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二章 やや女
第十話 温水の花園
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「ねぇねぇそこの君ぃ。ちょっとどう?」
……なにが? っと聞き返したくなるのを、堪える。
サロンで日焼けしたと言わんばかりの、やたらとマッチョな中年男性が、歯をキラリと輝かせて語り掛けてくる。水で落ちにくい化粧までした私は、愛想笑いを浮かべつつ、すり足で距離を置く。綺麗なプールサイドをササッ、と抜き足で小走りするも、その度に胸がたゆんとする。
「す、すみません。ちょっと急いでますので~」
時刻は二十時。例の高級ジムのプール施設まではやって来られた。施設全体に言えることだがやたらと広く、デザインも設備も成金趣味的なゴテゴテ感が半端なかった。
プールは温水で、南国をイメージしたような、椰子の木やら亜熱帯地方の花がそこかしこに配置されていた。流れるプールのようなエリアもあり、ジムというよりはスパみたいな印象を受けた。
――だがこっちはそれらの雰囲気を堪能するどころではなかった。部長を見つけるどころか、さっきから男性会員達から突き刺さる様な視線を浴びせられ続けていた――そう、久々の川口節が炸裂したからだった。
「(代金は払うとかで油断してたけど)何なの? この水着は――」
トップス部分は、赤の紐を首輪みたく紐止めするも、肝心な布面積が乳輪の面積より気持ち広い程度という、もはや露出狂仕様であった。ボトム部分は、股に食い込む説明不要の赤のハイレグであり、陰毛が薄くて少ない体質に感謝せざるを得ないくらいだった。
それでも身体を動かすつど、深紅のそれらが乳房と尻に食い込み、さらに震えることで、肉感をこれでもかと(勝手に)周りへ見せつけた。
「(百歩譲って鍛えた女性なら、筋肉を魅せるためってわかるけど)あっ。ご、ごめんなさい。また今度~」
緊張と羞恥でドキバクし続けていた。部長へ辿り着く前に口説かれては話にならないと、周囲を忙しなく見渡しながらも歩き続ける。
とは言え、プールエリアだけで小学校のグラウンド程の広さだった。先の説明の通り観葉植物やら華美な装飾品が多く、視界が遮られるのにも参る始末だった。
「あっ。ひょっとしてあの人、かな?」
ペイントされた目隠しのような仕切り板があったため、見逃しそうになったけど、目の端で捉える。六人用くらいの、白の陶器で出来た円形の広いジャグジーを、一人で占有している男性がいた。
薄くなった頭頂部、胸や腕の剛毛の生えた緩い身体に黒い水着姿であった。背を向けているため、こちらには気付いていない。
「(よ、よし。偶然を装って)こ、コホン。――あ、あのぉ、ご一緒してもいいですか~?」
ややぎこちなかったが、部長はあまり気にする様子もなく、ゆったりとこちらへ顔を向けてくる。
「あぁ、構わないよお嬢さ……おおっ! ――えっ。新妻、クンかね?」
目を丸くする囲部長は、裸よりも卑猥な私の格好に釘付けになる。爪先からはじまり生足、その付け根、腰の丸みと瞬きも忘れて目を移していき、卑猥な胸と、最後は赤らめる顔を終点とした。
「(うぅっ。そりゃそうなる、よねぇ)――え~っ? か、囲部長っ! ぐ、偶然、ですね~」
上から見下ろすのが失礼と、膝に手をあててしゃがみ込むけど、胸が膝先でぐにゃりと曲がる。さ、さらに股間にて、陰部以外が、ほぼ丸見えの状態の破壊力はヤバかった。
「おほほっ。――ん、ンンッ。あ、あぁ。偶然、だな」
部長は咳払いしたり、視線をこちらへ飛ばしたりと忙しげだ。
「ふむ。キミも、ここの会員だったのかね?」
やがて威厳を取り戻したかのように、毛の生えた両腕でジャグジー縁にもたれ掛かる。その分――本当に偶然か?――っと、警戒心を取り戻したようにも感じ取れた。
「そんなぁ、たまたま平日限定のお試しチケットを貰っただけです~」
自分でも、どこからそんな声を出しているのかという高い声であったが、部長には効果的な様子であった。
「あぁ、そういえばそんなものを撒いていたそうだね。――まぁ、よかったら入りなさい」
プルップルと、嬉しそうに唇を震わせる部長には、正直お近づきになりたくはないが、もちろん敢えて隣に座る。
「し、失礼しま~す」
ザプン。三十六度くらいの温い浴槽内へと下半身を沈めていく。少し浅めに腰を掛けて、胸は水面の上あたりの位置にてキープする。
「えっとぉ。部長はぁ、ここのジムの会員なんですかぁ?」
まずは警戒を解くところからスタートしないといけない。油断をさせた上で持ち上げないと、お話にならないだろう。
「あぁ、そうだよ。もっとも、私は上得意会員だがね」
ふふん、と大きな鼻を鳴らす部長へ、キラキラとした目線を向ける。
「えぇ~っ、すご~い。私のお給料じゃあ、レギュラーでも厳しいですぅ~」
三文役者にもほどがあるが、部長はいい気分といった表情で、ホッとする。
「ははっ。君だって、頑張って働けば不可能じゃないよ」
まぁ、無理だろうけどね――っと他人を見下す顔を抑えつつ、徐々に視線の飛ばし方に遠慮がなくなってくる。
「――にしても。なかなか過激な水着……いやいや、美しい意匠のを来ているね」
会社では見せない脂ぎった笑みに、ハッキリ言うと、鳥肌全開だった。場所が場所だけにおよび腰になりそうになるけど、使命という単語だけを頼りに口を開く。
「部長にそう言っていただけると、すっごく嬉しいです~」
大きく頷き――部長は自由に見てねっ――と特別感を伝えるみたく胸を揺らす。
「! し、しかしぃ。私みたいな年寄りに言われても嬉しくないんじゃないかね? もっと若い子の方が――」
言葉を濁しつつも、貫禄と経験、何よりを金を土台にした自信に弾みが見られた。そこで、ここぞとばかりに笑いかけ、胸を揺らし、けどちょっと困ったみたく口をすぼめる。
「そんなことないですよ~。それに私、お父さんくらいかそれ以上の男の人がタイプなんですよぉ~。若い男の人ってぇ、エッチなことばかりに頭がいってるじゃないですかぁ」
ちょっと眉間に皺を寄せつつ、若い世代をこき下ろさせてもらう。
しかし、二十九歳にしてはちょっとキャラ的にキツい? ――い、いや、ここでキャラ路線でブレてはならないっ。
「ほほぅ。お父さん世代と言ったが、お父上はおいくつだね?」
っと、両親は離婚していたから父親の年齢はあんまり覚えていなかった。まぁ、ここは無難に部長のおおよその年齢に、少し足し合わせたくらいにしておこう。
「六十歳くらいですねぇ~」
そう言って――チャパン――と音を立てて立ち上がる。目の前の食い込んだハイレグは、もはやメチャくちゃな角度のVラインであり、陰部を隠しているだけだった。
目を丸くする部長を前にして。
「にしてもぉ。もうすぐ三十歳なのに、ちょっと派手過ぎますよねぇ。会社の外だからって、ちょっとハメを外しすぎました~」
「! い、いやいや。とても愛らしく、可憐な格好だよ。あははっ」
そう声をあげつつ、なぜか水中で足を組みだす。
「本当ですか? 嬉しいぃ!」
再びゆっくり身体をお湯へうずめつつ、少しずつ距離を詰めていく。部長の頬がさらに緩んだのは言うまでもなかった。
「そうかそうか。実は会社でも、先の理由でキミに不快な思いをさせてはならんと、声をかけるか迷うことは何回もあった。――だが、君は思慮深く、男性の魅力のなんたるかを理解している女性であるため、今後はそんな遠慮もいらんね」
あっはっは、と笑う。え? ひょ、ひょっとしてこれは――これからはプライベート的なことで声をかけるぞ――という意味、なの?
「(ま、まぁ。それも、件の案件で次第でそれどころじゃなくなる、はず)――あ、あのぉ」
「ところで新妻クン」
いきなり機先を制され、小さく驚く。
「さっき少し口にしていたが、若い男性はそんなに性的なことばかりを考えているのかい?」
溜息を突きつつ、こちらの真意を計ろうとする気配があった。
――虎穴に入らずんば、っという古語を思い出す。つまり、股が緩いと思わせるギリギリのラインを攻めなければ、今回のミッションの達成は到底不可能だ。
「あ、聞いてくださいます? 特に若い男性ほど、性行為だけを考えて接してくるんですよ~。この前なんてぇ」
「ふんふん」
偉そうぶって、身体を揺らせつつ話に興じる。
「――っという感じでぇ、ひたすら飲ませようとしてきたんですけど、連れ込むことしか考えていないのが丸見えでぇ~」
妄想の中の若い男性を罵倒し続ける二枚舌に、胸がチクチクと痛む。
「なるほど。愛は精神的なもので、肉体は副次的なものというのに。それを理解できていないとは」
嘆くように、身体を少しこちらへ傾ける。ちょっと怖い気もするが、まずは川口の情報内容の確認と、端末なるものの安否を確認せねばならない。
故に、ここは――仕掛ける!
「えっと。部長以外はぁ、誰もいません、ね?」
意味深な言葉を吐いて、大仰にキョロキョロと周囲を見渡す。部長は毛虫みたいな眉を動かしつつ、鼻を鳴らす。
「あぁ。今晩は私がいる間、この場所を独占する権利がある。プラチナだからね。君だから入れてあげたが――」
その言葉を確認し、背を向けて、ザバァっと立ち上がる。温いお湯が胸やお尻、身体のあちこちを、伝い流れる。
「例えば、ですけどぉ――」
演技だけではなく少し本気で、羞恥で心を震わせつつ、顔を肩越しにのぞかせる。
「さっきもお見せした通り、私、こういうのを着るのが好きでぇ」
露骨に誘っていると思われるかもしれないけど、ヒップを突き出し、食い込むボトム部分を改めて正視させる。スレンダーな身体の引き締まったほぼ剥き出しの尻を、眼前で揺らす。ストリップとほぼ変わらない状況にて、部長は重そうな一重まぶたを限界まで持ち上げて、小さな瞳を覗かせる。
「ほっ、ほほっ。ふ、ふむ、ぅ」
制御不可なくらいにいやらしい間抜けな笑い声が、お尻の辺りから響く。
だがこっちもかなり恥ずかしかった。ほぼ紐状の、卑猥なマイクロビキニが、肛門と陰部だけを淫猥に隠しつつ、それらをドアップにしてるのだから。
鼻息が安産型の尻に当たる中、流し目を装って唇を開く。
「さっきもぉ、ここに来るまでぇ、たっくさんの男性から声をかけられて、ゲンナリしていた所なんですぅ」
ぷりん、と軽く揺らす。部長はプールに浸かったまま、足を組み直す。……これは、刺激が欲しいくらいに勃起していると見て、間違いなさそうだ。
「――ふ、む。いや、なるほど、ね? 芸術的な興味ならまだしも、肉欲な干渉のみを迫るなんて。いや、本当に度し難い」
難しい言葉を紡ぎながらも、支離滅裂なの様子が見て取れた。
私も便乗するみたく溜息を吐きつつ、ゆっくりと、やはり魅せつけるように、お尻を湯船へ浸からせる。
「仰る通りです。身体の関係だけを重視する男性の、なんと多いことでしょう」
事実の真否は自分でも不明だが、それっぽいことを言えた気がする。
「……」
ここに来て、初めて部長が私から視線を外し、遥か高い天井を見上げて黙る。
――奇妙なその沈黙によって、先の展開に思い悩んでしまう。っというのは、無茶気味な悩殺行為を連発してしまい、加えて水分不足気味なせいで、焦りに近いものを感じてしまったのだ。
一方、この場でのこれ以上の色仕掛けも、ちょっと不自然な気がした。
ザブゥン。
言葉もなく、部長がジャグジーから身体を引き上げる。自分は見上げるだけだったが、やはり股間は硬直しているように膨らんでいた。
部長は気づいてか気づかないでか、こちらを見下しつつ、口角を上げる。
「新妻君。長話で身体がふやけてしまった。場所を変えて涼まないかね?」
まるで誘うみたいな、問いただす風な印象があったけど、まるでこっちに拒否権がないような威勢も感じられた。――けど、望むところとばかりに、こちらも頷き返す。
「いいんですかぁ? うっれしいです~。部長には春先の会議で社長から護ってもらったりぃ、こうやって誘っていただいたりでぇ、理想の上司すぎますよ~」
「あっはっは。さっきの話の通りなら、理想の男性と言い換えてくれても構わんよっ」
愛想笑いを浮かべつつ、こっちも胸と尻を揺らして勢いよく立ち上がる。
部長の隣を歩いていく中、他の男性客らが飛ばす視線を分かち合う。部長は、まるで勝ち誇るかのように、彼らへ目もくれず、私の肩へ手を回して、歩み進んだ――。
……なにが? っと聞き返したくなるのを、堪える。
サロンで日焼けしたと言わんばかりの、やたらとマッチョな中年男性が、歯をキラリと輝かせて語り掛けてくる。水で落ちにくい化粧までした私は、愛想笑いを浮かべつつ、すり足で距離を置く。綺麗なプールサイドをササッ、と抜き足で小走りするも、その度に胸がたゆんとする。
「す、すみません。ちょっと急いでますので~」
時刻は二十時。例の高級ジムのプール施設まではやって来られた。施設全体に言えることだがやたらと広く、デザインも設備も成金趣味的なゴテゴテ感が半端なかった。
プールは温水で、南国をイメージしたような、椰子の木やら亜熱帯地方の花がそこかしこに配置されていた。流れるプールのようなエリアもあり、ジムというよりはスパみたいな印象を受けた。
――だがこっちはそれらの雰囲気を堪能するどころではなかった。部長を見つけるどころか、さっきから男性会員達から突き刺さる様な視線を浴びせられ続けていた――そう、久々の川口節が炸裂したからだった。
「(代金は払うとかで油断してたけど)何なの? この水着は――」
トップス部分は、赤の紐を首輪みたく紐止めするも、肝心な布面積が乳輪の面積より気持ち広い程度という、もはや露出狂仕様であった。ボトム部分は、股に食い込む説明不要の赤のハイレグであり、陰毛が薄くて少ない体質に感謝せざるを得ないくらいだった。
それでも身体を動かすつど、深紅のそれらが乳房と尻に食い込み、さらに震えることで、肉感をこれでもかと(勝手に)周りへ見せつけた。
「(百歩譲って鍛えた女性なら、筋肉を魅せるためってわかるけど)あっ。ご、ごめんなさい。また今度~」
緊張と羞恥でドキバクし続けていた。部長へ辿り着く前に口説かれては話にならないと、周囲を忙しなく見渡しながらも歩き続ける。
とは言え、プールエリアだけで小学校のグラウンド程の広さだった。先の説明の通り観葉植物やら華美な装飾品が多く、視界が遮られるのにも参る始末だった。
「あっ。ひょっとしてあの人、かな?」
ペイントされた目隠しのような仕切り板があったため、見逃しそうになったけど、目の端で捉える。六人用くらいの、白の陶器で出来た円形の広いジャグジーを、一人で占有している男性がいた。
薄くなった頭頂部、胸や腕の剛毛の生えた緩い身体に黒い水着姿であった。背を向けているため、こちらには気付いていない。
「(よ、よし。偶然を装って)こ、コホン。――あ、あのぉ、ご一緒してもいいですか~?」
ややぎこちなかったが、部長はあまり気にする様子もなく、ゆったりとこちらへ顔を向けてくる。
「あぁ、構わないよお嬢さ……おおっ! ――えっ。新妻、クンかね?」
目を丸くする囲部長は、裸よりも卑猥な私の格好に釘付けになる。爪先からはじまり生足、その付け根、腰の丸みと瞬きも忘れて目を移していき、卑猥な胸と、最後は赤らめる顔を終点とした。
「(うぅっ。そりゃそうなる、よねぇ)――え~っ? か、囲部長っ! ぐ、偶然、ですね~」
上から見下ろすのが失礼と、膝に手をあててしゃがみ込むけど、胸が膝先でぐにゃりと曲がる。さ、さらに股間にて、陰部以外が、ほぼ丸見えの状態の破壊力はヤバかった。
「おほほっ。――ん、ンンッ。あ、あぁ。偶然、だな」
部長は咳払いしたり、視線をこちらへ飛ばしたりと忙しげだ。
「ふむ。キミも、ここの会員だったのかね?」
やがて威厳を取り戻したかのように、毛の生えた両腕でジャグジー縁にもたれ掛かる。その分――本当に偶然か?――っと、警戒心を取り戻したようにも感じ取れた。
「そんなぁ、たまたま平日限定のお試しチケットを貰っただけです~」
自分でも、どこからそんな声を出しているのかという高い声であったが、部長には効果的な様子であった。
「あぁ、そういえばそんなものを撒いていたそうだね。――まぁ、よかったら入りなさい」
プルップルと、嬉しそうに唇を震わせる部長には、正直お近づきになりたくはないが、もちろん敢えて隣に座る。
「し、失礼しま~す」
ザプン。三十六度くらいの温い浴槽内へと下半身を沈めていく。少し浅めに腰を掛けて、胸は水面の上あたりの位置にてキープする。
「えっとぉ。部長はぁ、ここのジムの会員なんですかぁ?」
まずは警戒を解くところからスタートしないといけない。油断をさせた上で持ち上げないと、お話にならないだろう。
「あぁ、そうだよ。もっとも、私は上得意会員だがね」
ふふん、と大きな鼻を鳴らす部長へ、キラキラとした目線を向ける。
「えぇ~っ、すご~い。私のお給料じゃあ、レギュラーでも厳しいですぅ~」
三文役者にもほどがあるが、部長はいい気分といった表情で、ホッとする。
「ははっ。君だって、頑張って働けば不可能じゃないよ」
まぁ、無理だろうけどね――っと他人を見下す顔を抑えつつ、徐々に視線の飛ばし方に遠慮がなくなってくる。
「――にしても。なかなか過激な水着……いやいや、美しい意匠のを来ているね」
会社では見せない脂ぎった笑みに、ハッキリ言うと、鳥肌全開だった。場所が場所だけにおよび腰になりそうになるけど、使命という単語だけを頼りに口を開く。
「部長にそう言っていただけると、すっごく嬉しいです~」
大きく頷き――部長は自由に見てねっ――と特別感を伝えるみたく胸を揺らす。
「! し、しかしぃ。私みたいな年寄りに言われても嬉しくないんじゃないかね? もっと若い子の方が――」
言葉を濁しつつも、貫禄と経験、何よりを金を土台にした自信に弾みが見られた。そこで、ここぞとばかりに笑いかけ、胸を揺らし、けどちょっと困ったみたく口をすぼめる。
「そんなことないですよ~。それに私、お父さんくらいかそれ以上の男の人がタイプなんですよぉ~。若い男の人ってぇ、エッチなことばかりに頭がいってるじゃないですかぁ」
ちょっと眉間に皺を寄せつつ、若い世代をこき下ろさせてもらう。
しかし、二十九歳にしてはちょっとキャラ的にキツい? ――い、いや、ここでキャラ路線でブレてはならないっ。
「ほほぅ。お父さん世代と言ったが、お父上はおいくつだね?」
っと、両親は離婚していたから父親の年齢はあんまり覚えていなかった。まぁ、ここは無難に部長のおおよその年齢に、少し足し合わせたくらいにしておこう。
「六十歳くらいですねぇ~」
そう言って――チャパン――と音を立てて立ち上がる。目の前の食い込んだハイレグは、もはやメチャくちゃな角度のVラインであり、陰部を隠しているだけだった。
目を丸くする部長を前にして。
「にしてもぉ。もうすぐ三十歳なのに、ちょっと派手過ぎますよねぇ。会社の外だからって、ちょっとハメを外しすぎました~」
「! い、いやいや。とても愛らしく、可憐な格好だよ。あははっ」
そう声をあげつつ、なぜか水中で足を組みだす。
「本当ですか? 嬉しいぃ!」
再びゆっくり身体をお湯へうずめつつ、少しずつ距離を詰めていく。部長の頬がさらに緩んだのは言うまでもなかった。
「そうかそうか。実は会社でも、先の理由でキミに不快な思いをさせてはならんと、声をかけるか迷うことは何回もあった。――だが、君は思慮深く、男性の魅力のなんたるかを理解している女性であるため、今後はそんな遠慮もいらんね」
あっはっは、と笑う。え? ひょ、ひょっとしてこれは――これからはプライベート的なことで声をかけるぞ――という意味、なの?
「(ま、まぁ。それも、件の案件で次第でそれどころじゃなくなる、はず)――あ、あのぉ」
「ところで新妻クン」
いきなり機先を制され、小さく驚く。
「さっき少し口にしていたが、若い男性はそんなに性的なことばかりを考えているのかい?」
溜息を突きつつ、こちらの真意を計ろうとする気配があった。
――虎穴に入らずんば、っという古語を思い出す。つまり、股が緩いと思わせるギリギリのラインを攻めなければ、今回のミッションの達成は到底不可能だ。
「あ、聞いてくださいます? 特に若い男性ほど、性行為だけを考えて接してくるんですよ~。この前なんてぇ」
「ふんふん」
偉そうぶって、身体を揺らせつつ話に興じる。
「――っという感じでぇ、ひたすら飲ませようとしてきたんですけど、連れ込むことしか考えていないのが丸見えでぇ~」
妄想の中の若い男性を罵倒し続ける二枚舌に、胸がチクチクと痛む。
「なるほど。愛は精神的なもので、肉体は副次的なものというのに。それを理解できていないとは」
嘆くように、身体を少しこちらへ傾ける。ちょっと怖い気もするが、まずは川口の情報内容の確認と、端末なるものの安否を確認せねばならない。
故に、ここは――仕掛ける!
「えっと。部長以外はぁ、誰もいません、ね?」
意味深な言葉を吐いて、大仰にキョロキョロと周囲を見渡す。部長は毛虫みたいな眉を動かしつつ、鼻を鳴らす。
「あぁ。今晩は私がいる間、この場所を独占する権利がある。プラチナだからね。君だから入れてあげたが――」
その言葉を確認し、背を向けて、ザバァっと立ち上がる。温いお湯が胸やお尻、身体のあちこちを、伝い流れる。
「例えば、ですけどぉ――」
演技だけではなく少し本気で、羞恥で心を震わせつつ、顔を肩越しにのぞかせる。
「さっきもお見せした通り、私、こういうのを着るのが好きでぇ」
露骨に誘っていると思われるかもしれないけど、ヒップを突き出し、食い込むボトム部分を改めて正視させる。スレンダーな身体の引き締まったほぼ剥き出しの尻を、眼前で揺らす。ストリップとほぼ変わらない状況にて、部長は重そうな一重まぶたを限界まで持ち上げて、小さな瞳を覗かせる。
「ほっ、ほほっ。ふ、ふむ、ぅ」
制御不可なくらいにいやらしい間抜けな笑い声が、お尻の辺りから響く。
だがこっちもかなり恥ずかしかった。ほぼ紐状の、卑猥なマイクロビキニが、肛門と陰部だけを淫猥に隠しつつ、それらをドアップにしてるのだから。
鼻息が安産型の尻に当たる中、流し目を装って唇を開く。
「さっきもぉ、ここに来るまでぇ、たっくさんの男性から声をかけられて、ゲンナリしていた所なんですぅ」
ぷりん、と軽く揺らす。部長はプールに浸かったまま、足を組み直す。……これは、刺激が欲しいくらいに勃起していると見て、間違いなさそうだ。
「――ふ、む。いや、なるほど、ね? 芸術的な興味ならまだしも、肉欲な干渉のみを迫るなんて。いや、本当に度し難い」
難しい言葉を紡ぎながらも、支離滅裂なの様子が見て取れた。
私も便乗するみたく溜息を吐きつつ、ゆっくりと、やはり魅せつけるように、お尻を湯船へ浸からせる。
「仰る通りです。身体の関係だけを重視する男性の、なんと多いことでしょう」
事実の真否は自分でも不明だが、それっぽいことを言えた気がする。
「……」
ここに来て、初めて部長が私から視線を外し、遥か高い天井を見上げて黙る。
――奇妙なその沈黙によって、先の展開に思い悩んでしまう。っというのは、無茶気味な悩殺行為を連発してしまい、加えて水分不足気味なせいで、焦りに近いものを感じてしまったのだ。
一方、この場でのこれ以上の色仕掛けも、ちょっと不自然な気がした。
ザブゥン。
言葉もなく、部長がジャグジーから身体を引き上げる。自分は見上げるだけだったが、やはり股間は硬直しているように膨らんでいた。
部長は気づいてか気づかないでか、こちらを見下しつつ、口角を上げる。
「新妻君。長話で身体がふやけてしまった。場所を変えて涼まないかね?」
まるで誘うみたいな、問いただす風な印象があったけど、まるでこっちに拒否権がないような威勢も感じられた。――けど、望むところとばかりに、こちらも頷き返す。
「いいんですかぁ? うっれしいです~。部長には春先の会議で社長から護ってもらったりぃ、こうやって誘っていただいたりでぇ、理想の上司すぎますよ~」
「あっはっは。さっきの話の通りなら、理想の男性と言い換えてくれても構わんよっ」
愛想笑いを浮かべつつ、こっちも胸と尻を揺らして勢いよく立ち上がる。
部長の隣を歩いていく中、他の男性客らが飛ばす視線を分かち合う。部長は、まるで勝ち誇るかのように、彼らへ目もくれず、私の肩へ手を回して、歩み進んだ――。
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