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聖堂の朝は早い。
といっても、俺にとっては王都でレオンたちの装備を深夜まで研いでいた頃に比べれば、昼過ぎまで寝ているような感覚だ。
快適すぎるベッドから身を起こし、俺は新しく作り替えた聖堂のバルコニーに出た。
眼下に広がるのは、昨日までは死の森と呼ばれていた場所だ。
今はどうだ。
俺の魔力が大地に染み込み、究極の分配者が土地そのものの生命力を引き出した。
木々は青々と茂り、名前も知らない極彩色の花々が、甘い香りを振りまきながら咲き乱れている。
「おはようございます、アルト様。お目覚めのお茶をお持ちしました」
背後から、鈴を転がすような澄んだ声が届く。
エリスだ。
彼女は俺が贈った最高級の魔糸で織り上げた法衣を纏い、神々しいまでの微笑みを浮かべて立っている。
視界に入った瞬間、網膜が焼き切れるような錯覚を覚えるほどの美貌だ。
だが、その手にあるトレイには、湯気を立てる素朴なパンとスープが乗っている。
「ああ、ありがとう。リディアたちはどうした?」
「彼女たちなら、既に広場で朝の訓練を始めています。アルト様に与えられた新しい装備と、強化された自身の体にまだ戸惑っているようですが……驚くほど熱心ですよ」
エリスに促されて広場を見下ろすと、そこにはリディア率いる騎士団がいた。
彼女たちが剣を振るうたびに、大気が真空波を生み出し、森の端にある大岩が豆腐のように真っ二つに割れていく。
ドゴォォォォン。
鼓膜を劈くような爆音が響き渡り、土煙が舞い上がる。
「おいおい、朝から元気すぎるだろ。あいつら、自分がどれだけ異常な出力になってるか分かってるのか?」
「いえ、リディアさんは『アルト様に少しでも近づくには、これでも足りない』と仰っていました」
あいつ、真面目すぎるんだよな。
俺のバフと調整が乗った今の彼女たちは、並のS級冒険者でも正面から戦えば一瞬で肉片に変わるレベルだ。
それを自覚せずに訓練に励む姿は、端から見れば天災が踊っているようにしか見えない。
「さて、腹ごしらえが済んだら、次は食料の自給自足を考えるか。いつまでも備蓄に頼るわけにはいかないからな」
俺はスープを飲み干すと、聖堂の裏手に広がる荒地へと向かった。
そこは岩が剥き出しになった、作物を育てるには不向きな場所だ。
普通なら、土を入れ替え、数年かけて肥沃な土地に改良しなければならない。
だが、俺にはそんな悠長な時間は必要ない。
俺は荒地の中心に立ち、土に手を触れた。
究極の分配者、起動。
俺の中に貯まった膨大な魔力を、土地の栄養素と結合させ、強制的に超肥沃な黒土へと変換する。
シュゥゥゥゥ。
地面から白い霧が立ち上り、一瞬で岩が砕け、真っ黒で柔らかな土へと変わっていく。
そこに、俺が適当に用意したリンゴや麦の種を放り込んだ。
「成長促進。ついでに品種改良だ」
指先から黄金の光を放つ。
その瞬間、地面がボコボコと盛り上がり、目にも止まらぬ速さで緑の芽が噴き出した。
芽は一瞬で太い茎となり、枝を広げ、数秒後には大人の拳ほどもある真っ赤な果実を鈴なりに実らせた。
「な、ななな……なんですか、これは!」
訓練を終えて駆けつけてきたリディアが、持っていた剣を取り落とした。
彼女の背後にいる騎士たちも、腰を抜かして座り込んでいる。
ありえない、という言葉が彼らの顔に張り付いている。
「リンゴだ。一つ食ってみろ、美味いぞ」
俺は適当に一つもぎ取り、リディアに投げ与えた。
彼女はおそるおそる、その果実にかじりつく。
シャクッ。
心地よい音が響いた瞬間、彼女の瞳が極限まで見開かれた。
「……っ! あ、ありえない。口に入れた瞬間、果汁が爆発したような……それに、この魔力量。これ一つで、王宮の秘蔵薬十本分を優に超えています!」
「ただのリンゴにそこまで驚くなよ。俺が少し手を加えただけだ」
「少し、のレベルではありません! このリンゴが王都に出回れば、国が三つは買えますよ!」
リディアが絶叫する。
周囲の騎士たちも、一口食べるごとに涙を流し、その場で跪いて祈り始めた。
あまりの美味さと、体に溢れ出すエネルギーに、彼らの常識は完全に崩壊したようだ。
「ふん、まあいい。これなら食い物には困らないな。余った分は保存食にするか、あるいは……」
俺の脳裏に、一つの案が浮かぶ。
これほどの資源があれば、これを餌にさらに面白い連中を釣り上げることができる。
この聖域を、ただの隠れ家ではなく、世界が跪く中心地にしてやる。
といっても、俺にとっては王都でレオンたちの装備を深夜まで研いでいた頃に比べれば、昼過ぎまで寝ているような感覚だ。
快適すぎるベッドから身を起こし、俺は新しく作り替えた聖堂のバルコニーに出た。
眼下に広がるのは、昨日までは死の森と呼ばれていた場所だ。
今はどうだ。
俺の魔力が大地に染み込み、究極の分配者が土地そのものの生命力を引き出した。
木々は青々と茂り、名前も知らない極彩色の花々が、甘い香りを振りまきながら咲き乱れている。
「おはようございます、アルト様。お目覚めのお茶をお持ちしました」
背後から、鈴を転がすような澄んだ声が届く。
エリスだ。
彼女は俺が贈った最高級の魔糸で織り上げた法衣を纏い、神々しいまでの微笑みを浮かべて立っている。
視界に入った瞬間、網膜が焼き切れるような錯覚を覚えるほどの美貌だ。
だが、その手にあるトレイには、湯気を立てる素朴なパンとスープが乗っている。
「ああ、ありがとう。リディアたちはどうした?」
「彼女たちなら、既に広場で朝の訓練を始めています。アルト様に与えられた新しい装備と、強化された自身の体にまだ戸惑っているようですが……驚くほど熱心ですよ」
エリスに促されて広場を見下ろすと、そこにはリディア率いる騎士団がいた。
彼女たちが剣を振るうたびに、大気が真空波を生み出し、森の端にある大岩が豆腐のように真っ二つに割れていく。
ドゴォォォォン。
鼓膜を劈くような爆音が響き渡り、土煙が舞い上がる。
「おいおい、朝から元気すぎるだろ。あいつら、自分がどれだけ異常な出力になってるか分かってるのか?」
「いえ、リディアさんは『アルト様に少しでも近づくには、これでも足りない』と仰っていました」
あいつ、真面目すぎるんだよな。
俺のバフと調整が乗った今の彼女たちは、並のS級冒険者でも正面から戦えば一瞬で肉片に変わるレベルだ。
それを自覚せずに訓練に励む姿は、端から見れば天災が踊っているようにしか見えない。
「さて、腹ごしらえが済んだら、次は食料の自給自足を考えるか。いつまでも備蓄に頼るわけにはいかないからな」
俺はスープを飲み干すと、聖堂の裏手に広がる荒地へと向かった。
そこは岩が剥き出しになった、作物を育てるには不向きな場所だ。
普通なら、土を入れ替え、数年かけて肥沃な土地に改良しなければならない。
だが、俺にはそんな悠長な時間は必要ない。
俺は荒地の中心に立ち、土に手を触れた。
究極の分配者、起動。
俺の中に貯まった膨大な魔力を、土地の栄養素と結合させ、強制的に超肥沃な黒土へと変換する。
シュゥゥゥゥ。
地面から白い霧が立ち上り、一瞬で岩が砕け、真っ黒で柔らかな土へと変わっていく。
そこに、俺が適当に用意したリンゴや麦の種を放り込んだ。
「成長促進。ついでに品種改良だ」
指先から黄金の光を放つ。
その瞬間、地面がボコボコと盛り上がり、目にも止まらぬ速さで緑の芽が噴き出した。
芽は一瞬で太い茎となり、枝を広げ、数秒後には大人の拳ほどもある真っ赤な果実を鈴なりに実らせた。
「な、ななな……なんですか、これは!」
訓練を終えて駆けつけてきたリディアが、持っていた剣を取り落とした。
彼女の背後にいる騎士たちも、腰を抜かして座り込んでいる。
ありえない、という言葉が彼らの顔に張り付いている。
「リンゴだ。一つ食ってみろ、美味いぞ」
俺は適当に一つもぎ取り、リディアに投げ与えた。
彼女はおそるおそる、その果実にかじりつく。
シャクッ。
心地よい音が響いた瞬間、彼女の瞳が極限まで見開かれた。
「……っ! あ、ありえない。口に入れた瞬間、果汁が爆発したような……それに、この魔力量。これ一つで、王宮の秘蔵薬十本分を優に超えています!」
「ただのリンゴにそこまで驚くなよ。俺が少し手を加えただけだ」
「少し、のレベルではありません! このリンゴが王都に出回れば、国が三つは買えますよ!」
リディアが絶叫する。
周囲の騎士たちも、一口食べるごとに涙を流し、その場で跪いて祈り始めた。
あまりの美味さと、体に溢れ出すエネルギーに、彼らの常識は完全に崩壊したようだ。
「ふん、まあいい。これなら食い物には困らないな。余った分は保存食にするか、あるいは……」
俺の脳裏に、一つの案が浮かぶ。
これほどの資源があれば、これを餌にさらに面白い連中を釣り上げることができる。
この聖域を、ただの隠れ家ではなく、世界が跪く中心地にしてやる。
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