【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ【完結】

旅する書斎(☆ほしい)

文字の大きさ
13 / 20

第13話 「俺の女」と、逆転の黄金魔力

しおりを挟む
「原因は、彼女です」

「天野いちごさんの作る魔法菓子が、生徒たちの魔力を、内側から狂わせているのです」

セバスチャン先生の、その冷たい宣告が、シンと静まり返った実習室に響き渡った。

私の頭の中が、一瞬、白くなる。

でも、それは絶望の色じゃなかった。

燃えるような、怒りの色だった。

ふざけないで。

私の、私たちの、大切な魔法を、そんな風に言わないで。

私が唇を噛み、何かを言い返そうとした、その時だった。

「――待ってください!」

凛とした声が、空気を震わせた。

声のした方を見ると、そこに立っていたのは、桜ちゃんだった。

彼女は、調査団の先生たちと、セバスチャン先生の前に、ずいっと進み出ると、私を庇うように両手を広げた。

「いちごが、そんなことするはずありません! 彼女のお菓子は、人を傷つけたりなんか絶対にしない!」

「桜ちゃん……」

「そうだ!」

桜ちゃんの声に続くように、別の声が上がる。

見ると、魔法研究発表会の時に、私が宝石糖を渡した魔法科の下級生だった。

彼は、真っ直ぐに学園長を見つめて言った。

「僕、天野さんのお菓子に助けられました! 彼女のお菓子は、すごく優しくて、温かい味がしました! 人の魔力を狂わせるような、そんなものじゃ、絶対にありません!」

「私も!」

「俺もだ!」

次々と、声が上がる。

発表会で緊張していた子。

レポートに追われていた上級生。

練習で怪我をしそうだった子。

私がこれまで、お菓子を渡してきた生徒たちが、一人、また一人と、私の前に立って、調査団の先生たちに訴えかけてくれている。

「天野さんのお菓子は、魔法のままごとなんかじゃない!」

「彼女の魔法は、私たちの心を支えてくれたんだ!」

「彼女は、魔女なんかじゃない!」

みんなの、その温かい言葉が、私の心の盾になる。

ああ、私の魔法は、ちゃんと、みんなに届いていたんだ。

嬉しくて、涙が溢れて、止まらない。

セバスチャン先生の顔から、みるみる笑顔が消えていく。

学園長たちも、予想外の展開に、戸惑いを隠せないでいた。

「……静粛に! 静粛にしたまえ!」

学園長が、必死に場を収めようとする。

「気持ちはわかるが、現に被害者が出ているのだ! 証拠もある! 天野いちごを、このままにしておくわけには……」

調査団の先生が、私の方へ、手を伸ばした。

その、瞬間だった。

ドガァァァァァァンッッ!!!

すさまじい轟音と共に、実習室の、頑丈なはずの樫の木のドアが、蝶番から吹き飛んだ。

木っ端微塵になったドアの破片が、スローモーションのように宙を舞う。

シン、と静まり返った入口に、逆光を背負って立つ、一人の人影。

夕暮れの光が差し込んで、その銀色の髪を、キラキラと輝かせている。

間違えるはずがない。

「――レオン様……!」

「なっ……ヴァイスハイト様!?」

そこに立っていたのは、純白の礼服に身を包んだ、レオン様だった。

そのサファイアの瞳は、見たこともないくらい、激しい怒りの炎に燃えていた。

彼は、ゆっくりと、一歩、実習室に足を踏み入れる。

その全身から放たれる、圧倒的な覇気。

それは、もはや“氷の王子”などという生易しいものではなく、全てを統べる、絶対的な王者の風格だった。

彼は、私を捕らえようとしていた調査団の先生と、その背後にいるセバスチャン先生を、氷点下の視線で、射抜いた。

そして、静かに、だが、部屋中の空気を震わせるほどの、低い声で、言った。

「――俺の女に、誰が指一本でも触れていいと言った?」

(―――っ!!!)

そのセリフに、私の心臓は、文字通り、飛び跳ねた。

い、今、なんて……!?

お、俺の、女……!?

キャーッ! と叫びたいのを、必死でこらえる。

周りの生徒たち、特に女子生徒たちが、ぽかんとした顔で、あるいは真っ赤な顔で、レオン様と私を交互に見ている。

「レ、レオン様……これは、学園の内部調査で……」

学園長が、しどろもどろに言い訳をする。

「黙れ」

レオン様は、たった一言で、学園長を黙らせた。

彼は、まっすぐに、セバスチャン先生を見据える。

「貴様の狙いは、俺と、俺の聖なる魔力だろう。アルビオン公爵の犬め」

「……!」

セバスチャン先生の肩が、ぴくりと震えた。

「だが、見当違いだったな。俺の力は、いちごがいて、初めて本当の意味で安定する。彼女を害することは、俺自身を害することと同じだと、なぜわからなかった?」

レオン様は、ふっと息を吐くと、調査団が証拠品として持っていた、問題のクッキーを、ひょいと指先でつまみ上げた。

「これが、証拠だと?」

彼は、そのクッキーを、じっと見つめる。

「確かに、このクッキーには、俺の知らない邪悪な魔力が、後から上書きされているな。……だが」

次の瞬間、レオン様の手の中のクッキーが、ふわりと、黄金色の聖なる光に包まれた。

キラキラと輝く、温かくて、優しい光。

その光が、クッキーに染み込んでいくと、中から、まるで墨汁のような、どろりとした黒い煙が、うめき声のような音を立てて、立ち上った。

「ぎ、ぎゃああ……!」

黒い煙は、一瞬だけ、苦しむ人の顔のような形を作ると、聖なる光に触れて、跡形もなく浄化され、消滅した。

後に残ったのは、私の作った、いつもの、温かくて、優しい魔力だけを宿した、ただのクッキーだった。

「これが、答えだ」

レオン様は、そのクッキーを、セバスチャン先生の目の前に、突きつけた。

「この邪悪な『魔力かく乱』の魔法……王宮でも、ごく一部の闇魔術師しか使えない代物だ。貴様の正体は、もう割れている」

セバスチャン先生の顔から、完全に血の気が引いていた。

にこやかだった仮面は剥がれ落ち、そこには、焦りと、憎悪に歪んだ、醜い素顔が晒されていた。

「く……くそっ……!」

追い詰められた彼は、懐から、禍々しい紋様の描かれた短剣を取り出した。

「こうなれば、道連れだ……!」

彼が、禁断の古代魔法を唱えようとした、その時。

「――遅い」

レオン様が、指を、ぱちん、と鳴らした。

その瞬間、セバスチャン先生の体は、黄金色の光の鎖によって、完全に拘束されていた。

身動き一つ、できなくなっていた。

次元が、違う。

力の差が、ありすぎる。

覚醒したレオン様の前に、もはや、敵はいなかった。

全てが、終わった。

あっけないほどの、幕切れだった。

静まり返った実習室。

みんなが、呆然と、その光景を見つめている。

そんな中、レオン様は、ゆっくりと、私の方へ歩み寄ってきた。

そして、私の目の前で、足を止めた。

「……心配、させたな」

その声は、さっきまでの怒りが嘘みたいに、優しくて、甘かった。

彼は、そっと、私の頬に触れた。

「もう、大丈夫だ」

その一言に、私の目から、安堵の涙が、ぽろぽろと零れ落ちた。

「レオン様……っ!」

私は、彼の胸に、飛び込んでいた。

彼は、そんな私を、力強く、でも、壊れ物を扱うみたいに、優しく抱きしめてくれた。

彼の胸の中は、温かくて、安心する匂いがして、世界で一番、安全な場所だった。

「俺がずっと、そばにいる」

彼の囁きが、私の髪を、優しく揺らす。

もう、何も怖くない。

この腕の中にあるのが、私の本当の居場所なんだ。

どれくらい、そうしていただろうか。

私が、少しだけ落ち着いて、顔を上げると、周りの生徒たちが、みんな、真っ赤な顔で、あるいは、ニヤニヤしながら、私たちを見ていたことに気づいた。

(はっ……! み、見られてる……!)

私が、慌てて彼から離れようとすると、彼は、逆に、ぐっと力を込めて、私を離してくれない。

そして、私の耳元で、意地悪く、囁いた。

「……ところで」

「は、はい!?」

「さっき、俺の女、と言ったことだが」

(うわー! 蒸し返さないでー!)

「少し、訂正が必要かもしれん」

「え……?」

がっかり、すべきところなの?

でも、彼は、続けた。

その声は、とろけるくらい、甘かった。

「……いや、いずれ、そうなるのだから、間違いではないか。……なあ、俺の、未来のお姫様?」

(~~~~~っ!!!)

もう、ダメ。

私の心臓は、とっくにキャパオーバー。

嬉しさと、恥ずかしさで、私は彼の胸の中で、完全に、のぼせ上がってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-
児童書・童話
 日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。  氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。  これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。  二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。  それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。  そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。  狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。  過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。  一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」 平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。 好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。 旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。 見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。 未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。 誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。 藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。 この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。 感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。 読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

処理中です...