社会人の俺が女体化したら転がり堕ちていった

ニッチ

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二章 やや女

第九話 性なる任務

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「ふぁ~あ。だいぶ涼しくなってきたなぁ」

 昼下がりの午後であった。外回りの帰りとはいえ、欠伸あくびでこじ開けられた口を、慌てて片手で隠した。羽織った茶色のトレンチコートを揺らすのは、十月の曇天模様の空の下こと、ちょっと肌寒い木曜日の事であった。
 本当に寒いのには参るなぁ。男に比べて筋肉量が少なくて、脂肪が多いからとは言うけど、晩秋の手前でこれはなかなか厳しい。けどその一方、コートを羽織るおかげで露出が減るのは、ありがたいと思わなくもなかった。
 ……女体化してから、もう半年が経とうとしていた。

「(っていうか、男だった時と比べてかなり丸くなったというか、記憶や感覚もだんだん)――んっ?」

 会社の屋舎を視界の端にて拾った時、片側三車線の大通りをまたぐ横断歩道を前に、立ち止まろうとした長谷川君を見かけた。

「あっ、主任!」

 なんと、明滅する信号にも関わらず、慌てふためいて走ってくる。

「あ、危ないって」

 鞄を小脇に抱えて、肩で息をする彼は、笑いながら傍までやってくる。

「主任のためなら、少しくらいの危険なんてへっちゃらですよ!」

 臭いセリフを、意識しているのかしていないのか、ポンポンと口にする彼であった。
 ……豪華なディナーのあの日から、およそ二ヶ月弱が経過していた。一夜限りのつもりが――そのぅ――なし崩し的に、彼とも式峰係長と同じ頻度で、火曜日に求め合う関係となってしまった。
 いや、その……仕方ない部分もあるんだって! 係長と同じで、どこかでキッパリさせないといけないのはわかっていた。しかし、長谷川君に伺うみたく甘えられ、求められると、なぜか拒絶することが上手く出来なかった。
 逆に彼を受け入れると、胸の奥のナニかが、ほんわりと満たされるような気がして、ズルズルと今日に至ってしまった。
 それにい引きの度、プレゼントや豪華な夕食だのに誘われたりで、もらうだけもらうというのも性に合わず――まぁ身体を提供してしまうのであった。
 チュッ。

「わっ」

 頬に柔らかなモノが当ったかと思うと、少し濡れていた。彼は――良い意味も悪い意味も含んだような、無垢むくな笑みを浮かべて、こう言った。

「主任。大好きです」

 ドアップ気味に、人懐っこく顔を寄せてくる。

「(年上の女性に甘え上手? それとも自分だけ?)こ、こら。火曜日の夜以外はダメって」

 軽く眉間に皺を寄せて、距離を取ろうとする。――係長にしてもそうだけど、せめてそこのラインだけは守らないと、タガが外れそうで怖かった。
 女のセックスは、嫌いな異性とでなければ、最終的にスッゴク気持ち良くなれる――そんな当たり前のような、そうでないような事実を、嫌というほど知ってしまった。
 もちろん、寂しさを紛らわせるとかも含まれているのかもしれないけど。

「は~い」

 冗談っぽく、小さく頭を下げてくる。じぶんも怒った振りをしつつも、並んで歩く。
 秋風が街路樹を鳴らす中、周囲の人影もまばらだったため、少し気になっていたことを、口にしてしまう。

「そ、そういえば。婚約者さんとは、えっと――」

 その一言で、さっきまでの彼の笑顔が、夕方の朝顔みたくしぼんでいった。

「……すみません。まだ、タイミングを見計らっている所です。相手方もそこそこの階級の人でして。何より、父を怒らせると――」

 まぁ、そんな答えだよね。あまり期待していなかったけど。
 いや、別に彼にゾッコンってわけじゃないけど、少し探りを入れただけの話だった。
 ――やがて、会社の社員用の通用門が見えてくる。じぶんは聞こえないくらいの溜息を吐いてから、伸びた栗色の髪をそっと揺らせた。

「変なこと聞いてごめんね。――じゃあ、ちょっとタイミングをズラしてもどりましょ」

 彼の返事を待たずに、ツカツカと低いヒールを鳴らして入って行った。
 にしても、タイムカードの前を素通りしつつも思った。数ヶ月前を思うと、本当にトンデモな心境の変化であり、また女性という生物の内面への理解も深まった。
 まず女性にとって、男が本気で付き合っているか否かが、いかに重要なことかをよくわからされた。女の旬は男より短い。それは肉体に関係するに他ならない。
 このまま女として生きていく可能性が高いなら、やっぱりパートナーとかを真剣に考える必要があるのかなぁ。
 非常識な目に遭う中、常識的な解決手段を模索してしまう。

「――おっ。今、帰りか?」

 コートを更衣室で脱ぎ終えて、給湯室の前を通ると、缶コーヒーを飲む式峰係長と居合わせた。

「あっ。は、はい」

 不意の遭遇で、思わず緊張してしまう。そしてどうも、それを気取られてしまったらしい。

「何だ? 取って食いはしない……いや、そうも言い切れないか」

 濡れた唇をそっと曲げつつ、電子マネーカードを取り出して、ホットのカフェオレを購入してくれた。
 ガコン。

「外勤、もう女には涼しいを通り越えて寒いんじゃないか? 奥で飲もう」

 手渡してくれた後、じぶんの二の句も待たず、通路奥へと誘導されると、促されるままに付いていってしまった。
 ここの奥は行き止まりで、清掃用具の詰まった縦長のロッカーが、隅に置いてあるだけだった。――つまり人がほぼ来ない。照明も薄暗いため、外から帰ったばかりだと目があまり馴れておらず……。

「係長ちょ――ひゃっ!」

 腰に手が巻き付いたかと思うと、力強く引き寄せられて、逞しい胸板に顔を押し込められる。抱き寄せられたこともだけど、係長の体臭に、思わずドキリとしてしまう。

「昨日、あれだけ嗅がせたのになぁ。わきの下まで」

「!」

 見透かされたのが恥ずかしすぎて、離れようとするも、力で勝てるわけがなかった。もがけばもがくほど、彼の引き締まった身体に、自分の柔らかい身体がぶつかるだけだった。
 ――そう、昨日の水曜日は、であった。逢引あいびきするようになってから、もう数回以上であり、身体のヨワイところを知られるのはもちろん――えっと――新しい性感帯ところの開発までされていた。
 エスコートから夜の行為まで、モテる男の代表例というものを、嫌というほど教えてくれた上司だんせいであった。……あと初体験の相手。

「新妻は、ほんとにいい匂いだ」

 柔らかな髪に鼻をつっ込み、わざと犬のように嗅いでくる。くすぐったく、またあのニヒルな係長が、自分にだけ見せてくれる一面と思うと、胸の奥がムズムズとした。
 何より、恥ずかしがる自分の声が、完全に女の誘惑ソレだった。

「係長、ダメです。恥ずかし……やん!」

 腰の手がいつの間にか、スカートをペロンとめくり上げて、中へと入ってくる。蛇のように動くソレは、瞬く間にローレグから剥き出しなお尻の柔らかな肉に噛みつき、舌を這わせるように、指を埋もれさせていく。
 ダメ、だ。係長が相手だと、抵抗しようとする心をすぐになめらかにされて、そしてそんな自分を許容してしまう。

「昨晩は二時まで抱いたのに、まだまだ抱き足りない。お前だって、朝まで俺に甘えたかったんじゃないのか?」

 渋い声と一緒に、吐息が耳元へとかかり、ゾクリとした。

「! そ、それは」

 見透かされた通り、長谷川君と火曜日に関係を持つようになってから、係長への欲求が少し変わってきた。
 っというのは、長谷川君は甘えてくる傾向にあり、それを満たしてあげると、なぜか自分も誰かに甘えたくなる欲求が増大する。
 溜めに溜めたその感情を、翌日の水曜日に、係長にブツけるようになっていった。甘える自分は、抱擁ほうようされつつも胸や股間をいやらしくいじられるのがタマらなく好きだった。また、ソフトエス気味な責められ方も好きで、昨日の係長のクンニときたら……ってやば、思い出したら濡れてきそぅ。

「(でも二時まではさすがにヤリ過ぎ)係長。もう、もぅ……」

 弱々しい拒絶をイエスと伝えてしまう癖は、本当に改めないと。
 けど、拒否しつつもやり込められるという、マゾっぽい状況シチュエーションも嫌いじゃなく――ってだからぁ!
 ふふっ、声を殺して笑う係長のその手が、胸の谷間を、ぐにゃりと柔らかく押し曲げた時だった。
 ティロンリン、ティロンリン。
 携帯の着信にて、我に返る。一瞬だけ、見つめ合った後、係長は少し拘束を弱めてくれたので、じぶんは携帯を取り出す。

「(え。か、川口!) は、はい。な、何?」

 興奮した状態を隠す(鎮める)ため、少しつっけんどんに言い放つ。

「新妻か? ちょっと面を貸せよ」

 傍の係長にも聞こえた様子で、さっきまでの表情が嘘みたく曇る。とかくじぶんは、早く切りたい一心で。

「わ、わかった、よ。ば、場所は?」

「二階の小会議室だ。早くしろよ」

 そうとだけ言い放つと、プツリと切れた。

「俺も一緒に行こうか?」

 少し苛立たしげに呟き、眉間にしわを寄せた。

「ほ、本当にヤバくなったら電話しますので」

「……」

 チュ。
 返事の代りに軽くキスをされてしまう。少し、見つめ合った後、係長から先に戻っていった。
 ドキドキする胸に手を当てていると、長谷川君へした質問が、頭の中でリフレインされる。

「(係長だって)奥さんと別れるわけ、ないよね――」

 ハァ。
 いつの間にか冷めてしまったカフェオレを握ったまま、小会議室へと向かった。

 * * *

「遅ぇぞ、新妻ぁ」

 他に誰もいない室内にて、川口はふんぞり返っていた。話の内容はわからないが、バタンと扉を閉めて一歩だけ近付く。
 係長の根回しのおかげか、ここしばらくは会社でもほとんど話さず、あるとしてももっぱら服や下着など、着るものの指示を携帯でもらうだけであった。

「(ひょっとして、係長や長谷川君のこと?)――な、何?」

 扉にもたれかかりつつ、脚をクロスさせ、組んだ腕に胸を乗せて、ぶっきらぼうにそう聞き返す。どうせ、ろくな事じゃないのは分かりきっていた。
 ガタッ、っと席を立った川口は、じぶんの睨みなど意にも返さず、傍までやってくる。
 ナニをされるのかと、内心ではビクビクしていたが、いきなりじぶんの髪を束ねて摘み、指で軽く揉み始める。

「……ふ~ん。オレのセフレになった春先より、ケア出来てんじゃん」

 何を言うかと思ったら――。
 しかし確かに、あの頃に比べたら、見違えるくらいに髪や肌の手入れには気を遣っていた。だ、だって、係長達がそうした方が良いって言うから――。
 いや、それらに加えて、最近は特にだけど、女らしく振る舞ったり行動する方が、心身が受けるストレスが少ない気がした。

「(やっぱ脳の構造まで女に? だから精神的にも――)お、女のアタシが髪や肌の手入れして、何がおかしいの?」

 何か言い返さないとと想った挙げ句、妙な返しをしてしまう。

「――ちげぇねぇ」

 そう言いつつ、髪の毛からそっと手を離す。川口は何とも読み取り辛い表情を作ると、机に座って携帯を取り出す。

「……かこい部長の噂、知ってるか?」

 何が何やらわからない話を振られて、小首をかしげる。

「囲部長って、営業統括の?」

 同じ部屋の中央に陣取る、五十歳過ぎで、恰幅かっぷくのいい営業統括部長だ。自分は主任という立場のため、あまり部長級以上とは話す機会は無い。ただ、以前に社長に叱責された際には庇ってもらったのは覚えていた。
 イメージとしては、悪どいというか強引というか、式峰係長とは違った意味合いでやり手な印象だった。部下したからの評価は今ひとつに思えるが、全体の営業成績は悪くなく、社長うえとも上手くやっているため、会社からすれば必要な人物ではないだろうか?
 ちなみに夏頃からか、自分を色目で見てくるのが露骨に多くなってきた気がしたが、身体に触れてくるなんかのセクハラ行為は今のところは無い。

「アイツが取引先と談合をしている、って噂があんだよ」

 川口は苦虫を噛み潰したような表情を作る。

「だ、談合?」

「あぁ。ウチの商品を営業決済ギリギリまで下げて卸した後、金なり、モノなりでバックマージンを受け取っているとか……」

 な、なるほど。う~ん。まぁ、有り得ない話ではない? のかもしれない。
 先代の代表は営業の叩き上げで、その手腕により、今の会社があると言っても過言ではなかった。そのためか、代表になった後も、何かと出身元である営業部を可愛がった。
 今の女代表になってから偏りは減ったが、それでも他部署に比べて扱いがすこし特殊らしい。例えば、値引率などについての決済権限を大幅に認められており、実際には営業部部長という決裁用の社印があるほどとか。

「(けど別に、最近の話でも無いような)で、それがなに?」

 絶対に卑猥ひわいな話題を振ってくると身構えてきたため、肩透かしもいいところだった。
 何より、二人っきりのこの状態で、この男から仕事の話題を振られる日がくるとも思っていなかったから、張り詰めていた警戒心が、弾けるみたく消えていた。

「部長はいつも小さな端末ノーパソを持ち歩いているんだ」

 細い顎に指を当てて思い出す。そう言えば、ガンメタ色の高そうな端末が、机の端に乗っていたような。

「あれは在宅用兼データのバックアップ用らしい。基本的にデータの持ち出しは全社員において禁止されているが、一部の管理職以上には認められている。つまり、メールなんかのやり取りも保管されているはずだ。――新妻、中身をヌイてこい」

「はぁ!?」

 思わず声をあげてしまい、川口が睨んでくる。口元を片手で抑える。

「な、なに言ってんの。アタシはそんなに部長と絡むことが無いんだってば。それにそんな大事なモノ、そう簡単に触らせてもらえるわけないじゃん」

 あんたバカ? と思わずまくし立ててしまう。

「部長だって四六時中、警戒しているわけじゃねぇさ。まぁ、会社じゃまず無理だ」

 まるで会社以外なら方法があるとでも言いたげであった。

「部長は木曜日の今日、いつも定時であがっているのは知っているか?」

「そう言われたら、そうかも?」

「駅から少し離れた高級ジムへ通っているらしい。会社帰りだから、もちろん大事な端末も持って行っているだろう」

「は、話が見えないんだけど?」

 眉をひそめる私を前に、机から降りる川口は、ポケットへ手を入れる。

「ジムへ通っているが、あの贅肉腹ぜいたくばらだ。プール施設で浸かっているだけっぽい。――そこで新妻明ちゃんの出番なんだよ」

 ちゃん付けのせいで、ゾクッとする。

「お前は偶然を装い、水着姿で接近しろ。部長を持ち上げ褒めて、他の連中をこき下ろす。気分が良くなってきたところで、専用の休憩室に入って、部長がシャワーでも浴びている間にデータを抜く――」

「ちょちょちょ!」

 慌てて手を振る。

「そんな簡単にドラマのハニートラップみたいなの、できるわけ無いって!」

「いーや、公算はある。気付いてるだろうが、部長はいつもお前の尻とか胸ばっか見ているんだぜ?」

「それは――女っ気がない営業部内だけの話でしょ? 外だったらいくらでも……」

「だから上手く持ち上げるんだよ。お前の強気ふだんを知っているからこそ、媚びる新妻にクラッとくんだよ。大丈夫だ自信を持て」

 何で川口こいつに、自信を持てなんて言われないといけないの。

「そ、それに万が一上手くいって、部屋に二人きりなんて。ナニされるかわかったもんじゃないでしょっ」

証拠データさえ抑えたら、後はどうとでもなる。逃げても大丈夫だ」

 ――でも、でも、っと断る口実を考えつくより早く、川口が小さな何かを手渡してくる。

「ジムの体験用会員証と、データ抜き取りのための、防水仕様のUSBだ」

 こ、コイツ本気だ。

「……なぁ、新妻。この会社、嫌いじゃないだろ?」

 今度は突然、真面目な顔をして、そんなことを口走ってくる。

「えぇ? ――ま、まぁ。初めて入った会社だし」

 給料もそこまで悪くないし、外勤は性に合っている。人間関係も……最近はセクハラ気味でちょっとアレだけど。
 それに、係長や長谷川君と、良くも悪くも繋がりが出来てしまったし。

「部長の癒着は、会社へ損失を与えているだけじゃなく、信頼に傷を付ける。一社員として見過ごせるのか?」

 ……なぜだろう。言っていることは至極全うなんだろうけど。

「(普段の勤務態度から、怪しいと感じてしまう)わ、わからなくはないけどね」

 しかし、まだ気持ちを切り替えられなかった。上手くいかない可能性が高いし、人の端末からデータを抜き取るという事に、そもそも抵抗がある。
 そうやって迷っていると――わかった――とばかりに手を叩いてくる。

「もしも事を上手く運んでくれたら、セフレの件は解消してやるぜ」

 本当かなぁ。半信半疑の表情を作りつつ、逆ギレされても困ると目をつむる。

「(ハァ……まぁ、貸しを作るのはいいことかな。会社のためというのもうなずけるし)でも、水着なんて持って無いけど?」

「オレは今から請求書を取引先に届けにいく。お前も随伴というていで来い。ちょっとサボって水着を買う」

「えっ? あたしはさっき帰ってきたばかりなんだけど? そもそもこんな時期に水着なんて――わっ」

 うるせぇ、っと有無を言わさず、手首を掴まれる。
 うぅ、本当に大丈夫かぁ?
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