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第2章:秀吉の憶えめでたくなろう

人は石垣?(第2章終わり♪)

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「先日の野分(台風)で清州の城の石垣が崩れた。このままでは五条川の急流で削られて本丸が危ない。
 火急普請で石垣、及び堤防を作り直す」

 総務的な事を担当する宿老、丹羽長秀が司会を務めて城の修理担当を発表している。

「一番肝要なのは、堤防。
 よって柴田殿と某が担当。石垣は佐久間殿、池田殿、森殿……」

 家臣総出だな。
 全体指揮は、丹羽五郎左ちゃんか。

「儂が堤防を見る! 五郎左、石垣を差配せよ」

 ありゃ~。
 信長君。
 腰が軽いというか、前線指揮官やりたい症候群だな。士気が上がるのでいいよね、それ。きっとみんなと一緒に土運んだりしちゃうんだよね。

「はっ。それでは石垣がもっとも大きく崩れている場所を某が……」

「五郎左は全体を見よ! その場所は……、キンカン、それと猿。お前らが競争でやれ!」

 あれ?
 太閤記という怪しい書物では、これで秀吉が出世の糸口に、とかなんとか書いてあったそうだけど。
 これも本当にあったの?


 俺と秀吉との競争かぁ。

 ……俺、勝っちゃまずいよね。
 秀吉の天下取りを補佐する方が後々有利。
 オタク空間への近道だ。

 だが、ここで手を抜いたら、そこへ行きつく前に信ちゃんに首飛ばされそう。信長って目ざといからな。手抜きはすぐバレるかも。


「光秀殿。この藤吉郎。絶対に負けませんぞ。
 いや。そういう事ではないですな。
 2人で競い合い、いち早く修理せねば、この尾張の平定が危ぶまれますゆえ」

 そうなんだよな。
 まだ信長、尾張全土を平定していないんだよ。
 いつ攻められてもおかしくない。

 でも秀吉よ。
 俺ごときに負ける奴じゃないだろ?
 この内政チートマシーンめ。

 首飛ばされない程度にサボる方法はないものか。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「それ引けぃ! やれ引けぃ! もっと引けぃ! 
 これが終わったら酒をおごるぞ~。
 家で待っている母ちゃんに米の一合でも持って帰れよ~!」

 秀吉の声が石垣修理箇所にコダマする。

 やっぱそうなるよね。
 銭は織田家で全部出してくれるならば、大盤振る舞いでご褒美あげ放題。人足を数班に分けて早くできた班に褒美をあげる。割普請というやつだね。

 令和の時代ではよく見かけるが、この時代では斬新だよ。


 で、俺はどうしているかって?

「できたよ、みっちゃん。酒一カ月分はもらった!」

 冬木の野郎にだけ大盤振る舞い。
 複合式滑車と、鉄製コロ。
 手押し車を大至急作ってもらった。

 珍しいものを作るとなると、こいつは張り切る。
 酒つけなくてもやってくれたかもしれない。


「よ~し。人足たち。これから使い方教えるから、これ使って石運んでみようか」

 一つの複合式滑車で、まずは転げ落ちてしまった大きな石を石垣の基部へコロと併用して持って行く。
 二つ目の滑車で、石垣を乗っける部分まで持ち上げる。
 三つ目の滑車で、固定する場所に引っ張っていく。

 うん。
 だいたい10人で出来る作業だな。秀吉は200人くらい使っているが。
 酒も10人分でいいや。冬木の野郎に30人分飲まれるんだし。


 じゃ、俺は適当にその辺で昼寝でもしておくか。
 早くやっちまうと秀吉に大大名にしてもらえない。ここは華を持たせよう!
 やることはやっているから首は飛ばないよね。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「信長様!
 出来ましてございまする!
 この猿。マシラ(猿)のごとく石垣に登り、人足を笑わせながら速やかに修理いたしました。これも信長さまが猿回しの手綱を上手に操った結果にて!」


 表情が面白いし、この時代のギャグだから笑えるんだろうけど、それってお世辞が過ぎて武闘派の柴田さんや、佐々くんの怒りを買うよ。すでに秀吉をじろりと見ているし。

 それでも信ちゃん、ご機嫌で
「ようやった、猿!」
 と土木作業で泥で汚れた顔をほころばせべた褒め。


「一番早く修理できた木下殿の人足は、別の場所へ回す。木下殿は、そこの現場指揮するものの差配を受けよ」

 丹羽さんが平静に司会進行。
 この人、きちんと第三者的に見るからステキ。顔が無表情なのがちょっち気になるが。


「……あと3日で終わるか。堤防もめどがついた。皆の者も、ようやった」

 信長君も結構上機嫌。


「信長様。一人、不届きなものがおりまする。石垣がまだ出来上がってもおらずに居眠りするものが! 織田家にとって不要の者と見ましたぞ」


 誰だよ。
 そんなダラダラしているやつ。


「そこの明智光秀にございまする。
 このままではこの者のせいで工期が大幅に長引いてしまうのではと心配しておりまする。時は戦乱の世。一時たりとも油断できず。火急的速やかに工事せねばならぬことを理解しておらぬようでござる」


 おっひょ~。
 俺でございましたか。

 そうだよね。
 居眠りしているし。
 ゆっくりしている。

 それは認める。
 だがな。信長君のオーダーは速やかにやれとは言っていなかった。
「競争でやれ」と言っていただけ。

 いったい何を競争すればいいのかな~、と思ったんだよ。
 速さは秀吉君に任せた。それは正史と同じだからね。俺はまた別のアピールポイントで自分の首を繋ぐんだ。


「キンカン! 申せ!」

 はいはい。
 理由説明ね。

「はっ。
 それがし、一つ試したかったことがございまする。
 それは『どれだけ少ない人数と費用で』石垣を修理できるか。たとえば攻められている城の中では、満足に人手を手配できるとは思えませぬ。
 そんなときのために、実用的な方策を練っておりました。
 また、誰でも出来るか確かめるために、某は居眠りしておりました」

 いや~。
 単に、サブカル作業で寝不足気味だから寝ていたんだけどね。ついでに寧々ちゃんと夜戦もしていたし。

 必要は発明の母。
 楽して効率的に~


「……なるほど。なにやら不思議な道具を使っていたとも聞く。それで人足を減らしたか。
 天晴じゃ。あとで褒美を取らす!
 今後、それを使用し、土木作業をする。キンカン、それを多数作り、配備せよ!」


 首は大丈夫だった。
 だが……秀吉。
 さっき俺を、にらんでなかったか?
 お前らしくないぞ。
 お前はもっと明るい奴じゃないか。そうじゃないと天下取れないぞ!

 俺の為にも天下を取ってくれよな。
 手伝うからさ。

 信長に秀吉の今回の作業を褒めておこうかな。ついでに利家も褒めてっと。あとは勝家と、成政。恒興・秀隆・直政・貞勝も……


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