S級パーティを追放された「雑用係」、実は彼がいなければ全員ただの凡人だった

旅する書斎(☆ほしい)

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「隠れてるつもりか? その程度の気配、俺の鼻をかすめる悪臭と変わらないぞ」
俺が森の暗がりに向かって声をかけると、数人の男たちが音もなく姿を現した。
全身を黒い装束で包み、感情を殺した無機質な瞳。
王都の裏社会で掃除屋として恐れられる暗殺ギルド、影の蛇の連中だ。

「……流石だな、雑用係のアルト。勇者レオンから聞いていた評判とは、随分と違うようだが」
リーダー格の男が、歪んだ笑みを浮かべて短剣を弄ぶ。
彼らの装備には、魔力探知を無効化する特殊な処理が施されている。
だが、俺の究極の分配者は、彼らが世界から借りている僅かな存在確率そのものを感知している。
隠れることなど不可能なのだ。

「レオンに頼まれたのか? あの無能、自分で手を下す度胸もないらしい」
「依頼主のことは喋らない契約だ。だが、お前が生きていては困る人間が王都には山ほどいる。お前が抜けてから、あいつらは惨めなものだ。特にレオンの醜態は、もはや喜劇ですらない」
男の言葉に、俺は思わず吹き出した。
想像通りだ。
俺という支柱を失ったレオンは、自分の実力がただの借り物だったことを突きつけられ、精神的に追い詰められているのだろう。
その焦りが、暗殺者を雇うという短絡的な行動に繋がったわけだ。

「で、お前たちは俺を殺せると思っているのか?」
「仕事だからな。一人なら苦労したかもしれんが、我々は五人。しかも、この日のために用意した対魔術師用の結界石がある。これの範囲内では、お前のその出鱈目な魔法も封じられる」
男が懐から黒い宝石を取り出した。
瞬間、俺の周囲の魔力が凍りついたように沈黙する。
確かに、並の魔術師ならこれで詰みだろう。
だが、彼らは致命的な勘違いをしている。

「魔法、ね。俺が使っているのがそんな高尚なものだと思っていたのか?」
俺は一歩、踏み出す。
結界石の効果で魔力は封じられているはずなのに、俺の肉体からは物理的な圧力が放射されている。
大地が俺の重みに耐えきれず、メキメキと音を立てて陥没していく。

「……なっ、魔法が封じられているのに、この圧力はなんだ!? ひるむな、囲め!」
暗殺者たちが一斉に飛び込んでくる。
彼らの動きは速い。
視認すら困難な速度で、急所へと鋭い刃を突き立てようとする。

だが、俺の目には、彼らの動きは止まっているのも同然だった。
俺の反射神経、筋肉密度、動体視力。
それら全てに、俺自身が溜め込んだ膨大な経験値がバフとして乗っている。
物理的なステータスだけで、俺は既に伝説の魔獣をも凌駕しているのだ。

「遅い」
俺は最小限の動きで、最初の一人の腕を掴んだ。
そのまま軽く捻る。
パキパキという、乾いた木が折れるような音が響き、暗殺者の悲鳴が上がる。
俺はさらに、後ろから迫る二人の頭を掴み、力任せに衝突させた。

ドグォォォォォン。
衝撃波で周囲の地面が弾け飛び、二人の頭蓋が粉砕される音が響く。
即死だ。
残りの二人が恐怖に凍りつき、足を止める。

「ひ、ひぃ……化物か……! 魔法抜きで、暗殺ギルドの精鋭が手も足も出ないなんて……!」
「化物は失礼だな。俺はただ、自分の体を最適化しただけだ。お前たちの筋肉の動かし方、重心の置き方、その全てに無駄がありすぎる」
俺はリーダーの男の前に瞬時に移動した。
彼は反応すらできなかった。
俺の拳が彼の腹部に沈み込む。
ただし、殴るのではない。
俺の体内に蓄積された純粋な衝撃を、彼の神経系に直接流し込んだ。

「がはっ……」
リーダーの男は、一歩も後ろに下がることなく、その場で崩れ落ちた。
彼の体内の神経、血管、骨格。
それら全てが、一瞬の衝撃で完膚なきまでに破壊されたのだ。
外傷はほとんどないが、彼は一生、指一本動かすことすらできないだろう。

「さて、最後の一人」
俺は逃げ出そうとしていた最後の一人の首根っこを掴み、宙に吊り上げた。
彼は泡を吹いて、ガタガタと震えている。

「助けて……くれ……命だけは……」
「命はいらないと言っただろ。お前には、王都への伝言役になってもらう」
俺は彼の額に、指先で小さな紋章を刻んだ。
これは俺の権能の一部を組み込んだ呪印だ。
彼がレオンや教会の関係者に接触した瞬間、俺の声を再生するように設定してある。

「レオンに伝えろ。追放してくれてありがとうとな。おかげで、俺を縛る鎖が全て消えた。次に会う時は、お前たちの積み上げてきた偽りの栄光を、目の前で全て塵に変えてやる」
俺が手を放すと、暗殺者は転がるようにして森の奥へと消えていった。
もはや、彼ら程度の刺客では、俺の暇つぶしにもならない。

俺は服の汚れを軽く払い、聖堂へと戻る。
中からは、リディアの部下たちが飯を食う賑やかな声が聞こえてくる。
エリスが甲斐甲斐しく世話を焼いているのだろう。
ようやく、まともなコミュニティらしくなってきた。

「おかえりなさい、アルト様。お掃除は済みましたか?」
エリスが玄関まで迎えに来てくれた。
その手には、俺の好みの温かい茶が握られている。

「ああ。少し羽虫を追い払ってきただけだ。それより、リディアたちはどうだ?」
「はい。アルト様の奇跡を目の当たりにして、すっかり心酔しています。リディアさんは、もう一度アルト様に稽古をつけてほしいと、ずっとソワソワしていますよ」
リディアのやつ、意外と戦闘狂だったのか。
俺は苦笑いしながら、彼女たちの待つホールへと足を向けた。
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