S級パーティを追放された「雑用係」、実は彼がいなければ全員ただの凡人だった

旅する書斎(☆ほしい)

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王都にある最高級酒場の最上階。
そこは、選ばれた強者のみが入ることを許される聖域だ。

黄金の装飾が施された円卓。
その中心で、黄金の鎧を纏った男――勇者レオンが、傲慢な笑みを浮かべて俺を見下ろしている。

「アルト。お前、今日限りでクビだ」

レオンの言葉に、周囲の仲間たちが下卑た笑い声を漏らす。
魔術師のセーラ、重戦士のガストン。
どいつもこいつも、俺が命懸けでサポートしてきた連中だ。

「クビ? 急にどうしたんだよ。俺がいなきゃ、このパーティの装備維持もキャンプの設営も、索敵だって回らなくなるぞ」

俺は努めて冷静に問い返した。
内心では、ようやくこの時が来たかと、どこか冷めた感情が渦巻いている。

「はっ、笑わせるなよ。お前みたいな器用貧乏の雑用係なんて、代わりはいくらでもいるんだ。いいか。俺たちはもうS級なんだよ。伝説の魔王を倒しに行く選ばれしエリートだ。そこに、何の専門性もない、ただの便利屋が混じっているのは、パーティの格に関わるんだよ」

レオンがワイングラスを煽り、赤い液体を口に含む。
その喉の動きすら、俺にはひどく下品に見えた。

「専門性、か。俺の器用貧乏が、どれだけお前らの戦闘を支えてきたか、本当に分かってないのか」

「分かってるさ。お前は料理が上手くて、荷物持ちが上手くて、防具の修繕が少し早い。それだけだろ。そんなのは、奴隷を数人雇えば済む話だ」

魔術師のセーラが、艶然とした笑みを浮かべながら追撃してくる。
彼女が今着ている最高級の魔導法衣。
それも、俺が昨晩徹夜して、魔力の伝導率を最大化するために特殊な触媒で磨き上げたものだ。

「アルト、あなたの顔を見るのも飽きたの。あなたの魔法、中途半端で威力が低すぎるのよ。私が一発ドカンと撃てば済む話を、ちまちまと補助魔法で飾られても迷惑なの」

重戦士のガストンも、太い腕を組んで鼻で笑う。

「俺の斧のキレが悪くなったのも、お前の研ぎ方が甘いからじゃねえのか。最近、どうも体が重くていけねえ。お前の作った飯の栄養が足りねえんだよ」

勝手な言い分だ。
俺はあえて、彼らの無知を指摘しなかった。

俺の固有スキル、器用貧乏。
その真の姿は、究極の分配者という神話級の能力だ。

俺がパーティにいるだけで、仲間のステータスは三倍以上に跳ね上がる。
それだけじゃない。
俺が施す全ての補助、食事、装備のメンテナンスには、対象の潜在能力を限界突破させるバフが乗っている。

彼らが今、世界最強だと自惚れているその力。
その半分以上は、俺が肩代わりし、供給し続けていたものだ。
俺がこの部屋を出た瞬間、彼らがどうなるか。
想像するだけで滑稽だった。

「……分かった。そこまで言うなら、俺は出ていくよ」

「話が早くて助かるぜ。ほら、これは手切れ金だ。辺境の村で一生遊んで暮らせ」

レオンが投げ捨てたのは、わずか数枚の銀貨だった。
S級冒険者の報酬、一回のクエストで金貨数百枚が動く世界において、これは明白な侮辱だ。

俺はそれを拾うこともしなかった。
ただ、腰に下げた自分のボロい剣を直し、席を立つ。

「ああ、そうだ。一つだけ忠告しておく」

「なんだ。負け惜しみか」

「俺が抜けた後、自分の体が思うように動かなくても、無理はするな。今のお前たちの力は、お前たち自身のものじゃない」

「ははは。傑作だ。俺の聖剣の威力が俺自身のものじゃないだと。寝言は寝て言え、無能」

レオンの爆笑を背に、俺は部屋を出た。
廊下を歩きながら、俺はシステムメッセージを展開する。

究極の分配者:パーティ解除を検知。
全共有バフを解除します。
対象:レオン、セーラ、ガストン。
還元ボーナスの適用を開始します。

視界に流れる文字。
俺が彼らに分け与えていた力が、濁流のように俺の内側へと戻ってくる。
さらには、彼らが俺のバフを受けていた期間に稼いだ経験値。
その成長分の一部が、複利となって俺のステータスに上乗せされていく。

ドクン、と心臓が強く跳ねた。
全身の細胞が沸騰するような感覚。
視界が異常に鮮明になり、空気の流れ、建物の微細な振動、外を歩く人々の鼓動までが手に取るように分かる。

これが、俺の本当の力。
今まで他人に吸わせていた果実を、ようやく自分一人で味わえる。

「ふぅ。体が軽いな」

酒場を出ると、夜風が心地よかった。
王都の喧騒が、ひどく遠く感じる。
俺は一度も振り返ることなく、正門へと向かった。

あいつらが、自分の本当の価値に気づくのはいつだろうか。
おそらく、次の戦闘だろうな。

今まで紙切れのように斬り裂いていた魔物が、鋼鉄の壁のように立ちはだかる絶望。
想像しただけで、口角が上がってしまうのを止められなかった。

俺は王都を去る。
こんな淀んだ場所ではなく、もっと自由で、もっと面白い場所へ。

世界は広い。
俺のこの器用すぎる力が、どこまで通用するのか。
試してみるのも悪くない。

翌朝、俺は馬車に揺られながら、はるか東の辺境を目指していた。
そこは、魔物の強さが王都周辺とは比較にならないほど高く、文明の果てと呼ばれる場所だ。

普通の人間なら死にに行くような場所だが、今の俺にとっては、最高の遊び場になるはずだ。

「まずは、まともな拠点を確保しないとな」

俺は手元にある古い地図を広げる。
そこには、かつて栄華を極めたが、今では魔物に飲み込まれたという沈黙の聖域の名があった。

聖女が捨てられ、奇跡が途絶えたと言われる地。

俺がそこへ行けば、どんな奇跡が起きるのか。
楽しみで仕方がない。

道中、馬車が急停止した。
御者の悲鳴が上がる。

「ひ、ひぃ。黒角狼だ。それも群れで……」

窓から外を覗くと、十数頭の巨大な狼が馬車を囲んでいた。
B級冒険者がパーティで挑んでようやく勝てるかどうかという強敵だ。

御者はガタガタと震え、乗客たちは絶望の悲鳴を上げている。
だが、俺にとっては、ただの動く標的にしか見えなかった。

「ちょっと、外の空気を吸ってくる」

俺は軽やかに馬車を降りた。
狼たちが、一斉に俺に狙いを定める。
鋭い牙から涎が垂れ、殺気が大気を震わせる。

「あ、おい。死ぬぞ。戻れ」

御者の叫びを無視して、俺は一歩踏み出す。
腰の剣を抜くことすらしない。
ただ、指先をパチンと鳴らした。

「破」

瞬間。
俺の周囲に展開された魔力が、物理的な衝撃波となって放射状に放たれた。

ドォォォォォン。

鼓膜を劈く爆音。
狼たちの肉体が、まるで巨大なプレス機に押し潰されたかのように、一瞬で地面にめり込んだ。

悲鳴を上げる暇すらなかった。
黒角狼の群れは、ただの肉塊へと変わり、その衝撃で周囲の木々が扇状に倒れ伏す。

「……え」

御者の声が、ひどく間抜けに響いた。
他の乗客たちも、窓から顔を出し、言葉を失っている。

「片付いたぞ。出発してくれ」

俺は何事もなかったかのように馬車に戻る。
一頭の狼に数発の魔法を叩き込んでいたセーラが見たら、泡を吹いて倒れる光景だろうな。

何しろ、今のは魔法ですらない。
ただ魔力を放出しただけの、ただの溜息のようなものだ。

馬車が再び動き出す。
御者の手はまだ震えていたが、その速度は心なしか早くなっていた。

辺境、沈黙の聖域。
そこには、俺を待っている何かがある気がする。

俺の新しい人生は、退屈とは無縁になりそうだ。

俺は背もたれに深く体を預けた。
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