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終章 雌
第十九話 女の幸
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人生の転機はいくつもあると思う。けど、目の前に選択肢が現れていることに気付くこと自体が難しいし、ましてや英断できる人なんて、ほんの一握りもいない。
私なんてその下の下だ。最初はもうあまり覚えていないけど、結局は気持ちイイだけという誤った選択肢を選び、もしくは流されて、きっとこの場所にいる――。
……年明けの三日目、長谷川君が用意してくれた黒留袖を身にまとい、髪結いの費用まで出してもらって、有名な神社へ五人で初詣を行った。
庭が見える有名料亭での会食後、旅館へと移って、本来の意味とは異なるかもだけど、姫始めを催した。
花魁風な自分に酔いつつ、着物を召したまま、五人の男性に入れ替わり立ち替わり姦通こと膣内射精に興じてイッタ。皆がお正月らしくお酒を飲んで歓談するすぐ隣の布団の上にて、代わる代わる犯されてイク様は、退廃的でゾクゾクっとした。三人目の誰かに膣内で射精された時に、ふと――色々と戻れないとこまで来ちゃったなぁ――なんて他人事みたく思っちゃった。
小休憩の際、長谷川君が十六沢代理へ『着物を引き裂くのはさすがにやめてください』っと縋ったのには、みんなして笑った。髪の毛にまで精液が絡まっている状態の初笑いのせいで、股間がさらに緩みそうだった。
陽が傾きかけても狂宴は終わらず、合間に女体盛りなんかの箸休めを挟んで遊ばれた。皆が箸で乳首を摘まみ上げたり、陰核を突いたり、果ては和風なAV撮影風な行いにだって遊びふけた。夜の帷が降りてきた頃、着替えた浴衣を開けながら、賀正にふさわしい穏やかな速度で、何回も交合を繰り返してイッタ。
……快楽の情炎会は続き、バレンタインデーこと二月十四日も、はっちゃけていた。各々の事情で全員が集まれなかったのは当初の想定通りで、それでもやってきた代理と係長、長谷川君とネッチョリ愉しんだ。
まずはベタだけど、身体にチョコをコッテリと塗っては舐め回された。キスマークを皮膚のあちこちに浮かべつつ自分の意志で、乳首とオマンコにバタークリームを塗り重ねては、おかわり自由と召し上がってもらった。そのお返しとばかりに、極太のチョコバナナを、上のお口でいやらしく頬張った。もちろん、ミルクチョコは下のオクチで飲ませてもらうという、鉄板ネタまで笑いながらやってのけた。
――にしても、なぜかな? 男性達のエッチな悪ふざけも欲求も、しょーもないと思いつつ、それほどストレスも疑問も感じなかった。皆からは『新妻は本当に男のスケベに理解がある女だ』なんて褒められて、自分でもちょっと不思議に思った。
* * *
そして月を跨ぎ、平日で迎えたホワイトデーを、皆して白く溺れたのは言うまでもなかった。部長決済による終日出張という名目で、ラブホテルに朝から待機させられた私は、一番ファックな下着を穿いてドキドキとしていた。五人については年度末という事もあって、二つの意味で出たり入ったりと、一日中忙しげに仕事と射精を両立させる日とになった。
それにしても、精子デーとばかりに、ちょっと下品で幼稚なエッチネタばかりが続いたため、途中くらいから。
「――もぅ。馬鹿なことばっかり」
っと、犯されつつ苦笑いしてしまうくらいだった。
とにかく私の粘膜に触れたがる彼らを――最初は子供を叱る母親みたく、途中から悪戯な彼氏へ呆れるみたく、でも結局は最愛の夫と戯れるように、抱かれていった。
みんなの睾丸が空になるまで和姦、強姦、輪姦を繰り返し、十時間もかかっちゃった。一通り全員が大満足した時は、夜の二十二時くらいで、さすがにアソコがヒリヒリして痛かった。
……そして、それから一週間後の事だった。係長と部長の羞恥プレイに快く打ちのめされていた私だったけど、ちょっとした体調不良から、四発目をもらった時点で、中座させてもらった。
なんか気分が良くないなぁ、と思いつつ駅へと向かう道中、桜の蕾を構える川沿いをゆったりと歩いて帰った。月明かりが照らす中、川辺に浮かぶ銀色の光の筋が、ちょっと幻想的だった。
「もうすぐ春かぁ」
そう言えばちょうど一年前くらいは、何やらものすごく悩んでいた様な気がした。しかし、それらも春霞みたくボヤけてしまい、ふぅー、と息を吐けば霧散するくらいになった。
「うっ」
――オエッ。道の端で小さく嘔吐し、蕾のタンポポを汚してしまう。
お、おかしいな。夕ご飯は確かに脂っぽい中華料理だったけど、そんなに食べ過ぎてもいないのに。
「ゲホ、ケホッ」
そう言えば、お腹の奥? 辺りに小さな違和感をしばらく前から感じていた。誰かの精子が噛みついているのかな、なんてくだらない事を考えつつ、生理不順かな、っと思った時だった。
生理不順? そもそもこの前の生理っていつだったっけ?
……口元を抑えつつ、早足で二十四時間営業の薬局で買い物をした後、自宅へ帰った。
「――はっ?」
……目を、疑った。
遅いお風呂上がり、まさかとは思いつつも使用した、妊娠検査キットへ目を向けた瞬間だった。まるでピンポン玉みたく凝結した息の塊が、喉で詰まった。
プラスチックの白いキットの中央に、赤い線が二本、くっきりと走っていたのだから。
「……ぅ、そ」
背筋に氷柱を当てられたみたいに、神経に霜が降りたみたいに固まった。
――いや、そもそも危険日を度外視した膣内出し行為に明け暮れてきたのだから、驚いている自分に、むしろ驚くべき?
「あ、たし。妊娠、しちゃった?」
ペタンとM字に座り込む。
お腹の表面の極一部が、返事するみたく、ピクリと伸縮した気がした。
* * *
……よく眠れないまま、ベットに朝日が差し込んできた。重だるい心と体を動かし、有給を使って近所の産婦人科を訪れることにした。
五十代の女医さんによる丁寧な診断の結果、妊娠十週目であることが判明。『母子共に健康ですよ』という言葉を遠くに聞いた。
ショックを受けているような態度だったみたいで、女医さんや看護師さんに気を遣われた。職業柄、私みたいな女性への対応にも慣れているらしく、優しく励まされたのには、少しだけ救われた。
その後、母子手帳の役割とか、妊娠についての心得的な話に移りそうだったため、『次回にお願いします』と断って、逃げるみたく家路に着いた。ダイニングの硬いテーブルに突っ伏して、洗濯機みたく回る頭で、何かを考えようとした。
……惚けて快楽に浸った当然の代償? それとも流れに逆えなかった意思なき弱者の末路? ――どっちにしたって、火遊びの結果、大切な物を焼いてしまったに等しかった。
食欲が無い中、お腹をさすり、また悩む――を、繰り返す内に太陽の光がオレンジ色になっていた。夕陽がカーテンの隙間から部屋を照らす中、震える指を携帯へ伸ばす。厳禁されていたけど、その禁を初めて破って、グループトークへ妊娠についての投稿を行っていった。
診断結果もアップロードして、しばらく待つ。続け様に既読が付くけど、特に電話が鳴ることはなく、それどころか返信チャットすらなかった。
「多分、別グループを立ち上げて、必死に相談しているんだろうなぁ」
――ハァ。目線を落とすと、上下する大きめの乳房が目に入る。
弱々しい息を繰り返す中、片手で襟元を開けて指を入れて、赤く派手な薄いブラを下へズラす。黒曜石みたいに照り輝く、けど表面は滑らかではなく少し凸凹してきた乳首が見えた。
――そう。この肉体を介して、五人が、何より私が悦び愉しんできた、当然の結末。
「……はぁ」
本日、何十回目かの息をついて、その日は就寝した。よくわからない夢を見た。
そして翌日、出勤した私は早々に囲部長より小会議室へと呼び出された。小会議室は少しヒンヤリしており、窓から入る春の朝日が、席に座る囲部長と十六沢代理と、壁際に立つ川口……君を照らしていた。
私が扉から一番遠い椅子に腰を降ろすと、部長は書類を取り出しつつ、眉をひそめた。
「一応、聞いておこうか。金は出すから墮胎つもりは――」
「ありません。ありえません」
自分でも、驚くくらいに力の込もった声が室内に響いた。まさかこれが母性だなんて、その時はまだ気付けなかった。無意識にお腹を撫でてしまう。
部長は――知っていた――と言わんばかりに頬杖を突く。
「わかったわかった。で、何ヶ月目だね?」
「じゅ、十週目です」
震える指で診断書を提出すると、睨むみたいに部長が眺めた。
「……逆算による父親の特定は――とりあえず出来そうにないな。まぁいいだろう」
隣から代理も書類を覗きつつ、太い指先で机の上を叩く。
「子供は金がかかるでぇ?」
それは、そうだろう、な。
ましてや三人育てた代理が言うのなら間違いないのだろうけど、その程度で取り下げられるような案件じゃない。
カシャ。
携帯で診断書を撮影すると、部長は最初に準備していた紙とペンをこちらへ寄越してきた。A4サイズの表題には【誓約書】と記載されていて、部長は分厚いまぶたでもって、目を細めた。
「父親が誰かの検査は絶対にしないこと、また出生届等の公的書類に、五人の名前を記入しないこと――」
などなど読み上げていく。――つまり、絶対に認知しないよ? ってことだよね。まぁ、想定はしていたけど。
……そもそも、膣出しを許し続けた自分にだって非はある、と私は思っていた。何より、お腹の子を無事に産めるのなら、今はそれでいい。
他の説明文を斜め読みして、ペンを握ろうとすると、ここまで黙っていた川口君が立ち上がり、何やら部長に耳打ちする。
ガタッ! 部長は勢いよく立ち上がり、私の傍へやってきて、肩に手を置いてきた。い、一体、何を吹き込んだの――?
「新妻クン。署名してくれたら、最長の産休および育休期間を用意しよう」
それは、ありがたいけど――部長は毛の生えた指でもって、柔らかい肉の部分を揉んでくる。
「……」
次は栗色の髪をそっと触られて、その髪質の柔らかさを堪能するみたく握る。私は目を机へと戻して、小さな字で署名と押印を……行った。
――だって仕方がないじゃない。元から選択肢なんて、あってないようなものなのだから。
「ありがとう。話が早くて助かるよ」
彼の手までが悦んでいるみたく、百足のように鎖骨を這ったかと思うと、胸の谷間に到着し、二本の指が滑るように侵入ってくる。
昨日までなら、嬌声をこぼして、頬と股を緩ませていただろう――けど。
「ぶ、部長。流石に今はそういう気分には……」
しかし机向こうの人物――つまり川口君が、なぜか嬉しそうに口角を上げた。
「さっき代理が言った通り、子育ては金がかかるらしいぜ? シングルマザーなら特に遣り繰りが大変なんじゃね?」
「それはもう……わかったってば」
一人当たりの子育てに必要なお金は、だいたい三千万円くらいとか。
当然ながら私は妊娠を想定しておらず、貯蓄だって人並みかそれ以下であり、厳しすぎる現実だった。貰った派手な衣装やブランド物は、売らせてもらったとしても、それは一時的なものであり、最後は自分の稼ぎで何とかしないといけない。
ましてや社長に嫌われている私は、おそらく産後復帰も難しいのではなかろうか? いくら皆と愛人関係でも、母親になり、さらに年を重ねていく私を、いつまでも守ってはくれないだろう。
「と、とにかく。臨月に入るまでは、しっかりと働きます――」
――スリスリ、っと乳房を指の腹にいやらしく撫でられる。ピクン、と身体は動くも、これらの行為を許し続けてきた結果、今に至ったかと思うと、自制せざるを得なかった。
部長は顔を寄せてきて、少し臭う息を吐いてくる。
「殊勝な心がけに免じて、まず外勤など、母体に影響しかねない仕事は今日にでも担当替えしてあげよう。即断で署名してくれたのだから、これくらいは、ほんの手始めだよ」
「あ、ありがとうございます」
「いやいや――そして今し方の川口君の意見を皮切りに思いついてしまったのだが、女性である君にしかできない業務を創ってあげようじゃないか」
トクン。女性である、私にしか、できない?
私の耳たぶに、カサついた唇が引っ付く。
「実益と性益を満たすことができる、新妻明だから可能な革新的な業務だ。他の男社員らの士気を、君の肉体でもって大いに盛り上げる。もちろん給与以外での形となるが、賃銭も支給しよう――心配するな。社長にはバレないさ」
ドクン、と心臓が鳴り、指が震える。
「そ、それは――! い、いけません」
ダメだよ私! そういうことを許してきたから、子供を授かってしまったのだから。ううん。それだけならまだしも、産まれる前からこんな――。
「一種の、発想の転換さ。子供の代わりに君が堕ちると考えれば」
ドックン!
堕ち、る? お腹の子供ではなく、私が? こんな状態で? いや、こんな状態だからこそ?
スルル。
! ――代理の大きな手が、スカートの中に潜り込んできた。
「せやで。金は子供もお前も救けてくれるやろ」
太腿を撫でられて、縮こまりながらも考えてしまう。……確かに子供にだけは、貧しい想いをさせたくない。性欲のせいで片親となってしまったその上塗りなんて。
でも、でも――もう、そういう、肉体的な行為からは、足を洗わないとって、散々昨晩も。
「そうだぜ新妻。お前は腹のガキのため、止む無く新しい仕事を受けるんだ。お前がヤリたいわけじゃなく、必要に応じて仕方なく、だ」
川口君の言葉は耳から吸い込まれ、呪文のように脳内で反響して、私の思考の色を変えていった――子供のため、私がヤリたいわけじゃなく、仕方ないから――と。
部長が頬をレロン、っと舐めて、ハッとする。
谷間を這っていた指が、ブラの隙間に潜り込み、乳首の硬さを確認したあと、無遠慮に引っこ抜かれた。
「んっ」
喘ぎ声が、解き放たれたみたく、こぼれる。
「――では、イエスということで」
部長は用紙をひっ掴み、代理と川口君と共に部屋を後にした。
一人残った私の、悔しさと惨めさを主成分とした涙は、でも寸前で止まった。それを止めたのは、母性の力ではなく、女としての意地でもなく、汚く濁った桃色の胸の高鳴りと、股間の熱、だった。
「私って、本当に、さいってーな、淫乱痴女なんだ……」
机の一点を見つめ、肩を震わせて俯く私は、ショーツの僅かな湿り気に気付き、そっと目を閉じた。
私なんてその下の下だ。最初はもうあまり覚えていないけど、結局は気持ちイイだけという誤った選択肢を選び、もしくは流されて、きっとこの場所にいる――。
……年明けの三日目、長谷川君が用意してくれた黒留袖を身にまとい、髪結いの費用まで出してもらって、有名な神社へ五人で初詣を行った。
庭が見える有名料亭での会食後、旅館へと移って、本来の意味とは異なるかもだけど、姫始めを催した。
花魁風な自分に酔いつつ、着物を召したまま、五人の男性に入れ替わり立ち替わり姦通こと膣内射精に興じてイッタ。皆がお正月らしくお酒を飲んで歓談するすぐ隣の布団の上にて、代わる代わる犯されてイク様は、退廃的でゾクゾクっとした。三人目の誰かに膣内で射精された時に、ふと――色々と戻れないとこまで来ちゃったなぁ――なんて他人事みたく思っちゃった。
小休憩の際、長谷川君が十六沢代理へ『着物を引き裂くのはさすがにやめてください』っと縋ったのには、みんなして笑った。髪の毛にまで精液が絡まっている状態の初笑いのせいで、股間がさらに緩みそうだった。
陽が傾きかけても狂宴は終わらず、合間に女体盛りなんかの箸休めを挟んで遊ばれた。皆が箸で乳首を摘まみ上げたり、陰核を突いたり、果ては和風なAV撮影風な行いにだって遊びふけた。夜の帷が降りてきた頃、着替えた浴衣を開けながら、賀正にふさわしい穏やかな速度で、何回も交合を繰り返してイッタ。
……快楽の情炎会は続き、バレンタインデーこと二月十四日も、はっちゃけていた。各々の事情で全員が集まれなかったのは当初の想定通りで、それでもやってきた代理と係長、長谷川君とネッチョリ愉しんだ。
まずはベタだけど、身体にチョコをコッテリと塗っては舐め回された。キスマークを皮膚のあちこちに浮かべつつ自分の意志で、乳首とオマンコにバタークリームを塗り重ねては、おかわり自由と召し上がってもらった。そのお返しとばかりに、極太のチョコバナナを、上のお口でいやらしく頬張った。もちろん、ミルクチョコは下のオクチで飲ませてもらうという、鉄板ネタまで笑いながらやってのけた。
――にしても、なぜかな? 男性達のエッチな悪ふざけも欲求も、しょーもないと思いつつ、それほどストレスも疑問も感じなかった。皆からは『新妻は本当に男のスケベに理解がある女だ』なんて褒められて、自分でもちょっと不思議に思った。
* * *
そして月を跨ぎ、平日で迎えたホワイトデーを、皆して白く溺れたのは言うまでもなかった。部長決済による終日出張という名目で、ラブホテルに朝から待機させられた私は、一番ファックな下着を穿いてドキドキとしていた。五人については年度末という事もあって、二つの意味で出たり入ったりと、一日中忙しげに仕事と射精を両立させる日とになった。
それにしても、精子デーとばかりに、ちょっと下品で幼稚なエッチネタばかりが続いたため、途中くらいから。
「――もぅ。馬鹿なことばっかり」
っと、犯されつつ苦笑いしてしまうくらいだった。
とにかく私の粘膜に触れたがる彼らを――最初は子供を叱る母親みたく、途中から悪戯な彼氏へ呆れるみたく、でも結局は最愛の夫と戯れるように、抱かれていった。
みんなの睾丸が空になるまで和姦、強姦、輪姦を繰り返し、十時間もかかっちゃった。一通り全員が大満足した時は、夜の二十二時くらいで、さすがにアソコがヒリヒリして痛かった。
……そして、それから一週間後の事だった。係長と部長の羞恥プレイに快く打ちのめされていた私だったけど、ちょっとした体調不良から、四発目をもらった時点で、中座させてもらった。
なんか気分が良くないなぁ、と思いつつ駅へと向かう道中、桜の蕾を構える川沿いをゆったりと歩いて帰った。月明かりが照らす中、川辺に浮かぶ銀色の光の筋が、ちょっと幻想的だった。
「もうすぐ春かぁ」
そう言えばちょうど一年前くらいは、何やらものすごく悩んでいた様な気がした。しかし、それらも春霞みたくボヤけてしまい、ふぅー、と息を吐けば霧散するくらいになった。
「うっ」
――オエッ。道の端で小さく嘔吐し、蕾のタンポポを汚してしまう。
お、おかしいな。夕ご飯は確かに脂っぽい中華料理だったけど、そんなに食べ過ぎてもいないのに。
「ゲホ、ケホッ」
そう言えば、お腹の奥? 辺りに小さな違和感をしばらく前から感じていた。誰かの精子が噛みついているのかな、なんてくだらない事を考えつつ、生理不順かな、っと思った時だった。
生理不順? そもそもこの前の生理っていつだったっけ?
……口元を抑えつつ、早足で二十四時間営業の薬局で買い物をした後、自宅へ帰った。
「――はっ?」
……目を、疑った。
遅いお風呂上がり、まさかとは思いつつも使用した、妊娠検査キットへ目を向けた瞬間だった。まるでピンポン玉みたく凝結した息の塊が、喉で詰まった。
プラスチックの白いキットの中央に、赤い線が二本、くっきりと走っていたのだから。
「……ぅ、そ」
背筋に氷柱を当てられたみたいに、神経に霜が降りたみたいに固まった。
――いや、そもそも危険日を度外視した膣内出し行為に明け暮れてきたのだから、驚いている自分に、むしろ驚くべき?
「あ、たし。妊娠、しちゃった?」
ペタンとM字に座り込む。
お腹の表面の極一部が、返事するみたく、ピクリと伸縮した気がした。
* * *
……よく眠れないまま、ベットに朝日が差し込んできた。重だるい心と体を動かし、有給を使って近所の産婦人科を訪れることにした。
五十代の女医さんによる丁寧な診断の結果、妊娠十週目であることが判明。『母子共に健康ですよ』という言葉を遠くに聞いた。
ショックを受けているような態度だったみたいで、女医さんや看護師さんに気を遣われた。職業柄、私みたいな女性への対応にも慣れているらしく、優しく励まされたのには、少しだけ救われた。
その後、母子手帳の役割とか、妊娠についての心得的な話に移りそうだったため、『次回にお願いします』と断って、逃げるみたく家路に着いた。ダイニングの硬いテーブルに突っ伏して、洗濯機みたく回る頭で、何かを考えようとした。
……惚けて快楽に浸った当然の代償? それとも流れに逆えなかった意思なき弱者の末路? ――どっちにしたって、火遊びの結果、大切な物を焼いてしまったに等しかった。
食欲が無い中、お腹をさすり、また悩む――を、繰り返す内に太陽の光がオレンジ色になっていた。夕陽がカーテンの隙間から部屋を照らす中、震える指を携帯へ伸ばす。厳禁されていたけど、その禁を初めて破って、グループトークへ妊娠についての投稿を行っていった。
診断結果もアップロードして、しばらく待つ。続け様に既読が付くけど、特に電話が鳴ることはなく、それどころか返信チャットすらなかった。
「多分、別グループを立ち上げて、必死に相談しているんだろうなぁ」
――ハァ。目線を落とすと、上下する大きめの乳房が目に入る。
弱々しい息を繰り返す中、片手で襟元を開けて指を入れて、赤く派手な薄いブラを下へズラす。黒曜石みたいに照り輝く、けど表面は滑らかではなく少し凸凹してきた乳首が見えた。
――そう。この肉体を介して、五人が、何より私が悦び愉しんできた、当然の結末。
「……はぁ」
本日、何十回目かの息をついて、その日は就寝した。よくわからない夢を見た。
そして翌日、出勤した私は早々に囲部長より小会議室へと呼び出された。小会議室は少しヒンヤリしており、窓から入る春の朝日が、席に座る囲部長と十六沢代理と、壁際に立つ川口……君を照らしていた。
私が扉から一番遠い椅子に腰を降ろすと、部長は書類を取り出しつつ、眉をひそめた。
「一応、聞いておこうか。金は出すから墮胎つもりは――」
「ありません。ありえません」
自分でも、驚くくらいに力の込もった声が室内に響いた。まさかこれが母性だなんて、その時はまだ気付けなかった。無意識にお腹を撫でてしまう。
部長は――知っていた――と言わんばかりに頬杖を突く。
「わかったわかった。で、何ヶ月目だね?」
「じゅ、十週目です」
震える指で診断書を提出すると、睨むみたいに部長が眺めた。
「……逆算による父親の特定は――とりあえず出来そうにないな。まぁいいだろう」
隣から代理も書類を覗きつつ、太い指先で机の上を叩く。
「子供は金がかかるでぇ?」
それは、そうだろう、な。
ましてや三人育てた代理が言うのなら間違いないのだろうけど、その程度で取り下げられるような案件じゃない。
カシャ。
携帯で診断書を撮影すると、部長は最初に準備していた紙とペンをこちらへ寄越してきた。A4サイズの表題には【誓約書】と記載されていて、部長は分厚いまぶたでもって、目を細めた。
「父親が誰かの検査は絶対にしないこと、また出生届等の公的書類に、五人の名前を記入しないこと――」
などなど読み上げていく。――つまり、絶対に認知しないよ? ってことだよね。まぁ、想定はしていたけど。
……そもそも、膣出しを許し続けた自分にだって非はある、と私は思っていた。何より、お腹の子を無事に産めるのなら、今はそれでいい。
他の説明文を斜め読みして、ペンを握ろうとすると、ここまで黙っていた川口君が立ち上がり、何やら部長に耳打ちする。
ガタッ! 部長は勢いよく立ち上がり、私の傍へやってきて、肩に手を置いてきた。い、一体、何を吹き込んだの――?
「新妻クン。署名してくれたら、最長の産休および育休期間を用意しよう」
それは、ありがたいけど――部長は毛の生えた指でもって、柔らかい肉の部分を揉んでくる。
「……」
次は栗色の髪をそっと触られて、その髪質の柔らかさを堪能するみたく握る。私は目を机へと戻して、小さな字で署名と押印を……行った。
――だって仕方がないじゃない。元から選択肢なんて、あってないようなものなのだから。
「ありがとう。話が早くて助かるよ」
彼の手までが悦んでいるみたく、百足のように鎖骨を這ったかと思うと、胸の谷間に到着し、二本の指が滑るように侵入ってくる。
昨日までなら、嬌声をこぼして、頬と股を緩ませていただろう――けど。
「ぶ、部長。流石に今はそういう気分には……」
しかし机向こうの人物――つまり川口君が、なぜか嬉しそうに口角を上げた。
「さっき代理が言った通り、子育ては金がかかるらしいぜ? シングルマザーなら特に遣り繰りが大変なんじゃね?」
「それはもう……わかったってば」
一人当たりの子育てに必要なお金は、だいたい三千万円くらいとか。
当然ながら私は妊娠を想定しておらず、貯蓄だって人並みかそれ以下であり、厳しすぎる現実だった。貰った派手な衣装やブランド物は、売らせてもらったとしても、それは一時的なものであり、最後は自分の稼ぎで何とかしないといけない。
ましてや社長に嫌われている私は、おそらく産後復帰も難しいのではなかろうか? いくら皆と愛人関係でも、母親になり、さらに年を重ねていく私を、いつまでも守ってはくれないだろう。
「と、とにかく。臨月に入るまでは、しっかりと働きます――」
――スリスリ、っと乳房を指の腹にいやらしく撫でられる。ピクン、と身体は動くも、これらの行為を許し続けてきた結果、今に至ったかと思うと、自制せざるを得なかった。
部長は顔を寄せてきて、少し臭う息を吐いてくる。
「殊勝な心がけに免じて、まず外勤など、母体に影響しかねない仕事は今日にでも担当替えしてあげよう。即断で署名してくれたのだから、これくらいは、ほんの手始めだよ」
「あ、ありがとうございます」
「いやいや――そして今し方の川口君の意見を皮切りに思いついてしまったのだが、女性である君にしかできない業務を創ってあげようじゃないか」
トクン。女性である、私にしか、できない?
私の耳たぶに、カサついた唇が引っ付く。
「実益と性益を満たすことができる、新妻明だから可能な革新的な業務だ。他の男社員らの士気を、君の肉体でもって大いに盛り上げる。もちろん給与以外での形となるが、賃銭も支給しよう――心配するな。社長にはバレないさ」
ドクン、と心臓が鳴り、指が震える。
「そ、それは――! い、いけません」
ダメだよ私! そういうことを許してきたから、子供を授かってしまったのだから。ううん。それだけならまだしも、産まれる前からこんな――。
「一種の、発想の転換さ。子供の代わりに君が堕ちると考えれば」
ドックン!
堕ち、る? お腹の子供ではなく、私が? こんな状態で? いや、こんな状態だからこそ?
スルル。
! ――代理の大きな手が、スカートの中に潜り込んできた。
「せやで。金は子供もお前も救けてくれるやろ」
太腿を撫でられて、縮こまりながらも考えてしまう。……確かに子供にだけは、貧しい想いをさせたくない。性欲のせいで片親となってしまったその上塗りなんて。
でも、でも――もう、そういう、肉体的な行為からは、足を洗わないとって、散々昨晩も。
「そうだぜ新妻。お前は腹のガキのため、止む無く新しい仕事を受けるんだ。お前がヤリたいわけじゃなく、必要に応じて仕方なく、だ」
川口君の言葉は耳から吸い込まれ、呪文のように脳内で反響して、私の思考の色を変えていった――子供のため、私がヤリたいわけじゃなく、仕方ないから――と。
部長が頬をレロン、っと舐めて、ハッとする。
谷間を這っていた指が、ブラの隙間に潜り込み、乳首の硬さを確認したあと、無遠慮に引っこ抜かれた。
「んっ」
喘ぎ声が、解き放たれたみたく、こぼれる。
「――では、イエスということで」
部長は用紙をひっ掴み、代理と川口君と共に部屋を後にした。
一人残った私の、悔しさと惨めさを主成分とした涙は、でも寸前で止まった。それを止めたのは、母性の力ではなく、女としての意地でもなく、汚く濁った桃色の胸の高鳴りと、股間の熱、だった。
「私って、本当に、さいってーな、淫乱痴女なんだ……」
机の一点を見つめ、肩を震わせて俯く私は、ショーツの僅かな湿り気に気付き、そっと目を閉じた。
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