というか感覚が、明らかに変わりつつあった。
「こんな僕をいつも見棄てないで、相談に乗ってくれて、優しくしてくれる貴女が、大好きです!」
もう吐息が口に入るくらいの距離まで詰め寄られていた。潤んだ瞳と唇は赤っぽく、自分の中で湧き上がる同情心と庇護欲のためか、彼を強く撥ね除けられない。
今まで以上に弱っている相手を突き放す行為が出来ないのも、心まで女体化しつつあるから?
「ちょ、えっと……! ほ、ほらっ。君は婚約者がいるんでしょ?」
しかし、いくら脳や心までも女体化を受け入れつつあるかもとは言え、恋人がいる相手に『ベットの上で慰めてあげるよ』とは、簡単には言えない。
――と、とはいえ、どうしようか? 密室で女に迫る男を、言葉で抑制することは不可能だと、係長との情愛の際に散々と思い知らされていた。
「父の連れてきた相手なので、すぐには無理ですが……必ず別れます!」
そ、そんな酔った男の言葉を担保にするのは、ちょっと――。
トサッ。彼の手が肩に触れたかと思うと、天井が視界を埋める。
ぐるぐると頭の中が逡巡している女を押し倒すなんて、小柄な彼でも、男なら容易だった。
「そ、そういうのは別れてからにしなさい。ってか、ほ、ほんっとダメだって。お、怒るよ!」
もう若干、諦めつつも迫りくる彼を、胸から上を起こしつつ睨む。胸の揺れがおさまる間、精一杯の声を張り上げるも、分厚い天井と壁、そして柔らかな絨毯に吸収されていった。
「……す、すみません」
けど、あれ? 肩を押さえてくる彼の力が弱まる、っというか震えだす。
「主任みたいな素敵な女性が、僕みたいなのを、好きになってもらえるわけないですよね」
え? いや、別に好きなるとかならないの話じゃなくって――。
私の身体からそっと手を離し、力弱く肩を震わせる長谷川を見ると、どういうわけか、なぜか罪悪感のようなものを感じて、胸の奥がキュっとなる。
「今の婚約者だって、どうせ父の息子だから、お金が見え隠れしているから、付き合ってくれているだけなんですよ」
ベットのシーツをギュッと握って、弱々しく吐き出した。
「主任。すみません。いつもお世話になっているのに、とても失礼なことを……」
「あ、えと。別に、そこまでは」
高価な服を着飾る彼は、けどまるで、崩れるみたく上半身を前へと傾けてきた。嗚咽を漏らすその顔を、私の凹んだ柔らかなお腹で、受け止める。
まるで謝罪するように頭を下げて密着させてくる彼を見ると、やはり、こう――お腹の底がムズムズとしてくる。
「主任。こ、れ」
姿勢もそのまま、涙で濡れた指でもって胸ポケットから、美しく包装された小箱を取り出す。
「え?」
何が何やらと、けど思わず受け取ってしまい、やむなく開ける。
「ちょっ!」
柔らかなシルクが敷かれたその上には、眩い、凝った意匠の首飾りが入っていた。大粒のサファイアは星のアイコンモチーフにて象られており、純金であろうゴールドのチェーンは光輝いていた。
外国製のブランド物みたいで、知識がほとんど無い私が見ても、冬の特別賞与以上であろうことは簡単にわかった。
「主任のために、選びました」
途切れかけの糸みたいな声で、健気なことをささやかれた。
――昼の件以上にご馳走してもらった上、こんな高価な物までいただいてしまうと、何かお返しをしないと、という気持ちが否が応でも強くなる。
七つほど年下で、自分になつく、悲しみに暮れる部下・後輩なる彼を、女の自分が――慰める。
「う、うっ……」
それっきり蹲る。腹部に顔の熱と、涙の湿気が溜まっていく。
「――ハァ」
顔の半分を片手で抑えつつ、決意したように溜息を突く。兄貴肌ならず、姉御肌って? いや、それも何か違うか。
彼を何とか起こし上げた後、ペタン、っとベットの中央にて、女の子座りをする。
「ねぇ、長谷川クン」
心を決めたら、すんなりと優しく吐き出せた。数秒してから、彼はゆっくりと顔をあげる。真っ赤な瞳と共に。
「食べ過ぎたせいか、服の締め付けがキツくて苦しいの。ちょっとボタンを外してくれない?」
そう言って、大きな揺れる胸を前へと張り出す。
「――えっ? に、新妻主任?」
目を見開くと同時に、みるみる顔に血色がもどっていく。まるで病人が快復するのを、圧縮したかのようであった。
「なに? シテくれないなら、あたし帰ろっかなぁ」
ほんの少し肩をすくめる素振りだけで、飛びつくようにボタンを掴もうとする。
「わっ」
ドサッ。
勢いがありすぎて、再度、押し倒される。
柔らかな栗色の髪がシーツへ放射線状になびく中、私は緩んだ感じで、沁み一つ無い天井を仰ぎ見た。プチン、プチンと、最後のボタンを外そうと必死な彼の、少し骨ばった手の甲に、そっと触れる。
「しゅ、主任――」
「今日だけだかんね?」
観念したかの様に笑う。
おそらくは色々な意味で不正解な自分の決意で、けど先ほどまで抱えていた胸のわだかまりは、嘘みたいに薄れ消えていった。
「は、はい! あ、ありがとうございますっ!」
バカみたいに大きな声でお礼を言われると、こっちが恥ずかしい。
「で、ではっ」
希望に回復した顔色と共に、震える指で最後のボタンを外す。
プチン。
「――次はワイシャツね」
「は、はいっ!」
忠実に、何より嬉しそうにそう叫ぶ。いい歳して無邪気が似合うのは、何だかんだでいい育ちをしたからなのだと思った。
プチ、プチ――バッ。
などと、上から目線で無抵抗なまま眺めていたため、早々にシャツを開けひらかれて、黒のブラがプルン、と乳房と共に露わになる。
「はぁ、はぁ――き、綺麗です。主任」
「ありがと……次はスカートのホック」
彼は瞬きも忘れて、紺の超短いスカートへ視線を飛ばす。生脚を覗かせる中、私は腰を右に振り、左側のフックを天井へ向ける。
「は、外しますねっ」
鼻の穴を拡げながら逐一、報告するところを見ると、まさか童貞? と勘繰ってしまう。必死な形相と共に震える指でもって、ようやくジッパーを下ろす。
「しゅ、主任。ぬ、脱がさせていただいても――」
「ホックを引っ掛けないでね」
「は、はい!」
スルスルっと、白くて清潔なシーツの上を滑るみたく脱がされてゆく。
――飾りに飾ったシャンデリアが煌々と照る明かりの下、丸い腰とほっそりとした太腿とその脚が出現する。
自画自賛だけど、二十九歳にしては年を感じさせない綺麗な腰づきと脚と言えた。そして、それらを覆うのは、卑猥な黒のセクシーブラとローレグなショーツのみ。
私は、二つの意味で酔いつつも、腰肉のあたりを人さし指でいやらしく撫でる。
「ハァ、ハァ。しゅ、主任。つぎ、次は――」
過呼吸気味に、私の顔、胸、脚を何度も何度も見やりつつ、暑くなってきたのか、高価な上着やワイシャツを脱ぎ捨てていく。
「そうだなぁ」
軽いお預け状態にすると、体内が情欲の炎に焼かれているみたく、苦しそうに呼吸を繰り返した。
――悶える彼とは異なり、自分は係長とスル時に比べると、圧倒的に心身に余裕があって、こういうのも悪くないなと、甘い思考に浸っていた。
M字に座り直し、舌先をチロチロと蛇みたく動かし、両手でブラの上から胸を揉み撫でる。
「んふふっ。ちょっとエッチぃかい?」
っとと、さすがに気恥ずかしさを覚えつつも、前に降りてきた茶色の髪を耳後ろへ揃える。
「しゅ、主任。もう僕、僕っ――」
辛抱できませんと、瞳を震わせて、四つん這いでこちらへ近づいてくる。
「んっ。ちょっと立ってみ」
もう勃ってるとは思うけどね。
けど近くで眺めると、上半身は貧相ながら、悪くない体躯だった。直立する彼の股間部分は、まぁ性欲でパンパンに膨れ上がっていた。
膝立ちの私は、彼を見上げつつ、細い手と指で、チャックをゆっくりと降ろしていく。
「しゅ、主任。は、早く」
「慌てない、慌てない」
なんて余裕ぶりつつも、若い部下への淫猥な行為に、私も心臓が高鳴っていった。
多くの女性を見知ってきたお金持ちの彼が、ここまで肉棒を膨らませるほどの魅力を、自分が持っていると実感してしまうからだ。
「わか、わかりました」
――今は立場や性格で主導権を握っているけど、結局、最後は挿入する側が支配する。そう考えると、女は最後、性欲の捌け口にされるだけ。
けど、それが性行為する女の義務であり、務めであり――トッケンなのだ――っと、いくら余裕タップリとは言え、男のみがするであろう変態チックな妄想に、脳を汚しすぎ。
「(何より、女の自分に酔いすぎてる)あ、開けるよ~」
わざと余裕があるようにそう言いつつも、頬どころか耳までも赤かった。
「(あれ、出てこない?)この白くて柔らかいのは?」
えと、まさかのブリーフ? しかもシルク製のソレに対して、社会の窓から指を入れて、ずり下ろす。
ボロン!
「(サイズは標準、かな)元気がいいねぇ、若いのは」
包皮はそこまで黒くなく、使い込んでる感はあまり無かった。先の亀頭も赤味が薄く、係長や川口のとはまた違うなと、無意識の内に比較してしまった。
息が当たるたび、ビクビクと縦に震えるのには、妙に可愛らしさを覚えてしまった。ひざまずくみたいに両膝の高さを調整し、元気な肉棒の位置へ唇を持って行く。
「主任だって、お若いじゃ、ないですか」
おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。右手で玉袋を優しく揉みつつ、左手は陰茎を優しく擦る。口はもちろん――。
「あんむ」
亀頭を、温かい口内へ誘う。何度か経験してしまった、苦くてちょっと臭い味が、口の中から鼻へ抜ける。
「ふおあっ!」
舌先で尿道口を舐め上げつつ、歯で傷つけないように注意する。亀頭を口内のあちこちに当て擦り、雁首の薄い恥垢を、舐めこそぎ取る。
「(にしても、主導権を握ってたせいか、今日はエッチにすんなり入れたなぁ。スイッチどこで入ったんだろ? 係長とでも、初手フェラはちょっと嫌だったのに)どほ? きもひひぃ?」
チュボ、ジュッポとわざと下品な音を立たせて、陰茎を擦る強さと速さを徐々に高めていく。まるで鍛えていない風な陰茎は、されるがままで、まるで快楽の波に溺れているかの様であった。
「主、任。なん、で、そんなに、上手、なんでふか!」
そりゃ男だったからね~、ツボというツボをある程度は知っているよ。
ってか、今くらいの経験値があったら、あの時の川口にも勝てたかなぁ~。なんてくだらないタラレバを妄想してしまう。
「ふおっ、んふっ。――き、気の強い、けど優しい、綺麗で、セクシーな、あの新妻主任が、僕なんかの、チンポをしゃぶって、くださ、っている」
うっ、そんな風に言われると、お腹の下がムズムズしてくる。
喘ぐ彼を見上げつつ、時間も忘れて舌と口と手で、濡れ濡れな肉棒をしばらく弄過ごす。
「チュボ、ジュル(ん?)」
ペト、っと膣口に何かが引っ付きだす。フリーな方の手でそっと確認するに、とうとう愛液が漏れ出てきて、クロッチ部分が付着したみたいだった。
まぁスイッチ入っているから、ためらいも羞恥も、そこまで沸いてこなくて、むしろジンジンと熱くなる股間に気持ち良さすら感じていた。
――そもそもフェラのナニがイイって、男の小便の排出先を、女がわざわざこんな不細工な顔を作って、口で吸いだしているところと言わざるを得ない。
むしろこの現状。主導権を握っている振りをしつつ、精液吸引しているとか、変態だよね――って、発想がドMすぎる。
にしても、長谷川君との関係性のためか、相手が受け身だからか、今日は本当に余裕があり過ぎて、自由に運ぶことができた。……けど、それが私の女としての性癖に、よくない深化を、与えてイクことに――。
「しゅ、主任。で、射精ます!」
「うへ? ひょっ、まっ!」
ビュ、ビュクン! ピュルル! トポッ。
熱くて粘っこくて臭う白い粘液が、喉ちんこを直撃する。そのまま全部は胃へとは流れず、さすがに半分ほどは逆流してしまう。
「ゴホッ! オエッ」
ボト、ポトっとシーツの上へ、白くねばつく固まりをこぼれ落としてしまう。
……うぅ、やっぱり美味しくはないなぁ。
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