S級パーティを追放された「雑用係」、実は彼がいなければ全員ただの凡人だった

旅する書斎(☆ほしい)

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目の前の女戦士は、片膝をついて部下の止血を試みていた。
彼女の髪は鮮やかな赤色だが、泥と返り血で汚れ、誇り高き騎士の面影を辛うじて残している程度だ。
その剣は刃こぼれし、盾は半分以上が砕け散っている。
背後の部下たちは、致命的な毒に侵されているのが魔力の色の濁りから一目で分かった。

「答えてくれ。ここは聖域なのか、それとも魔物が作り出した偽りの幻影なのか。私は……私たちは、もう限界だ」
女戦士――リディアが、俺を射抜くような視線で見上げてくる。
彼女のステータスを鑑定する。
王国騎士団の第三隊長。
実力は優にB級を超え、A級に届くかどうかというところだ。
だが、その内面にある意志の強さはS級にも匹敵する。

「幻影じゃない。ここは俺の家だ。そして、俺の許可なく入った者には相応の対価を払ってもらうことになっている」
俺はあえて冷たく突き放す。
彼女がどんな境遇にあろうと、安売りはしないと決めている。
リディアは絶望に顔を歪め、それでも部下を守るように剣を構え直した。

「対価、か。私の命で足りるなら、今すぐ差し出そう。だが、部下たちだけは助けてくれ。彼らはただ、私に従って魔物の大群から逃げ延びてきただけなのだ」
「リディア様……いけません、そんな……」
部下の一人が虫の息で声を上げる。
仲間のために命を捨てる。
その青臭い自己犠牲の精神は嫌いじゃないが、効率が悪い。

「死に急ぐな。俺が欲しいのは命じゃない。能力だ」
俺はリディアに歩み寄り、彼女の構えた剣の切っ先を人差し指一本で弾いた。
キィィィィィィィン。
凄まじい金属音が響き、彼女の腕は痺れ、剣が地面に突き刺さった。
彼女の全力の防御を、俺はただの指先の動きだけで無力化した。

「なっ……。私の剣を、指一本で……? あなたは、一体……」
リディアが驚愕に目を見開く。
王都でも指折りの剣士である彼女にとって、目の前の光景は世界の法則が壊れたも同然だ。
俺は彼女の驚きを無視し、倒れている部下たちに手をかざした。

「究極の分配者、起動。毒素の抽出、及び細胞活性化」
俺の手の平から淡い緑色の光が降り注ぐ。
部下たちの傷口から黒い液体が這い出し、蒸発していく。
青白かった顔色は一瞬で血色を取り戻し、ズタズタだった肉体がみるみるうちに繋ぎ合わされていく。
わずか数秒。
死の淵にいた者たちが、まるで数日間の休息を取ったかのように活気を取り戻した。

「……傷が、消えた? 痛みが全くない。それに、この漲る力はなんだ……!」
「俺もだ。体が軽い。以前よりも魔力の通りが良くなっている気がするぞ」
部下たちが次々と立ち上がり、自分の体を確認して叫ぶ。
俺の治癒はただの回復じゃない。
治療の過程で、彼らの肉体をより効率的な魔力伝導体に書き換えてある。
彼らは以前よりも確実に強くなっている。

「……信じられない。これほどの奇跡を、何のリスクもなく……。あなたは、本当に何者なのですか。魔王の化身か、それとも降臨した神か……」
リディアが剣を捨て、俺の前に跪いた。
彼女の瞳には、先程までの警戒心は微塵もない。
そこにあるのは、圧倒的な強者への敬畏と、救われたことへの深い感謝だ。

「言っただろ。俺はアルト。ただの器用な男だ。さて、リディア。お前の部下を救った対価だが、お前たちのこれからの人生、全て俺に預けてもらう」
俺は彼女の顎をクイと持ち上げ、その美しい瞳を覗き込む。
彼女は頬を赤らめながらも、力強く頷いた。

「喜んで。このリディア、そして我が部下一同、今日この時からアルト様の剣となり、盾となります。あなたの進む道が、我々の正義だ」
これで、まともな戦力が手に入った。
聖女に続き、王国最強クラスの騎士とその精鋭部隊。
俺の拠点に、少しずつ賑わいが出てきたな。

「いい返事だ。それじゃあ、まずはそのボロボロの装備をなんとかしてやる。リディア、お前の剣を出せ」
俺は彼女の刃こぼれした剣を手に取った。
普通の職人なら打ち直すだけで数日はかかる代物だが、俺にはそんな時間は必要ない。

俺は剣の表面をなぞるように手を動かす。
瞬時に金属の組成を組み換え、大気中の魔力を結晶化させて刃に定着させる。
ただの鋼鉄の剣が、神話の武器にも匹敵する輝きを放ち始めた。

「……これが、私の剣? 重さを感じない。まるで、腕の一部になったみたいだ」
リディアが剣を振ると、空気が鋭く裂け、衝撃波が遥か彼方の岩を両断した。
彼女自身が一番驚いている。
俺のバフと調整が加わった今の彼女なら、以前の数倍の戦闘力を発揮できるだろう。

「さて、全員中に連れていけ。エリス、こいつらに飯を食わせてやれ」
俺の指示に、エリスがにっこりと微笑んで応じる。
騎士たちが聖堂の中に入っていくのを見届けながら、俺は森の入り口へと視線を戻した。

どうやら、さらにお客が増えるらしい。
今度は教会の使い走りでも、迷い込んだ騎士でもない。
明確な殺意を持った、王都からの刺客。
懐かしい匂いがするな。
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